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第11章 戦争
14 和平交渉
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「”ディザスター”」
俺が放った新魔法ディザスター、これは名前の通り災害そのもの。まずは大賢者を始め周囲にいた敵兵100万以上が立つ台地が揺れる。いわゆる地震、今回は震度4程度にとどめておいた。といってもこの世界は神様が管理しているからか、地震がほとんどない。というか俺もこの世界にきて以来、地震というものを感じたことはない。そんな世界の住人にとって震度4というのは、日本人にとってのおよそ5強から6弱ぐらい、震度5まで上がると7あたりという感覚となる。まぁ、俺も前世ではあまり自信のない地域に住んでいたので、最大で震度5までしか知らないんだけどな。だからだろう、自身が発生した瞬間からずっと敵兵たちはパニックになっているし、大賢者は、おっと、大賢者はうまく浮遊魔法を使って揺れを回避している。
「大地魔法の”クエイク”、いや、それの上位魔法”ハイクエイク”か」
回避しているからか余裕そうだが、残念ながら俺が放ったものはそんなものではない。というかこれは始まりに過ぎない。ほら、次が始まる。
「な、なにっ!」
次は炎、先ほどの地震でできた大地の裂け目から炎の柱が立ち上がり大賢者を飲み込んだ。敵兵たちの間に叫び声を上がるものがいるが、案死してほしい、大賢者はちゃんと結界を張って自信を守っている。一応そのための時間を与えたから問題ない。そして、ごうごうと立ち上がる火柱、それなりに温度を上げているので結界越しにも相当に暑いことだろう。そんな大賢者が熱にやられる前に上空に巨大な雲が出現。今日は快晴なみに晴れていたから敵さんもさぞ驚いていることだろう。そして落ちてくる雨粒と、それにより消える火柱、だがその瞬間に落雷である。ドゴォォンと大きな音を立てて大賢者に直撃。普通ならこれで死んでもおかしくないが、これまた大賢者の結界に阻まれた。というかそれに合わせたんだけどね。落雷を防いだことに安どしている大賢者、しかし俺の魔法はこれで終わりではなく、今素は上空の雲から細長い雲が渦を巻きながら降りてくる。そう、言わずと知れた竜巻の発生である。しかもこれは俺が普通に魔法で作ったものなので、あちこち移動することなく大賢者の身を飲み込んでいく。そうなてくるとさすがに大賢者の結界も持たない。途中でパリンという感じに結界が崩壊した。
もちろん俺としては大賢者を死なせるつもりなど毛頭ないので、ここで俺が結界を張る。と同時に暗黒魔法の”イリュージョン”を用いて大賢者に幻痛をもたらせて気を失わせるのも忘れない。また、ある程度結界に穴をあけて大賢者が表面にいくらかの傷をつけていく。
とま、ここまでやってやっとこさ”ディザスター”完了である。といってもこれは大賢者ように威力をかなり落とし、余計なものまでオプションで付けており、実際には地震は震度6以上、火柱も巨大で竜巻もほぼ同時に初声させれば、火炎旋風にもなるというとんでもなく凶悪な魔法である。等級でこれを現すとしたら神級、名前の通り神の御業そのものといっても過言でもない魔法となる。
「なっ、大賢者様!」
気を失い少し高いところから落ちる大賢者、その姿を見た敵兵たちは悲痛の叫びをあげている。
「おのれ魔王、よくも大賢者様を!」
そう言って多くの兵が俺へ向かって剣を抜き放ち向けてくる。
「そう慌てるな。大賢者なら気を失っているだけだ。確認してみろ」
俺がそういうと偉そうで豪華な鎧を身にまとったやつが、配下の奴に指示を出して、大賢者のところへ向かった。
「大賢者様、ご、御無事です!」
確認した兵がそういって大声で報告すると、敵兵たちが安堵している。
「さすがは大賢者様、賢者ごときが放った魔法など……」
「そうではない」
偉そうな奴がそういっているところに大賢者がよろよろと立ち上がり、言葉を遮った。
「大賢者様」
「魔王、貴様一体なんだ?」
