眠れる隣の山田くん

あめふらし

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第1章 眠れるあいつの隠し事(基本壱輝目線)

39. Invisible

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「それは…昨日あったことと関係してるの?」
「あぁ…昨日……って、あぁ!?」

 突然あげた大声に、利人がビックリして菓子パンを喉に詰まらせる。

「うぐっ、いきなりっどーしたのっ…ゲホッ」
「元はと言えば、お前のせいじゃねぇかっ!」


 そうだ…利人があんなイタズラなんてしなければ、こんな事にはならなかったのに!!!


 「お前が昨日、イタズラであんなチョコ渡してこなければっ」
「え?あぁ…あれ、美味しかった?」
「美味しかった?…じゃねーよっっ」
「そんな怒んなよ~」


 「あはは」と笑っている利人に、イライラしながら言う。


 「彩兎が食べたんだよ」


 俺がそう言った瞬間、利人がピタッと止まる。
 そして、サーっと顔から血の気が引いていく利人に、俺はため息を吐きつつ昨日の出来事を話す。


 「お前がイタズラにくれた媚薬入りチョコを、勝手に食べた彩兎が発情して…まぁ、その後は察しろ」
「ま、じか…」
「どーすんだよ…気まずくて顔合わせらんねー…」


 利人は申し訳なさそうに俯いた。


「ごめんね…俺のイタズラのせいで…」
「まぁ、反省してんならいいけど」

 ふと時計を見ると、もうすぐ昼休みが終わる時間だった。

「もう昼終わるぞ、はよ学校戻れ」
「あ、うん。本当ごめんね」
「わかったから、はよ行けって」


 利人は、ドアが閉まるまで謝り続けていた。
申し訳ないという気持ちは伝わってきたが、だからと言って現状は変わるわけもなく…。

「どーしょっかなぁ…」


 一人きりの部屋の中で、独り言とため息をはいた。
 まるでどんよりとした雲が、心に広がっていくようだ。
 

(彩兎…声、震えてたな…)


 そう、何かを堪えるように。
思い出して、はっとした。
俺の前では悟られまいと必死に堪えて、一人になってきっと泣いていた。
いつも本当の感情を出さない彩兎が、だ。


 謝らないといけない。


そんで、ちゃんと話そう。


 なんで、転校してきたのか。
 なんで、俺に関わろうとするのか。
 なんで、俺に好きだと言ったのか。

 利人から情報として聞くんじゃなく、彩兎の言葉で聞きたい。
 
「謝ろう」

 そう言った俺の心にはもう、雲はなかった。




それから、俺は彩兎が学校から帰ってくるまで勉強したり、掃除をして時間を潰していたんだが…。

 彩兎が帰ってこない…。

 まさか、誘拐?…な訳ないか。
 彩兎は自分で撃退しそうだしな…。
 じゃあ利人達のところとか…?

 電話を掛けてみたが、彩兎はそっちには行っていないようだった。


 んー…?じゃあどこに…


このままでは埒が明かない。
 俺は掛けてあったジャンバーを羽織ると、小走りで部屋を出た。

 
行きそうな場所、手当り次第に探してみたがどこにも見当たらなかった。
 学校、寮内、倉庫、熊さんのとこ、先輩達のとこ…。


(どこだ…いったいどこに…)


 秋にしては、肌を刺すような風が横切っていく。

 こんな夜、自分ならどこに行くだろう。
 帰りずらい寮の部屋、友達のところにも行く気分じゃない…そんな中、自分ならどこに行くだろう。

 喧嘩した日、何となく帰りたくない日、そんな日に俺が必ず行った場所。

 ひとつの心当たりを胸に、俺は走りだした。





 寮を出て、10分ほど走った先にある小さな公園。
 そこのブランコに、漕ぐこともせずただ座っている後ろ姿を見て、俺は静かに横に立った。

 彩兎は月を見つめていたが、心はここにないみたいに虚ろな目をしていた。


「月、綺麗だな」
「…そうだね」
「なんでこんな所に?」
「誰だって、嫌いな人には会いたくないでしょ」
「嫌いな人?」
「そう。きっと嫌われた」


 そう言った彩兎は、まるで泣いてるみたいだった。
 目には見えない涙が、彩兎の頬を伝った気がして……

 気づけば、俺の頬には涙が伝っていた。





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