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5章 団長の親友と愛人契約せよ
6 ダミアーン
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◆◆◆◆◆
「へぇーレネはハヴェルさんの愛人になってまだ間もないんだね」
金髪碧眼の美少年は興味津々といった様子でレネに話しかけてくる。
「そうだよ。全然ダミアーンの方が先輩だって」
金の髪と青い目は、ドロステアの人々にとって最上級の組み合わせといっても過言ではない。金持ちたちはこぞって金髪碧眼の愛人を持ちたがる。
しかしダミアーンは気取った所もなく気さくな性格で、レネにとっても話しやすい相手だった。
「僕のことはダミィでいいよ。そっちの方が言いやすいでしょ」
「じゃあ遠慮なくダミィで」
「レネっていくつなの?」
「二十」
ダミアーンはさっきからチラチラとマチェイたちの方を気にして様子を窺っているが、商人たちはなにやら難しい顔で話し込んでいて、こちらのことなど気にする素振りもない。
「へぇー、レネってさ、足とかもツルツルなんだけどそれって手入れしてるの?」
「えっ、なんで? なにもしてないよ」
実はここに来る前に、女中たちが色々手入れをしようと意気込んでいたが、結局身体じゅうに香油を塗られて肌の調子を整えるだけで終わった。
レネにとっては男なのに体毛が薄く、ずっとコンプレックスを感じていた。
団員たちと風呂に入る時、自分だけが手足がツルリとしているのはなんだか恥ずかしい。
「うわ~羨ましいな~……僕なんてさ、最近ちょっと濃くなってきてるから手入れするのが大変なんだよ。髭とかも濃くなったらどうしよ~」
この少年はあけっぴろげにものを言う。
しかし男たちの中で育ったレネもこういった話にはまったく抵抗はなかった。
「でもいいじゃん、男なんだし。オレは今でもまともに髭が生えて来ないのが悩みだよ。ダミィは今いくつ?」
「僕は十六」
「オレなんてさ、ダミィくらいのころは下の毛が殆ど無くてさ、まわりの大人たちのと見比べてずっと悩んでたな……」
今になると恥ずかしい話だが、あのころからずっといたベドジフに相談していた記憶がある。一番身近なはずのボリスには一切その手の話はしなかった。
「でもさー男相手の愛人なんてやってたら、毛なんて薄い方がいいに決まってるよ」
「そうかな? ダミィもこれから背が伸びて男っぽくなったらそれはそれで似合うと思うけど? 別に男相手だからっていっても可愛いだけが、愛人のいい条件じゃないだろ? 逆にオレは十年後とかも同じ売りでいく方がどうかと思うよ」
リーパには色々なタイプのイイ男が揃っている。だからある意味レネは目が肥えていた。
「なんか目から鱗かも。そうだよね。十年後とか考えたこともなかった……」
「まあオレはぜんぜん愛人事情なんてわからないんだけどね」
(オレはさっきからなんの話をしてるんだ?)
