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第10章 表舞台へ
09 ブリザリアとの国交
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ブリザリアとテレスフィリアで国交を結ぼうとやってきたわけだが、両国間には問題がある。その問題をどうやって解決するか、これからブリザリア女王と話し合いをすることになる。
「たとえ、逆恨みだとしても恨みは恨み、私としては今後、貴国と国交を結びたいと考えておりますが、この問題がある以上難しいとしか言えません。そこで、ぜひ陛下のお知恵をお借りしたいのです」
「そうですね。わたくしもぜひ貴国と国交を結びたいと思いますが、民同士が憎みあっている現状はよいとは思えません」
よかったどうやら、女王も俺と同じ考えで、テレスフィリアと国交を望んでいるようだ。まぁ、それはそうだろう、テレスフィリアと国交を結ぶということは今現在使っている化粧品各種、または確かな技術によってできたドレスなどが手に入るようにあるということであり、逆に国交を結ばなければそれが手に入らないということ。男の俺には全く理解できないが、女性陣からすればあの化粧品やドレスなどを一度手に入れてしまうと、手放せなくなるらしい。これは、シュンナたちから直接聞いた事であり、実はコルマベイント王妃殿下もまた同様のことを言っていた。そして、ポリーによると王妃殿下はここぞとばかりに女王に宣伝してくれたみたいだ。
「我が国の民については、まだ私が初代ということで忠誠心が高く、また先も申しました通り獣人族から英雄といわれています。数もそこまで多くないために何とか説得し貴国との国交を受け入れられておりますが」
「つまり、我が国の民の問題というわけですね」
「はい、そうなるかと、尤も受け入れられたというだけで、恨みが消えたわけではありませんが」
「そうでしょうね。家族を貶められた憎しみ、そう簡単に消えるものではないでしょう。わたくしも子が居りますからその気持ちはよくわかります」
女王はそういって、家族を奴隷にされたもの達への同情を向けた。ポリーから聞いたが、ここら辺の話は王妃殿下がしてくれたらしい。というのも実は以前コルマベイントの奴隷解放の際、王妃殿下に似た話をしたことがあったからだ。
「ご理解いただきありがとうございます。尤も、私自身はまだご覧の通り未熟であり、まだ子といわれてもおかしくない身の上ですから、陛下のように彼らの気持ちを理解しきれないという部分もありますが、私自身かつて奴隷という立場にいたことがありますので、奴隷がいかな地獄かそれはわかっているのです」
「えっ!」
俺が元奴隷であるということを聞いた女王は驚いている。それはそうだろうまさか元奴隷が魔王となり、今現在女王である自分の目の前にいるんだからな。
「義姉上、ハンターたちについては、真実を話すこと幾分か抑えられるのではありませんか、実際わが国でも我や枢機卿自ら民へ真実を話したことで、奴隷解放を進んで行うもの達も増えてきております」
「なるほど、確かに今まで自らがいかなことをしでかしていたのか知ることで、憎しみも和らぐことでしょう」
確かにコルマベイント王の提案通り、真実を話すことで和らぐことはあるだろう、しかし俺には懸念がある。
「そうですね。確かにそれがいいかと、しかし、問題としてですが、真実を知ったことでハンターたちが罪の意識に苛まれて、何らかの行動に移す可能性もあります」
「うむ、確かにこれまでは罪人を断罪しているという考えで行ってきたことが、実は罪深き事であった。まさに彼らには衝撃的なことであろう」
「ええ、それに耐えかね暴走る恐れもありますね」
俺の懸念をすぐさま理解してくれる。こういう察しの良さはさすがとしか言いようがないな。
「尤も、これらは最悪のケースではあろうな」
「そうですわね」
「私もそう考えます。ですが、可能性がある以上警戒は必要でしょう」
コルマベイント王と女王が言ったように、ハンターたちの暴走というのは最悪のケースであり、みんながみんなそうなるというわけではない。おそらくはほとんどの者たちが信じないもしくは信じたとしてもショックで落ち込む程度で済むだろう。
「ハンターたちへ告げる際は対策を考える必要がありそうですね」
「それがいいでしょうな。わが国でも奴隷を持つものや、その奴隷に対してむごい仕打ちをしていた者たちの中にはショックから精神を病んでしまったものがいるようです」
