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3章 宝珠を運ぶ村人たちを護衛せよ
12 盗賊のアジト
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◆◆◆◆◆
レネとベドジフは物陰にじっと身を潜め、状況を窺っていた。
「やっぱり、あの男が内通者だったのか」
石柱の祠から去っていく男たちを見つめ、ベドジフが呟く。
テレザは猿轡を噛まされて、肩に担がれ運ばれている。
やはり、猟師風の男は盗賊団の一味だった。
(だからあんなに、オレに護衛を外れろって必死に言ってたのか……)
レネがいなくなれば、怪しいところを見られた人間はいなくなる。
そのために、キツく当たって嫌がらせしていたのだとわかると、レネも少し気持ちの整理がつく。
個人の問題ではなかったとわかればいいのだ。
「でも見ろ、ヨナターンも拘束されて無理矢理連れて行かれてる」
後ろ手に手首を拘束され、ナイフを突きつけられながら、歩かされている姿をレネは見逃さなかった。
「いったいどういうことだ?」
「裏切ったんじゃないのか?」
土壇場になってヨナターンがごねたのかもしれない。
「もしそうだったら、殺してしまった方が早くないか?」
確かにベドジフの言う通りだ。
女ならまだしも、わざわざ生かして連れて行くなんて面倒臭いことを盗賊たちがするとは思えない。
「それよりも早く後を追わないと」
見失わないように、レネは身体を伏せながら男たちの後を追う。
「二人で大丈夫か?」
「あんた、アレ持ってきてる?」
「ああ。あるぞ」
ベドジフは赤く塗られた小石をたくさん入れた皮の袋を腰のベルトから取り出すと、一つ地面に落とし、もう暫く行くと、また一つ落とした。
こうすることで後から来た団員たちに自分たちの足取りがわかるように印を残し、二人は盗賊たちの尾行を続けた。
石柱群の入り口にいた見張りを倒して、二人は岩の迫りくる回廊を通って奥へと進む。
入り口の周りは木に囲まれて、後をついて行かなかったら、気付かなかったかもしれない。
道は二つに分かれていたが、盗賊たちが通った左側の道へと進んだ。その間もベドジフは等間隔に赤い石を落していく。
二人は岩陰に隠れて、盗賊たちのアジトの様子を盗み見る。
「こんな風になってるのか……」
中心部は天井の高い大きな空洞になっており、どこかに穴が開いているのか、天井からは薄っすらと光が差している。
傭兵だった男たちの成れの果てが、そこに集結していた。
(三十人はいるな……)
もともと五十人近くいた人数が騎士団の討伐から逃げ延び、ここまで数を落としたのだが、盗賊団にしては大所帯だ。こんな辺鄙な所で籠城するのも長くはもたないだろう。
(だから、宝珠を狙っているのか……)
「あそこに二人がいる……」
「どうやって行く?」
「最初にあんたが射って、混乱している間に、オレが巫女さんたちの所に行く。後は援護を頼む。俺が苦手そうな奴らを片付けてくれ」
「ああ」
そう言うとレネは、身を屈めて光の当たらない影の部分を通って、左奥にある大きな岩の前にいるテレザとヨナターンの方へ向かって進む。
盗賊たちに近付いて行くにしたがって交わされる会話も聞こえてくる。
『あんたの息子がグズグズしちまって手間取るもんだから、巫女さんごと攫って来た』
『ヨナターン、なにしてんだ。お前はもう俺たちの仲間になるしかないってのに、つまんねえことで手こずってたら、この先やっていけないぞ』
(——息子? どういうことだ!?)
『だっ誰があんたたちの仲間になるって言った! 村人は傷付けないって約束だっただろ? 話が違うじゃないかっ!』
『うるせえな、黙れ! こいつも逃げないように縛っとけ』
首領らしき男はヨナターンの腹を蹴ると地面に転がし、手下にそう命じた。
ヨナターンは父親から命令されて、宝珠だけを盗んでくる予定だったのか?
会話から察するに、盗賊たちは約束を守らずテレザまで攫ったので、ヨナターンが反発して拘束されたのだろう。
男たちがテレザに襲いかかったところで、ベドジフの放った矢が一人の盗賊に命中した。
「や、矢だっ! 誰かが矢を放ってきたっ!」
叫び声と共に、周りの動きが一斉に止まった。
「どこから射ってきてやがるっ……」
「出所を探し出せ!」
レネはベドジフとは反対側の奥に石を投げる。
暗闇を石の転がる乾いた音が響いた。
「おい、あっちで音がしたぞ、探し出せ!」
うまく騙されたシャーウールが、盗賊たちに命令する。
盗賊たちの根城の中は一瞬にして騒然とした空気に包まれた。
(今だっ!)
