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第11章 戦争

01 いざ戦場へ

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 ウルベキナ王とバネッサの婚姻が決まり、俺はさっそくそのことをバネッサに伝えた。その結果バネッサはさっそく翌日からテレスフィリアで礼儀作法を学ぶこととなった。ちなみに誰が教えているのかというと、それはもちろんテレスフィリアの専門職の人だ。名前はニナライ・カリエルという魔族で彼女の夫が議員をしており、派閥のトップでもあるために侯爵位を持ち苗字持ちとなる。まぁ、魔族ということでバネッサはかなりビビりながらではあるみたいだが、ポリーも一緒に学んでいるし、何よりこれを乗り越えてこそウルベキナ王との結婚があるので、必死に耐えているという。
 
 そうそう、余談だが、テレスフィリアの礼儀作法を学んでも人族の世界では通用しないのではという心配があると思うが、これは特に心配無用だ。それというのも、俺も以前その可能性を考えてコルマベイント王に頼みニナライとコルマベイントでの礼儀作法を教える人物を合わせてみた。その結果確かに違いはあったが、修正するほどのものではないということになったらしい。俺としてはそれにはほっとしたものだ。なにせ、地球でもところ変われば礼儀作法なんて違うからな。例えば、これは礼儀とは違うが、前世でテレビを見ていた際、日本などで普通にやる親指を立てる行為、これは『肯定』の意味で使うことが多いが、ある国では逆に『否定』の意味で使われていると聞いた事がある。それ以外でも食事手段として、ヨーロッパなどではフォークとナイフが基本だが、日本は箸、インドなどは手を使うという違いがある。この世界にもそうした文化の違いというものがあるはずで、特に魔族は人族と離れてかなりの年月が経っているから、当然全く違う発展を遂げているはずだからな。それでもま、許容範囲だったのはよかったというべきだろう。

 さて、それはいいとして、バネッサの指導はまだ始まったばかりで、かなりニナライに怒られおびえているようだが、きっと大丈夫だろうと思う。あとはポリーに任せるとして、俺は会談の翌日、今度はダンクスと2人再びウルベキナ王城を訪れていた。

「これはこれは、テレスフィリア魔王陛下、ようこそお越しくださいました」
「ウルベキナ王、昨日に続きの来訪に対しての歓迎ありがとうございます」

 俺に対してもろ手を挙げて歓迎してくれるウルベキナ王。

「いえいえ、此度は我が国のために骨を自ら負ってくださるのですから、申し訳もありません」
「いえ、お気になさらず」

 ウルベキナ王が恐縮しているが、これは昨日の会談で決定したことでもある。

 現在、4か国のうち戦争状態に入っているのはコルマベイントとウルベキナで、コルマベイントは慢性的なものでちょっとした小競り合い程度のものとなっているために、支援を必要ないとのことであったが、ウルベキナは違う。ウルベキナ北東でバラキラ王国との戦争はいまだ継続しており、総大将であった第一王子(現ウルベキナ王の兄)が戦死したことで兵士の士気がダダ下がりで、指揮を代わっている将軍もかなり疲弊している状態にある。その結果、ウルベキナは要塞2つと街1つを落とされている状態にある。このままいけば王都まで攻め込まれてしまうのではないかという懸念があり、今回の同盟で俺たちも救援を贈ろうという話になった。しかし、これは問題もあり、まずコルマベイントとブリザリアが兵を送り込んだところで移動に時間がかかりたどり着いたときには下手したら王都が陥落しているなんて落ちになりかねない。実はこれまで両国が救援を出していなかったのはこれが理由だ。そこで、俺が”転移”で軍を運ぶという話にまとまった。
 尤も、これにも問題があり、それは俺の”転移”は俺が一度でも行った場所、つまり”マップ”に表示されている場所のみとなっている点だ。そして、俺は残念ながらこの戦場となっている地域へは一度も行ったことがない。
 という理由から、苦肉の策として今回俺が先遣隊として現地へ向かい、”転移”で戻ってきてコルマベイントの兵とブリザリアの兵、そうしてウルベキナ兵の追加を送るという話になったわけだ。