これについては俺も事前にコルマベイント王から聞いて知っている。しかし、俺としてはどうすることもできないので何も口を挟まない。というか、テレスフィリアの民の家族であり、保護の後は民となった彼らに対してそんな非道なことをしたもの達に恨み言はあってもそいつらをケアする義理はない。
「そうですか、そうなるとわが国でも奴隷を持つもの達に対してもも対策をする必要があるでしょう」
「それがいいでしょう」
これでとりあえずハンターや奴隷持ち達への対策をすることが決まったわけだが、あとは女王が宰相などと考えることだろう。
「ハンターたちへはそれでいいかと思いますが、問題は実際に交易を開始した際と考えています」
「交易をですか?」
「はい、まだ先の話ではあると思いますが、例えば貴国の品を我が国へ輸送する際はどうしても獣人族の土地へと足を踏み入れることになります」
「そうなのですか?」
「はい、そして彼らは獣の特徴を持っているだけあってとても鼻が良く、一度嗅いだにおいは忘れません。そんな中をもしハンター経験者が向かえば」
「うむ、彼らの怒りを買う、というわけか」
「はい、また彼らが言うには身内同士というのは似たにおいとなるようで、彼らは家族などもにおいで判断します。よって、ハンター経験者の家族といった係累でも同じようなことが起きることは確実です」
「そうなると帰国へ派遣するものはしっかりと調べる必要がありそうですね」
「はい、また逆に我が国の民が帰国へ向かう際ですが、これはどうしても獣人族やエルフ族を派遣することになります」
「おや、なぜです?」
最後に行った俺のことはに首をかしげる女王。
「消去法というものでして、我が国の民は先にも言ったように獣人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族となるわけですが、ドワーフというのはご存じかもしれませんが技術にしか興味がありません。そのためそうした業務には不向き、また、魔族はさすがにまだ人族にとっては刺激が強す来ますから」
魔族に対する恐怖はそう簡単に拭えるものではない。下手をすると魔族を見ただけで暴走する奴が出てきそうだ。
「なるほど、確かにそうなると獣人族かエルフしかいないというわけですね」
「はい、ですので彼らに恨みを持つ者たちが何らかの攻撃を仕掛けないとは限らない。また、これも最悪のケースですが、我々との国交をよく思わないもの、つまり、奴隷として扱っていたものが他国の使者として己より上位のものとして扱われるものを嫌うものも出てくるかと思われます。まぁ、これについてはコルマベイントでも同じことであり、こういったことは徐々に変えていくしかないのですが」
「うむ、現在我が国においても悩みの種となっておる。まぁ、幸いそういったことをたくらむ者たちはすでにテレスフィリアなしでは生きられんようだが」
ここでコルマベイント王が妙なことを言い出した。
「それはどういうことです?」
「ふふふっ、それこそ貴国の品であろう、あ奴らの奥方がすでに貴国の品の虜なのだ。我が妻のようにな」
なるほど、女性は美のためなら何でもするような存在、そんな彼女たちが俺と敵対することでドレスや化粧品各種を手に入れられなくなることはしないし、夫にさせないというわけか。もしこれがシムサイトのような男尊女卑の激しい国だったらこうはいかなかっただろう。
「それは、思いもつかず対策が済んでいたようですね。となると、ブリザリアでも同様に反対勢力を抑えることができそうですね」
「我が国ではそれは顕著でしょうね。わが国では女性が貴族になることも多くありますから」
それから俺たちは具体的な対策について話し合いを行い、まさに有意義なものとなったのは言うまでもないだろう。そして、当然のごとくテレスフィリアとブリザリアの国交が、コルマベイント王とブリザリアの枢機卿が立ち合いの元樹立したのだった。
こうして話も一段落してほっとしていると、不意に女王から質問が飛んできた。
「魔王陛下、陛下のご発言で1つ気になったことがあるのですが、陛下は元奴隷だったというのは一体どのようなことでしょう?」
話の流れの中で俺が元奴隷であることを言ったことを女王は気になっていたようで、ここぞとばかりに聞いてきたが、どうやらここら辺はまだ聞いていないようだ。まぁ、王の過去なんてそうそう人に話すものではないからな。王妃殿下も自重してくれたということだ。もちろんポリーにとっても忌々しいことであるから、自分からそういった話をすることはない。