レネは混乱に乗じてテレザたちの方へと走り込むと、二人と合流するのに成功した。
『逃げるぞ』
拘束を解いた二人を背に庇うように、入り口に向かい安全な壁側を歩かせる。
「誰だお前っ!」
弓矢の攻撃に怯えながらも、盗賊の一人が侵入者に気付いた。
「こんなことをしてただで済むと思うなよ」
「村が雇った護衛か?」
レネはすぐさま一人の男と剣を交える。
くるりと相手の剣を自分のサーベルの剣先に巻き込むように捻り、流れる動きで男の首を掻き切った。
グゥボッ……と音を立てながら絶命した男の口から血が溢れ出した。
レネはそのまま動きを止めることなく、次の動作に移っていく。
相手の手首を狙い、剣を落とさせると左手で男の手首を捻り上げ、自分の盾になるよう仲間の前に身体を押し出した。
これには流石の盗賊たちも攻撃を躊躇する。
片手で捻り上げられているだけなのに、レネから捕らえられた男はまったく抵抗できないでいた。
「た……助けてくれっ……」
人質ではなく生きた肉の盾として利用し、その後ろからレネが攻撃を加えていくので、仲間たちはどうしても攻撃の手が緩む。
「——こいつッ……」
『お前は体格的にも他の男たちと比べたら劣るから、使えるものはなんでも使え』
同じように苦労して剣技を磨いてきた剣の師であるルカーシュの教えだ。
殺し合いで心が揺れたら、次は自分が死体になる。
それからレネは心を動かさず人を殺す術を身につけた。
自分が強くならないと人は護れない。
その間にも絶え間なく矢が放たれ、盗賊の中でも斧や大剣を持った大柄な男たちが犠牲になっていく。ちゃんとベドジフはレネの希望通りに標的を選んでくれていた。
だんだんと回廊のような通路へ続く出入口が近付いてきた。
近くの岩陰からベドジフもこちらを窺っている。
「あそこに仲間がいる、出口まで走れっ! ベドジフっ頼むっ!」
レネは二人の背を押してベドジフのいる出入口へ走らせた。
レネとベドジフは物陰にじっと身を潜め、状況を窺っていた。
「やっぱり、あの男が内通者だったのか」
石柱の祠から去っていく男たちを見つめ、ベドジフが呟く。
テレザは猿轡を噛まされて、肩に担がれ運ばれている。
やはり、猟師風の男は盗賊団の一味だった。
(だからあんなに、オレに護衛を外れろって必死に言ってたのか……)
レネがいなくなれば、怪しいところを見られた人間はいなくなる。
そのために、キツく当たって嫌がらせしていたのだとわかると、レネも少し気持ちの整理がつく。
個人の問題ではなかったとわかればいいのだ。
「でも見ろ、ヨナターンも拘束されて無理矢理連れて行かれてる」
後ろ手に手首を拘束され、ナイフを突きつけられながら、歩かされている姿をレネは見逃さなかった。
「いったいどういうことだ?」
「裏切ったんじゃないのか?」
土壇場になってヨナターンがごねたのかもしれない。
「もしそうだったら、殺してしまった方が早くないか?」
確かにベドジフの言う通りだ。
女ならまだしも、わざわざ生かして連れて行くなんて面倒臭いことを盗賊たちがするとは思えない。
「それよりも早く後を追わないと」
見失わないように、レネは身体を伏せながら男たちの後を追う。
「二人で大丈夫か?」
「あんた、アレ持ってきてる?」
「ああ。あるぞ」
ベドジフは赤く塗られた小石をたくさん入れた皮の袋を腰のベルトから取り出すと、一つ地面に落とし、もう暫く行くと、また一つ落とした。
こうすることで後から来た団員たちに自分たちの足取りがわかるように印を残し、二人は盗賊たちの尾行を続けた。
石柱群の入り口にいた見張りを倒して、二人は岩の迫りくる回廊を通って奥へと進む。
入り口の周りは木に囲まれて、後をついて行かなかったら、気付かなかったかもしれない。
道は二つに分かれていたが、盗賊たちが通った左側の道へと進んだ。その間もベドジフは等間隔に赤い石を落していく。
二人は岩陰に隠れて、盗賊たちのアジトの様子を盗み見る。
「こんな風になってるのか……」
中心部は天井の高い大きな空洞になっており、どこかに穴が開いているのか、天井からは薄っすらと光が差している。
傭兵だった男たちの成れの果てが、そこに集結していた。
(三十人はいるな……)
もともと五十人近くいた人数が騎士団の討伐から逃げ延び、ここまで数を落としたのだが、盗賊団にしては大所帯だ。こんな辺鄙な所で籠城するのも長くはもたないだろう。
(だから、宝珠を狙っているのか……)
「あそこに二人がいる……」
「どうやって行く?」
「最初にあんたが射って、混乱している間に、オレが巫女さんたちの所に行く。後は援護を頼む。俺が苦手そうな奴らを片付けてくれ」
「ああ」
そう言うとレネは、身を屈めて光の当たらない影の部分を通って、左奥にある大きな岩の前にいるテレザとヨナターンの方へ向かって進む。
盗賊たちに近付いて行くにしたがって交わされる会話も聞こえてくる。
『あんたの息子がグズグズしちまって手間取るもんだから、巫女さんごと攫って来た』
『ヨナターン、なにしてんだ。お前はもう俺たちの仲間になるしかないってのに、つまんねえことで手こずってたら、この先やっていけないぞ』
(——息子? どういうことだ!?)