日ごろの仕事とのギャップにレネは頭が痛くなってきた。
「レネが話やすい人でよかった~。最初、船に乗って来た時さ、びっくりするくらい綺麗な人だからきっと僕なんか相手にもしてくれないって思ってたんだよ」
「なにそれ……オレなんか愛人なんて向いてないって落ち込んでてさ、ダミィは『あんな狸ジジイ』の愛人やってて凄えって内心尊敬してたし。オレも頑張らなきゃって自分を励ましてたんだよ」
『あんな狸ジジイ』のところは、近くにいる本人へ聞こえないように小声で話す。
ダミアーンはレネの率直な物言いに、肩を揺らして笑いだした。
「でもお爺ちゃんだから、直接的な肉体関係はないから楽だよ。でもレネの所は大変そうだね。僕わかるよ。ああいうタイプって絶倫でしょ?」
レネは『肉体関係』『絶倫』という言葉を聞いて硬直する。
(え……)
「ん?……あれ?……もしかして……ハヴェルさんとまだヤッたことないの?」
さすが……際どいデザインの紐パンを穿いているだけあって、この少年は勘が鋭い。
レネは無意識のうちに目の下までお湯に浸かり、沈黙を続ける。
これでは「はいそうです」と肯定しているようなものだ。
「えっ? マジで?」
ダミアーンは一瞬固まったあと、急に笑顔を浮かべ、なんだかとても楽しそうだ。
(……嘘をついても仕方ない……)
レネは観念してお湯から顔を出す。
「——実は、まだ男とは寝たことないんだ……」
「嘘っ!?」
まるでボークラード大陸から絶滅したと言われる、幻のドロステア山猫でも見つけたような……ダミアーンの眼差しが痛い……。
(そんな目で見ないでくれ……)
「よく今まで無事だったね」
「で、でも……童貞じゃないぞ」
一応レネは名誉のために言っておく。
とはいっても……まだ新人のころ、仕事先でとある貴族の未亡人に目を付けられ、レネの童貞は無残にも奪われてしまった。団員たちは羨ましがっていたが、レネのショックは凄まじく、それがトラウマで女を抱けない。
「誰もそんなこと訊いてないって」
ダミアーンはレネの反応がたじたじなので、完全に面白がっている。
「ねえ今まで男に言い寄られたこととかなかったの?」
「男しかいないとこで育ったけど、ぜんぜん」
(……あってたまるか!)
そんなことあろうものなら、きっと相手をボコボコにやっつけている。
「でもまわりの人たち大変だったろうねー」
「なにが?」
「いや、レネは自覚があんまりないから。良い人たちに恵まれてよかったね」
ダミアーンがなにを言っているのか理解できないが、先ほどからどちらが年上なのかわからなくなってきている。
「レネはハヴェルさんを絶対怒らせたりしちゃいけないよ。初めての時って大変なんだからね。優しくしてもらわないと。なにか困ったことがあったらいつでも相談に乗るよ」
「……う、うん」
(なんだこの状況は……)
ますますレネは自分が情けなくなってきた。
「へぇーレネはハヴェルさんの愛人になってまだ間もないんだね」
金髪碧眼の美少年は興味津々といった様子でレネに話しかけてくる。
「そうだよ。全然ダミアーンの方が先輩だって」
金の髪と青い目は、ドロステアの人々にとって最上級の組み合わせといっても過言ではない。金持ちたちはこぞって金髪碧眼の愛人を持ちたがる。
しかしダミアーンは気取った所もなく気さくな性格で、レネにとっても話しやすい相手だった。
「僕のことはダミィでいいよ。そっちの方が言いやすいでしょ」
「じゃあ遠慮なくダミィで」
「レネっていくつなの?」
「二十」
ダミアーンはさっきからチラチラとマチェイたちの方を気にして様子を窺っているが、商人たちはなにやら難しい顔で話し込んでいて、こちらのことなど気にする素振りもない。
「へぇー、レネってさ、足とかもツルツルなんだけどそれって手入れしてるの?」
「えっ、なんで? なにもしてないよ」
実はここに来る前に、女中たちが色々手入れをしようと意気込んでいたが、結局身体じゅうに香油を塗られて肌の調子を整えるだけで終わった。
レネにとっては男なのに体毛が薄く、ずっとコンプレックスを感じていた。
団員たちと風呂に入る時、自分だけが手足がツルリとしているのはなんだか恥ずかしい。
「うわ~羨ましいな~……僕なんてさ、最近ちょっと濃くなってきてるから手入れするのが大変なんだよ。髭とかも濃くなったらどうしよ~」
この少年はあけっぴろげにものを言う。
しかし男たちの中で育ったレネもこういった話にはまったく抵抗はなかった。
「でもいいじゃん、男なんだし。オレは今でもまともに髭が生えて来ないのが悩みだよ。ダミィは今いくつ?」
「僕は十六」
「オレなんてさ、ダミィくらいのころは下の毛が殆ど無くてさ、まわりの大人たちのと見比べてずっと悩んでたな……」
今になると恥ずかしい話だが、あのころからずっといたベドジフに相談していた記憶がある。一番身近なはずのボリスには一切その手の話はしなかった。
「でもさー男相手の愛人なんてやってたら、毛なんて薄い方がいいに決まってるよ」
「そうかな? ダミィもこれから背が伸びて男っぽくなったらそれはそれで似合うと思うけど? 別に男相手だからっていっても可愛いだけが、愛人のいい条件じゃないだろ? 逆にオレは十年後とかも同じ売りでいく方がどうかと思うよ」
リーパには色々なタイプのイイ男が揃っている。だからある意味レネは目が肥えていた。
「なんか目から鱗かも。そうだよね。十年後とか考えたこともなかった……」
「まあオレはぜんぜん愛人事情なんてわからないんだけどね」
(オレはさっきからなんの話をしてるんだ?)