「ああそのことですか? 確かに私は元奴隷です。といっても幼い私を引き取った者たちによって、非合法にですが」
「そうなのですね。確か陛下はコルマベイントご出身、となればかの国の奴隷法は我が国と同じで、資格のないものが人を奴隷商に売ることは違法行為のはずです」
「うむ、その通りです義姉上、お恥ずかしい話ではございますが、我が国ではそのようなことを受ける奴隷商がいるようです。もちろん魔王陛下より話を聞いた際に奴隷商たちを徹底的に調べさせ、行為に及んでいる者たちを捕らえております」
これについては俺も初耳、まさかコルマベイント王がそんなことをしてくれていたとは、ありがたい話だ。
「そうでしたから、そうなるとわが国でも調べたほうがよさそうですわね」
「はっ、お任せください」
こうして、ブリザリアも俺のように小遣い稼ぎに売られるようなことが居なくなることだろう。それよりちょうどいいしあの話をしておこう、まぁ、話がもろに脱線してしまう気もするがいいだろう。
「女王陛下、奴隷についての話が出たついでにご報告しておきます。これはコルマベイント王にもまだお話ししていなかったことですので、この際ですからお話をしておきたいと思います」
「あら、なんでしょう」
「うむ、それは何かな」
「シムサイトから販売されている奴隷の首輪についてですが、犯罪者などに使用しようとしても、場合によっては使用できないといったことがありませんでしか?」
「えっ、ええ、確かにそのように報告を受けたことがありますが」
「うむ、我も受けたな。テレスフィリア王は何か存じているのか」
「ええ、実は以前私が旅をしていた際のことですが……」
ここで俺は奴隷狩りについての説明をしていく、するとさすがにコルマベイント王も女王も聞き捨てならない話であるために食いついてきた。
そして、それらがシムサイト商業国がかかわっていたという事実を聞いた2人は憤慨している。
「なんと、まさかシムサイトが!」
「それも国家元首たるものが中心となっているとは、これはやはりかの国とのかかわりを考え直す必要がありそうだ」
「ちなみにこれはコルマベイント王国内での被害者リストです。幸いといいますかブリザリアでは被害者はおられないようです」
「なんと! 我が国にも被害者が!」
奴隷狩りの被害者はウルベキナ王国人と思っていたコルマベイント王であったが、まさか自国もまた被害者がいると思わず驚いている。
「リストを見る限り貴国の被害者は、主にウルベキナに近しい土地の住人のようです」
おそらくだが奴隷狩りもそれ以上遠くまで行くのは面倒だったのだろう。
「うぬぬっ、これは帰国次第即刻動く必要がありそうだ」
何やらつぶやくコルマベイント王、とりあえず聞かなかったことにして話を続ける。
「実はその際にですが、私自身が不当に奴隷されたこともあり、少し首輪の製造場所へ赴き魔方陣を改造してあるのです。それより、本当に犯罪を犯したもの、自らの意思で多額の借金を背負ったもの、そうしたもののみ奴隷の首輪が発動するようにしたのです」
「えっと、では魔王陛下、犯罪者に奴隷の首輪が使用できなかったケースは?」
「そうです。そのものは犯罪など犯していないということです」
「なんと、宰相」
「はっ、今一度調べなおします」
どうやら、ここブリザリアでは冤罪で捕まってしまったものがいるみたいだ。まぁ、俺にはどうでもいい話だが。
「申し訳ありませんわ両陛下」
「お気になさらず」
「冤罪となれば問題となるからな。しかし、我が国でも即刻手配せねばなるまい」
この世界の犯罪捜査は地球ほど高度なものではない。そのため冤罪といったものは多くある。そんなものにd例の首輪を嵌め、奴隷としたとあっては目も当てられない。実際ダンクスなんかはそうして奴隷にされたわけだしな。
「テレスフィリア王よ。後ほど我が国へ送っていただけるか?」
「かまいませんよ」
「送るとは?」
俺とコルマベイント王の会話に首をかしげながら聞いてくる女王。
「私は魔王ですから、魔法が得意なのです。先ほどの魔方陣改造もその力により理解できるからですが、それ以外にも”転移”魔法が使えます。実は今回もコルマベイント王とともに帰国へ赴くためにこの”転移”で合流したのです」
「なんと! それはまことですか? いえ、なるほどそれで様々な説明が付きます。実は不思議だったのです。わが国の南に位置するという貴国から、お越しになるというのになぜ北であるコルマベイントから来たのか、また、いくら故郷といってもどうやって我が国を素通りしていたのか、気になっていたのです」
