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第10章 表舞台へ

05 料理大会応援

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 思い付きでやってきたエイルード、ここで食べられるリーラパンは地球で言うところのピザ、その懐かしい味に俺たちはそろって舌鼓をうった。

「これほんと美味しいよね」
「はい、準優勝したというのも頷けます」
「だな。でも、これを超えるってバネッサのお父さんの料理ってどんだけうまいのかって、気になるな」
「あっ、確かに、でも、ちょっとすでにお腹いっぱいに」
「はい、私もです」
「俺はまだ食えそうだけど……いや、やめとこう」

 麗香と那奈はリーラパンだけですでに腹いっぱいになってしまっているが、孝輔はさすがは男だけあってまだ食えるという、しかしここで1人だけ食うのは空気を呼んで辞めたようだ。

「ふふっ、また食べに来ればいいのよ。それに、バネッサが大会に出るなら応援にも来たいし、ねぇスニル」
「んっ、ああそうだな。ダンクスやポリー達も連れてくるか」
「そうね。今回は連れてこれなかったしね」
「あっそっか、確かスニル君って”転移”って魔法が使えるんだよね」
「そうそう、おかげで一度行ったところは何度も行き放題」

 バネッサ達には俺が”転移”を使えることは知っている。というのもあのリーラパンパクリ事件の際に、使って戻ってきているし、何より結構何度もやってきては顔を出していたからな。

「行き放題って、シュンナさんそれじゃスニル君がかわいそうですよ」
「あははっ、大丈夫よ。スニルは魔力も膨大だから何度”転移”したところで何の問題ものないんだから、ねぇ」
「ああ、確かに問題はないな」

 確かに問題はないが、そう1日とかに何度も使うのは正直疲れるんだけどな。まぁ、この街に関しては俺自身が期待から着ているというのもあるんだがな。

「そうなんですね。スニル君おとなしいから」

 バネッサにとっての俺はおとなしくしている印象だろう、なにせ俺はまだバネッサ相手にまともに話すことはできないからな。

「それこそ大丈夫よ。スニルの場合人見知りが激しいから、まだバネッサ相手に話せないってだけで、あたしたち相手だと結構いろいろ言ってくるわよ」
「そうなんですか?」
「そうそう、まっスニルもそのうち慣れると思うわ。そうすればバネッサともちゃんと話せるようになるから」
「そうなんですね。それはちょっと楽しみかも」

 そう言ってほほ笑むバネッサにちょっと申し訳ない。というのも俺との会話を楽しみにされても、俺はそんな面白い話の出来る男ではないからだ。

「ふふ、それでバネッサ、次の料理大会はいつなの」
「はい、3日後です。だから今、追い込みの最中で、あっ、こんな話してる場合じゃなかった。ごめんなさい、私戻りますね」

 そう言ってバネッサは慌てて厨房に戻ったのだった。

「邪魔したのかな」
「ふふふ、大丈夫よ。最近ちょっと追い詰められた感じがあったから、いい気分転換になったと思うわ。大会って思っているよりずっと緊張するもの。考えてもいいアイデアが浮かばなくて、私も結構大変だったよ」
「へぇ、そうなんですね」

 リーラもかつて大会に出場している。というか、出たのは第1回と2回だけなんだけどな。一回目でオクトに敗れ、二回目はオクトがいなかったことで優勝を果たしている。

「リーラさんはこれで準優勝されたんですよね。やっぱり考えるの大変だったんですか?」
「ああこれ、確かに大変だったなぁ。なにせ試作もちゃんと作れなかったし」
「えっ? そうなの!」

 リーラの発言に驚く俺たち、まともに試作を作らないで、よくできたな。

「そ、なにせ窯がないからフライパンでやるしかなかったのよ」
「ああ、そっか、リーラって店もなかったものね」
「そう、屋台だったからね。家にもなかったし」
「あれ? リーラさんってお店持ってなかったんですか?」

 大会で準優勝するほどの実力者が、店を持っていなかったことに意外性を感じている麗香たちであった。

「そうそう、商業ギルドのせいでね。女はお店持てないのよねぇ」
「それってやっぱり今でも?」
「相変わらずよ。ほんと、あそこって嫌なとこよねぇ。まぁ、今はここがあるからいいけど」

 商業ギルドはシムサイト商業国が運営しているギルドのため、ギルドマスターはシムサイトからの出向者となる。その結果としてひどい女性差別組織となっている。リーラはそれで店を購入することができず店を持てなかった。

