彗星電車

星崎 楓

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第1章 見えはじめた彗星

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6月のある夕方。少しずつ暗くなっていく空を眺めながら、歌を歌っている少女がいました。

「いちばんぼーし、みぃつけた」

 ひかりは昔から星が大好きでした。小さい頃から、街の天文台に何度も通いました。今と同じように、星を探し、ベランダから空を眺めるのが大好きでした。

「あ、セスティナ彗星…」

 つい最近、肉眼でも見えるようになったセスティナ彗星。研究者たちの予測では、ここ数十年に一度の巨大彗星になる見込みだそうです。

「ひかりー、ご飯よ。」
「はーい、今行きまーす。」

 ひかりが思っているより、ずっと、ずっと遠いところで、白く、輝く尾を持った彗星。宝石のように光り輝く星たちを眺めていると、自分も宇宙に行ったような気持ちになるのでした。


 朝。いつものように朝食をとったひかりは、新三島の駅まで歩いて行きます。道の桜はすっかり緑の葉ばかりになり、吹く風も一段と暖かくなっています。いつものように、2番乗り場から、7時ちょうど発の有松行き快速電車に乗ります。

「まもなく、2番乗り場に、7時ちょうど発、快速、有松行きが、8両で参ります。」

 アナウンスと同時に、快速電車が滑り込んできました。

「新三島、新三島です。三島ケーブルは、お乗り換えです。」

 ドアが開くと中には幼なじみの咲希がいました。

「おはよー!ひかり!」
「おはよ、咲季!」

 彼女は河野咲季。ひかりの幼なじみで、陽気な女の子です。

「ねえ、ひかり、聞いた?7月7日、セスティナ彗星が地球に最接近するんだって!」
「らしいね。かなり大きい彗星だから、その日はきちんと見たいと思ってる。7月7日、咲季は、どうするの?」
「私?私はー、海斗くんと空を眺めるんだー。」
「あ、そ、そっか!成沢くんといっしょなんだね!じ、じゃあ咲季と一緒はできないね。」
「え、いや、でも…」
「いいのいいの!ほら、せっかく成沢くんと一緒にいれる日じゃん!楽しんで来なよ!」
「う、うん。わかった。あ、それよりさー…」

 水無月の風を分けて走る快速電車で、ひかりは咲季と話しながら、頭の片隅では、自分にも彼氏がいればなんて妄想をしたりするのでした。

「県立清州体育館、清洲です。」

 考え事をしながら話していたので、咲季と何を話したか忘れてしまいました。

「清洲ついたね、降りよっか。」
「うん。」

 ぼーっとしながら改札を出ると、空気が湿っています。さっきまで晴れていた空もどんよりと暗くなり、あたり一面は灰色の雲に覆われました。

「もう、梅雨か…」

 何故か頭がまだぼーっとしています。自分の頭の中だけは、まだ春なのでしょうか。

 ひかりはいつもそうでした。普通の人より遅れてる。いつもそんなことを言われていました。とびきり勉強ができるわけもなく、とびきり運動神経がいいわけでもなく、とびきり可愛いわけでもない。「特徴のない中学3年生」でした。よく喋るわけでもないし、一人で考え事をしていることが多いので、クラスの男子からは「空気さん」なんて呼ばれています。しかし、それがきっかけでいじめられたりもしないので、ひかりはあまり気にしていませんでした。

「咲希!おはよ!」
「陽花ー!おはよー!」
「委員会の仕事ありがとね!」
「いやいや、すぐ終わったしいいよー、」
「あ、私日直だった!あとでねー!」
「はーい!」
「おお、河野、おはよ」
「徳井くん!おはよう!」
「河野って鳴電ルートなんだ。」
「そうだよ。私、川之江だもん。」
「へえ、そうなんだ。」
「俺先行くわ。じゃな。」
「じゃあねー!」
「河野さん、おはよう」
「おはよー、北川さん。」
「手芸クラブの予定って決まった?」
「決まったよ!後で渡しに行くね。」
「わかった。私、図書室寄るから先行くね。」
「またクラブでねー!」
「咲希、おはよ。」
「海斗くんー!おはよー!」
「荷物重くない?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ!」
「そっか。俺、朝練あるから。また教室で!」
「がんばれー!」
「はぁ。」
「ごめんごめんひかり!」
「咲希はいいよねー、」
「え?」
「友達いっぱいいて。」
「いや、そんなことな…」
「どうせ私は空気さんだからね。彼氏もいなければあんな気軽に喋れる友達もいないんだから!」
「ひかり…」

 ああ、咲希になんてことしたんだろ。咲希はなんにも悪くないのに、幸せそうな咲希を羨んで…。わがままなのは、私なのに…。
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