大賢者が悔しそうにしながら俺に問いかけてきた。おっと、どうやらようやく話が出来そうだぞ。となると俺の本番はここからだな。さて、どうやって和平につなげるか。
「なんだも何も名乗っただろう、スニルバルド・ゾーリン。テレスフィリア、テレスフィリア魔王国初代魔王だ」
「そうではない。貴様は賢者ではないのか、賢者がなぜあのような魔法を使える。わしの知らぬあのような魔法を」
この大賢者は大賢者というスキルから知らない魔法という者は存在しない。なにせ、大賢者には俺の”森羅万象”と同じように”魔法書”という権能があり、そこに現存するあらゆる魔法が刻まれているのだから。ちなみに賢者も同じものを持っている。
「あいにくだが、俺は賢者ではない」
「なに! まさかわしと同じとでもいうのか? しかし、それはありえん。大賢者はこの世に1人、わし以外の大賢者はおらぬはずだ」
「その通りだ。大賢者は1人、これがこの世の定めだからな」
「なら、貴様はなんだというのだ」
少し迷うが、ここで俺のスキルについて話すことは特に問題にならないと思うので話すことにした。もちろん詳細までは話さないけどな。
「俺が持つスキルは”メティスル”言ってみれば大賢者の上位に位置するものだ」
俺の言葉を受けて強い衝撃を受ける大賢者。それはそうだろうこれまで自分こそ最強と思っていたら、まさかその上位がいるんだからな。
「馬鹿な! そのようなスキル聞いた事も」
「だろうな。こいつは俺オリジナル、つまりユニークスキルってやつだ。まぁ、そういう意味では大賢者もユニークなんだが、これはそうしたものを凌駕したものと思った方がいいだろうな」
なにせ神様が特例として俺のために作ったものだからだ。
「馬鹿な、そのようなことが、いや、しかし、それならばわしが負けるのも道理、いや、しかし、ありえん」
大賢者はそういってフェードアウトしていった。
「さて、俺としてはここで何も争いたいわけじゃない。というか俺としては和平を結びたいと考えているんだがな」
「ふざけるな。和平だと、このような魔法を放ち、我らに被害を出しておきながら」
何やら騒いでいるが、俺はあきれつつ答える。
「最初に問答無用で魔法を放ってきたのはそこの大賢者だろ、こっちは話をするつもりで来たんだがなぁ。これじゃ、いや、何でもねぇ。んで、さっきも言ったが俺としては話し合いをしたい。確かそっちはかつての英雄の末裔ってのを僭称している奴がいるんだろ。そいつを出してもらえないか」
「せ、僭称、だと、貴様、我が王を愚弄するか!」
おっと、俺が話していたやつはどうやらその僭称国の人間だったらしい。さすがに自国の王が侮辱されて怒ってるな。まぁ、その気持ちはわかる。俺だって、今はこうして異世界で暮らしているが、これでもまだ日本人としての誇りは残ってる。そんな俺もさすがに陛下が侮辱されれば怒る。たとえ法律上象徴となっている存在でもな。
「そいつは悪かったな。しかし、こちらの王であり代表である俺がこの場にいるんだ。なら、そちらの代表であるその王が出てくるのが筋という者だろ、なにも俺に対しておびえているわけではあるまい」
「当り前だ!」
「なるほど、魔王を名乗るだけはあり、なかなか度胸があるようだな」
「陛下!」
そう言って人垣をかき分けてやってきた一層豪華な鎧を身に着け、って、その鎧動きずらそうだな。その鎧は実用というより飾り、見た目重視にしたもので、いたるところに金や宝石がちりばめられており、とんでもなく動きずらそうだ。しかもその出てきた王もこれまた太っているというかなりひどい感じだ。大丈夫かこいつ……
とそんな風に思うもこいつが間違いなくその王であることは間違いなさそうなので、得意のポーカーフェイスで何とか見つめるにとどめた。
「お宅がガルナホレイオン王国の王か?」
ガルナホレイオン王国というのが例の英雄の末裔が起こしたという国だ。そして、国名はその英雄の名前だそうだ。
「うむ、余が偉大なる英雄ガルナホレイオンが末裔、グロウットハイエム・ガリバルト・シャムーナ・ド・レース・ガルナホレイオンである」