「しかし、陛下本当にお2人で向かわれるのですか? せめて、我が軍から精鋭を数名お連れ下さいませんか」

 ウルベキナ宰相がそういって提案してきた。やはり、他国の王自ら戦地へ少人数で向かうということを心配している。ちなみに、これは俺の命の心配というわけではなく、例えば俺が道中で何かあった場合の心配をしているのだ。

「昨日も言ったが此度は何よりも速度を重視したい、そのためには少人数で移動が必須となる。そして何より、今回の移動手段として使うこの馬、スレイプニルというのだが、これは通常の馬よりも6倍近く速い。これでは貴国の馬では追いつけないであろう。それに、心配はいらない、この男は我が国でも最も強い騎士であり、おそらく人族の中でも指折りといってもいいだろう」

 というかダンクスより強い人族っているのかと思うほどだ。

「また、私自身も魔王でありそれなりに強いのでな。そうそう遅れはとらんよ」
「そうですか、わかりました。いらぬ差し出口でした」
「なに、御心配感謝する。さて、いつまでもこうしていても仕方ない。そろそろ出立しましょう」
「魔王陛下、どうぞお気をつけて」
「ええ、それでは、ダンクス」
「はっ」

 ダンクスの名を呼ぶと、ダンクスは恭しく返事をした。対外的にこうしないと、一応ダンクスは俺の家臣になるからな。さすがにいつも通りというわけにはいかない。


 というわけで、俺たちはスレイプニルに騎乗してウルベキナ王城を旅立ったのだった。


「スニル、街を出たら飛ばすんだろ」
「ああ、そのつもりだ」
「俺が先行するから、ついて来いよ」
「わぁってるって」

 王城を後にした俺たちはそんな会話をしながら街中を闊歩するわけだが、当然周囲からは見られている。それというのもやはりスレイプニルという馬に乗っているからだろう。以前にも説明したかもしれないが、スレイプニルは一見すると普通の馬より大きい程度であるが、何よりその足が6本あり、人族の間では昔話に出てくる伝説上の馬とされているからだ。そんなものがいきなり目の前で闊歩していたら、驚くなという方が無理がある。まぁ、俺たちはそんな視線を気にすることもなく、王都を出たのだった。

 そうして、一気に駆け出すが、本当に早い自足でいうなれば大体100km/hといったところか。そんな速度のために風の抵抗を受けて息ができない。そう思うかもしれないが、大丈夫スレイプニルは魔物であるがゆえに風魔法を扱え、それで抵抗を和らげている。そして、その効果範囲には騎乗者も含まれているというわけだ。おかげで、まるで車の中にでもいるぐらいには快適だ。


 それからひたすらに走ること4日、目的地である要塞が見えてきた。

「スニル、あそこか?」
「ああ、そうらしいな」

 ”マップ”で確認したが、間違いなく目の前の建物が目的地の要塞だ。

「とまれっ! 何奴だ! ここは、民間人が来るような場所ではない。早々に立ち去れ!」

 俺たちが要塞に近づくと門番がそういって持っている槍を構え、騎乗したままの俺たちへ向けた。

「こちらに居られるは、テレスフィリア魔王国、魔王陛下である。同盟に基づき救援に参った。これはウルベキナ王からの親書である」

 そう言ってダンクスはカバンから書簡を1つ取り出して、門番に見せた。
 一方で門番もいきなりことで困惑しながらも、書簡の封蝋を見て固まった。

「アルフォート・ド・ガルメリオ将軍に目通りを願う、開門せよ」

 ガルメリオ将軍というのは、この要塞で戦争を指揮している総指揮官となる。第一王子が戦死した後を継いでいる人物で、爵位は伯爵だそうだ。

「しょ、少々お待ちを!」

 俺たちがだれであろうと、ウルベキナ王の紋章がある書簡を持つ俺たちを放置もできないと考えた門番はすぐさま要塞の奥へと走っていった。

 それから、少し待っていると先ほどの門番が帰ってきて門を開けてくれた。ちなみに、通常俺のような王がやってきてこんなところで待たせるのは不敬となる。しかし、残念ながらまだテレスフィリアはそこまで名を知られていないために、これは仕方ない。

