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第11章 戦争

04 派遣からの再会

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 要塞での防衛戦が終わった。

 防壁の上に立つ俺の眼下には盛大に歓声を上げる兵士たち、ぱっと見ではあるがこの戦いで敵はほとんど全滅、数名の兵士が逃げ出したようだが、あの程度では脅威にはならないだろうから、放っておいてもいいと思う。まぁ、盗賊化する可能性はなくはないが、そこはウルベキナの領域なので、俺が言うことはない。

「皆の者、大儀であった」

 隣で嬉しそうにしているウルベキナ王が眼下の兵士たちへ向かい大仰にそう言っている。

「うぉぉぉぉぉぅ!!」

 ここでさらに怒号のような歓声が響いた。

「テレスフィリア魔王陛下、此度はありがとうございました。陛下のおかげをもちまして、勝つことが出来ました

「いえ、私はただ運んだだけです。働きはこの場にいる兵士、騎士のものでしょう」

 実際俺はただ運んだだけでしかない。

 というやり取りをした後、要塞内に戻って休む兵士たちへ、再度ウルベキナ王が声をかけ続けたのち、今後の話をするための軍議を行うために会議室に集まった。


「それでは今後についてだが、ガルメリオ」
「はっ、今現在我が国はファルレート要塞とブロッファス要塞、およびフォンケルが占領されております。まずはこれを取り戻すべきと愚考します」

 ガルメリオが言ったようにこの要塞では勝ったが、いまだ2つの要塞と1つの街が敵の占領下にあり、これを取り戻す必要がある。

「契約では国境を取り戻すまでとあります。我がテレスフィリアはそこまではご協力しましょう」
「わたくしも王よりそのように伺っております」
「我が国も同様にございます」

 俺の言葉にコルマベイントとブリザリアがそれぞれ同意した。そう、これは先の会談で交わした本戦争の契約で、ウルベキナが国境を取り戻すまで軍事支援をするというものとしている。

「ありがとうございます。我が身命を賭して皆様のご期待に副えるように精進いたします」

 契約の話を聞いたガルメリオが深々と頭を下げた。


 それからガルメリオを中心にこれからどのように国境を取り戻すかという話し合いが行われたわけだが、当然こうした話のど素人である俺にはほとんどさっぱりであった。まぁ、そこはうちの軍務大臣であるダンクスに任せるとするさ。
 と、それはともかくとして、大体の話し合いは終わり、今後の方針はまず何よりこの要塞に一部兵士を残して進軍を開始することとなった。といってもそれは今すぐというわけではなく数日は休養するという話となった。追加でやってきたもの達はともかく、ここでずっと戦い続けてきたもの達はだいぶ疲弊しているから、それを配慮してのことだ。

「それじゃ、ダンクスあとは頼んだぞ」
「おう、任せな。そっちは頼むぜシュンナ」
「ええ、任せて」

 軍議が終わったところで俺とウルベキナ王はここを離れることになった。それは当然だろう、さすがに王がいつまでも線上にいるわけにはいかない。なにせ、王には多くの仕事が待っているし、何より何かあったらことだからな。特に俺もウルベキナ王もともに独身であり、当然ながら子供はいない。また、俺もだがウルベキナ王には男兄弟がもうおらず、あとは姉妹のみなのだそうだ。そのため、もしウルベキナ王に何かあった場合、王家存続の危機となってしまう。まぁ、その場合は姉妹の誰かが婿を取ることになるだろうが、ブリザリアならともかくウルベキナではまだ女王の誕生は認められないだろうから、普通に王家の危機だ。
 というわけで、俺はまずウルベキナ王と近衛兵を連れてウルベキナ王城へと”転移”する。
 ちなみに、俺の同行者はシュンナのみダンクスにはテレスフィリアの兵を率いてもらう必要があるし、だからといって軍のトップである2人をこの場に置いていくわけにはいかないのでこうなった。獣人族の奴隷たちはすでにテレスフィリアに”転移”で運んである。あとは、拉致担当のアレウに任せていいだろう。

