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5章 団長の親友と愛人契約せよ
12 鳩がっ
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身体に力が入らない。
見るものすべてが緑色の輪郭を伴って見える。
まるで力を使っている時のボリスの瞳みたいだ。
レネはぼんやりとそんなことを思う。
「ああ、だいぶ効いてきたね」
テーブルに頬杖を突いてレネの様子を観察していたレオポルトが、異変にいち早く気付く。
「目がとろんとしてきた」
「綺麗な猫の目みたいだ」
知らない男たちもレネを鑑賞している。
先ほどからまわりの視線が刺さってくる。
言葉の例えではなく本当にそうなのだ。
だが刺さるというと語弊があるかもしれない。針で突かれるというより、先の丸い棒で突かれている感覚に似ている。
痛くはないが、露出した肌に視線を向けられると肌がざわつく。
「ッ……」
「顔が少し火照ってる。暑い? 脱いでみようか?」
身体を支えられず横に傾くと、いつの間にかサシャに上半身を支えるように後ろから抱き込まれていた。
そして前に手を回して、サシャがレネのシャツのボタンを、一つずつ上からゆっくりと外していく。
「ちょっと、それはやり過ぎじゃないかっ」
がまんできずに、ハヴェルが抗議する。
「——愛人たちの戯れに主人が口を出すなんて、無粋ですよハヴェルさん」
レオポルトはそんなハヴェルを手で制すると、嘲るかのようにフッと笑った。
そして、続けて口を開く。
「皆さん、あの薬を飲んだら視線を感じた所が敏感になるみたいなので、気になるところを見てやって下さい」
レオポルトが集まって来た男たちに告げると、それを聞いたレネは動揺する。
「——なんで……それをっ!?」
まるでレネの心の中を見透かされたかのように今の状態を言い当てられた。
「どうやら本当のようだね」
「どれどれ」
レネの反応を見て男たちがレオポルトの言葉に確信をもつ。
「ほら、まずは皆さんにココを見てもらおうか。レネはどんな色をしてるのかな?」
サシャは胸までボタンを外したシャツを左右に開いた。
「あっ……」
レネは無意識に声を上げてしまう。
「——ああ、思っていた以上に素晴らしい」
レオポルトは、現れた色彩に思わず感嘆する。
「……これはまた……」
「綺麗な色だ……」
「撫子色と言ったらいいのかな」
ピンクの微妙な色合いを、男の一人が既存の色に当て嵌める。
貴族だけあって、無駄に含蓄だけは豊富だ。
「ほう、こういう色を撫子色と言うんですか。勉強になりますな」
「灰色の髪の差し色になっていっそう美しい。今度娘のドレスの参考にしよう」
左右の胸の飾りに男たちの視線が集まり、レネは複数の棒の先で乳首を捏ね繰り回されているかのような錯覚に囚われる。
「見るなッ……うっ……」
「まだまだこれからなのに……こんなんじゃ先が思いやられるな」
サシャが後ろで恐ろしいことを言っている。
自分の身体がコントロールできない事態に、レネは精神的にも追い詰められていくのを感じた。
(——こんなこと……大したことじゃないはずなのに……)
「なにもしてないのにツンと先が尖ってきた」
レオポルトが興奮を抑えきれない目でレネをねっとりと舐め回す。
「少し赤味が増しましたね」
「本当だ」
「じゃあ、実際に触ってみたらどうなるのかな?」
(やめろッ……)
視線を向けられただけで大変なことになっているのに、触れられたら———
サシャは恐ろしいことを言うと、薄っすらと付いた胸の筋肉をゆっくり揉みしだき、両手で左右の乳頭をそれぞれ親指と人差し指で摘まみ擦り合わせる。
「……ッあ……くぅッ……ぅ……」
レネは思わぬ苦痛に、白い喉を仰け反らせて耐える。普段ならこれくらいの苦痛では音を上げないのだが今は違った。
バサバサバサバサバサッ——大量の羽音と共になにかが舞い降りて、レネに群がって来る。
(赤い嘴……)
黄緑色の瞳を見開いて叫び声を上げた。
「——鳩が……鳩がッ……」
身体の上に乗り上げた鳩たちは、白い肌の上に色づく左右の胸の飾りを、まるで果実でも摘まむかのように啄み始めた。
「……あっ……っ……あっ……」
数えきれないほど何羽も集まってきて、乳首を……まるで餌を奪い合うかのようにつっつき合っている。
