菩提樹の猫

無一物

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5章 団長の親友と愛人契約せよ

18 説得

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「というわけで、私は上の部屋にレネと行って来るから、呼ぶまでは入って来ないでくれ」

 レオポルトはそう捲し立てると、レネの肩を抱いてホールから二階へ続く階段を上がっていく。
 二階の突き当りにある大きな部屋は、この山小屋の主寝室だろうか、贅沢な天蓋付きのベッドが鎮座している。貴族たちが狩りに訪れる施設だけあって、壁には鹿の首のはく製と、狩りに使う武器などが飾ってあった。

「じゃあ俺はここにいるから、三人でヤりたくなったらいつでも呼んでくれ」

 いきなりの展開にサシャは焦っているが、レネと二人っきりにしてもなにも起こらないだろうと考え、扉の外で待つことにしたようだ。
 当たり前のように、寝台の上へと身体を横たえさせられる。
 はぁはぁ……と、上から被さって来るレポルトの息が荒い。

(上手くいったけど……上手くいってない……)

 レネの頭の中では『無理矢理入れられると怪我するからな』というロランドの教えが木霊していた。
 でも、この方法しかなかったんだと、レネは自分を奮い立たせる。
 耳たぶを口に含まれながら、レネはお経を唱えるように、レオポルトに呼びかけた。

「……レオポルト様、あの……お話を聞いてくれませんか」

「なんだよ……お喋りしてる場合じゃないだろ……」

 そう言うと……レオポルトは一度顔を上げ、またレネと鼻の先をくっつけさらに顔を寄せる。

「…………っ!」

(無理無理無理無理)

 軟体動物が口の中で暴れまわっている。
 抵抗するとそのまま反撃してしまいそうなので、レネは身体を硬直させて、ひたすら耐えた。

「……はぁっ……はっ……はっ……はっ……」

「口付けの間は鼻で息継ぎしないと駄目だよ、まさか君……そんなことも知らないのかい?」

 そんな問題ではない。
 望みもしないのにあんなことをされて、鼻で息をする心の余裕がないのだ。

(早く本題に入らないと……)

「レネの綺麗な裸を見せてくれないか? 昨日はずっと想像して眠れなかったよ」

(男の裸なんか見て、なにが楽しいんだよっ! ……ったく!)

「脱いだら……お話を聞いてくれますか?」

「なんだよ、さっきから話って……じゃあ聞いてやるから、自分で脱いで見せてくれ」

 レネの身体の上から身を引くと、レオポルトは少しイラついたように枕を抱えて向かい合って座る。
 寝台のまわりには夜光石がいくつも配置され、昼間のように明るい。

「……お屋敷の使用人も同伴せず……こんな所に来たら危険です」

 チュニックを脱ぎながらレネは、レオポルトに言い聞かせた。
 下に着ているシャツのボタンを一つずつ外していく。
 シャツをはだけると、白い肌に撫子色と評された胸の飾りが顔を出した。

「ああ、レネ……なんていやらしい色をしてるんだ……」

(こいつ、人の話なんて聞いてねぇ……)

 全部ボタンを外し終わり、シャツの袖を抜くと上半身を覆い隠すものはなくなった。

「はぁっ……この筋肉が、膨らみはじめの少女の胸みたいで……いけない気分になって来るよっ」

 叫ぶと同時に再びレネを押し倒して、レネの胸を揉みしだく。

「想像してたより……柔らかくて弾力がある……」

 乳房のない胸を揉まれていたたまれない気持ちになっているというのに、なぜこの男はいちいち実況をするのだ。

「昨日はサシャにここを摘ままれただけで相当痛がっていたね。今日はどうかな?」

 乳首を大胸筋の中に押しつぶすように親指で左右同時に捏ねられると、神経がもぞもぞとして落ち着かない。

「……ッ……レオポルト様……あの…サシャという男を……信用したらいけません……あなたは……」

「うるさいな」

 ギュッと左右の乳暈ごと摘ままれ、強い力で引っ張られる。

「ッ……」

 流石にレネも言葉に詰まったが、これくらいのことでは諦めない。

「……あなたはっ……騙され…てる……」

 そんな話聞きたくもないとばかりに、レオポルトはレネの身体へと没頭していく。
 頭を胸に近付け、右の乳首を上下にレロレロと舐めたかと思うと、今度はじゅるじゅると下品な音を立てながら吸い始めた。
 耐性のないレネは嫌悪感でいっぱいになる。

(——もう無理だッ!)

 レネは思わず頭を掴み、胸をむしゃぶり付くレオポルトを胸から外そうと身体が動いてしまう。

「ぎゃッ……!」

 いきなり食いちぎられるほど強い力で胸に噛みつかれ、レネは思わず叫び声を上げる。
 パンっ……と乾いた音が部屋に響く。
 遅れて右頬が痺れたように熱くなるのを感じた。

「せっかくこっちが優しくしてやってるのに……まったく抱かれる気がないじゃないか。もしかして……君はリンブルク伯から私を説得するように入知恵でもされたのか?」

 今までとは別人の様なレオポルトの変貌に、レネは目を瞠るが、必死に説得を続ける。

「落ち着いてください。こんな所にいないで、ザメク・ヴ・レッセに戻りましょう」

「サシャっ! こっちに来てくれっ! レネを仕置き部屋まで運ぶのを手伝ってくれ」

(なんだよ仕置き部屋って!?)

 この山小屋の説明をリンブルク伯爵から受ける時に、なにか言葉を濁して言っていた気がしたが、このことなのだろうか?

「どうした?」

 すぐにサシャがもう一人の男を連れて、部屋の中に入って来る。

(面倒なことになってきたな……)

 レネは、寝台の上でレオポルトから馬乗りになられ動けないまま、その様子を見守るしかなかった。

「あれ、血が出ちゃって、可哀想に……」

 乳輪の外側に輪を描くように赤紫の歯形が付き、そこから血が滲んでいたのを、サシャは指でなぞり血を掬い取った。

「全然抱かれる気がないみたいだから、お仕置きが必要みたいだ。せっかく初めてだって言うから優しくしてやろうと思ったのに、私がお前に騙されているっていうんだよ。この子はリンブルク伯爵の差し金なんじゃないか?」

(正直に喋りやがって!……馬鹿息子がっ!)

 自ら、助かる可能性をつぶしていく愚行に、レネはもう呆れるしかなかった。
 普通こういった情報は、信じられなかったとしても保険としてとっておくものだと思っていたのに、そうは思わない馬鹿もいるらしい。

「レネを地下の仕置き部屋に連れて行ってくれ」

 レオポルトが言い放つが、サシャは寝台に貼り付けられた状態のままのレネを、冷たい目で見下ろしていた。
 馬鹿息子くらいだったら、はね退けて拘束を解くくらい簡単だが、隣には体格の良いサシャとその後ろには少しは腕の立ちそうな男が控えている。
 今暴れてもどうせ捕まる。大人しくして、地下にある『お仕置き部屋』とやらに連れて行かれるまでの間になんとか態勢を整えた方が賢明に思えた。

「——レオポルト……どうやら状況が変わってきたようだ。ここを移動しよう。おい、レネにそれを飲ませて縛り上げてくれ」

「サシャ……どういうことだ?」

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