『だっ誰があんたたちの仲間になるって言った! 村人は傷付けないって約束だっただろ? 話が違うじゃないかっ!』
『うるせえな、黙れ! こいつも逃げないように縛っとけ』
首領らしき男はヨナターンの腹を蹴ると地面に転がし、手下にそう命じた。
ヨナターンは父親から命令されて、宝珠だけを盗んでくる予定だったのか?
会話から察するに、盗賊たちは約束を守らずテレザまで攫ったので、ヨナターンが反発して拘束されたのだろう。
男たちがテレザに襲いかかったところで、ベドジフの放った矢が一人の盗賊に命中した。
「や、矢だっ! 誰かが矢を放ってきたっ!」
叫び声と共に、周りの動きが一斉に止まった。
「どこから射ってきてやがるっ……」
「出所を探し出せ!」
レネはベドジフとは反対側の奥に石を投げる。
暗闇を石の転がる乾いた音が響いた。
「おい、あっちで音がしたぞ、探し出せ!」
うまく騙されたシャーウールが、盗賊たちに命令する。
盗賊たちの根城の中は一瞬にして騒然とした空気に包まれた。
(今だっ!)
レネは混乱に乗じてテレザたちの方へと走り込むと、二人と合流するのに成功した。
『逃げるぞ』
拘束を解いた二人を背に庇うように、入り口に向かい安全な壁側を歩かせる。
「誰だお前っ!」
弓矢の攻撃に怯えながらも、盗賊の一人が侵入者に気付いた。
「こんなことをしてただで済むと思うなよ」
「村が雇った護衛か?」
レネはすぐさま一人の男と剣を交える。
くるりと相手の剣を自分のサーベルの剣先に巻き込むように捻り、流れる動きで男の首を掻き切った。
グゥボッ……と音を立てながら絶命した男の口から血が溢れ出した。
レネはそのまま動きを止めることなく、次の動作に移っていく。
相手の手首を狙い、剣を落とさせると左手で男の手首を捻り上げ、自分の盾になるよう仲間の前に身体を押し出した。
これには流石の盗賊たちも攻撃を躊躇する。
片手で捻り上げられているだけなのに、レネから捕らえられた男はまったく抵抗できないでいた。
「た……助けてくれっ……」
人質ではなく生きた肉の盾として利用し、その後ろからレネが攻撃を加えていくので、仲間たちはどうしても攻撃の手が緩む。
「——こいつッ……」
『お前は体格的にも他の男たちと比べたら劣るから、使えるものはなんでも使え』
同じように苦労して剣技を磨いてきた剣の師であるルカーシュの教えだ。
殺し合いで心が揺れたら、次は自分が死体になる。
それからレネは心を動かさず人を殺す術を身につけた。
自分が強くならないと人は護れない。
その間にも絶え間なく矢が放たれ、盗賊の中でも斧や大剣を持った大柄な男たちが犠牲になっていく。ちゃんとベドジフはレネの希望通りに標的を選んでくれていた。
だんだんと回廊のような通路へ続く出入口が近付いてきた。
近くの岩陰からベドジフもこちらを窺っている。
「あそこに仲間がいる、出口まで走れっ! ベドジフっ頼むっ!」
レネは二人の背を押してベドジフのいる出入口へ走らせた。
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