って、長っ、長いよ名前、どういう構成になっているんだよそれ。
思わずそう突っ込みたくなるほどの名前だ。聞いてて偽るのかと思ったわ。まぁ、さすがに寿限無みたいなことでなくてよかったが。もしそうなていたら俺の突っ込みは1つ、寿限無か! だったんだが……
「スニルバルド・ゾーリン・テレスフィリアだ。さて、ガルナホレイオン王、貴殿に尋ねるが、この派兵と、大賢者が行っていた攻撃について説明を願いたい」
こっちは被害者でもあるので、まずは説明を要請した。
「貴様、陛下に対して無礼であろう」
俺の言葉を聞いたガルナホレイオン王、って長いな。いいやここはガルナ王と心の中で略しておこう。んで、その隣にいたおっさんが俺に対してそんなことを言ってきた。
「無礼は貴殿ではないか、この場は王同士の会談、そこに割り込むとはどういうことだ」
王同士の会話に割って入るのは無礼千万というわけだ。
「王だとっ、貴様ごときが我が陛下と同等とでもいうのか!」
俺の言葉にますますヒートアップするおっさん、ああうん、これは何を言っても無駄だな。こういう手合いは虫が一番。というわけで、おっさんを無視して再びガルナ王に尋ねる。
「さて、余計な邪魔が入ったわけだが、説明してもらえるのか、っとその前に」
説明を求めたところで、”収納”よりこういう時用のために用意した椅子を、2脚取り出して設置し1つに座り足を組む。こういうポーズって日本人的な感覚ではなんか偉そうで、目上の、というか年上の人間前にしてためらわれるが、この世界では欧米と同じく足を組むことで敵意がないという意思表示でもある。
「立ち話をするわけにもいくまい、ここよりは座って話そうではないか」
俺が椅子に座るように勧めると、ガルナ王もまた椅子に座り、背後に護衛騎士がずらっと並んだ。
「よかろう、魔族とは古来よりわれら人類に仇なす存在であり、その王である魔王はその最たる存在。それを討伐するは人類の本懐であり使命である」
何やら仰々しく言われたが、これは仕方ない。魔族は人類の敵である。これは本当に古来、約1万年前から人族の間で言い伝えられてきたことだ。これを否定することはそう簡単なことではないだろう。尤も、俺はそれでもそれを否定しなければならない立場なわけだが。
「そうか、だがそれはあくまで古の話、確かに貴殿の祖先が英雄として魔族と戦っていた時代、魔族はその力におぼれ暴走した。その結果が異世界より呼ばれた勇者により討伐であったのは事実。しかし、現在の魔族はすでにその牙を抜かれ、いや、そもそも牙を持つ魔族は貴殿の祖先等に倒され、現在残るは元から牙を持たぬもの達、いうなれば一般庶民の末裔」
「それを信じよと申すか?」
「こればかりは信じてもらうしかないだろう、尤も魔族である以上その魔法技量は当然人族よりも上、貴殿が集めたであろう人族の魔法使いでは足元にも及ぶまいが」
「!」
俺の言葉にプライドでも傷つけられたのか幾人かの魔法使いから、殺気が漏れた。
「ふむ、魔族の魔法は強力であり、人類を軽く凌駕する。我が一族に伝わる言葉だが、事実であったというのか」
「その通りだ。人族の身で魔族に対し魔法で倒そうとするのであれば、最低でも賢者が必要であろうな」
「陛下、少しよろしいでしょうか?」
「ふむ、よかろう」
ここにきて先ほどまで一切しゃべっていなかったおっさんの1人が恐る恐る声をかけてきた。
「魔王、陛下にお尋ねします」
俺のことを呼ぶ際に陛下をつけるのをためらっている、このおっさんにとっても魔王に敬称をつけるのを心根で嫌がっている証拠でもある。でもまそれは今はどうでもいい、こういったことは時間的な解決が必要だろう。
「なんだ?」
「は、はい、先ほどからお聞きしておりましたところ、我らのことを人族と称しているはどうしたことでしょうか」
「ふむ、確かに余も気になっておった。それは魔族どもの言か」
ガルナ王は魔族がそういっていると思っているようだが、まぁ確かに魔族も自然にそう言っている。