「何者だ! なぜ陛下の書簡を持つ?」

 要塞内へ足を踏み入れ少し進んだところで、数名の騎士が仁王立ちになり俺たちへ向けて誰かと聞いてきた。

「控えろ、テレスフィリア魔王陛下の御前である」

 ダンクスが騎士へ向かってそういうと、騎士たちは何を言っているんだと訝しむ。

「テレスフィリアだとっ、それも魔王? 貴様、我らを愚弄するか、そもそも、伯爵閣下の御前である騎馬から降りよ!」

 俺の身分を明かしたというのにそれを信じていない。まぁ、知らなければ仕方ないだろう。

「貴様がガルメリオ将軍か」
「いかにも」

 ダンクスが騎士の奥にいる人物に向かって問うとその人物はそう答えた。

「ならば、この書簡を見るがいい」

 そう言ってダンクスは馬上から近くにいる騎士へ書簡を渡すと、騎士は封蝋を確認したのちすぐにガルメリオへ渡した。

 それを受け取ったガルメリオはというと、すぐにその書簡の真偽を確認したのち、封蝋を開けて中を確認して驚愕している。

「な、なんとっ、こ、これは! はっ、し、失礼しました。テレスフィリア魔王陛下、ご無礼をお許しください!」

 態度が一転し、その場で俺に向かって跪いた。それに驚くほかの騎士たちであったが、すぐさまガルメリオに倣い跪く。

「かまわん、さて、書簡にも書いてあったと思うが、我が魔法で援軍を連れてくる。受け入れの準備を整えておけ」
「はっ、かしこまりました」

 そう返事をすると、すぐさまガルメリオは動き出した。それをも届けた俺とダンクスもスレイプニルから降り今後の話をする。

「ふぅ、ほんとこういうのってなれないよな」
「まぁ、お前はそうだろうな。俺としては懐かしい感じだ。といっても、騎士のころは下っ端だったから、こんなことはしたことないけど」
「だろうな。それで、さっそく行ってくるか」
「おう、ここのことは任せろ」

 その後、少しだけ話し合ったのち俺はウルベキナ王都へと”転移”したのだった。




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「お待ちしておりました」

 王城へ着くと、すぐさま近くにいた執事が恭しくそう言った。ウルベキナ王にも大体このあたりに戻ってくると告げていたから、おそらくそれに合わせて執事を待機させていたのだろう。

「準備は整っているか?」
「はい、すでに待機させております」
「そうか、なら案内してくれ」
「かしこまりました」


 というわけで、執事についていくことしばし、俺が案内されたのは軍の演習場、ここに今回追加の兵士たちを集めてくれているようだ。

「……我がウルベキナ王国の誇りにかけて……」

 演習場に着くとウルベキナ王が演説の真っ最中で、これを邪魔するわけにもいかないので少し離れた場所から観察している。
 といっても俺の到着にタイミングを合わせたようにすぐに終わったみたいだ。

「これはこれは、魔王陛下予定通りとはいえ、まさかここまでの早さとは我が国のために痛み入ります」
「いえ、かまいません。準備の方はよろしいですか?」
「ええ、ただいま決起を行いましたからいつでも、しかし、お疲れではありませんか、よろしければ城でご休憩をされては?」