「テレスフィリア魔王陛下、わざわざ送ってくださりありがとうございます」
「いえ、お気になさらず」

 その後、俺は一緒に戻ってきているシュンナとともにウルベキナ王から簡単な歓待を受けたのちテレスフィリアに戻ったのだった。



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「おかえりなさいませ。陛下」
「ただいま、獣人たちはどうだ?」
「はい、那奈さんに解呪をかけていただきましたのち、現在はお食事をとっております」
「そうか、それはよかった。あと、何かあるか?」
「はい、いくつかご報告があります」

 報告があるということで、シュンナと別れて執務室へと向かったのだった。



 数日が経過した。ダンクスから届く定期報告では、どうやらファルレート要塞にたどり着いて攻城戦に突入し始めたという。といっても、敵も本体がつぶされているために、ほとんど兵が残っておらず、ダンクスによるとすぐにでも落とせるだろうとのことだった。

「ウルベキナ王国、エイルードのエイリアード伯爵より工場の土地の確保が完了したとのご報告が入っております。陛下、さっそくドワーフたちを送るべきと提案します」

 議会において、農水省大臣に任命してある魔族のエンリット侯爵がそう発言した。

「ほぉ、出来たか、ずいぶんと早かったな」
「はい、伯爵殿によると陛下にエイルードに送っていただいた後、すぐさま所有の土地を整理したとのことです」

 エイルードでもそうだが、土地というのは元は領主のものではあるが、ある程度は商業ギルドが把握してある。そんな中で、領主が所有する土地もいくらかあり、今回はそこを工場に利用しようというわけだ。なにせ、そこに作ろうとしているのはフリーズドライ工場であり、もし商業ギルドを通したりすると厄介ごとになるからだ。

「そうか、ならドライム人選を頼む」
「おう、任せておきな。おっと、お任せください陛下」

 ドライムはドワーフの議員で、一応国交省担当だ。彼らドワーフというものはなぜか敬語などが苦手みたいで、議員でもこうして、俺相手に敬語を使うことがほぼない。ちなみに、これは男性のみで女性はちゃんと敬語を使う。んで、そのドライムにはすでに工場建設の話はしてあるので、すぐにでも人選が完了し現地に人を送れることだろう。

「では、続いての……」

 こうして今日も議会が続いていくのであった。


 そんな議会からさらに数日、ドライムから人選の完了といつでも行けるという報告を受け、さっそくエイルードに送ることになった。

「ドライム、これで大丈夫なのか?」

 集まった人を見て思わずドライムに尋ねてしまった。それというのも、集まった数は何と4人だからだ。

「ああ、問題ないぜ」

 ドライムは自信満々に言ってのけた。まぁ、確かにドワーフの建築技術は高い、その技術があれば工場の1つか2つは簡単に立てることが可能だろう。といっても、俺が建てようと思っている工場の数は全部で5建ほんとに大丈夫なんだろうか。ちょっと心配なんだが……、でもま、ドライムももちろん建設数も納期も伝えてあり、それでも大丈夫だというのなら大丈夫なんだろう。

「そうか、まぁ、けがの無いように励んでくれ」
「おおう」

 俺の言葉にそう答えるドワーフたち、そしてそんな彼らの隣で頭を下げる1人の女性ドワーフである。

「今回は長丁場になるからな。一応世話係として親方であるガリットの嫁を派遣することにした」
「へぇ、いいのか?」

 ドワーフの女性は基本生まれ故郷を出ない。その習慣は何もドワーフ族の規則というわけではなく感情的なもので、ドワーフ女性は外に出ることを嫌がるものだと聞いた。

「はい、大丈夫です。夫もいますし、何より私自身が外の世界を見てみたいと思ったので」
「そうなのか?」
「うちのは変わってんだ」

 ということだそうだ。

「そうか、まぁわかった。それじゃ、そろそろ行くか」
「おう、いつでもいいぜ」

 というわけで、ドワーフたちを連れてエイルードへと”転移”したのだった。



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 今回”転移”先に選んだのはもちろんエイルードからほど近い場所にある森の中、いくら何でもいきなり街中に”転移”するわけにはいかない。これまでは普通に王城へ飛んでいたのは、特別に許可をもらったに過ぎない。