「いや、これは真実によるものだ。真実としてこの姿のものを人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、そして魔族、これらを総称して人類と呼ぶ」
「なっ、それはどういうことだ。われらが亜人や魔族と同じだというのか!」
おっさんだけじゃなくその場にいた者たちが憤慨した。これまで信じていものを否定されればこうなるという者か。
「そうだ。そもそもキ我が国の民でもある獣人族、エルフ族、ドワーフ族に関してはキリエルタ自身も亜人などという言葉は使っていない。まぁ、獣人族は敵と伝えているようだが、これもキリエルタがそういった環境で育ったことが原因となる」
「それは一体どういうことだ。虚言、にしては、しかし」
「神の言葉、キリエルタが残した碑文を知っているか?」
「もちろんだ」
「俺はそれを読み解くことが出来る。というか、これも含めて先ごろ教皇と話をしたところであり、そこに居る男もその場にいたと記憶しているが、違うか?」
実はガルナ王のそばには教会の枢機卿がおり、教皇に文句を言いに行ったあの場所に居た上にそいつはテレスフィリアに視察にも来ている。
「なに、余は聞いてはおらんぞ」
「そのような証拠もない戯言、陛下のお耳い入れるわけにはまいりません」
戯言か、確かに俺の話に対しての証拠はない。あるにはあるがこれは俺がキリエルタが残した碑文が読めるということだけだ。言ってみれば俺がこれを作り話として話していると言われても仕方ない。
「魔王は神の御言葉を読み解くと申しておりますが、これが正しいという証拠はありません。つまり、戯言なのです」
俺が思ったことを枢機卿はガルナ王に進言している。というかこの枢機卿は俺に対しての敬意が一切感じない。
「証拠か、確かに俺が読めるということだけでは確固たる証拠ではないだろう。尤も今現在はほかに2人読めるわけだが、そのうちの1人は身内であり、もう1人は出身国の枢機卿、口裏を合わせていると言われればそれまでだな。しかし、こうして貴殿らと全く問題なく話をしていることがその証拠にならないか?」
俺の言葉に何のことだと首をかしげる面々。
「言葉だ。出身はコルマベイントと東側の国であり、現在は普段、魔族たちの言葉を使用している。だが、それらは当然貴殿らの言葉ではない」
これは当然だところ変われば言葉が変わる。日本国内だって方言という場所によって通じない言葉を使う。それが国となるとより違う言葉となる。それをこうして普通に通じ合えるのは普通に考えるとおかしいだろう。
「ふむ、確かにそなたは問題なく我が国の言葉を使っておるな」
「あまりにも自然なために全く気が付きませんでした。なぜ、魔王、陛下は我らの言葉を」
「それこそ、先ほど大賢者にも伝えたスキル”メティスル”の権能のおかげというところだ。その中に言語を理解するものがあり一言二言でも聞けば瞬時のその言葉を習得できる」
「まさか、それにより、神の御言葉を会得したというのか?」
「その通りだ」
実際には最初から知っていた言葉ではあるが、説明が面倒なのでそういうことにしておく。
俺が放った新魔法ディザスター、これは名前の通り災害そのもの。まずは大賢者を始め周囲にいた敵兵100万以上が立つ台地が揺れる。いわゆる地震、今回は震度4程度にとどめておいた。といってもこの世界は神様が管理しているからか、地震がほとんどない。というか俺もこの世界にきて以来、地震というものを感じたことはない。そんな世界の住人にとって震度4というのは、日本人にとってのおよそ5強から6弱ぐらい、震度5まで上がると7あたりという感覚となる。まぁ、俺も前世ではあまり自信のない地域に住んでいたので、最大で震度5までしか知らないんだけどな。だからだろう、自身が発生した瞬間からずっと敵兵たちはパニックになっているし、大賢者は、おっと、大賢者はうまく浮遊魔法を使って揺れを回避している。
「大地魔法の”クエイク”、いや、それの上位魔法”ハイクエイク”か」
回避しているからか余裕そうだが、残念ながら俺が放ったものはそんなものではない。というかこれは始まりに過ぎない。ほら、次が始まる。
「な、なにっ!」
