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二人の為に

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「はぁ、ちゃんと上手くいってるかしら……」
「沙羅達の事か?」
「えぇ、学園長とウィル先生に沙羅達の事を頼んだのですが……上手くいってるか不安で……」
「あの二人なら大丈夫だよ、それより沙羅からウィル先生の名前が出るなんてね」
「えぇ、あの時は本当にお世話に……いえ、迷惑をかけて……」
思い出してもあの頃の私は本当に……
でも、ウィル先生はそんな私に何も言わず変わらず接してくれた。
今思えば、あの先生のお陰で今の私が居ると言っても過言じゃないかもしれない。
「ふふ、あの頃のルカは、ウィル先生だけには何故か懐いていたよね」
「そうですね……ウィル先生は私を聖女様として、では無く一人の生徒として接してくれたので……」
「ルカ………そうだな、あの時は教師も生徒も”ルカ”を見てくれる人はいなかった。聖女として期待して、勝手に自分たちの理想を押し付けて……」
そう言って、ルークは苦しそうな表情を浮かべる。
あの頃は、生徒も先生も私を聖女様として扱って、自分の理想と違ったら、ヒソヒソと、ある事無い事噂して。
自分たちの理想通りなら、流石聖女様!ともてはやして
本当に嫌な記憶だ。
そんな中でも、ウィル先生だけは、私を聖女としてではなく”ルカ”として見てくれていて それがとても嬉しかった。
「ウィル先生は先生として優秀なはずなのに、本人のやる気が足らないからなぁ……」
そう、ウィル先生は先生として優秀だ。
でもやる事をやらないし、面倒くさがるし……
「まぁ、そこがウィル先生のいい所だと、私は思いますよ」
「………そうだな、俺もルカもエミリアも先生には、かなりお世話になったもんね。きっと、沙羅も先生の事を気に入ると思うよ」
そう言ってルークはにっこりと微笑んだ。
そんなルークを見て、私も微笑み返した。
「そうね、ウィル先生ならきっとあの二人をいい方向に導いてくれる、そんな気がするわ」
もちろん、私も二人に魔法を教えるつもり。
けれど、二人の魔法は私だけが教えてもきっと完成しないと
私は思っている、私以外の人……そう考えた時思いついたのがウィル先生だ。
きっと彼に頼めば、きっといい方向に向かう。
そんな風に考えていた時、沙羅からウィル先生の名前が出た。
私はこれをチャンスだと思い、沙羅の背中を押した。
「あとは……沙羅次第ですね」
「そうだね、何かあったら俺も協力するから」
「ありがとうございます、ルーク」
そう言って私はルークにお礼を言ってから、空を見上げた。
今日は快晴で雲一つない空だ。
どうか二人の事が上手く行きますように、そう祈った。
「さて、私達の方の準備も進めないと、資料の方はどう?」
「うん、大分集まって来てるよ、この調子なら今週にでも話し合いができる
と思うよ」
「ありがとうルーク、はぁ……あの堅物たちが私達の話を聞いてくれるとは
思わないけれど……やるしか無いわよね……」
そう言って大きな溜息をついていると、ルークが私を見て苦笑いを浮かべていた。
「あの人達は本当に変わらないもんね、聖女様がこの国から出ていくなんて許さん!って言うんじゃない?」
「ありえるわね……本当にあの頭の固い人達は……どうにかならないものかしら……」
そんな事を呟きながら、私はルークの用意した資料に目を通し始めた。
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