「ここからは馬車で移動するぞ」

 そう言いつつ馬車に乗り込み、ドワーフたちもまた乗り込んだところで御者に指示を出し出発する。
 ちなみにこの御者は馬の扱いに長けている馬人族に任せている。

「そこの馬車とまれ! 貴様は亜人か? 見たことないが、ここは貴人用の通用口だ。それ以外は順になれべ!」

 馬車を見た門番がそういってきたが、どうやら俺の馬車に刻まれている紋章を見たことがないためにどこかの商人か何かと思ったようだ。というのも商人も大店となると店の紋章を使うことがあるからだ。しかも、御者の馬人族バルロを見て亜人という蔑称を使ってきた。ここら辺はいまだ同盟を結んだばかりのため仕方ない。

「無礼な。こちらはテレスフィリア魔王陛下の馬車である」

 バルロとしては俺の馬車が貴人のものではないと言われたことに腹を立てているようだが、これでは話が進まなそうなので俺も顔を出す。

「どうした?」
「陛下、申し訳ありません」
「いい、門番我々は伯爵殿より通行の許可を得ている。聞いていないのか?」
「なに? 名は?」

 俺の言葉を受けた門番が偉そうに名を告げろと言ってきた。これは完全な無礼、下手したらかなりまずいことだが、門番は全く気が付いていない。というか、さっきバルロが魔王陛下と呼んだわけだから、察しろと思う。

「こちらはスニルバルド・ゾーリン・テレスフィリア魔王陛下だ」
 
 俺の代わりにバルロが名乗る

「スニルバルド……ああ、確かに許可が出ているな」
「お、おい、お前!」

 話をしているのとは別の門番が何やら慌てた様子で割って入ってきた。

「なんだよ。チット」
「馬鹿野郎、あっ、申し訳ありません。この馬鹿にはよく言い聞かせておきます。どうぞ、お通り下さい魔王陛下」

 どうやら後から割って入ってきた門番は俺のことをちゃんと理解できているようで、すぐに土下座する勢いで謝罪した後、特に手続きもせずに通してくれた。

「お、おい、何を……」
「うるせぇ!」

 理解していない門番が止めようとするところを、チットはすかさず殴り飛ばす。

「し、失礼しました。どうぞ、お通り下さい」

 こうして俺たちはちょっとした悶着はあったがエイルードの中に入ることが出来た。

「ふぅ」
「がはは、ひと悶着だったなぁ。陛下」
「まったくだ」
「あの門番、大丈夫かしら」

 ガリットの妻であるアリナが先ほどの門番を心配しているが、おそらくあの門番下手したら最悪物理的に首が飛ぶかもしれない。それというのもまず、俺たちが来るということが連絡されていなかったのなら、それは間違いなく伯爵かその配下のミスとなるわけで門番は悪くない。しかし、もう一人の門番の態度から言って間違いなく俺のことが連絡されている。にもかかわらずあの態度ということは、あの門番は職務上の連絡などを聞いていなかったということになり、職務怠慢そのうえで重要人物である俺に無礼を働いたわけだからな。これをおとがめなしとはさすがの伯爵もいかないだろう。

「さぁな。何かあったとしてもそれは自業自得という奴だろうな」

 そう、自業自得なため俺にはどうすることもできない。まっ何はともあれ馬車は進み、街の中央通りから領主屋敷へと向かったのだった。

「魔王陛下、お待ちしておりました」

 屋敷に着くとそこにはエイリアード伯爵が待ち構えていた。以前ここに来たときの俺はただの旅人だったために特に出迎えはなかったが、さすがに一国の王となるとこうして領主自ら出迎えてくれる。