次は炎、先ほどの地震でできた大地の裂け目から炎の柱が立ち上がり大賢者を飲み込んだ。敵兵たちの間に叫び声を上がるものがいるが、案死してほしい、大賢者はちゃんと結界を張って自信を守っている。一応そのための時間を与えたから問題ない。そして、ごうごうと立ち上がる火柱、それなりに温度を上げているので結界越しにも相当に暑いことだろう。そんな大賢者が熱にやられる前に上空に巨大な雲が出現。今日は快晴なみに晴れていたから敵さんもさぞ驚いていることだろう。そして落ちてくる雨粒と、それにより消える火柱、だがその瞬間に落雷である。ドゴォォンと大きな音を立てて大賢者に直撃。普通ならこれで死んでもおかしくないが、これまた大賢者の結界に阻まれた。というかそれに合わせたんだけどね。落雷を防いだことに安どしている大賢者、しかし俺の魔法はこれで終わりではなく、今素は上空の雲から細長い雲が渦を巻きながら降りてくる。そう、言わずと知れた竜巻の発生である。しかもこれは俺が普通に魔法で作ったものなので、あちこち移動することなく大賢者の身を飲み込んでいく。そうなてくるとさすがに大賢者の結界も持たない。途中でパリンという感じに結界が崩壊した。
もちろん俺としては大賢者を死なせるつもりなど毛頭ないので、ここで俺が結界を張る。と同時に暗黒魔法の”イリュージョン”を用いて大賢者に幻痛をもたらせて気を失わせるのも忘れない。また、ある程度結界に穴をあけて大賢者が表面にいくらかの傷をつけていく。
とま、ここまでやってやっとこさ”ディザスター”完了である。といってもこれは大賢者ように威力をかなり落とし、余計なものまでオプションで付けており、実際には地震は震度6以上、火柱も巨大で竜巻もほぼ同時に初声させれば、火炎旋風にもなるというとんでもなく凶悪な魔法である。等級でこれを現すとしたら神級、名前の通り神の御業そのものといっても過言でもない魔法となる。
「なっ、大賢者様!」
気を失い少し高いところから落ちる大賢者、その姿を見た敵兵たちは悲痛の叫びをあげている。
「おのれ魔王、よくも大賢者様を!」
そう言って多くの兵が俺へ向かって剣を抜き放ち向けてくる。
「そう慌てるな。大賢者なら気を失っているだけだ。確認してみろ」
俺がそういうと偉そうで豪華な鎧を身にまとったやつが、配下の奴に指示を出して、大賢者のところへ向かった。
「大賢者様、ご、御無事です!」
確認した兵がそういって大声で報告すると、敵兵たちが安堵している。
「さすがは大賢者様、賢者ごときが放った魔法など……」
「そうではない」
偉そうな奴がそういっているところに大賢者がよろよろと立ち上がり、言葉を遮った。
「大賢者様」
「魔王、貴様一体なんだ?」
大賢者が悔しそうにしながら俺に問いかけてきた。おっと、どうやらようやく話が出来そうだぞ。となると俺の本番はここからだな。さて、どうやって和平につなげるか。
「なんだも何も名乗っただろう、スニルバルド・ゾーリン。テレスフィリア、テレスフィリア魔王国初代魔王だ」
「そうではない。貴様は賢者ではないのか、賢者がなぜあのような魔法を使える。わしの知らぬあのような魔法を」
この大賢者は大賢者というスキルから知らない魔法という者は存在しない。なにせ、大賢者には俺の”森羅万象”と同じように”魔法書”という権能があり、そこに現存するあらゆる魔法が刻まれているのだから。ちなみに賢者も同じものを持っている。
「あいにくだが、俺は賢者ではない」
「なに! まさかわしと同じとでもいうのか? しかし、それはありえん。大賢者はこの世に1人、わし以外の大賢者はおらぬはずだ」
「その通りだ。大賢者は1人、これがこの世の定めだからな」
「なら、貴様はなんだというのだ」
少し迷うが、ここで俺のスキルについて話すことは特に問題にならないと思うので話すことにした。もちろん詳細までは話さないけどな。
「俺が持つスキルは”メティスル”言ってみれば大賢者の上位に位置するものだ」
俺の言葉を受けて強い衝撃を受ける大賢者。それはそうだろうこれまで自分こそ最強と思っていたら、まさかその上位がいるんだからな。
