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5章 団長の親友と愛人契約せよ
20 山小屋の中で見たものは……
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ダミアーンが無事に戻って来た。後はレネがなにとごもなく帰ってくるだけだ。
最終的にはリンブルク伯爵が説得に当たろうと、アルベルトもラデクや元から連れていた腕に覚えのある使用人の男たちと、山小屋の近くまで来て待機している。
レネのことが心配でいても立ってもいられないハヴェルも、冷え込む森の中へと足を運んでいた。
少し先には煌々と灯りの点いた山小屋が見える。
「叫び声が聞こえた!? 動きがあったみたいだ」
ロランドが腰のレイピアに手を掛けながら、低姿勢のまま扉近くまで身を進める。
「アルベルト様方はそこからなにがあっても動かないで下さい」
そう言い残すと、ラデクも後を追って行った。
(——大丈夫なはずじゃなかったのかっ!?)
冷静になれとハヴェルは自分に言い聞かせるが、不安で手が震えた。
暫くすると……また建物の中から悲鳴と物音がして、表の扉が開き、誰かがチラリと顔を出すとロランドたちを確認して、違う誰かを先に外へと走らせる。
「レオポルトっ!?」
アルベルトが思わず声を上げる。
その後に……最初に顔を見せた人物が、上半身裸の状態で外に出てこちらへ向かって来るが……。
——途中で歩みを止め、膝をつくと……突っ伏すようにその場に倒れ込んでしまった。
「レネーーーッ!」
叫び出すと同時に、なりふり構わず——ハヴェルは走り出した。
「おいっ、おいっ!」
倒れ込んだレネを抱き起して身体を揺らすが、目覚める気配がない。
近くにいたラデクが二人を、まだ危険が残されているかもしれない建物から陰になるよう庇う。
どこか外傷があるのかと、夜光石のランタンでレネを照らすと、近くまで来て一緒に様子を窺っていたアルベルトが、口元を押さえて顔を逸らした。
涙でぐちゃぐちゃに濡れた跡と、右胸には血に濡れた歯形……。
他に大きな外傷はないのに意識を失ってしまって動かない。
(こんな寒さの中、なぜレネは裸なんだ……)
導き出される答えは……自ずと一つになった。
「——なんて……ことを……」
目の前が真っ赤に染まり、怒りで身体がぶるぶると震えた。
「……さん……ハヴェルさん……」
名前を呼ばれていることに気付き、ハヴェルは我に返って声のする方を見上げる。
そこにはいつになく、厳しい顔をしたロランドがいた。
ロランドも腕の中のレネを見て、顔を顰めていた。
「貴方も、一度見ておくべきです。一緒に来て下さい。——ラデクさん、レネをお願いしていていいですか?」
「もちろん。ハヴェルさん……さあこちらに」
ラデクは自分の上着を脱いでレネに被せるとハヴェルからその華奢な身体を受け取った。
(——ああ……こんなことにも気が回らなくなってるなんて……俺はどうかしている……)
ハヴェルが茫然自失している間に、ラデクは一度中の様子を見て来たロランドの報告を受けていたようだ。
まだよく事情が飲み込めていないのは、ハヴェルだけだ。
手を引かれて、建物の入り口まで来ると、ロランドは立ち止まりこちらを振り返る。
「あの……腰抜かさないでくださいよ。——心の準備はいいですか?」
(俺は今からなにを見せられるんだ?)
レネが男たちに犯された現場か?
この結果は、こんな所にレネを連れて来てしまった自分の責任だ。
どんなことにも目を逸らしたらいけない。
ハヴェルは唇を噛み締め、そう決意する。
ギギ……と扉を開ける音と供に、立ち込めてきたのは——血の匂い。
「……うっ!?」
ハヴェルは……口元を押さえ惨状を目の当たりにした。
ホールには数名の男たちが絶命して倒れていた。切り傷ではなく、なにかで突き刺されて殺されている。
二階へ続く階段にも人が倒れていた。
「ここに見えるのは、みんな死体です。上の部屋にはまだ息のあるのが何人かいます。サシャもその一人です」
「こ……これはっ……まさかっ……!?」
翡翠色の目を見返すと、答えを訊かずともわかってしまう。
「全部レネです。最後はレオポルト様を護るように出て来たので、なにか予定外のできごとがあったんでしょう」
二階も見て回ったが、寝室にはすでにロランドによって猿轡を噛まされ拘束された男たちが転がっていた。
(全部で十人は下らない……レネ一人で相手したのか……)
「丸腰からこの状況ですよ……凄いでしょ? 私なんかとても真似できません」
「…………!?」
森の精のようなか細い美青年が、どうやったら一人で、こんな惨状を作り出せるのだろうか……。
ハヴェルには想像もつかない世界だ。
「それだけ……レネは団長たちに仕込まれているんですよ」
「…………」
「——この世界は、強くないと生きていけない。弱ければ死ぬんです」
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