菩提樹の猫

無一物

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1章 伯爵令息を護衛せよ

24 エピローグ

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 ポリスタブは高台部分に街の中心街があり、坂道を下りると大きな船が出入りする港と、異国から運ばれてくる様々な品であふれた市場がある。

「行っちまったな……」

「無事に船に乗れて良かった。まともにいけば七日後にはファロだね」

 レネとカレルは、アンドレイたちを見送った後、港から街中へ戻る坂を上っていた。
 港から吹き上げる心地よい海風が、レネの灰色の髪を揺らす。

「坊ちゃん、お前と別れるの辛そうだったな」

 舷梯が外され、いよいよ船が出航するという時になって、アンドレイは人目も憚らず大泣きしていた。
 その泣き顔を思い出すだけで、レネは鼻の奥がツンと痛くなる。

「オレも寂しいよ。こういう仕事って一期一会だしね」

「わからないぞ。今回は失敗したが、また坊ちゃんの命を狙ってくるかもしれない」

「ちょっと、縁起でもないこと言うなよ!」

 やっと片付いたばかりなのに、またアンドレイの命が狙われるなんて考えたくもない。

「まだ根本が解決したわけじゃないからな」

 カレルの言う通り、今回のことだけでヴルビツキー男爵が諦めると思わない。ファロにいる間は安全かもしれないが、留学を終えこっちに帰って来たら、また同じようなことが起こるかもしれない。

「いまごろ、ロランドがボフミルからなにか聞き出してるだろ」

 昨日から、ロランドはボフミルを尋問している。あの狐のように冷たく笑うロランドの目を思い浮かべると、レネはぞくりと背筋が寒くなる。

「あんな良い子が、跡取り争いに巻き込まれるなんて……」

 レネは、昨夜のアンドレイとのやりとりを思い出し胸を痛める。アンドレイにはすれずにあのまま大きくなってほしい。きっとその辺は、デニスが付いているので大丈夫だろう。

「良い子?」
 カレルは驚いた顔をしてレネを見た。

「え?」

 レネはなぜカレルが驚いた顔をしているのかわからなかった。

「お前にはそう見えてたのか……そうか」

「そんな言い方すると気になるだろ」

 カレルの煮えきらない態度はなにかおかしいが、自分が間違っているとも思えない。

「それより、ボリスが首を長くして待ってるんじゃないか?」

「あっ⁉ そうだった」

 アンドレイたちを見送って、今回の仕事が無事に終わり、今日から先延ばしになっていた休暇だ。
 先に休暇中だったボリスまで巻き込み、迷惑をかけてしまった。その埋め合わせをしないといけない。

 カレルとロランドは、レネの姉であるアネタのこともよく知っている。ボリスとの関係も知っていたから直接会ってボリスだけ呼び出すことができたのだ。他の団員だったら、こうはいかなかっただろう。
 腹の立つことはいくつかあったが、今回はカレルとロランドが一緒だったから上手くいったと言っても過言ではない。

「アネタによろしく言っといてな。ロランドが上手く言い包めてると思うけど、きっと怒ってるぞ」

 姉の性格をよく知っているカレルはニヤニヤと笑う。

「ああっ、すっかり忘れてた……なんて説明しよう……」

「そこはお前、ボリスに上手く防波堤になってもらえよ。もうこのまま行くんだろ?」

「うん。じゃあ後はよろしく!」

 レネはロランドの所へ向かうカレルと別れ、ポリスタブの港を一望できる高台まで坂を上り切ると、真っすぐボリスたちの待つ中心街の広場へと走り出した。

 
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