「……や…めろっ……えさじゃ……な…い……」
一羽の鳩がグイっと乳頭を強い力で引っ張ると、一緒に引っ張られた乳暈へ、横から争うように次々と群がる。
しかし乳頭と違い上手く嘴で挟むことができず、鳩たちは何度も啄もうとする。
「千切れるっ……うあぁぁぁッッ……」
耐えられない激痛に叫び出し、レネは脂汗を流しながらサシャの腕の中で暴れた。
少し快感を与えるつもりで触ったのに、苦痛を示す激しい反応にサシャは胸から手を離す。
「なんだよ、ちょっと触っただけじゃないか、大袈裟な……」
「——凄い……」
レオポルトまでもが、まるでレネと同じ幻影が見えているかのような目をしていた。
「どうなってるんだ?」
「鳩がどうした」
「彼にはなにか違うものが見えてるようだ……」
「もっと虐められている所がみたいな」
「でも、ちょっと可哀想じゃないか……」
男たちも思わずゴクリ唾液を飲み込む。
「——なにをしてるのかな? よかったら私も混ぜてくれないか?」
突然、銀髪の屈強な男が現れた。
新たな男の登場に、ただ固唾を飲んで見守るしかないハヴェルの肩を、誰かが後ろからポンと叩く。
「!?」
『君たちは今のうちに部屋へ戻りなさい』
小声でその人物はそう告げると、部屋から去って行った。
乱入してきた屈強な銀髪の男を見て、レオポルトが急に興ざめした顔になる。
「——お前は……」
この場を支配していたレオポルトが不快を表しても顔色一つ変えることなく、銀髪の男は続ける。
「愛人同士は無礼講なんだろう? ぜひ私にも遊ばせてくれ」
男はサシャの近くまで来ると、まるで獲物を強奪していく雄ライオンのように、動けなくなっているレネを抱き上げて、何事もなかったかのようにその場を去って行った。
「……ぐっ……う……」
レネは手足に、奴隷のように鉄球を付けられていた。
すべて薬が見せる幻想なのだが、身体を持ち上げられ揺れるたびに、重みで手足がバラバラになりそうだ。
「辛いか? もう少しがまんしてくれ……」
どこか聞き覚えのある声に、自分を運んでいる人物の顔を見上げた。
視界が緑がかってぼんやりとする。
見覚えのある褐色の肌と、白っぽく光る短く刈り上げた髪——
「——デニス…さ…ん……?」
これも幻なのだろうか?
見るものすべてが緑色の輪郭を伴って見える。
まるで力を使っている時のボリスの瞳みたいだ。
レネはぼんやりとそんなことを思う。
「ああ、だいぶ効いてきたね」
テーブルに頬杖を突いてレネの様子を観察していたレオポルトが、異変にいち早く気付く。
「目がとろんとしてきた」
「綺麗な猫の目みたいだ」
知らない男たちもレネを鑑賞している。
先ほどからまわりの視線が刺さってくる。
言葉の例えではなく本当にそうなのだ。
だが刺さるというと語弊があるかもしれない。針で突かれるというより、先の丸い棒で突かれている感覚に似ている。
痛くはないが、露出した肌に視線を向けられると肌がざわつく。
「ッ……」
「顔が少し火照ってる。暑い? 脱いでみようか?」
身体を支えられず横に傾くと、いつの間にかサシャに上半身を支えるように後ろから抱き込まれていた。
そして前に手を回して、サシャがレネのシャツのボタンを、一つずつ上からゆっくりと外していく。
「ちょっと、それはやり過ぎじゃないかっ」
がまんできずに、ハヴェルが抗議する。
「——愛人たちの戯れに主人が口を出すなんて、無粋ですよハヴェルさん」
レオポルトはそんなハヴェルを手で制すると、嘲るかのようにフッと笑った。
そして、続けて口を開く。
「皆さん、あの薬を飲んだら視線を感じた所が敏感になるみたいなので、気になるところを見てやって下さい」
レオポルトが集まって来た男たちに告げると、それを聞いたレネは動揺する。
「——なんで……それをっ!?」
まるでレネの心の中を見透かされたかのように今の状態を言い当てられた。
「どうやら本当のようだね」
「どれどれ」
レネの反応を見て男たちがレオポルトの言葉に確信をもつ。
「ほら、まずは皆さんにココを見てもらおうか。レネはどんな色をしてるのかな?」
サシャは胸までボタンを外したシャツを左右に開いた。
「あっ……」
レネは無意識に声を上げてしまう。
「——ああ、思っていた以上に素晴らしい」
レオポルトは、現れた色彩に思わず感嘆する。
「……これはまた……」
