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昨日の男と

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城内に入ると、私達の到着を待っていた騎士たちが出迎えてくれた。
私はその騎士達に会釈を返し、ルークと共に待ち人が待っているという部屋へと向かった。
そして、目的の部屋の前へと辿り着くと私達は一度足を止める。
騎士たちが大きな扉の前に向かって、聖女様とルーク様が到着
されました。と声を掛けると、大きな扉はゆっくりと開かれた。
「よくいらっしゃいました、聖女様」
そう言って私に頭を下げる初老の男性、私も頭を下げ挨拶を交わす。
この男性は、この国の国王。
「この度はお招き頂き誠にありがとうございます、国王様」
そう言って再び頭を下げると、国王様は微笑みながら口を開いた。
しかし、その表情には疲れが滲んでいるように見えた。
やはり、あの騒動で心労が溜まっているのかもしれない。
「あの男に会いに来たのだろう?そこの者達に案内させる、行くといい」
国王様はそう言って部屋の奥へと視線を向けた。
そこには扉があり、どうやらその先にあの男がいるのだろう。
私は小さく頷くと、騎士とルークと共にその部屋へと足を踏み入れたのだった。
部屋の中に入るとまず目に入ったのは、大きな鉄格子だった。
そしてその中には、一人の男がいる。
「……聖女様?どうしてここに」
やつれた表情で、彼は驚いた様な表情を浮かべ私を見ていた。
私はそんな彼に歩み寄りながら口を開く。
「昨日振りね……アイク」
「何故聖女様がこんな所に、それに……ルーク様まで」
アイクはそう言って私達の事を交互に見た。
そして、彼は何かを悟ったように小さく息を吐くと口を開いた。
その表情は諦めにも似た笑みを浮かべていて、彼の心情を物語っているような気がした。
きっと彼ももう、自分の罪を認めているのだろう。
「はは…………そうですよね、私はそれだけの事をしたんだ…………
聖女様の手で裁かれるのが、私にはお似合いだ……」
彼はそう言って力なく笑った。
そんな彼の姿を見た私は、ゆっくりと彼に歩み寄ると鉄格子越しに彼の手を取った。
そして、真っ直ぐに彼を見つめながら口を開く。
「違うわ、今日は貴方達を救うために話を聞きに来たの」
「昨日は錯乱していて、あまり話が出来なかったからな……」
私とルークがそう言うと、アイクは驚いたように目を見開いた。
そんな彼に私は優しく微笑みかける。
すると、彼の瞳から一筋の涙が流れたのだった。
そして彼は震える声で私に問いかける。
「聖女様……私は、生きていても良いのでしょうか……」
彼は俯きながらそう言った。
そんな彼に私は力強く頷き口を開く。
彼が今までしてきた事は決して許される事じゃないだろう、でもそれだけが彼の人生じゃないのだ。
生きている限り、償う事は出来るのだから……
「えぇ、勿論よ。死んでしまっていい人間だなんて…………この世には存在しない
私はそう思っているわ」
「あ…………あぁ……」
彼は嗚咽混じりの声を漏らしながら、静かに泣き続けた。
私達は、彼が落ち着くのを待ってから話を始めたのだった。
「改めて貴方の事を教えてくれる?」
「はい……知っているとは思いますが、私は小さな田舎の村で生まれました……」
ゆっくりだが、彼は自分の生まれを話し始めた。
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