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第11章 戦争
03 籠城からの反撃
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翌日、俺は再び防壁の上までやってきている。
「ほんと、何度見ても壮観ね」
「まったくだな」
眼下に広がる敵兵たち、シュンナの言う通り壮観な眺めだが、同時に恐怖すら感じる光景だ。
「さてと、いつまでも見てても仕方ねぇし、準備も整ったみたいだし、おっぱじめるとするか」
俺が今ここに上ってきたのは、何も昨日に続いて敵兵を見物に来たわけではなく仕事をしに来た。
その仕事をするため、立ち上がり左手を要塞内の広場に向ける。逆に右手は要塞の外敵兵後方へ向ける。
「”転移”」
一呼吸した後、俺は”転移”を発動、その瞬間要塞内広場に集まっていたウルベキナ兵追加で連れてきた4000がその場から消え、敵兵後方約1kmほどの場所に出現した。
「とりあえず一段階終了だな」
「そうみたいね。うん、大丈夫みたい敵もまだ気が付いてない」
「そりゃぁ、あんだけ離れてたらな。おっと、お次が集まったみたいだな」
続いて広場にコルマベイント兵3000が集まったのを確認した俺は、今度は向かって左側面へ”転移”を発動する。もちろんこちらも1kmほど話した場所だ。そうして最後に集まったブリザリア兵3000を右側面に送り込んだのだった。ちなみになぜこんな1kmも話した場所に送ったのかというと、これは単純にいきなり敵の近くに送り込めば、敵は混乱するだろうが見方まで混乱しかねないからだ。だから余裕をもって移動してから攻撃に移れる場所に送り込んだというわけだ。
「あとはしばし待つってとこだな」
ふぅと一息ついてその場に座り込む。
「お疲れ、あとはあたしたちに任せて、スニルは休んでて」
「そうさせてもらうわ」
シュンナはそういってこの場を去り、防壁を降りていく。シュンナの役目は俺が”転移”を発動させるときの護衛だ。なにせ、朝っぱらだというのに時々矢が飛んできていたからな。俺が顔を出したところで何回か飛んできた。尤も、それらの矢はシュンナがすべて防いでくれたけどな。
そうして1人、いや、周囲には弓兵が並んでいるが、のんびりとしていると、不意にラッパの音が響いた。
「おっと、始まったか」
「そのようです」
俺の独り言に答えたのは、比較的近場にいたウルベキナの弓兵だ。彼は横目で俺を見つつちょっと困り顔をしていた。そりゃぁま、王がいつまでもこんなところにいたら、どうしたらいいかわからないよな。とはいえ、俺もここを動く気はない。
そして、何が始まったかだが、当たり前に戦闘だ。まずは後方にいたウルベキナ兵が奇声を上げて敵兵本陣に殴り込みをかけた。奇声を上げたら気づかれるんじゃないのかと思うかもしれないが、この世界の戦争で奇襲をかけるときもこのようにして声を上げて存在を知らせてから仕掛けるのが常識だそうだ。声もかけず忍び寄り攻撃、つまり闇討ちのようなことは恥じというわけらしい。
そう思いながらも立ち上がり眺めてみると、敵兵はいい感じに混乱しているらしく、指揮がばらばらだ。
これは仕方ない、誰だってまさか自分たちの味方しかいないはずの背後から敵が攻めてくるなんて思わない。
「おっと、向こうも来たか」
今度は左右から同じく奇声を発しながら攻めるコルマベイントとブリザリアの兵、双方国旗を掲げているので敵にもどこの兵かはわかるというもの、それがまたさらに敵に混乱を与える。
「壁はどうした?!」
「わ、わかりません。気が付いたらどこにも!」
「ええい、くそがっ!」
ふとそんな声が耳に届いたが、これは敵兵のセリフで、壁というのは、俺としては腹立たしいが奴らが有する奴隷たちであり、獣人族たちだ。まぁ、一部人族の奴隷も交じってるけど。