「馬鹿な! そのようなスキル聞いた事も」
「だろうな。こいつは俺オリジナル、つまりユニークスキルってやつだ。まぁ、そういう意味では大賢者もユニークなんだが、これはそうしたものを凌駕したものと思った方がいいだろうな」
なにせ神様が特例として俺のために作ったものだからだ。
「馬鹿な、そのようなことが、いや、しかし、それならばわしが負けるのも道理、いや、しかし、ありえん」
大賢者はそういってフェードアウトしていった。
「さて、俺としてはここで何も争いたいわけじゃない。というか俺としては和平を結びたいと考えているんだがな」
「ふざけるな。和平だと、このような魔法を放ち、我らに被害を出しておきながら」
何やら騒いでいるが、俺はあきれつつ答える。
「最初に問答無用で魔法を放ってきたのはそこの大賢者だろ、こっちは話をするつもりで来たんだがなぁ。これじゃ、いや、何でもねぇ。んで、さっきも言ったが俺としては話し合いをしたい。確かそっちはかつての英雄の末裔ってのを僭称している奴がいるんだろ。そいつを出してもらえないか」
「せ、僭称、だと、貴様、我が王を愚弄するか!」
おっと、俺が話していたやつはどうやらその僭称国の人間だったらしい。さすがに自国の王が侮辱されて怒ってるな。まぁ、その気持ちはわかる。俺だって、今はこうして異世界で暮らしているが、これでもまだ日本人としての誇りは残ってる。そんな俺もさすがに陛下が侮辱されれば怒る。たとえ法律上象徴となっている存在でもな。
「そいつは悪かったな。しかし、こちらの王であり代表である俺がこの場にいるんだ。なら、そちらの代表であるその王が出てくるのが筋という者だろ、なにも俺に対しておびえているわけではあるまい」
「当り前だ!」
「なるほど、魔王を名乗るだけはあり、なかなか度胸があるようだな」
「陛下!」
そう言って人垣をかき分けてやってきた一層豪華な鎧を身に着け、って、その鎧動きずらそうだな。その鎧は実用というより飾り、見た目重視にしたもので、いたるところに金や宝石がちりばめられており、とんでもなく動きずらそうだ。しかもその出てきた王もこれまた太っているというかなりひどい感じだ。大丈夫かこいつ……
とそんな風に思うもこいつが間違いなくその王であることは間違いなさそうなので、得意のポーカーフェイスで何とか見つめるにとどめた。
「お宅がガルナホレイオン王国の王か?」
ガルナホレイオン王国というのが例の英雄の末裔が起こしたという国だ。そして、国名はその英雄の名前だそうだ。
「うむ、余が偉大なる英雄ガルナホレイオンが末裔、グロウットハイエム・ガリバルト・シャムーナ・ド・レース・ガルナホレイオンである」
って、長っ、長いよ名前、どういう構成になっているんだよそれ。
思わずそう突っ込みたくなるほどの名前だ。聞いてて偽るのかと思ったわ。まぁ、さすがに寿限無みたいなことでなくてよかったが。もしそうなていたら俺の突っ込みは1つ、寿限無か! だったんだが……
「スニルバルド・ゾーリン・テレスフィリアだ。さて、ガルナホレイオン王、貴殿に尋ねるが、この派兵と、大賢者が行っていた攻撃について説明を願いたい」
こっちは被害者でもあるので、まずは説明を要請した。
「貴様、陛下に対して無礼であろう」
俺の言葉を聞いたガルナホレイオン王、って長いな。いいやここはガルナ王と心の中で略しておこう。んで、その隣にいたおっさんが俺に対してそんなことを言ってきた。
「無礼は貴殿ではないか、この場は王同士の会談、そこに割り込むとはどういうことだ」
王同士の会話に割って入るのは無礼千万というわけだ。
「王だとっ、貴様ごときが我が陛下と同等とでもいうのか!」
俺の言葉にますますヒートアップするおっさん、ああうん、これは何を言っても無駄だな。こういう手合いは虫が一番。というわけで、おっさんを無視して再びガルナ王に尋ねる。
「さて、余計な邪魔が入ったわけだが、説明してもらえるのか、っとその前に」