「それは、ご説明が遅くなり申し訳ありません」
その後も俺はコルマベイント王や、ブリザリア女王との会談を進めていったのだった。
「たとえ、逆恨みだとしても恨みは恨み、私としては今後、貴国と国交を結びたいと考えておりますが、この問題がある以上難しいとしか言えません。そこで、ぜひ陛下のお知恵をお借りしたいのです」
「そうですね。わたくしもぜひ貴国と国交を結びたいと思いますが、民同士が憎みあっている現状はよいとは思えません」
よかったどうやら、女王も俺と同じ考えで、テレスフィリアと国交を望んでいるようだ。まぁ、それはそうだろう、テレスフィリアと国交を結ぶということは今現在使っている化粧品各種、または確かな技術によってできたドレスなどが手に入るようにあるということであり、逆に国交を結ばなければそれが手に入らないということ。男の俺には全く理解できないが、女性陣からすればあの化粧品やドレスなどを一度手に入れてしまうと、手放せなくなるらしい。これは、シュンナたちから直接聞いた事であり、実はコルマベイント王妃殿下もまた同様のことを言っていた。そして、ポリーによると王妃殿下はここぞとばかりに女王に宣伝してくれたみたいだ。
「我が国の民については、まだ私が初代ということで忠誠心が高く、また先も申しました通り獣人族から英雄といわれています。数もそこまで多くないために何とか説得し貴国との国交を受け入れられておりますが」
「つまり、我が国の民の問題というわけですね」
「はい、そうなるかと、尤も受け入れられたというだけで、恨みが消えたわけではありませんが」
「そうでしょうね。家族を貶められた憎しみ、そう簡単に消えるものではないでしょう。わたくしも子が居りますからその気持ちはよくわかります」
女王はそういって、家族を奴隷にされたもの達への同情を向けた。ポリーから聞いたが、ここら辺の話は王妃殿下がしてくれたらしい。というのも実は以前コルマベイントの奴隷解放の際、王妃殿下に似た話をしたことがあったからだ。
「ご理解いただきありがとうございます。尤も、私自身はまだご覧の通り未熟であり、まだ子といわれてもおかしくない身の上ですから、陛下のように彼らの気持ちを理解しきれないという部分もありますが、私自身かつて奴隷という立場にいたことがありますので、奴隷がいかな地獄かそれはわかっているのです」
「えっ!」
俺が元奴隷であるということを聞いた女王は驚いている。それはそうだろうまさか元奴隷が魔王となり、今現在女王である自分の目の前にいるんだからな。
「義姉上、ハンターたちについては、真実を話すこと幾分か抑えられるのではありませんか、実際わが国でも我や枢機卿自ら民へ真実を話したことで、奴隷解放を進んで行うもの達も増えてきております」
「なるほど、確かに今まで自らがいかなことをしでかしていたのか知ることで、憎しみも和らぐことでしょう」
確かにコルマベイント王の提案通り、真実を話すことで和らぐことはあるだろう、しかし俺には懸念がある。
「そうですね。確かにそれがいいかと、しかし、問題としてですが、真実を知ったことでハンターたちが罪の意識に苛まれて、何らかの行動に移す可能性もあります」
「うむ、確かにこれまでは罪人を断罪しているという考えで行ってきたことが、実は罪深き事であった。まさに彼らには衝撃的なことであろう」
「ええ、それに耐えかね暴走る恐れもありますね」
俺の懸念をすぐさま理解してくれる。こういう察しの良さはさすがとしか言いようがないな。
「尤も、これらは最悪のケースではあろうな」
「そうですわね」
「私もそう考えます。ですが、可能性がある以上警戒は必要でしょう」
コルマベイント王と女王が言ったように、ハンターたちの暴走というのは最悪のケースであり、みんながみんなそうなるというわけではない。おそらくはほとんどの者たちが信じないもしくは信じたとしてもショックで落ち込む程度で済むだろう。
「ハンターたちへ告げる際は対策を考える必要がありそうですね」
「それがいいでしょうな。わが国でも奴隷を持つものや、その奴隷に対してむごい仕打ちをしていた者たちの中にはショックから精神を病んでしまったものがいるようです」
これについては俺も事前にコルマベイント王から聞いて知っている。しかし、俺としてはどうすることもできないので何も口を挟まない。というか、テレスフィリアの民の家族であり、保護の後は民となった彼らに対してそんな非道なことをしたもの達に恨み言はあってもそいつらをケアする義理はない。