「なにそれ!」
「ひどいです!」
「それ、日本でやったかなりやばいよな」

 商業ギルドについて説明を聞いた麗香と那奈が憤慨、孝輔があきれている。

「残念ながらここは日本ではないがな。とまぁそれはいいとして、飯も食ったしそろそろ俺たちも帰るか」
「そうね。あまり長居しても邪魔になるだろうし」
「はい」

 というわけで俺たちはここで戻ることにした。




「スニルさん。さっき聞きそびれたんですけど、シムサイトってどういう国なんですか?」

 テレスフィリアに戻るなり、麗香がそんなことを聞いてきた。麗香たちにとってシムサイトということは何度か耳にしている国名だから興味が出たんだろう。

「そうだな。ちょっと軽く説明するか」

 3人にもこの世界の闇としての一面を知ってもいいかもしれない。

「まず、前にも説明したがシムサイトは商業国といわれているだけあって商売を中心にしている国で、元々は商人が集まって商業組合って組織を立ち上げたことに始まる。んで、この組合の組合長を務めるものが国家元首として政治を行っているんだ。まぁ、大統領みたいなものだな」
「ああ、なるほどそれならわかりやすいですね」
「とまぁ、ここまではいいんだが、問題なのは女性の扱いについて、あの国では女性というのはかなり地位が低くてな。人によっては女性とは子供を産む道具であり、自分たちの欲望のはけ口である。と本気で考えている奴がいるってことだ」

 少し過激なことを言ったが、まさに事実としてあることだ。

「なんですか、それ!」
「ひどっ!」
「……」


 案の定3人は憤慨、それはわかる今の日本じゃ考えられないことだからな。

「そうだな。でも、これがシムサイトでの真実なんだ。だからシムサイトの若い女性たちは必死でな。外国人の男を見るととりあえず観察して、よければ求婚してくる。孝輔なんかあの国に一歩でも入ったらとんでもなくモテるだろうな」
「えっ、そうなんですか?」
「孝輔君?」
「孝輔?」

 モテるという言葉に嬉しそうにする孝輔と、それを半眼でみる那奈と麗香である。

「それは間違いないな、なにせあのダンクスですらモテたからな」
「あははっ、確かにあれはすごかったよね」

 シュンナも思い出して笑っている。ダンクスは性格はいいんだけど見た目が悪すぎて、基本は全くモテないからな。というか普通に逃げられるし。

「そ、それはすごそうですね」
「そ、まぁとにかくそれだけ幸せになるために必死ということだな」
「わかる気がします。そんな国なら必死にもなりますよね。でも、それだったら国を出てしまえばいいのでは?」
「俺もそう思うが、あの国の女性は国を出ることができないように法律で定められているんだ。奴らにとって女性は商売の道具、それが逃げるなんて許せないってことなんだろうな。ふざけた話だが」
「ほんとひどいですね。それ、でも、どうしてそこまでひどいことになっているんです。女性だって普通に仕事できますよね」

 麗香がそう言ってきたが、その通りで女性だってもちろん商売はできるし大いに成功だってできるだろう、また逆に男でも俺みたいに商売などができないそんな才能のない奴だっている。

「そうだな。でも、それを理解しているのは俺たちが日本人だからで、日本ではそれが常識だからでしかない。シムサイトでは女性にそんな力はないというのが常識なんだ。まぁ、こればかりはかつての女性たちにも原因があるとは思うが」

 もし過去の女性たちがしっかりとした商売を起こしていれば、ここまでひどいことにはならなかったと思う。



 そんなこんなで、3日かが経過し、今日はエイルード料理大会の日である。

「そろそろ行くぞ」
「うん、ちょっと待って今行く……ごめんお待たせ」
「おう、そんじゃ”転移”」

 ポリーが何やら最後まで何かしていたが、みんな集まったところで”転移”を発動させた。

 今回の同行者はいつものシュンナとダンクス、サーナに加え、両親とポリー、麗香たち3人である。まさに身内全員といったところだ。ちなみに、この間のそれぞれの仕事についてだは問題ない。それぞれが今日のために調整をしたわけだ。というか問題があるとすれば王の俺だろう。王が数日以内というのはさすがにまずい。そこで俺だけは毎日夕方にはテレスフィリアに戻るつもりだ。

「大会は5日間よね。さすがに私たちもそれだけ開けるわけにはいかないから、何日かは戻るからスニルお願いね」
「おうわかった」

 料理大会は出場者が増えたこともあり全日数が5日となっている。その間軍務のトップが全くいないというのはさすがにまずいので、シュンナとダンクスは途中でテレスフィリアに戻るという。

 それから俺たちはぞろぞろと連れ立ってレイグラット亭へと向かった。


「あっ、みんな来てくれたんだ」
「バネッサが出るって聞いてみんなで応援に行こうってなってね。それで、調子はどう?」
「えっと、ちょっと緊張してますけど、やれることはやったので、あとは頑張るだけです」

