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5章 団長の親友と愛人契約せよ
4 もう帰りたい……
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翌日の午後にはテプレ・ヤロに到着した。
街ぜんたいが森の中にひっそりと佇む離宮のようだ。
船から降り、湯気の上がる川の両側を挟み込むように広がる街並みは、あまり建築などに興味のないレネですら思わず目を瞠るほど壮麗だ。
メストが男性的な豪奢な街並みだとしたら、テプレ・ヤロは女性的な、実用性を度外視して——ただ美しさだけを追求してつくられた、そんな危うさがあった。
船から降りると街の中心部から馬車で移動した。
少し高台になった所にある、どこかの貴族の邸宅を思わせるクリーム色の建物の前で馬車が停まる。
これから滞在する施設ホリニ・カシュナだ。
出迎えた使用人たちに中へと案内される。
建物の中は、大きな窓から光が差し込んで、とても初冬とは思えない明るさだ。
まるで別世界に迷い込んだ錯覚を覚え、レネは夢でも見ているようなふわふわとした気持ちになる。
「オレ、凄く場違いな場所にいる気がする……」
ハヴェルの耳元で囁くと、予想外のことを言ってきた。
「俺はまったく逆のことを考えていたよ。お前は本来こんな場所が似合うと思ってたところだ」
「えっ……」
思いがけない言葉にレネはショックを受けた。
(オレは護衛よりも愛人やってた方が似合うって言いたいのか?)
これから五日間滞在する豪華な部屋に案内されると、一緒に来た使用人の青年が荷物を開き、レネとハヴェルの衣装を次々と衣装部屋へと収納していく。
自分の着る服のことなどまったく把握していないレネは、その量と煌びやかさにただ唖然とするばかりだった。
「こんなに服持ってきてどうすんの?」
使用人の青年に思わず尋ねる。
「もちろん、とっかえひっかえ着替えるに決まってるでしょ」
お仕着せの地味な服を着た青年は、翡翠色の目をこちらに向けニッコリ笑った。
「はぁ……」
「はいはい、溜息つかないで、まずはこれに着替えて下さいね」
青年はレネに着替え一式を渡すと、ハヴェルの着替えも用意して、寝室の方へと出て行った。
渡されたのは、白い薄手のシャツにローブのようなゆっくりとした長衣だ。
一番上に置いてある、なにやら小さな白い布切れを摘まんで、レネは凍り付く。
「——嘘だろ……」
「そこで固まってないで、もう温泉へ行く時間になりますよ」
青年が衣装部屋へ戻ってきて、布切れを摘まんだまま固まっているレネを急かす。
「ふっ……ほらほら全部脱いで早く着替えて下さい」
「あんた今笑っただろっ! ——クソっ……他人事だと思って……」
堪えきれずに青年が息を漏らしたのを、レネは見逃さなかった。
「すいません。っ……つい」
身体を捻って後ろを向いた使用人の背中で、三つ編みが笑うごとに揺れている。
「あーーーーーーーっ……もうオレ帰りたいっ!」
(どいつもこいつも愛人ごっこで遊んでやがるっ)
◆◆◆◆◆
マチェイたちと待ち合わせ、今回滞在する温泉施設の大浴場に一緒へ向かった。
廊下を歩いてすれ違うたびに、男たちがレネを振り返って見ている。
レネは身長もあるので、長身のハヴェルと横に並んでも決して引けを取らない。
いや逆だ。この美しい青年を隣に置くのは、自分のような長身の男でなければ見劣りするのだ。
この独特の感覚は、美女を連れ歩くのとはまた違った優越感をハヴェルに与える。
(あの時、バルが横に俺たちを並べて立たせていたのはこれだったのか……)
親友の審美眼も侮れないな……とハヴェルは舌を巻く。
隣の狸爺はそこをよく心得ていて、小柄な愛らしい少年を選んでいるのは流石だと思った。
王族以外が訪れる施設の中で最上級の部類であろうホリニ・カシュナは、大理石をふんだんに使った豪奢な大浴場が有名のようだ。
「君にはしてやられてばかりだ……船にいた時とはまったく彼の印象が違う」
じっと品定めでもするかのように、マチェイは上から下へとレネを眺める。
(そらぁ、そうだろうよ)
ハヴェルはわざと、船の上では禁欲的な雰囲気の服を着せていたのだが、今は蕾が花開いたかのような、本来のレネに似合う色を基調とした開放的なデザインの服に変えた。
明るめの色合いでもほんの少しだけ抑えたものを、ハヴェルは敢えて選んでいる。
くすみのない白い肌と、淡いピンクの唇をより引き立てるためだ。
安易に瞳と同じ色は選ばず、より引きたてる……そんな色をレネに纏わせた。
その代わりといってはなんだが、ハヴェルの指にはレネの瞳と同じ色の、大きなペリドットが輝いている。
そしてレネの首にはハヴェルの瞳と同じ色のシトリンが。
(俺の本気を見せてやるっ!)