「そうですか、そうなるとわが国でも奴隷を持つもの達に対してもも対策をする必要があるでしょう」
「それがいいでしょう」
これでとりあえずハンターや奴隷持ち達への対策をすることが決まったわけだが、あとは女王が宰相などと考えることだろう。
「ハンターたちへはそれでいいかと思いますが、問題は実際に交易を開始した際と考えています」
「交易をですか?」
「はい、まだ先の話ではあると思いますが、例えば貴国の品を我が国へ輸送する際はどうしても獣人族の土地へと足を踏み入れることになります」
「そうなのですか?」
「はい、そして彼らは獣の特徴を持っているだけあってとても鼻が良く、一度嗅いだにおいは忘れません。そんな中をもしハンター経験者が向かえば」
「うむ、彼らの怒りを買う、というわけか」
「はい、また彼らが言うには身内同士というのは似たにおいとなるようで、彼らは家族などもにおいで判断します。よって、ハンター経験者の家族といった係累でも同じようなことが起きることは確実です」
「そうなると帰国へ派遣するものはしっかりと調べる必要がありそうですね」
「はい、また逆に我が国の民が帰国へ向かう際ですが、これはどうしても獣人族やエルフ族を派遣することになります」
「おや、なぜです?」
最後に行った俺のことはに首をかしげる女王。
「消去法というものでして、我が国の民は先にも言ったように獣人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族となるわけですが、ドワーフというのはご存じかもしれませんが技術にしか興味がありません。そのためそうした業務には不向き、また、魔族はさすがにまだ人族にとっては刺激が強す来ますから」
魔族に対する恐怖はそう簡単に拭えるものではない。下手をすると魔族を見ただけで暴走する奴が出てきそうだ。
「なるほど、確かにそうなると獣人族かエルフしかいないというわけですね」
「はい、ですので彼らに恨みを持つ者たちが何らかの攻撃を仕掛けないとは限らない。また、これも最悪のケースですが、我々との国交をよく思わないもの、つまり、奴隷として扱っていたものが他国の使者として己より上位のものとして扱われるものを嫌うものも出てくるかと思われます。まぁ、これについてはコルマベイントでも同じことであり、こういったことは徐々に変えていくしかないのですが」
「うむ、現在我が国においても悩みの種となっておる。まぁ、幸いそういったことをたくらむ者たちはすでにテレスフィリアなしでは生きられんようだが」
ここでコルマベイント王が妙なことを言い出した。
「それはどういうことです?」
「ふふふっ、それこそ貴国の品であろう、あ奴らの奥方がすでに貴国の品の虜なのだ。我が妻のようにな」
なるほど、女性は美のためなら何でもするような存在、そんな彼女たちが俺と敵対することでドレスや化粧品各種を手に入れられなくなることはしないし、夫にさせないというわけか。もしこれがシムサイトのような男尊女卑の激しい国だったらこうはいかなかっただろう。
「それは、思いもつかず対策が済んでいたようですね。となると、ブリザリアでも同様に反対勢力を抑えることができそうですね」
「我が国ではそれは顕著でしょうね。わが国では女性が貴族になることも多くありますから」
それから俺たちは具体的な対策について話し合いを行い、まさに有意義なものとなったのは言うまでもないだろう。そして、当然のごとくテレスフィリアとブリザリアの国交が、コルマベイント王とブリザリアの枢機卿が立ち合いの元樹立したのだった。
こうして話も一段落してほっとしていると、不意に女王から質問が飛んできた。
「魔王陛下、陛下のご発言で1つ気になったことがあるのですが、陛下は元奴隷だったというのは一体どのようなことでしょう?」
話の流れの中で俺が元奴隷であることを言ったことを女王は気になっていたようで、ここぞとばかりに聞いてきたが、どうやらここら辺はまだ聞いていないようだ。まぁ、王の過去なんてそうそう人に話すものではないからな。王妃殿下も自重してくれたということだ。もちろんポリーにとっても忌々しいことであるから、自分からそういった話をすることはない。
「ああそのことですか? 確かに私は元奴隷です。といっても幼い私を引き取った者たちによって、非合法にですが」
「そうなのですね。確か陛下はコルマベイントご出身、となればかの国の奴隷法は我が国と同じで、資格のないものが人を奴隷商に売ることは違法行為のはずです」