説明を求めたところで、”収納”よりこういう時用のために用意した椅子を、2脚取り出して設置し1つに座り足を組む。こういうポーズって日本人的な感覚ではなんか偉そうで、目上の、というか年上の人間前にしてためらわれるが、この世界では欧米と同じく足を組むことで敵意がないという意思表示でもある。
「立ち話をするわけにもいくまい、ここよりは座って話そうではないか」
俺が椅子に座るように勧めると、ガルナ王もまた椅子に座り、背後に護衛騎士がずらっと並んだ。
「よかろう、魔族とは古来よりわれら人類に仇なす存在であり、その王である魔王はその最たる存在。それを討伐するは人類の本懐であり使命である」
何やら仰々しく言われたが、これは仕方ない。魔族は人類の敵である。これは本当に古来、約1万年前から人族の間で言い伝えられてきたことだ。これを否定することはそう簡単なことではないだろう。尤も、俺はそれでもそれを否定しなければならない立場なわけだが。
「そうか、だがそれはあくまで古の話、確かに貴殿の祖先が英雄として魔族と戦っていた時代、魔族はその力におぼれ暴走した。その結果が異世界より呼ばれた勇者により討伐であったのは事実。しかし、現在の魔族はすでにその牙を抜かれ、いや、そもそも牙を持つ魔族は貴殿の祖先等に倒され、現在残るは元から牙を持たぬもの達、いうなれば一般庶民の末裔」
「それを信じよと申すか?」
「こればかりは信じてもらうしかないだろう、尤も魔族である以上その魔法技量は当然人族よりも上、貴殿が集めたであろう人族の魔法使いでは足元にも及ぶまいが」
「!」
俺の言葉にプライドでも傷つけられたのか幾人かの魔法使いから、殺気が漏れた。
「ふむ、魔族の魔法は強力であり、人類を軽く凌駕する。我が一族に伝わる言葉だが、事実であったというのか」
「その通りだ。人族の身で魔族に対し魔法で倒そうとするのであれば、最低でも賢者が必要であろうな」
「陛下、少しよろしいでしょうか?」
「ふむ、よかろう」
ここにきて先ほどまで一切しゃべっていなかったおっさんの1人が恐る恐る声をかけてきた。
「魔王、陛下にお尋ねします」
俺のことを呼ぶ際に陛下をつけるのをためらっている、このおっさんにとっても魔王に敬称をつけるのを心根で嫌がっている証拠でもある。でもまそれは今はどうでもいい、こういったことは時間的な解決が必要だろう。
「なんだ?」
「は、はい、先ほどからお聞きしておりましたところ、我らのことを人族と称しているはどうしたことでしょうか」
「ふむ、確かに余も気になっておった。それは魔族どもの言か」
ガルナ王は魔族がそういっていると思っているようだが、まぁ確かに魔族も自然にそう言っている。
「いや、これは真実によるものだ。真実としてこの姿のものを人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、そして魔族、これらを総称して人類と呼ぶ」
「なっ、それはどういうことだ。われらが亜人や魔族と同じだというのか!」
おっさんだけじゃなくその場にいた者たちが憤慨した。これまで信じていものを否定されればこうなるという者か。
「そうだ。そもそもキ我が国の民でもある獣人族、エルフ族、ドワーフ族に関してはキリエルタ自身も亜人などという言葉は使っていない。まぁ、獣人族は敵と伝えているようだが、これもキリエルタがそういった環境で育ったことが原因となる」
「それは一体どういうことだ。虚言、にしては、しかし」
「神の言葉、キリエルタが残した碑文を知っているか?」
「もちろんだ」
「俺はそれを読み解くことが出来る。というか、これも含めて先ごろ教皇と話をしたところであり、そこに居る男もその場にいたと記憶しているが、違うか?」
実はガルナ王のそばには教会の枢機卿がおり、教皇に文句を言いに行ったあの場所に居た上にそいつはテレスフィリアに視察にも来ている。
「なに、余は聞いてはおらんぞ」
「そのような証拠もない戯言、陛下のお耳い入れるわけにはまいりません」
戯言か、確かに俺の話に対しての証拠はない。あるにはあるがこれは俺がキリエルタが残した碑文が読めるということだけだ。言ってみれば俺がこれを作り話として話していると言われても仕方ない。