しかし残念ながら、ハヴェルが意気込んでいたのもここまでだった。
街ぜんたいが森の中にひっそりと佇む離宮のようだ。
船から降り、湯気の上がる川の両側を挟み込むように広がる街並みは、あまり建築などに興味のないレネですら思わず目を瞠るほど壮麗だ。
メストが男性的な豪奢な街並みだとしたら、テプレ・ヤロは女性的な、実用性を度外視して——ただ美しさだけを追求してつくられた、そんな危うさがあった。
船から降りると街の中心部から馬車で移動した。
少し高台になった所にある、どこかの貴族の邸宅を思わせるクリーム色の建物の前で馬車が停まる。
これから滞在する施設ホリニ・カシュナだ。
出迎えた使用人たちに中へと案内される。
建物の中は、大きな窓から光が差し込んで、とても初冬とは思えない明るさだ。
まるで別世界に迷い込んだ錯覚を覚え、レネは夢でも見ているようなふわふわとした気持ちになる。
「オレ、凄く場違いな場所にいる気がする……」
ハヴェルの耳元で囁くと、予想外のことを言ってきた。
「俺はまったく逆のことを考えていたよ。お前は本来こんな場所が似合うと思ってたところだ」
「えっ……」
思いがけない言葉にレネはショックを受けた。
(オレは護衛よりも愛人やってた方が似合うって言いたいのか?)
これから五日間滞在する豪華な部屋に案内されると、一緒に来た使用人の青年が荷物を開き、レネとハヴェルの衣装を次々と衣装部屋へと収納していく。
自分の着る服のことなどまったく把握していないレネは、その量と煌びやかさにただ唖然とするばかりだった。
「こんなに服持ってきてどうすんの?」
使用人の青年に思わず尋ねる。
「もちろん、とっかえひっかえ着替えるに決まってるでしょ」
お仕着せの地味な服を着た青年は、翡翠色の目をこちらに向けニッコリ笑った。
「はぁ……」
「はいはい、溜息つかないで、まずはこれに着替えて下さいね」
青年はレネに着替え一式を渡すと、ハヴェルの着替えも用意して、寝室の方へと出て行った。
渡されたのは、白い薄手のシャツにローブのようなゆっくりとした長衣だ。
一番上に置いてある、なにやら小さな白い布切れを摘まんで、レネは凍り付く。
「——嘘だろ……」
「そこで固まってないで、もう温泉へ行く時間になりますよ」
青年が衣装部屋へ戻ってきて、布切れを摘まんだまま固まっているレネを急かす。
「ふっ……ほらほら全部脱いで早く着替えて下さい」
「あんた今笑っただろっ! ——クソっ……他人事だと思って……」
堪えきれずに青年が息を漏らしたのを、レネは見逃さなかった。
「すいません。っ……つい」
身体を捻って後ろを向いた使用人の背中で、三つ編みが笑うごとに揺れている。
「あーーーーーーーっ……もうオレ帰りたいっ!」
(どいつもこいつも愛人ごっこで遊んでやがるっ)
◆◆◆◆◆
マチェイたちと待ち合わせ、今回滞在する温泉施設の大浴場に一緒へ向かった。
廊下を歩いてすれ違うたびに、男たちがレネを振り返って見ている。
レネは身長もあるので、長身のハヴェルと横に並んでも決して引けを取らない。
いや逆だ。この美しい青年を隣に置くのは、自分のような長身の男でなければ見劣りするのだ。
この独特の感覚は、美女を連れ歩くのとはまた違った優越感をハヴェルに与える。
(あの時、バルが横に俺たちを並べて立たせていたのはこれだったのか……)
親友の審美眼も侮れないな……とハヴェルは舌を巻く。
隣の狸爺はそこをよく心得ていて、小柄な愛らしい少年を選んでいるのは流石だと思った。
王族以外が訪れる施設の中で最上級の部類であろうホリニ・カシュナは、大理石をふんだんに使った豪奢な大浴場が有名のようだ。
「君にはしてやられてばかりだ……船にいた時とはまったく彼の印象が違う」
じっと品定めでもするかのように、マチェイは上から下へとレネを眺める。
(そらぁ、そうだろうよ)
ハヴェルはわざと、船の上では禁欲的な雰囲気の服を着せていたのだが、今は蕾が花開いたかのような、本来のレネに似合う色を基調とした開放的なデザインの服に変えた。
明るめの色合いでもほんの少しだけ抑えたものを、ハヴェルは敢えて選んでいる。
くすみのない白い肌と、淡いピンクの唇をより引き立てるためだ。
安易に瞳と同じ色は選ばず、より引きたてる……そんな色をレネに纏わせた。
その代わりといってはなんだが、ハヴェルの指にはレネの瞳と同じ色の、大きなペリドットが輝いている。
そしてレネの首にはハヴェルの瞳と同じ色のシトリンが。
(俺の本気を見せてやるっ!)
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