「うむ、その通りです義姉上、お恥ずかしい話ではございますが、我が国ではそのようなことを受ける奴隷商がいるようです。もちろん魔王陛下より話を聞いた際に奴隷商たちを徹底的に調べさせ、行為に及んでいる者たちを捕らえております」
これについては俺も初耳、まさかコルマベイント王がそんなことをしてくれていたとは、ありがたい話だ。
「そうでしたから、そうなるとわが国でも調べたほうがよさそうですわね」
「はっ、お任せください」
こうして、ブリザリアも俺のように小遣い稼ぎに売られるようなことが居なくなることだろう。それよりちょうどいいしあの話をしておこう、まぁ、話がもろに脱線してしまう気もするがいいだろう。
「女王陛下、奴隷についての話が出たついでにご報告しておきます。これはコルマベイント王にもまだお話ししていなかったことですので、この際ですからお話をしておきたいと思います」
「あら、なんでしょう」
「うむ、それは何かな」
「シムサイトから販売されている奴隷の首輪についてですが、犯罪者などに使用しようとしても、場合によっては使用できないといったことがありませんでしか?」
「えっ、ええ、確かにそのように報告を受けたことがありますが」
「うむ、我も受けたな。テレスフィリア王は何か存じているのか」
「ええ、実は以前私が旅をしていた際のことですが……」
ここで俺は奴隷狩りについての説明をしていく、するとさすがにコルマベイント王も女王も聞き捨てならない話であるために食いついてきた。
そして、それらがシムサイト商業国がかかわっていたという事実を聞いた2人は憤慨している。
「なんと、まさかシムサイトが!」
「それも国家元首たるものが中心となっているとは、これはやはりかの国とのかかわりを考え直す必要がありそうだ」
「ちなみにこれはコルマベイント王国内での被害者リストです。幸いといいますかブリザリアでは被害者はおられないようです」
「なんと! 我が国にも被害者が!」
奴隷狩りの被害者はウルベキナ王国人と思っていたコルマベイント王であったが、まさか自国もまた被害者がいると思わず驚いている。
「リストを見る限り貴国の被害者は、主にウルベキナに近しい土地の住人のようです」
おそらくだが奴隷狩りもそれ以上遠くまで行くのは面倒だったのだろう。
「うぬぬっ、これは帰国次第即刻動く必要がありそうだ」
何やらつぶやくコルマベイント王、とりあえず聞かなかったことにして話を続ける。
「実はその際にですが、私自身が不当に奴隷されたこともあり、少し首輪の製造場所へ赴き魔方陣を改造してあるのです。それより、本当に犯罪を犯したもの、自らの意思で多額の借金を背負ったもの、そうしたもののみ奴隷の首輪が発動するようにしたのです」
「えっと、では魔王陛下、犯罪者に奴隷の首輪が使用できなかったケースは?」
「そうです。そのものは犯罪など犯していないということです」
「なんと、宰相」
「はっ、今一度調べなおします」
どうやら、ここブリザリアでは冤罪で捕まってしまったものがいるみたいだ。まぁ、俺にはどうでもいい話だが。
「申し訳ありませんわ両陛下」
「お気になさらず」
「冤罪となれば問題となるからな。しかし、我が国でも即刻手配せねばなるまい」
この世界の犯罪捜査は地球ほど高度なものではない。そのため冤罪といったものは多くある。そんなものにd例の首輪を嵌め、奴隷としたとあっては目も当てられない。実際ダンクスなんかはそうして奴隷にされたわけだしな。
「テレスフィリア王よ。後ほど我が国へ送っていただけるか?」
「かまいませんよ」
「送るとは?」
俺とコルマベイント王の会話に首をかしげながら聞いてくる女王。
「私は魔王ですから、魔法が得意なのです。先ほどの魔方陣改造もその力により理解できるからですが、それ以外にも”転移”魔法が使えます。実は今回もコルマベイント王とともに帰国へ赴くためにこの”転移”で合流したのです」
「なんと! それはまことですか? いえ、なるほどそれで様々な説明が付きます。実は不思議だったのです。わが国の南に位置するという貴国から、お越しになるというのになぜ北であるコルマベイントから来たのか、また、いくら故郷といってもどうやって我が国を素通りしていたのか、気になっていたのです」
「それは、ご説明が遅くなり申し訳ありません」
その後も俺はコルマベイント王や、ブリザリア女王との会談を進めていったのだった。
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