彼女と喧嘩したら乙女ゲーの悪役令嬢に転生しちゃいました!?

桜乃

文字の大きさ
上 下
51 / 56
学園編

お兄様と私

しおりを挟む
「………お兄様、お待たせしました」
「百!いきなり大切な話があるって……って皆も一緒なんだね?」
「は、はい……!こんにちは」
「こんにちは、こんな所でもあれだし、どこか別の所に行こうか」
そうして、近くのカフェへと向かった。
皆が思い思いの飲み物を注文し、店員が去って行ったあと、私は意を決して口を開いた。
「お兄様……私元の世界に帰ります」
「………うん、何となくそんな気はしてた」
「えっ?どうして………」
「俺は百のお兄ちゃんだよ?妹の変化ぐらいすぐ分かるに決まってるだろう?」
お兄様の言葉に私は驚いた。まさか気づいていたなんて。
けれど、それ以上に嬉しかった。私が帰ることを望んでいないと思っていたから。
そんな風に思ってくれていた事がとても嬉しい。
だからこそ、きちんと自分の言葉で伝えなければと思った。
「元の世界に帰る魔法がこの間見つかったんです……それと同時に行き来する魔法も」
「へぇ……君たちもその話は知ってたの?」
「はい……俺たちは今日の昼休みに」
「私は今朝百から聞きました」
「なるほど、それで俺にも伝えることにしたんだね」
お兄様は、全てを理解して私を見つめてきた。
その瞳には寂しさが滲んでいる気がした。
けれど、それも一瞬の事ですぐにいつもの優しい表情に戻った。
「でも……!行き来できる魔法も見つかったんです、それで、あかりと相談して、試してみることにしたんです」
私がそう告げると、お兄様は目を大きく見開いた。
そして、少し考え込むような仕草を見せた後、真剣な眼差しでこちらを見た。
その視線に思わず身構えてしまった。
そして、お兄様はゆっくりと口を開きこう告げた。
「百なら大丈夫だよ、きっと」
「お兄様……ありがとうございます……!」
お兄様はやっぱりすごい、何もかも分かってるみたい。
私達の事を分かってくれている、そんなお兄様のことが大好きなのだ。
それからしばらく話をした後、皆とは別れた。
私はお兄様と久しぶりに並びながら家まで帰ることにした。こうして二人で並んで歩くのは何年ぶりだろうかと考えながら歩いていると、ふとお兄様が話しかけてきた。お兄様の声はとても優しくて心地よかった。
そんな声色で、私のことを呼んでくれた。
それだけのことがどうしようもなく幸せで、泣きそうになってしまう。
そんな私の頬に、暖かいものが触れた。
それは紛れもない、お兄様の手だった。その手はとても暖かくて大きくて安心感を与えてくれるものだった。
「…………実は百が元の世界に帰ることは昔から分かってたんだ」
「昔から……?」
「うん、百も見たことがあるだろう?予知夢ってやつ」
「はい……まさか……!」
「うん、そのまさか。前にほんとに百か?って聞いた夜にね、百がいなくなる夢を見たんだ……まさかそれが本当になるとは思わなかったけどね」
「そうだったのですね………でも!私はいなくなりません……」
「うん、信じてるよ」
お兄様は、優しく微笑むと私の頭を撫でてくれた。
その笑顔に、言葉に、行動にどれだけ救われたことか。
私もいつか、お兄様にとってのそういう存在になりたいと思う。
そして、もっと頼って欲しいとも思う。
お兄様は何でも一人で抱え込んでしまうところがあるから心配だ。
まあ、私なんかじゃ頼りないかもしれないけれど。
それでも、少しでも力になれるように頑張ろうと思った。
「お兄様!」
「ん?なんだい?」
「大好きです……!!」
「ふふ、俺も大好きだよ」
そんな事を言いあいながら私達は
歩き続けた。
夕日が私達を照らしてくれていて、とても綺麗だ。
この美しい景色は、私の大切な思い出としていつまでも残るだろう。
だから、私は忘れたくない。
どんなに辛くても、苦しくても、悲しくても、私は絶対に乗り越えられると信じたいから。
だから、私は皆のことを絶対に忘れないと心に誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

処理中です...