上 下
301 / 321

マリーの気持ちは

しおりを挟む
「貴女の言っている事は全て事実よ」
「…………そうでしたか、何故そんな事をしたのか聞いても?」
私がそう問いかけると、マリーは私の顔をマジマジと見つめ、ふっと鼻で笑う。
まるで、そんな事も分からないの?と言いたげな顔で口を開いた。
「そんなの、聖女様を陥れる為に決まっているでしょう?まぁ、結局私はこんな所に閉じ込められて
何も出来ずに今に至っているのだけれどね」
そう言ってマリーは自虐的に笑った。
その瞳はとても悲しそうで、私は胸が締め付けられる様な感覚を覚えたのだった。
「ルカ、そんな奴に同情なんかいらないよ……こいつらが何をしたか、覚えているでしょ?」
「はい……」
そう、この魔女マリーは聖女になろうとして私の力を奪い、そして私の大切な人たちを
傷付けた。
この人達の事は、一生許すことはきっと出来ないだろう。
けれど……こんな顔を見せられると、少しだけ心が揺らいでしまうのは、私が甘いからだろうか……
「ルカは優しいからね……でも、心に嘘を付いて許すことは無いんだよ、それもきっと優しさだ」
ルークはそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。
その言葉に、少しだけ心が軽く
なった様な気がした。私は小さく頷くと、マリーに向き直る。
そして真っ直ぐに彼女の目を見つめた。
「貴女は今でも聖女になりたいと思うのですか?」
「…………そうね、もうそんな気力も無いわ。こんな部屋に閉じ込められ、魔力を奪われ
て……このまま朽ち果てるくらいなら、貴女に殺されるのもいいかもしれないわね」
マリーは自嘲気味に笑うとそう言った。
聖女として、彼女の罪を許すことは出来ないけれど、命を奪うだなんてそんな事私に出来る訳が無い。
無くなっていい命などこの世にはないのだ。
私はマリーを真っ直ぐ見つめ口を開いた。
「私にそんな事は出来ません、聖女とは人々を守る存在、命を奪うなど許されません」
私がそう言うと、マリーは少しだけ驚いた様に目を見開いた後 小さくため息を吐いた。
そして私を睨みつける様に見る。
「私には、このまま朽ちて死ぬのがお似合いだと言いたいのね」
彼女のその言葉に、私は小さく首を横に振った。
そしてマリーを真っ直ぐ見つめ口を開いた。
「私は貴女に生きていて欲しい、すべての罪を償って、生きて幸せになって欲しい」
私がそう言うと、マリーは泣きそうな顔をして私を見た。
そんなマリーの手をしっかりと握ると言葉を続ける。
「そして幸せになったその時……貴女の力を認めてくれる方がきっと現れるはずです」
私はそう言ってマリーの目を真っ直ぐに見つめ返す。
彼女の瞳が少しだけ揺らいだ気がした。
そして彼女は何かを考えるように視線を彷徨わせ、小さく口を開く。
「貴女が……ルカがそう言うなら……」
「えぇ……大丈夫マリーならきっと……」
そう言って私はマリーの体をギュッと抱きしめた。
マリーの体が一瞬ビクッと震えたけれど、彼女は抵抗する事無く私に体を預ける様に 体重をかけてくる。その体は震えていた。
「貴女はやっぱり聖女様なのね……はは、どんなに努力しても私は貴女の様にはなれなかったのね……」
マリーはそう言うと、私の胸に顔を埋め静かに涙を流し始めた。
私はそんな彼女をただ優しく抱きしめ続けたのだった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...