「綺麗な色だ……」
「撫子色と言ったらいいのかな」
ピンクの微妙な色合いを、男の一人が既存の色に当て嵌める。
貴族だけあって、無駄に含蓄だけは豊富だ。
「ほう、こういう色を撫子色と言うんですか。勉強になりますな」
「灰色の髪の差し色になっていっそう美しい。今度娘のドレスの参考にしよう」
左右の胸の飾りに男たちの視線が集まり、レネは複数の棒の先で乳首を捏ね繰り回されているかのような錯覚に囚われる。
「見るなッ……うっ……」
「まだまだこれからなのに……こんなんじゃ先が思いやられるな」
サシャが後ろで恐ろしいことを言っている。
自分の身体がコントロールできない事態に、レネは精神的にも追い詰められていくのを感じた。
(——こんなこと……大したことじゃないはずなのに……)
「なにもしてないのにツンと先が尖ってきた」
レオポルトが興奮を抑えきれない目でレネをねっとりと舐め回す。
「少し赤味が増しましたね」
「本当だ」
「じゃあ、実際に触ってみたらどうなるのかな?」
(やめろッ……)
視線を向けられただけで大変なことになっているのに、触れられたら———
サシャは恐ろしいことを言うと、薄っすらと付いた胸の筋肉をゆっくり揉みしだき、両手で左右の乳頭をそれぞれ親指と人差し指で摘まみ擦り合わせる。
「……ッあ……くぅッ……ぅ……」
レネは思わぬ苦痛に、白い喉を仰け反らせて耐える。普段ならこれくらいの苦痛では音を上げないのだが今は違った。
バサバサバサバサバサッ——大量の羽音と共になにかが舞い降りて、レネに群がって来る。
(赤い嘴……)
黄緑色の瞳を見開いて叫び声を上げた。
「——鳩が……鳩がッ……」
身体の上に乗り上げた鳩たちは、白い肌の上に色づく左右の胸の飾りを、まるで果実でも摘まむかのように啄み始めた。
「……あっ……っ……あっ……」
数えきれないほど何羽も集まってきて、乳首を……まるで餌を奪い合うかのようにつっつき合っている。
「……や…めろっ……えさじゃ……な…い……」
一羽の鳩がグイっと乳頭を強い力で引っ張ると、一緒に引っ張られた乳暈へ、横から争うように次々と群がる。
しかし乳頭と違い上手く嘴で挟むことができず、鳩たちは何度も啄もうとする。
「千切れるっ……うあぁぁぁッッ……」
耐えられない激痛に叫び出し、レネは脂汗を流しながらサシャの腕の中で暴れた。
少し快感を与えるつもりで触ったのに、苦痛を示す激しい反応にサシャは胸から手を離す。
「なんだよ、ちょっと触っただけじゃないか、大袈裟な……」
「——凄い……」
レオポルトまでもが、まるでレネと同じ幻影が見えているかのような目をしていた。
「どうなってるんだ?」
「鳩がどうした」
「彼にはなにか違うものが見えてるようだ……」
「もっと虐められている所がみたいな」
「でも、ちょっと可哀想じゃないか……」
男たちも思わずゴクリ唾液を飲み込む。
「——なにをしてるのかな? よかったら私も混ぜてくれないか?」
突然、銀髪の屈強な男が現れた。
新たな男の登場に、ただ固唾を飲んで見守るしかないハヴェルの肩を、誰かが後ろからポンと叩く。
「!?」
『君たちは今のうちに部屋へ戻りなさい』
小声でその人物はそう告げると、部屋から去って行った。
乱入してきた屈強な銀髪の男を見て、レオポルトが急に興ざめした顔になる。
「——お前は……」
この場を支配していたレオポルトが不快を表しても顔色一つ変えることなく、銀髪の男は続ける。
「愛人同士は無礼講なんだろう? ぜひ私にも遊ばせてくれ」
男はサシャの近くまで来ると、まるで獲物を強奪していく雄ライオンのように、動けなくなっているレネを抱き上げて、何事もなかったかのようにその場を去って行った。
「……ぐっ……う……」
レネは手足に、奴隷のように鉄球を付けられていた。
すべて薬が見せる幻想なのだが、身体を持ち上げられ揺れるたびに、重みで手足がバラバラになりそうだ。
「辛いか? もう少しがまんしてくれ……」
どこか聞き覚えのある声に、自分を運んでいる人物の顔を見上げた。
視界が緑がかってぼんやりとする。
見覚えのある褐色の肌と、白っぽく光る短く刈り上げた髪——
「——デニス…さ…ん……?」
これも幻なのだろうか?
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