それで、その獣人族が見当たらないと騒いでいるわけだけど、これはもちろん俺の仕業。先ほど、ひそかに”マップ”で個別範囲選択し、”転移”を発動、彼らを救出しておいた。
それはそうだろう、これから大混戦に突入するってのに、そこに壁にされるとわかっている獣人族をそのままにしておくわけがない。
その獣人族たちは今現在要塞内に設置してあるテレスフィリアの陣営にて、ウルベキナから解放された獣人族たちから説明を受けているころだろう。
「突撃!!」
「おおおおおおおおっ!」
足元からそんな大声が聞こえてきて、続いて地響きがした。どうやら、要塞内にこもっていたウルベキナ兵5000も弓兵たちを残して戦場に躍り出たようだ。これで、敵兵は完全に四方を囲まれた状態となり、まさに死屍累々と言った感じか。
「我らも続くぞ。同胞の恨みをここで晴らせ!」
「おおうっ!」
直後、これまた足元からダンクスの声が響いてテレスフィリア軍も戦場へ向かっていく。
「ついに出たか」
そうつぶやきながらも俺はその場に立ち、しっかりと戦場を見る。
「テレスフィリア王、ここに居られましたか?」
そんな俺に声をかけてきたのは、数人の近衛騎士に囲まれたウルベキナ王だった。
「ウルベキナ王こそ、このような場所に来ても大丈夫なのですか?」
俺が言えたものではないが、一国の王がこのような危険地帯にきていいとは思えない。古代の中国人だって言ってる『君子危うきに近寄らず』って。
「それは、貴公にも言えることです。そもそも、貴公は護衛もつけてはおられまいではありませんか」
確かに今の俺は1人、ダンクス以下兵士たちはみんな戦場に行き、シュンナも実はすでに戦場で暴れている。
「私の場合、魔法でどうにでもなりますから、それに、私はここにいなければならないのです」
「ほぉ、それはなぜでしょう?」
「これは、私個人の意見ですが……」
俺が持つ国主としてあり方、国主というものはすべてにおいての総責任者であること。つまり、国で起きたすべてにおいて最後に責任を持つ存在が国主である。俺は今回テレスフィリア軍を14名この戦場に送り込んでいる。これはいうなれば俺が同盟を結んだからだが、それにより彼らは本来恨みを持つであろう者たちのために武器を手に取っている。なら、俺のとるべき責任とは何か?
「彼らの戦いを見届けることと考えています」
俺はそういいながらも眼下で繰り広げられている戦いを見続けている。
「なるほど責任ですか、それなれば私もここに居りましょう、私にも国王として彼らを戦場に送り出しました。また、ここにはおられませんがコルマベイントやブリザリアにも助力を受けています。彼らの戦いもまた私には見届ける義務があるのでしょう」
俺の言葉を受けたウルベキナ王はそういって俺の隣に立つ、俺としては別に拒否する理由はないので何も言わない。まぁ、矢でも飛んで来たらまとめて結界を張ればいい。
という俺とは裏腹に近衛兵たちは必死だ。必死にウルベキナ王を相良相としているが、ウルベキナ王は頑として動かない。そういう意味では近衛兵たちには悪いことをしたようだ。だがま、これもまた他国の俺には何も言えない事態ではある。
「しかし、テレスフィリア王」
「なんでしょう?」
しばらく見ていると不意にウルベキナ王が話しかけてきた。ちなみに、近衛兵はあきらめて俺とウルベキナ王の周囲に固まり護衛に励んでいる。
「貴国の兵は素晴らしい戦いをされますね」
ウルベキナ王はテレスフィリア兵の力を称賛してくれた。
「ありがとうございます。今回戦列に加わっている獣人族は獅子人族といいまして、もとは獣人族たちの王族だそうですが、強さを重んじる彼らだけあり、その強さは獣人族一。そして、エルフたちもまたそれぞれが強力な精霊魔法の使い手です」
「ええ、確かに私も以前獣人族の戦いというものを見たことがありますが、それ以上、いえ、あの時の獣人族は奴隷でしたから、十全の力ではなかったのかもしれませんが、それでもすさまじい戦いです。エルフについては精霊魔法? ですか、おとぎ話として聞いた事はありますが、こうして実際に見ると素晴らしい力ですね」
