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昔の記憶

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「ほらほら、早くしないとお昼の時間無くなっちゃいますよ?」
僕がそう急かすと、二人はそうだった!と言って慌てて教室から出て行った。
二人の背中を見送り、ふーっ、と息を吐き、近くにあった椅子に腰を掛け
もう冷め切ったコーヒーを、ぐいっと一飲み干す。
「…………はぁ、もう普通の先生でいたかったんだけどなぁ、はは」
乾いた笑いが口から漏れる、僕は頭を掻いて立ち上がった。
そして机の上にあった手紙を手に取り、ふぅっと溜息を吐いた。
「えっと……『沙羅がお世話になると思いますがよろしくお願いします』…………ねぇ、結局あの子の言う通りになっちゃって、何だかなぁ」
僕は手紙を机に放り投げ、窓の外を眺めながら昔の事を思い返した。
********
――あれは、数年前……僕がまだこの学校に来たばかりの頃。
新入生として、聖女様がこの学校に入学してきた。
正直、あの頃の僕は、聖女なんて……すこーし魔法が使えるだけで
ちやほやされて馬鹿みたい、僕には敵わないくせに、なんて思っていた。
「あの頃の僕も馬鹿だよなぁ、聖女様に対してあんなこと思ってたなんて
学校にバレたらクビ所か、この国にいられなかったろうなぁ」
思わずあの頃の自分を嘲笑してしまう。
そんな僕に聖女様が話しかけてきたんだ、先生の力を貸してくださいって。
勿論最初は断ったよ?だって面倒くさいし、関わりたくないし。
でも、何度も何度も僕を訪ねてくる聖女様に、結局根負けしたんだ………
話を聞けば、聖女様はまだこの学園に馴染めなくて、一緒に入学した
友達としか話せてないと、だから先生が話し相手になってくれて嬉しいとも言っていた。
「まぁ………学園の先生たちって聖女様として扱ってたから、僕みたいな態度の
先生は新鮮だったのかも知れないね」
聖女様は、僕に色んな話をしてくれた。
自分の事、友達の事………そして、魔法の事。
彼女はまだ、自分の力に何か足りない、だから裏の森に行きたい、その為の
協力を僕に求めてきた。
「聖女様という人達はみんな人使いが荒いんですかね?」
そう言って僕は笑った。
高木さんも彼女も僕を頼ってくれた、それに悪い気はしなかったけれど
その願いを叶えると言う事は、僕の平穏な学園生活が終わる事を示していた。
「はぁ、頼られちゃったら仕方ないですよね……準備、しましょうか」
そう呟き窓から離れ、机の上に置いてあった書類を何枚か手に取って
学園長室へと向かった。
******
「ウィル先生……ちゃんとお願い聞いてくれるかな……」
「大丈夫ですよ、あの先生は信用できますから」
「どうしてそう思うの?」
私がそう尋ねると、フィリスは困った様な表情を浮かべた。
すると突然後ろから声が掛けられた。
振り返るとウィル先生が私達の後ろに立っていた。
それに驚いた私は思わず声が出てしまった。
そんな私の反応を見て、ウィル先生はクスクスと笑う。
「そんなに驚いて僕の悪口かい?」
「い、いえ!!そうじゃ無くて!!」
「はは、冗談だよ。安心して、これから学園長に君達の事を相談しに行くところだから」
そう言ってウィル先生は学園長室に向かっていった。
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