「出迎えご苦労伯爵殿、紹介しよう。このもの達が今回工場建設に携わるドワーフたち、そして彼らをまとめる親方のガリットと、彼女はこうした見た目ではあるがすでに成人したドワーフの女性でガリットの奥方でもある」
「まぁ、そうですか、お初にお目にかかります。エイルードの領主を務めさせていただいておりますミサリア・ナーダ・エイリアードと申します」

 伯爵はアリナに驚いた後、すぐさま取り直してガリットたちへ向けて挨拶をした。

「ではいかがいたしましょう。現場を確認いたしますか?」
「そうだなぁ。どうするガリット」
「そうだなぁ。見ておきてぇ」
「あんた!」
「イテッ!」
「あはは、かまわんって、伯爵見ての通りドワーフは敬語といったものが苦手でな、おそらくいくらか無礼を働くと思うが許してやってくれ」
「ええ、もちろんです」
「すみません、あっ、一応は私が今後はお話しすることになると思います」

 ここですかさずアリナがそういった。アリナはガリットたちの世話だけではなくこうした伯爵との話し合いも担当するらしい。

「それではご案内を、と、その前にすみません我が街にいる貴国の方々、といってもドワーフの方しかおりませんでしたが、いかがでしょうこの場にて返還させていただきたいのですが」

 案内をと思ったところで伯爵からそんな提案があった。そういえばまだウルベキナからはあの戦場以外での返還はなかったな。そして、この街はドワーフのみ、ちょうどガリットたちがいるしちょうどいいか。

「そうだな。まぁ、ドワーフに関してはちょっと特殊になるが、会っておくか」
「あっ、はいそうですね。お願いします」

 というわけで、俺たちは伯爵に案内されて街中にある鍛冶屋へと向かった。どうやら、まだ鍛冶仕事をしているみたいだ。

「店主はいるか?」
「?! こ、これはこれは領主様、このようなところにどのような御用でしょうか?」

 妙に腰の低い男が出てきてもみ手をしながらそう言った。

「この店のドワーフを連れてきてもらえるか」
「は、はい、少々お待ちを、おーい、ちょっと来てくれぇ」

 店主の男は奥に向かってそう叫んだ。

「あんだ、今これから……」
「……に、兄さん?」

 店の奥から出てきたドワーフとアリナがしばし見つめ合った後、アリナがそうつぶやいた。

「知り合いか?」
「あっ、はい、私の兄です。旅に出たまま帰らなかったので、どうしたのかと思っていたら、こんなところで会えるとは思いませんでした」
「おう、アリナ、そいつは?」
「ちょっと兄さん、失礼よ。この方は私たちの王様、魔王陛下なのよ」
「魔王だぁ。どう見ても人族じゃねぇか、何言ってんだ。というか、ガリット久しぶりだな。お前もいたのか」
「おう、久しぶりだな兄貴」
「んで、こいつの言ってることは?」
「ほんとだぜ。議会で決まったことだ。俺たちは今テレスフィリアって国の一員だ」
「まじかっ!」
「え、えっと、魔王陛下、これは?」
「ああ、えっと、どうやらこの街にいたドワーフは、ここにいるアリナの兄のようだ」
「そ、そうだったのですか、それは大変に申し訳ありません」

 俺の言葉を聞いた伯爵はすぐさまアリナとガリットに向けて頭を下げた。そりゃぁま、身内を奴隷として扱っていたわけだしな。

「ああいえ、お気になさらないでください。私たちドワーフは立場とかは特に気にしないので、兄が奴隷となっていたからといって、それは私たちにとってはどうでもいいことなんです」

 これがドワーフ族の妙なところだが、まぁ、なんにせよ兄妹の再会である。それはそれでめでたいことであろう。
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