「ええ、私も初めて見た時は驚いたものです」
魔法特化のスキルを持つ俺でも精霊魔法は使えない。精霊魔法を使うには精霊と契約する必要があるからだ。これはエルフ族にしかできないことで、いくら俺が精霊を目視できても意思疎通ができないので無理というわけだ。そして、エルフの精霊魔法といえばやはり前世でもよくファンタジーもので耳にしていたものであり、驚きつつも感動したものだ。
「それに、なんといってもガバナンス卿とフェミシリア卿でしょう」
ウルベキナ王が絶賛するガバナンスというのはダンクスの家名で、意味は古代にいたという戦士の名前だそうだ。フェミシリアというのはわかると思うがシュンナの家名、こちらはちょっとわからない。シュンナ曰く思いつきでかわいいからだそうだ。
とまぁ、それはともかくウルベキナ王が言うように2人は先ほどから指示を出しながらも一騎当千としか言いようのない働きをしている。というか、あの2人ますます強くなってないか。もはや人間の領域を超えすぎてる気がする。
……まぁ、強くなる分にはいいか。
そんなことを思いつつもウルベキナ王とともに戦場を眺めていく。
「しかし、ブリザリアも素晴らしい戦果を挙げているようですね」
ウルベキナ王がそんなことを言い出した。それというのも実はブリザリア兵の4割近くが女性だからだろう。ウルベキナもブリザリアの影響で多少は緩和されてはいるが、まだ女性差別意識というものが残っている。その最たるものが兵士で、ウルベキナもコルマベイントもともに女性兵士はいない。
「そうですね。女性でも戦う力は十分にありますから」
「ええ、今身に染みております」
ここで1つ、先ほどウルベキナとコルマベイントに女性兵士がいないと説明したが、実は両国とも全く募集をかけていないというわけではなく、来たければ来いという風に門を開けている。しかし、そうして応募してきた女性兵士は大体すぐにやめてしまうのが現状だそうだ。
これは以前ダンクスから聞いた話だが、女性が兵士になったとしてもまず訓練についていけなくなるという。そう聞くとまるで女性が本当に兵士に向いていないと思うかもしれないが、ちょっと違う、何でも上官である男性兵士がその女性兵士に課す訓練内容が、ベテラン兵士などに課すようなもので、たとえ男性でも新米であれば耐えることはできないものだという。つまり、上官は女性兵士をやめさせるためにそんな訓練を課したということらしい。でも、それはまだましな方で、ダンクスが騎士となる少し前のことだそうだが、ある女性兵士がきつい訓練を乗り越え兵士として遠征することになった。そして遠征先では目まぐるしい活躍を見せて隊に貢献したという。しかしある晩、数人の男性兵士に囲まれ暴行を受けた。その後も遠征が終わるまで毎晩かわるがわると相手をさせられ、精神も肉体も極限まで疲弊した女性兵士は、最後命を落としている。まぁ、これは本当に最悪なケースではあるが、こういったことはあちこちで起こっているそうだ。中には誰のことも知れぬ子を身ごもり辞めたという話もあるという。そんな風だからこそ、両国には女性兵士がいないというわけだ。
これ、地球で発覚したらとんでもないことになるよな。女性蔑視はさすがにまずい。まぁ、幸いシュンナがいるからテレスフィリアでこんなことは起きないだろうけどな。テレスフィリア軍は女性の怖さを知ってるからな。
「我が国でも募集はしておりますが、なかなかうまくいかないようです」
ウルベキナ王によると、ウルベキナ兵の中には多少なりとも女性兵士がいるそうだが、あまり訓練がうまくいっていないということだ。
「どのような訓練をされているのですか?」
ちょっと気になったので聞いてみた。まぁ、雑談の一種みたいなものだ。尤もこんなところですることでもない気もするが。