 バネッサはそういって緊張した表情をしつつ笑顔で言った。

「そう、バネッサなら大丈夫よ。ねぇ」
「そうだよ。気合入れていこっ」
「うん」

 バネッサはそれぞれの激励を受けつつ会場へと向かっていった。

「バネッサの予選はいつあるんだ」

 ダンクスがオクトに訪ねている。

「2時間後だ」
「結構早いのね」
「第2試合だからな」
「予選、通りそう?」
「おそらくな。相手はドリッドル亭の新人らしいからな。バネッサなら大丈夫だろ」

 ドリッドル亭というのは、レイグラット亭からほど近い場所にある店で、かつて店巡りをした際に食べた感想としては、並以下ってところだった。

「あの店なら大丈夫だろう」

 ダンクスとシュンナも俺と同じことを思ったようで、ほっとしている。

「そうなんですか?」

 一方でそれを知らないほかのメンバーたちは少し心配そうにしている。

「ええ、前に行ったと思うけれどあたしたち3人は以前この街の料理や全部回ってるのよ。その際ドリッドル亭にも行って食べてるからね。そこの新人となるとよほどな天才でもない限り大丈夫だと思うわ」
「というか店主が相手でもバネッサなら大丈夫じゃね」
「そうかもな」

 俺たちはバネッサの料理も食べているのでその腕を知っている。その実力はオクトやリーラには劣るものの、この街の店で考えると上位に食い込みそうな実力はある。さすがはオクトの娘であり、レイグラット亭の跡継ぎだ。そのことをみんなに説明するとみんなもまたほっとしている。

 そうして、時間となりいよいよバネッサの予選開始である。

「あれなら大丈夫そうだよね」
「はい、相手の人、すごい緊張してます」

 麗香と那奈の会話の通り、バネッサの相手はかなり緊張しているようでがちがち、あれなら本来の実力すら出せずに終わる可能性が高い。一方でバネッサの方は緊張はしているが落ち着いているように見える。

 案の定、バネッサは予選第1回戦通過した。

「おめでとうバネッサ」
「おめでとう」
「ありがとう、でもまだ1回戦通過しただけだよ」
「次の準備は整ってるの」
「それはばっちり」
「それで、次はどんな相手なんだ」

 1回戦を通過したバネッサをほめたたえる面々だが、問題は次の対戦相手だ。いったいどんな相手なのだろうか俺も気になる。

「次は向こうの勝った方になるけど……あっ、決まったみたい」
「ありゃぁ、コルサップのドリアルドじゃねぇか」

 どうやらオクトは次の相手のことを知っているようだ。

「どんな人なの?」

 シュンナがどんな相手か尋ねる。

「コルサップの店主は第4回の優勝者なんだが、やつはその弟子でな。まぁ、そこそこの腕があるからな、バネッサも苦戦することになるかもな」

 コルサップという店は俺たちも言ったことがあるはずなんだが、これが残念なことに覚えていない。というか第4回で優勝した腕を持っているのなら、その味に記憶があってもおかしくない。

「そんな相手で、大丈夫でしょうか?」

 オクトの話を聞いた那奈が心配そうにしている。

「大丈夫よきっと、そうなんですよね」

 麗香は那奈に向けてそういった後、オクトに尋ねている。

「おそらくな。まぁ、審査するのは人間だからな。確実ってわけにはいかねぇが」

 そこが料理大会の難しいところだろう、もちろん明らかに腕が違うのならうまい料理を作った方が勝つだろうが、似た腕同士の場合結局は審査員の好みで決まってしまう。もちろんそれらを防ぐ対策として複数人の審査となっているわけだが。

「そういえば審査員は大丈夫なのか?」

 ふと孝輔が何やら心配そうに言ってきた。

「何がだ?」

 オクトは孝輔が何を心配しているのかわかっていない。

「不正、だろ」
「はい、審査員が誰かに買収されたりとか、よくあるじゃないですか?」

 孝輔が言うには、自分の都合のいい結果を得るために誰かが、審査委員に金を渡しているのではないかというものだ。

「その心配はない。そもそも大会の提案をしたのは俺だからな。その可能性はすでに考えてギルドの方に伝えてある」

 審査員の不正行為についてこの世界ではあまり考えられないのか、ギルドも思いついていなかった。しかし、俺を含め日本から来た孝輔にとってこうした話はありふれた物。もちろん実際に不正が多い世界というわけではないが、創作の世界ではほんとにありあふれている。だからこそこうして心配が出るというものだ。

「あとで聞いた話だが、1回目の時にその不正をしたやつがいたみたいだが、その前に防がれている」
「そうなんですね。それじゃ、不正はありえないってことですか」
「だな。でも、人間ってやつを考えると、何らかの穴を見つけてくるものだからな」

 不正とそれを取り締まるものというのはまさに鼬ごっこみたいなものだ。

 それはともかくとして、とりあえず今はその不正はないとして、バネッサの予選の応援を行うとしよう。


 そして、そんな俺たちの心配をよそにバネッサは予選で見事に戦い抜いて、ついには予選を通過したのだった。

「最後はちょっと危なかったみたいだけど、何とかなったみたいね」
「はい、よかったです」

 予選最後は審査員5人中3人がバネッサに入れていたわけだが、2人は相手に入れていたということ、しかも審査員も最後まで悩んでいたように見えたので、下手をすると負けていた可能性もある。

「これであとは本戦だな」
「初出場でここまで行ければ十分じゃない」
「さすがはオクトの娘ね」
「まったくだ」

 俺たちが応援したからというわけではないが、バネッサは初出場にして料理大会本戦に出場を決めた。
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