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第10章 表舞台へ

04 異世界観光

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 教皇に文句を言いに行ったら、なぜか俺の血筋が明らかになった。まさか、ダンクスの名の由来である聖人ダンクスが、俺の先祖であったとは……。
 いやま、それはともかく、あれから話し合った結果として教会から視察を受けることになった。まぁ、いくら俺が安全だといったところで、しょせんは本人の言葉だ。そんなものより、実際に目で見て確認した方がいいからな。いわゆる百聞は一見にしかずだ。

 というわけで、”転移”で連れてきた視察団だが、団長となったのはアリシエーラ枢機卿となる。彼女に成った理由は単純に上層部の人間だ誰も手を挙げなかったからだ。それはそうだろういきなり魔王や魔族の土地に行ってくれと言われて、はい行きますとはならない。その点アリシエーラ枢機卿であれば、俺とも懇意だし、何よりお付きとしてついてきている伯母さんは文字通り俺の伯母であり、この地にも何度か来たこともあるから適任というわけだ。尤も、ただ枢機卿や伯母さんだけが来ただけでは意味がない。そこで、各枢機卿が数名ずつ送り込むことになった。今思うと、選ばれた連中の絶望する顔はある意味で笑えたな。そんなにおびえなくとも何かをするつもりはなく、ちゃんと歓待するのにな。実際、彼らがこの地にやってきたとき歓迎の宴を開きもてなしたほどだ。
 その後数日に及び彼らは孝輔たちや外交担当の魔族の案内の元テレスフィリアを見て回り、魔族たちと触れ合い土産を持って帰っていった。今頃、それぞれの上司に報告をしていることだろう。

 さて、それはともかくとして機能帰ったはずの視察団の一部がいまだここにいる。

「わぁ、かわいらしいです」
「なんてことでしょう」
「……かわいい」

 そんなセリフを吐いているのは、残ったアリシエーラ枢機卿と伯母さんの世話をするシスターたち。そして、彼女たちの中心に居るのはサーナだ。

「本当に、かわいらしい子ですね。フェリシア」
「はい、わたくしもそう思っております」
「しかし、あのような子が、ああした目にあったと思うと、これこそわたくしたちの罪なのですね」
「はい、あの子を見るたびわたくしも痛感しております」

 少し離れた場所で、枢機卿と伯母さんがそんな会話をしているが、2人にはサーナの母ニーナの話をしているための感想だろう。

「そんなことより姉貴たちはいつまでいるんだ?」

 同じ空間にいる父さんが伯母さんにそう尋ねている。ちなみに枢機卿にもすでに父さんのことは話しているので、父さんが伯母さんの弟であることはわかっている。

「あら、ずいぶんとご挨拶ね。それでは私がここにいてはいけないみたいじゃない。全く、かわいらしくなったのは姿だけね。あの頃のあなたは中身もかわいかったのに、そうそう、あの時だって……」
「わぁ、わか、わかったから、いちいちその話を持ち出すんじゃねぇよ」

 父さんが言ったことに対して、伯母さんの反撃は父さんにかなりのダメージを与えたようで、必死になって謝っている。ていうか父さん一体過去に何をしたんだ。まぁ、自分の黒歴史を知られているというだけで、当人からしたらかなり質の悪いことだろう。これが姉というものなのかもしれない。幸い俺には姉は前世においても今世においても存在しないので助かった。まぁ、シュンナが姉みたいなものではあるが、たぶん、というかおそらく、いや間違いなく黒歴史は披露していないはずだ。そうだよな。そう思いつつふとシュンナの方を見てしまった。

「ふふっ、そうしていると本当に昔を思い出すわね。でも、やっぱりあなたを見ると少しつらいわね」
「何がだよ」
「だってそうでしょ、あなたは子供の姿になったというのに私はこんなおばちゃんになってしまったのよ」