「訓練ですか、そうですね。私も詳しくはわかりませんが、一般的なことをしているようです」
この一般的というのは、おそらく走ったり素振り、模擬戦という基本から軍事演習といったものだろう。これは、うちでも同じようなことをしているので俺もわかる。なにせ、うちの訓練方法はダンクスが考えているからな。
「なるほど、おそらくですが、それが1つの原因かもしれません」
「そうなのですか?」
「ええ、一般的な訓練といっても、それはあくまで男性兵士へのものです。しかし、女性と男性では体の構造から基礎体力、そういった違いがあります。そのため女性は男性と同じことをしたとしても身に付きにくいんです。何せ、体に合った訓練ではないからです」
「そうなのですね」
「ええ、いい例としてご覧ください。我が国のガバナンスとフェミシリアですが、あの二人が同じ訓練をしていると思いますか?」
俺はそういって戦場で暴れるダンクスとシュンナを指さした。ダンクスは巨漢でシュンナは小柄という明らかない体格が違う。
「い、いえ、確かに思えませんね」
「その通りです。ガバナンスは筋力を使ったいわゆるパワーファイター、フェミシリアはその小柄さからの身の軽さを利用したスピードファイターです。基礎訓練は同じですが、途中からそれぞれの特性に合った訓練を行っています。とまぁ、このように我が国では軍のトップからしてこうですから、配下の者たちにもそれぞれに合った訓練をさせています」
「なるほど、だからこそ男性兵士用の訓練では女性兵士が育たなかったのですね」
「ええ、おそらくそうかと、まぁ尤も女性でも男性と同じ訓練をしても問題ないものもいたり、逆もまたしかりではありますが、こればかりは個別に見ていくしかないかと」
「ええ、確かにその通りです。わかりました今後軍のものと協議してみます」
「それがいいかと」
とそんな会話をしている視線の先で、動きがあった。
「敵将! 打ち取ったりぃ!!」
そんな声がたからかと響いた。
「終わったようです」
「ええ」
こうして、ここでの戦争は終結したのだった。
「ほんと、何度見ても壮観ね」
「まったくだな」
眼下に広がる敵兵たち、シュンナの言う通り壮観な眺めだが、同時に恐怖すら感じる光景だ。
「さてと、いつまでも見てても仕方ねぇし、準備も整ったみたいだし、おっぱじめるとするか」
俺が今ここに上ってきたのは、何も昨日に続いて敵兵を見物に来たわけではなく仕事をしに来た。
その仕事をするため、立ち上がり左手を要塞内の広場に向ける。逆に右手は要塞の外敵兵後方へ向ける。
「”転移”」
一呼吸した後、俺は”転移”を発動、その瞬間要塞内広場に集まっていたウルベキナ兵追加で連れてきた4000がその場から消え、敵兵後方約1kmほどの場所に出現した。
「とりあえず一段階終了だな」
「そうみたいね。うん、大丈夫みたい敵もまだ気が付いてない」
「そりゃぁ、あんだけ離れてたらな。おっと、お次が集まったみたいだな」
続いて広場にコルマベイント兵3000が集まったのを確認した俺は、今度は向かって左側面へ”転移”を発動する。もちろんこちらも1kmほど話した場所だ。そうして最後に集まったブリザリア兵3000を右側面に送り込んだのだった。ちなみになぜこんな1kmも話した場所に送ったのかというと、これは単純にいきなり敵の近くに送り込めば、敵は混乱するだろうが見方まで混乱しかねないからだ。だから余裕をもって移動してから攻撃に移れる場所に送り込んだというわけだ。
「あとはしばし待つってとこだな」
ふぅと一息ついてその場に座り込む。
「お疲れ、あとはあたしたちに任せて、スニルは休んでて」
「そうさせてもらうわ」
シュンナはそういってこの場を去り、防壁を降りていく。シュンナの役目は俺が”転移”を発動させるときの護衛だ。なにせ、朝っぱらだというのに時々矢が飛んできていたからな。俺が顔を出したところで何回か飛んできた。尤も、それらの矢はシュンナがすべて防いでくれたけどな。
