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夢限

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第01章

07 何か見えるんだけど

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 よくわからないけれど、お姉ちゃんたちはやってきたお客さんを追い返してしまった。理由はわからないけれど、お姉ちゃんたちがそれでいいのなら僕に何かを言うことはない。

「マティオ、お散歩の続きしよっか」
「うん」

 というわけで僕はそのまま散歩の続きだ。散歩といっても、残念ながら今の僕には体力がないため、結局はすぐに疲れてその場に座り込んじゃったんだけど。それから、休んでは歩いてを繰り返して、お昼を食べて午後。
 午後はさすがに疲れているので休んでいる。

「本来だったら、午後も鍛えたほうがいいんだろうが」
「いきなりは無理というものです」
「そうなんだよなぁ」
「ゆっくりでいいのよ。ゆっくりで」
「まぁそうだな」

 体力のない僕を見てお姉ちゃんたちがそんな話をしている。

 そうして、午後はのんびりと過ごしていると、玄関からノックする音が聞こえてきた。

「誰か来たみたいだな」
「そうみたいね。だれだろ」
「商人ですかね」
「ああ、かもね。私たちいろいろ持ってるから」
「ええ」

 お姉ちゃんたちが持っているというのは、当然今まで討伐してきたという魔物の素材。

 どこに? って思うかもしれないけれど、実はお姉ちゃんたちは魔法の袋というすごい魔道具を持っているそうで、これがあればどんな大きなものでも、どんな量でも持ち歩くことができるというものだという。どこでそんなものを手に入れたのか聞いてみたら、ダンジョンで見つけたって言ってた。ダンジョンかぁ、僕も一度でいいから行ってみたいなぁ。

 なんて思っていると、僕の前をお客さんが通り抜けていった。

「ひっ!」
「お、おう?」
「マティオ?」

 やってきたお客さんを見て、僕はそんな悲鳴を上げてから、思わず近くにいたクリスお姉ちゃんの後ろに隠れてしまった。しかも、僕の身長はちょうどクリスお姉ちゃんのお尻の高さのために、結果的にクリスお姉ちゃんのお知りにしがみつく形になってしまった。でも、今の僕にそんなことを気にしている暇はない。

「どうしました?」

 僕たちの様子にお客さんを誘導していたテレスお姉ちゃんが不思議そうにこっちを見ている。

「うん、ちょっと、マティオ、どうしたの?」

 お姉ちゃんがそういってしゃがみ込んで聞いてきているけれど、今の僕にそんな余裕はない。震えが止まらないし、ものすごく怖い。なぜかって、そんなものこのお客さんの1人は、あの時僕をさんざん殴った人で、最後に唾を吐きかけた人でもある。その人を見た瞬間僕にあの時の痛みと恐怖がよみがえりこうなってしまった。

「ごめん、私ちょっとマティオを部屋まで連れて行ってくる。あとお願い」
「わかりました」
「おう、それはいいけどよ。これじゃあたい動けないんだが」
「ああ、そうよねごめん。マティオ、そんなところにしがみついてないでお姉ちゃんと向こうに行こうね」

 今の僕には返事をする余裕はないけれど、お姉ちゃんに促されるままクリスお姉ちゃんから離れて歩き出す。

「すみません。ではこちらへ」

 僕が離れたのを見たテレスお姉ちゃんがお客さんを応接間に連れて行ったのだった。


「マティオ、大丈夫? お姉ちゃんがそばにいるから大丈夫よ。大丈夫」

 震えが止まらない僕にお姉ちゃんが抱きしめながらやさしくそう言ってくれる。それにより、ようやく僕も落ち着いてきた。

「それでマティオ、どうしたの急に、お姉ちゃんにお話ししてくれる?」
「……あ、あ、あの、あ……」

 言葉にしようと思ったけれどうまく声が出なかった。

「うん、うん、いいの。いいのよマティオ、ごめんね」

 うまく言葉が出ない僕に何かを悟ったお姉ちゃんが、すぐにまた抱きしめてそれ以上聞くことはなかった。


 それから、少しの間お姉ちゃんに抱きしめられたことで何とか落ち着いてきた。そこで思ったのが、あの人たちは何をしに来たのだろうというものだった。
 すると、突然頭にこことは別の場所の光景が浮かんできた。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「……仕方ありません。これほど言っても帰ってもらえないというのなら、お話ししましょう」

 テレスお姉ちゃんがお役さんに向かってそういった。その言葉を聞く限りテレスお姉ちゃんたちはお客さんに帰ってほしいみたい。何かあったのかな。というか、これ何?
 わからないまま、光景は続いていく。

「3日前のことです。あなた方は1人少年を追いかけましたね」
「特にてめぇ、身に覚えがあんだろっ」

 テレスお姉ちゃんが静かに語りだし、クリスお姉ちゃんがお役さんのうちの偉そうなおじさんの背後に立つあの怖いおじさんをにらみつける。

「3日前、ですか、おいっ?」
「は、はい、えっと、あっ、確かに、ですがあれは泥棒です。屋台の商品や材料なんかをかっぱらったクソガキですよ。以前から手を焼いてまして、その日は仲間と何とか捕まえました」
「ああ、やっぱりてめぇか、そんで、捕まえたその子をボコったってわけか、ああんっ!」

 クリスお姉ちゃんがちょっと怖い、けど、先ほどから出ている子供はたぶん僕のことだよね。

「ボコったなんてことは、確かに二度としないようにとしつけはしましたが」
「はんっ! よく言うぜ」
「もう少し駆け付けるのが遅ければ、あの子は死んでいたのですよ」

 テレスお姉ちゃんも怒っていると思う、なんか僕と話しているときと言葉遣いは同じなんだけど雰囲気が全然違う。

「そういわれましても、それにそれとこれの一体どんな関係が、相手はただの盗人のガキですよ」
「そうですか、まぁそうでしょう」
「お前らから下そうだろうよ。でもな、てめぇら、あいつはな」
「あの子は、パレマの弟です」
「はっ?」

 テレスお姉ちゃんの言葉に間の抜けた表情をするおじさんたちであった。
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