 伯母さんが言うように父さんは転生して子供からやり直しているが、伯母さんはそのまま、自分だけ年を取ったと感じているのだろう。

「あら、フェリシアさんは昔から今だってすごく綺麗ですよ。私そんなフェリシアさんにあこがれてたんですから」

 母さんがそういって伯母さんをすかさず慰めるが、俺もそう思う、伯母さんの年齢は44歳だがそうは見えないほどの姿をしており、いわゆる美魔女といわれてもおかしくない。見た目も30代で十分通りそうだしな。

「ありがと、あっ、そうだ。ミリアちゃん覚えているかわからないけれど、昔あなたに教えるって言ったお料理、これから教えましょうか」
「えっ、ほんとですか?」
「もちろんよ。修行から帰ったら教えるって言ったのにできなかったものね」
「あははっ、すみません。えっと、お願いします」
「ええ、任せて」

 そう言って伯母さんと母さんは近くに設置していある簡易キッチンの方へと向かっていった。

「ふふっ、フェリシアも楽しそうですね」

 そんな伯母さんたちの姿を見た枢機卿がそういってほほ笑んでいる。

「猊下、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 その時、くつろいでいる枢機卿にシスターの1人が話しかけてきた。

「あら、どうしたのかしら」
「はい、先ほど猊下と大司教様がおっしゃった。罪とは一体何でしょうか?」
「そうですね。あなたたちにはまだ話していませんでしたね」

 その後枢機卿はシスターたちを集めてキリエルタ教の真実を話して聞かせたのだった。もちろんそれを聞いたシスターたちは驚愕し、愕然としている。これまで自分たちが学んだことは何だったのかと。だが、ここで枢機卿が言った。

「あなたたちが先ほどかわいがっていたサーナちゃんはいかがです。教義によると罪を追ったことで獣人として生まれたことになります。この子が何らかの罪を追っていると思いますか?」

 シスターたちはサーナを見るなりかわいがり始めていた。そんなかわいがっていたサーナが一体何の罪を追っているのか、枢機卿の問にハッとなったシスターたちは、ようやく間違いに気が付いた。
 その後、枢機卿による講義が始まったので、俺はそれを横目にソファーでぐったりしている孝輔たちを見た。

「昨日はお疲れだったな。孝輔」
「いやぁ、ほんと疲れました」
「あの人たち、視察というより私たちの勧誘でしたから」
「はい、断るの疲れました」

 昨日まで視察団の案内役をしていた孝輔たちであったが、視察団のメンバーたちは自分の陣営に来ないかという勧誘合戦を孝輔相手にかましていた。その相手をさせられた孝輔からしたら相当に疲れることだろう。俺だった逃げ出すな。よかったよ勇者じゃなくて魔王で……。

「ははっ、それは災難だったな。まぁしばらくは休め、学生らしく長期休暇もいいだろ」
「学校には通ってませんけどね」

 俺が今言ったように、これから1週間ほど3人には学びも仕事もなし、学生らしく長期休暇を与えてみた。

「そういえばそうだな」
「でも、休みといっても何をすればいいのかわからないんですけど」

 れいかがそんなちょっと危ない発言をした。

「それ、ワーカーホリックの発言だぞ。まぁ、確かにこの世界って娯楽が少ないからな。ただ暇なだけだよな」
「そうなんですよねぇ」
「ああ、だったら今日のところは昼飯でも食いに行かないか、人族の街なんだが、俺も久しぶりに行きたいし、食いたくなってきたし」
「お昼ですか、何を食べるんです?」
「そいつは、見てのお楽しみってことで」
「気になりますね」
「あははっ、まぁついでにほかの街の観光もいいだろう、尤も孝輔はともかく麗香と那奈にとっては少しつらいかもしれないが」