そうして1人、いや、周囲には弓兵が並んでいるが、のんびりとしていると、不意にラッパの音が響いた。
「おっと、始まったか」
「そのようです」
俺の独り言に答えたのは、比較的近場にいたウルベキナの弓兵だ。彼は横目で俺を見つつちょっと困り顔をしていた。そりゃぁま、王がいつまでもこんなところにいたら、どうしたらいいかわからないよな。とはいえ、俺もここを動く気はない。
そして、何が始まったかだが、当たり前に戦闘だ。まずは後方にいたウルベキナ兵が奇声を上げて敵兵本陣に殴り込みをかけた。奇声を上げたら気づかれるんじゃないのかと思うかもしれないが、この世界の戦争で奇襲をかけるときもこのようにして声を上げて存在を知らせてから仕掛けるのが常識だそうだ。声もかけず忍び寄り攻撃、つまり闇討ちのようなことは恥じというわけらしい。
そう思いながらも立ち上がり眺めてみると、敵兵はいい感じに混乱しているらしく、指揮がばらばらだ。
これは仕方ない、誰だってまさか自分たちの味方しかいないはずの背後から敵が攻めてくるなんて思わない。
「おっと、向こうも来たか」
今度は左右から同じく奇声を発しながら攻めるコルマベイントとブリザリアの兵、双方国旗を掲げているので敵にもどこの兵かはわかるというもの、それがまたさらに敵に混乱を与える。
「壁はどうした?!」
「わ、わかりません。気が付いたらどこにも!」
「ええい、くそがっ!」
ふとそんな声が耳に届いたが、これは敵兵のセリフで、壁というのは、俺としては腹立たしいが奴らが有する奴隷たちであり、獣人族たちだ。まぁ、一部人族の奴隷も交じってるけど。
それで、その獣人族が見当たらないと騒いでいるわけだけど、これはもちろん俺の仕業。先ほど、ひそかに”マップ”で個別範囲選択し、”転移”を発動、彼らを救出しておいた。
それはそうだろう、これから大混戦に突入するってのに、そこに壁にされるとわかっている獣人族をそのままにしておくわけがない。
その獣人族たちは今現在要塞内に設置してあるテレスフィリアの陣営にて、ウルベキナから解放された獣人族たちから説明を受けているころだろう。
「突撃!!」
「おおおおおおおおっ!」
足元からそんな大声が聞こえてきて、続いて地響きがした。どうやら、要塞内にこもっていたウルベキナ兵5000も弓兵たちを残して戦場に躍り出たようだ。これで、敵兵は完全に四方を囲まれた状態となり、まさに死屍累々と言った感じか。
「我らも続くぞ。同胞の恨みをここで晴らせ!」
「おおうっ!」
直後、これまた足元からダンクスの声が響いてテレスフィリア軍も戦場へ向かっていく。
「ついに出たか」
そうつぶやきながらも俺はその場に立ち、しっかりと戦場を見る。
「テレスフィリア王、ここに居られましたか?」
そんな俺に声をかけてきたのは、数人の近衛騎士に囲まれたウルベキナ王だった。
「ウルベキナ王こそ、このような場所に来ても大丈夫なのですか?」
俺が言えたものではないが、一国の王がこのような危険地帯にきていいとは思えない。古代の中国人だって言ってる『君子危うきに近寄らず』って。
「それは、貴公にも言えることです。そもそも、貴公は護衛もつけてはおられまいではありませんか」
確かに今の俺は1人、ダンクス以下兵士たちはみんな戦場に行き、シュンナも実はすでに戦場で暴れている。
「私の場合、魔法でどうにでもなりますから、それに、私はここにいなければならないのです」
「ほぉ、それはなぜでしょう?」
「これは、私個人の意見ですが……」
俺が持つ国主としてあり方、国主というものはすべてにおいての総責任者であること。つまり、国で起きたすべてにおいて最後に責任を持つ存在が国主である。俺は今回テレスフィリア軍を14名この戦場に送り込んでいる。これはいうなれば俺が同盟を結んだからだが、それにより彼らは本来恨みを持つであろう者たちのために武器を手に取っている。なら、俺のとるべき責任とは何か?