日ごろの仕事とのギャップにレネは頭が痛くなってきた。
「レネが話やすい人でよかった~。最初、船に乗って来た時さ、びっくりするくらい綺麗な人だからきっと僕なんか相手にもしてくれないって思ってたんだよ」
「なにそれ……オレなんか愛人なんて向いてないって落ち込んでてさ、ダミィは『あんな狸ジジイ』の愛人やってて凄えって内心尊敬してたし。オレも頑張らなきゃって自分を励ましてたんだよ」
『あんな狸ジジイ』のところは、近くにいる本人へ聞こえないように小声で話す。
ダミアーンはレネの率直な物言いに、肩を揺らして笑いだした。
「でもお爺ちゃんだから、直接的な肉体関係はないから楽だよ。でもレネの所は大変そうだね。僕わかるよ。ああいうタイプって絶倫でしょ?」
レネは『肉体関係』『絶倫』という言葉を聞いて硬直する。
(え……)
「ん?……あれ?……もしかして……ハヴェルさんとまだヤッたことないの?」
さすが……際どいデザインの紐パンを穿いているだけあって、この少年は勘が鋭い。
レネは無意識のうちに目の下までお湯に浸かり、沈黙を続ける。
これでは「はいそうです」と肯定しているようなものだ。
「えっ? マジで?」
ダミアーンは一瞬固まったあと、急に笑顔を浮かべ、なんだかとても楽しそうだ。
(……嘘をついても仕方ない……)
レネは観念してお湯から顔を出す。
「——実は、まだ男とは寝たことないんだ……」
「嘘っ!?」
まるでボークラード大陸から絶滅したと言われる、幻のドロステア山猫でも見つけたような……ダミアーンの眼差しが痛い……。
(そんな目で見ないでくれ……)
「よく今まで無事だったね」
「で、でも……童貞じゃないぞ」
一応レネは名誉のために言っておく。
とはいっても……まだ新人のころ、仕事先でとある貴族の未亡人に目を付けられ、レネの童貞は無残にも奪われてしまった。団員たちは羨ましがっていたが、レネのショックは凄まじく、それがトラウマで女を抱けない。
「誰もそんなこと訊いてないって」
ダミアーンはレネの反応がたじたじなので、完全に面白がっている。
「ねえ今まで男に言い寄られたこととかなかったの?」
「男しかいないとこで育ったけど、ぜんぜん」
(……あってたまるか!)
そんなことあろうものなら、きっと相手をボコボコにやっつけている。
「でもまわりの人たち大変だったろうねー」
「なにが?」
「いや、レネは自覚があんまりないから。良い人たちに恵まれてよかったね」
ダミアーンがなにを言っているのか理解できないが、先ほどからどちらが年上なのかわからなくなってきている。
「レネはハヴェルさんを絶対怒らせたりしちゃいけないよ。初めての時って大変なんだからね。優しくしてもらわないと。なにか困ったことがあったらいつでも相談に乗るよ」
「……う、うん」
(なんだこの状況は……)
ますますレネは自分が情けなくなってきた。
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