 戦場である要塞についてからすぐにここに転移してきていることはウルベキナ王も知っているために、休んだらどうかと言ってきた。

「いえ、実際に戦地へ赴きこの目で確認してきたのですが、やはり状況は思わしくはありません。早急に援軍を送るべきと考えます」

 ざっとしか見ていないが、要塞にいる兵たちもかなり疲弊していたし、敵側の攻撃は止まっていない。なるべき早く援軍を送った方がいいだろうと思う。というかそうしないと下手したら要塞が落ちる。

「それほどですか、わかりました。では、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
「了解しました。では、さっそく」

 それから、ウルベキナ王が集まった兵たちに、これから俺の魔法で戦地へ送ることを説明したところで”転移”を発動させる。



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「おおっ、ここは、まさにグラッツニール要塞、これが魔王陛下の”転移”ですか」

 驚くウルベキナ王とその兵士たちである。

「陛下! お待ち申し上げておりました」

 ガルメリオ将軍がすぐに飛んできてウルベキナ王に跪いた。

「アルフォート、これまでよくぞ耐えてくれた礼を言う」
「なんと、もったいなきお言葉」

 というやり取りをしばししたのち、ウルベキナ王は詳しい戦況を聞くためにガルメリオとともに要塞内へと入っていき、兵士たちはそれぞれ動き出す。

「よう、戻ったか」
「おう、といっても今度はコルマベイントだがな」
「お疲れなこったな」
「まぁ、しゃぁねぇって、それで、こっちはどうだ?」
「戦況は最悪だな。こっちの士気も低いが、向こうたけぇ、よくここまで持ったってとこだ」
「ガルメリオ将軍は相当な指揮官ってわけか」
「そのようだな。俺には正直まねできねぇよ」

 ダンクスがそんなことを言い出したが、これは仕方ない、なにせガルメリオは齢50を超えた大ベテラン。それに対してダンクスは元騎士とは言え、その立場は下っ端だった。比べる方が無理があるってものだが。

「そうは言うが、一応ダンクスだってテレスフィリアの軍務大臣、いざって時は指揮をしてもらわないといけないんだぞ。まぁ、この際だガルメリオ将軍のそばにいさせてもらって勉強でもしたらどうだ」
「そのつもりだ。一応同盟国として学ばせてもらうさ」
「だな。さてと、それじゃ、そろそろ行ってくる」
「おう」

 それから俺は、すぐにコルマベイントへ飛んだのだった。



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「テレスフィリア王、よく来てくれた」
「コルマベイント王、出迎えありがとうございます。早速ですが、援軍の方は?」
「うむ、すでに準備は整っておるが、よいのか、確か予定では本日戦地へ着き、すぐにウルベキナの兵を”転移”させたのであろう」

 コルマベイント王の心配は俺の魔力量だろう。かなりの大規模”転移”を行使しているからな。

「ええ、問題ありません。私の魔力量は膨大ですからこの後貴国の兵とブリザリアの兵を現地へ送る程度はあります」
「そうであるか、うむ、なるほど確かに貴公はスニルバルドと聖人ダンクス様の末裔であるようだ」

 コルマベイント王がなぜそんなことを言ったのかというと、実は初代スニルバルドも結構な魔力量を持つ魔法剣士であり、聖人ダンクスもその魔力量から多くの人々を救ったとされる人物でもある。そのことから俺がどれだけ魔力量持っていてもその末裔ということで納得してもらえるみたいだ。ちなみに、俺の両親も俺ほどではないけれど、人より少し魔力量が多かったみたいだ。尤も本人たちはなぜ多いのかとかそういったことはわかっていなかったようだが。

「さて、それではさっそくで済まぬがよいか」
「もちろんです」

 それから、俺はコルマベイント王に連れられて兵士たちが集まっている場所へ向かい、決起を行ったのち兵を連れて”転移”したのだった。


 そんなことをブリザリアでも行ったのち、最後にテレスフィリアに戻り、シュンナを始め四天王を務めてもらった獅子人族のグロッゴと同じく獅子人族5名とこれまた同様のエルフ族のリンデル以下5名の全13名を連れて要塞へ戻ったのだった。
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