「彼らの戦いを見届けることと考えています」
俺はそういいながらも眼下で繰り広げられている戦いを見続けている。
「なるほど責任ですか、それなれば私もここに居りましょう、私にも国王として彼らを戦場に送り出しました。また、ここにはおられませんがコルマベイントやブリザリアにも助力を受けています。彼らの戦いもまた私には見届ける義務があるのでしょう」
俺の言葉を受けたウルベキナ王はそういって俺の隣に立つ、俺としては別に拒否する理由はないので何も言わない。まぁ、矢でも飛んで来たらまとめて結界を張ればいい。
という俺とは裏腹に近衛兵たちは必死だ。必死にウルベキナ王を相良相としているが、ウルベキナ王は頑として動かない。そういう意味では近衛兵たちには悪いことをしたようだ。だがま、これもまた他国の俺には何も言えない事態ではある。
「しかし、テレスフィリア王」
「なんでしょう?」
しばらく見ていると不意にウルベキナ王が話しかけてきた。ちなみに、近衛兵はあきらめて俺とウルベキナ王の周囲に固まり護衛に励んでいる。
「貴国の兵は素晴らしい戦いをされますね」
ウルベキナ王はテレスフィリア兵の力を称賛してくれた。
「ありがとうございます。今回戦列に加わっている獣人族は獅子人族といいまして、もとは獣人族たちの王族だそうですが、強さを重んじる彼らだけあり、その強さは獣人族一。そして、エルフたちもまたそれぞれが強力な精霊魔法の使い手です」
「ええ、確かに私も以前獣人族の戦いというものを見たことがありますが、それ以上、いえ、あの時の獣人族は奴隷でしたから、十全の力ではなかったのかもしれませんが、それでもすさまじい戦いです。エルフについては精霊魔法? ですか、おとぎ話として聞いた事はありますが、こうして実際に見ると素晴らしい力ですね」
「ええ、私も初めて見た時は驚いたものです」
魔法特化のスキルを持つ俺でも精霊魔法は使えない。精霊魔法を使うには精霊と契約する必要があるからだ。これはエルフ族にしかできないことで、いくら俺が精霊を目視できても意思疎通ができないので無理というわけだ。そして、エルフの精霊魔法といえばやはり前世でもよくファンタジーもので耳にしていたものであり、驚きつつも感動したものだ。
「それに、なんといってもガバナンス卿とフェミシリア卿でしょう」
ウルベキナ王が絶賛するガバナンスというのはダンクスの家名で、意味は古代にいたという戦士の名前だそうだ。フェミシリアというのはわかると思うがシュンナの家名、こちらはちょっとわからない。シュンナ曰く思いつきでかわいいからだそうだ。
とまぁ、それはともかくウルベキナ王が言うように2人は先ほどから指示を出しながらも一騎当千としか言いようのない働きをしている。というか、あの2人ますます強くなってないか。もはや人間の領域を超えすぎてる気がする。
……まぁ、強くなる分にはいいか。
そんなことを思いつつもウルベキナ王とともに戦場を眺めていく。
「しかし、ブリザリアも素晴らしい戦果を挙げているようですね」
ウルベキナ王がそんなことを言い出した。それというのも実はブリザリア兵の4割近くが女性だからだろう。ウルベキナもブリザリアの影響で多少は緩和されてはいるが、まだ女性差別意識というものが残っている。その最たるものが兵士で、ウルベキナもコルマベイントもともに女性兵士はいない。
「そうですね。女性でも戦う力は十分にありますから」
「ええ、今身に染みております」
ここで1つ、先ほどウルベキナとコルマベイントに女性兵士がいないと説明したが、実は両国とも全く募集をかけていないというわけではなく、来たければ来いという風に門を開けている。しかし、そうして応募してきた女性兵士は大体すぐにやめてしまうのが現状だそうだ。