 俺の言葉に首をかしげる麗香と那奈であった。


 そうして、昼前枢機卿と伯母さんを教会に戻した後、俺は”転移”でエイルードへとやってきた。

「なんかいい匂い」
「はい」
「スニルさん、ここって」
「ここはウルベキナ王国って国にあるエイルードって街だ。食の街として有名で、とにかくうまい飯が食えるって街だな」
「へぇ、そんな街があるんですね」
「麗香、那奈、ここから先は覚悟した方がいいわ」
「どういうことですか?」

 これから街へ入ろうとしたところで、シュンナが麗香と那奈の2人何かの忠告をしているが、一体何の忠告だ。

「スニルも言った通り、この街はおいしいお店や屋台がたくさんあるの。その中には当然お菓子とか甘いものもあるのよ。油断していると、太るわ」
「!!」

 シュンナの言葉にハッとする2人。

「ほ、本当ですか、それ」
「ええ、実際あたしもこの街に滞在していた時、ちょっと太って、元に戻すの大変だったんだから」

 そういえば、以前この街にいた時、シュンナが体重計に乗って悲鳴を上げていたな。それで、街を出たとたんひときわ暴れていた。といっても、これは本人の主観であって、はた目から見る分には全く変わっていなかったからなぁ。俺は例のごとく黙っていたからよかったが、ダンクスの奴が思わずどこが? なんていったものだからめっちゃ怒られてた。それ以来、俺もダンクスもともにそういったことを話題に出すのをやめたんだっけ。

「ど、どのくらいだったんですか?」

 那奈が恐る恐る尋ねると、シュンナは那奈と麗香の耳に近づきささやいている。おそらくどれだけ体重が増えたのかということを答えているのだろう。

「えっ! そ、そんなにですか?」

 それを聞いた麗香は震えながら聞いている。いったいどんな数値を言われたのやら。

「ええ、といってもあの時は一か月ぐらいいて、すべてのお店に行ったからって言うのはあるけど」
「すべてって、なんでそんな」
「ダンクスとスニルが言い出したのよ。すべて回ろうって」
「いや、シュンナも思いっきり賛成してたと思うけど」

 まるで俺たちが言い出して聞かなかったみたいに言われたけど、あの時シュンナもまたノリノリで賛成してきた。

「あ、あの時はああなるとは思わなかったのよ。途中で気が付いて、ある程度セーブしたけど、結局だったの」

 確かにシュンナは途中から食べる量を減らしていたな。

「というか、同じように食べてたスニルはちっとも太らなかったのはどうしてよ」
「そういわれてもな。俺の場合食べた分は成長に回っていたからな」

 成長期であった俺の場合、食べればそれは成長に回っていて、太るということはなかった。ちなみにダンクスはいくら食べても足りないぐらい体がでかいから問題なかったわけだ。

「ほんと、そういうところは憎らしいんだから」
「ふふっ、本当に皆さん仲がいいですよね」

 俺とシュンナのやり取りを見ていた那奈が微笑みながらそう言った。

「まぁ、3年ほぼ一緒にいたからな。さてと、そろそろ行くか」
「あっはい」

 というわけで、エイルードの街を歩き始めるわけだが、当然3人は周囲にある屋台に目を向けてしまっている。しかし、これから昼飯を食うって時に買い食いをして、食えなくなっても仕方ないということで、何とか我慢させ目的の店へ向かったのだった。

「いらっしゃい、って、シュンナさん、それにスニル君も久しぶり、あれ、ダンクスさんはどうしたの?」

 店に入ると出迎えてくれたのはリーラだった。

「久しぶりリーラさん、ダンクスは用事があってきてなくて、それよりバネッサはどうしたの、いつもならバネッサがいると思ったのだけど」
「バネッサは今度の料理大会に出ることになったから、今厨房で訓練中よ」
「あっ、出るんだ。オクトさんも許可したんだ」
「結構悩んでたけどね。それで、今日は何?」
「あっうん、実話ね。この子たち、スニルの知り合いなんだけど、あなたのパンを食べさせてあげたいって言うから連れてきたの。いいかしら」
「いいわよ。えっと、みんな同じでいいの」
「お願い」
「わかったわ。ちょっと待ってて」