「魔王は神の御言葉を読み解くと申しておりますが、これが正しいという証拠はありません。つまり、戯言なのです」
俺が思ったことを枢機卿はガルナ王に進言している。というかこの枢機卿は俺に対しての敬意が一切感じない。
「証拠か、確かに俺が読めるということだけでは確固たる証拠ではないだろう。尤も今現在はほかに2人読めるわけだが、そのうちの1人は身内であり、もう1人は出身国の枢機卿、口裏を合わせていると言われればそれまでだな。しかし、こうして貴殿らと全く問題なく話をしていることがその証拠にならないか?」
俺の言葉に何のことだと首をかしげる面々。
「言葉だ。出身はコルマベイントと東側の国であり、現在は普段、魔族たちの言葉を使用している。だが、それらは当然貴殿らの言葉ではない」
これは当然だところ変われば言葉が変わる。日本国内だって方言という場所によって通じない言葉を使う。それが国となるとより違う言葉となる。それをこうして普通に通じ合えるのは普通に考えるとおかしいだろう。
「ふむ、確かにそなたは問題なく我が国の言葉を使っておるな」
「あまりにも自然なために全く気が付きませんでした。なぜ、魔王、陛下は我らの言葉を」
「それこそ、先ほど大賢者にも伝えたスキル”メティスル”の権能のおかげというところだ。その中に言語を理解するものがあり一言二言でも聞けば瞬時のその言葉を習得できる」
「まさか、それにより、神の御言葉を会得したというのか?」
「その通りだ」
実際には最初から知っていた言葉ではあるが、説明が面倒なのでそういうことにしておく。
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王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
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そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
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現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
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田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
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幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
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※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
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※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
異世界転生!俺はここで生きていく
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俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
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小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
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