これは以前ダンクスから聞いた話だが、女性が兵士になったとしてもまず訓練についていけなくなるという。そう聞くとまるで女性が本当に兵士に向いていないと思うかもしれないが、ちょっと違う、何でも上官である男性兵士がその女性兵士に課す訓練内容が、ベテラン兵士などに課すようなもので、たとえ男性でも新米であれば耐えることはできないものだという。つまり、上官は女性兵士をやめさせるためにそんな訓練を課したということらしい。でも、それはまだましな方で、ダンクスが騎士となる少し前のことだそうだが、ある女性兵士がきつい訓練を乗り越え兵士として遠征することになった。そして遠征先では目まぐるしい活躍を見せて隊に貢献したという。しかしある晩、数人の男性兵士に囲まれ暴行を受けた。その後も遠征が終わるまで毎晩かわるがわると相手をさせられ、精神も肉体も極限まで疲弊した女性兵士は、最後命を落としている。まぁ、これは本当に最悪なケースではあるが、こういったことはあちこちで起こっているそうだ。中には誰のことも知れぬ子を身ごもり辞めたという話もあるという。そんな風だからこそ、両国には女性兵士がいないというわけだ。
これ、地球で発覚したらとんでもないことになるよな。女性蔑視はさすがにまずい。まぁ、幸いシュンナがいるからテレスフィリアでこんなことは起きないだろうけどな。テレスフィリア軍は女性の怖さを知ってるからな。
「我が国でも募集はしておりますが、なかなかうまくいかないようです」
ウルベキナ王によると、ウルベキナ兵の中には多少なりとも女性兵士がいるそうだが、あまり訓練がうまくいっていないということだ。
「どのような訓練をされているのですか?」
ちょっと気になったので聞いてみた。まぁ、雑談の一種みたいなものだ。尤もこんなところですることでもない気もするが。
「訓練ですか、そうですね。私も詳しくはわかりませんが、一般的なことをしているようです」
この一般的というのは、おそらく走ったり素振り、模擬戦という基本から軍事演習といったものだろう。これは、うちでも同じようなことをしているので俺もわかる。なにせ、うちの訓練方法はダンクスが考えているからな。
「なるほど、おそらくですが、それが1つの原因かもしれません」
「そうなのですか?」
「ええ、一般的な訓練といっても、それはあくまで男性兵士へのものです。しかし、女性と男性では体の構造から基礎体力、そういった違いがあります。そのため女性は男性と同じことをしたとしても身に付きにくいんです。何せ、体に合った訓練ではないからです」
「そうなのですね」
「ええ、いい例としてご覧ください。我が国のガバナンスとフェミシリアですが、あの二人が同じ訓練をしていると思いますか?」
俺はそういって戦場で暴れるダンクスとシュンナを指さした。ダンクスは巨漢でシュンナは小柄という明らかない体格が違う。
「い、いえ、確かに思えませんね」
「その通りです。ガバナンスは筋力を使ったいわゆるパワーファイター、フェミシリアはその小柄さからの身の軽さを利用したスピードファイターです。基礎訓練は同じですが、途中からそれぞれの特性に合った訓練を行っています。とまぁ、このように我が国では軍のトップからしてこうですから、配下の者たちにもそれぞれに合った訓練をさせています」
「なるほど、だからこそ男性兵士用の訓練では女性兵士が育たなかったのですね」
「ええ、おそらくそうかと、まぁ尤も女性でも男性と同じ訓練をしても問題ないものもいたり、逆もまたしかりではありますが、こればかりは個別に見ていくしかないかと」
「ええ、確かにその通りです。わかりました今後軍のものと協議してみます」
「それがいいかと」
とそんな会話をしている視線の先で、動きがあった。
「敵将! 打ち取ったりぃ!!」
そんな声がたからかと響いた。
「終わったようです」
「ええ」
こうして、ここでの戦争は終結したのだった。
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