 そう言ってリーラは厨房に引っ込んでいったのだった。

「シュンナさん、久しぶり」
「バネッサ、久しぶりね。聞いたわよ。大会に出るんだって」
「はい、お父さんやリーラお母さんみたいに優勝は無理ですけど、お父さんも許してくれて、出ることにしたんです」
「よかったじゃない。応援するわよ」
「ありがとう、えっと、それでその人たちは?」

 シュンナとの再会を喜んだところで、バネッサは麗香たちがだれか聞いてきた。

「スニルの知り合いで、この子がレイカで、こっちがナナ、この男の子がレイカの弟でコウスケよ」
「へぇ、スニル君の初めましてバネッサといいます」
「麗香ですよろしくお願いします」
「孝輔です。よろしく」
「えっと、那奈です。よろしくお願いします」

 それから、やはり年が違いというだけあって麗香たちとバネッサはすっかりと仲良くなったようだ。こうなってくると、俺だけバネッサとそこまで仲が良くない気がするが、これは仕方ない生まれつきだからな。

「できたわよ。バネッサ手伝ってくれる」
「あっ、はーい、ちょっと行ってくるね」

 バネッサは麗香たちと話をしていたわけだが、厨房からリーラの声が響き断りを入れてから奥へと引っ込んでいった。

「お待たせ」

 そう言って出てくるリーラとバネッサ、相変わらずうまそうな匂いだ。

「えっ、この匂いって」
「ピ、ピザ?!」
「えっ、あっほんとだ!」
「ピザ?」

 リーラたちが持ってきたものを見た瞬間麗香たちが、驚きで目を見開いている。それはそうだろうまさか世界にきてピザを食べられるとは思わないから。

「この子たちの故郷に似た料理があるみたいなのよ」
「へぇ、そうなんだ。リーラお母さんしか作ってないと思ってた」
「確かに似た料理だけど、別のところで似たものができることはよくあることだよ」

 バネッサの言葉に珍しく俺がそういったのだった。

「それもそっか、それにしても偶然だよね。ねぇ、みんなの故郷にはどんな料理があるの、教えてよ」
「いいわよ。といっても私たちもそんな料理とかするわけじゃないからあまり教えられないけれど」
「いいよいいよ。そもそもレシピなんてそうそう人に教えるものじゃないし」

 とまぁ、そんな感じで話がはずんでいるようだ。

「それはいいとして、食べないさめちゃうわよ」
「あっそっか、それじゃいただきます」

 そう言って麗香たちはリーラパンを手に取りぱくついた。

「どう?」
「おいしいー」
「はい、懐かしいです」
「だな、でもやっぱりちょっと違う気はするな」
「そりゃぁ、似てるだけで別のものだからな。といってもほとんど同じだが」

 作り方も材料もほぼ同じ、何が違うのかといわれたちょっと俺にはわからないが、確かにピザとはちょっとだけ違う。それでも俺たちにとっては懐かしい味なのは確かだ。

「よかった」
「ふふっ、美味しいのは当り前よ。なにせリーラはこれで女性でありながら料理大会準優勝したんだから」
「獣優勝、すごっ」
「ちなみにその時の優勝はお父さんだよ」
「えっ、そうなの。それじゃ夫婦でワンツーフィニッシュ、すごいじゃん」
「いや、当時はまだ2人はであってさえいなかったわよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうそう、そのあとリーラがこの店に来てオクトさんといろいろ話をしているうちに意気投合したらしいわよ」
「わぁ、その話詳しく聞かせてください」

 若い娘というものはこうした恋愛話が好きなものらしく、麗香と那奈は食い気味に訪ねている。それににやにやしながら答えるシュンナとバネッサ、その横でリーラが真っ赤になる。そんな光景が繰り広げられのを見つめながら俺は1人リーラパンを食べるのであった。
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