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第09章 勇者召喚

10 勇者ついにアベイルへ

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 魔王軍四天王最初の1人であるグロッゴを、苦戦の末に破った麗香もまたすでに満身創痍であった。

「先輩! 大丈夫ですか?」

 そんな麗香を見た那奈が駆け寄っていく。

「う、うん、大丈夫だよ」
「姉ちゃん、ほんとかよ。傷だらけじゃないか」

 大丈夫だという麗香に対して、同じく近づいてきていた孝輔が心配そうに言った。

「……このものに癒しを、”ヒール”」

 孝輔と麗香のやり取りの横で那奈が素早く回復魔法の詠唱を行っており、麗香の傷がみるみる家に治っていった。

「おおっ、さすがは聖女様」

 そんな様子を見ていた聖騎士たちは那奈を絶賛する。それというのも、通常の”ヒール”で直せるのはかすり傷程度のものだけで、麗香のような傷の場合”ハイヒール”を使うのが一般的だからだ。それを”ヒール”一発で直してしまったことに聖女としての力を見たというわけだ。ちなみにスニルであれば片手間にできる芸当でもある。

「ありがと、那奈ちゃん」
「い、いえ」
「さすがだな那奈、それで姉ちゃんほんと大丈夫か?」
「大丈夫だって、これぐらいなんてことないわよ。それに空手とかでもよくけがはしていたでしょう」
「そりゃぁ、そうだけど」

 孝輔も幼いころから空手をやっている姉を見てきており、その時けがをしたということはあった。しかし、あの時と今では状況が違う、なにせ空手はあくまで練習か試合、しかし今回は明らかに殺意を向けてきた相手との実戦下手をすれば麗香が命を落としていた可能性があった。もちろんそうなりそうならすぐにでも間に入り姉を助けようと考えていた孝輔であった。

 孝輔が心配している中、麗香はたった今亜人とはいえ、人を殺してしまったという罪の意識にとらわれ遠い目をしていた。

(仕方ないとはいえ、やはりきついわね。よかった私が最初で、もしこんな気持ちに孝輔や那奈ちゃんがなったとき、私が知っているのと知らないでは違うものね)

 初めて人を殺した。この事実は若干麗香の心を蝕んだ。

「先輩?」
「う、うん、何でもないわ。それじゃ、そろそろ行きましょ」
「は、はい」
「姉ちゃん、もう少し休んでなくて大丈夫なのか」
「大丈夫よ。心配いらないわよ。それより、孝輔相手は思っていたよりもかなり強いからあんたも気をつけなさいよ」
「わ、わかってるよ」
「そ、そんなに強かったのですか?」

 孝輔もまた剣道をやってきただけありある程度力はわかる。それによるとグロッゴは確かにかなり強いと感じていた。それこそ、聖騎士たちから聞いていた獣人族の強さと比べても圧倒的といってもいいぐらいに、一方で那奈は一切格闘技をやってこなかっただけあって、そのあたりがさっぱりであった。

「ええ、孝輔もだいぶ強くなったけれど、かなり苦戦するわ」

 麗香と孝輔では、転移前であれば麗香の方が強かったが、勇者となった孝輔とただ巻き込まれただけの麗香では得た力に差があり、現在は孝輔の方が強くなっている。麗香はそんな弟の力を正確に見抜いており、それでもグロッゴ相手にした場合苦戦すると考えた。尤も、勝てない相手ではないということはわかっている。

「ダゴンさん、なにか知っていますか?」

 孝輔は聖騎士の隊長であるダゴンにあの獣人のことや四天王のことを知っているのではないかと尋ねた。

「い、いえ、私が知っている獣人は犬型と猫型で、あのような獣人は見たことも聞いた事もありません」

 獅子人族はテレスフィリアでも西端に住む種族だから、東側の聖騎士が知らないもの無理はないのだった。

「そうですか? となると今後は気を引き締めていかないとな」
「そうね」

 こうした会話をしたのち勇者一行は魔王を倒すべくさらに森を奥へと進んでいくのであった。




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 グロッゴと勇者たちが戦ってから3日が経過した。

「陛下、先ほど連絡があり勇者がエルフの里入り口に到着した模様です」
「おう来たか、そろそろだと思ってたよ。そんじゃリンデルを呼んでくれ」
「かしこまりました」

 さて、いよいよ勇者たちがエルフの里に到着したということで、次の四天王の出番となる。

「失礼いたします陛下、リンデルウムノース・デラボルス・マナフォースリムお呼びによりただいままいりました」

 相変わらずややこしい名前を名乗るエルフがやってきた。やはりエルフの里を守る四天王だからエルフじゃなきゃいけないからな。

「おう、リンデル聞いていると思うが、勇者がエルフの里へやってきている。お前さんは予定通り里で彼らを出迎えてくれ」
「はっ!」
「それと、これは何度も言っているが、決して無茶はするな。これはあくまで俺の遊びだ。お前が命を懸ける価値などないと思え、それと遊びであるからな相手の命もいらん、適度に戦い引け、いいな」
「はっ、承知しております」

 本当に何度も言ってきた。これは俺流の勇者歓迎の遊びだということを、これをちゃんと周知しておかないと勇者だから敵、敵なら殺せ! とかなりかねないし、勇者を俺のところに行かせないためにと命までかける奴がいそうだからな。ちゃんと勇者は俺のもとに来るようにと言ってある。

「よしっ、それじゃ行ってこい」
「はっ!」

 それからリンデルは現地へと向かったのであった。そういえばグロッゴの時もそうだったが、リンデルがどうやって現地へ向かったのかというと、もちろん転移門を設置してあるからだ。

 さて、リンデルと勇者たちの戦いはどうなることやら。



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 魔王軍四天王の1人獅子人族のグロッゴを倒してから3日が経過した。

「あれっ? なんだか森がおかしくないか」
「そういえばそうね。なんだろ」
「うーん、なんか妙な雰囲気だよね」

 孝輔たちはエルフが精霊魔法で施している迷いの森に知らずに入っていた。

「戻る?」
「いえ、勇者様聞くところによるとエルフには精霊魔法を使い森で惑わすとあります。おそらく今そのエルフの森に入ったのでしょう」
「エルフ!」
「そっか、エルフがいるって話だったものね」
「え、エルフって、あれだよね」

 孝輔たちは日本の高校生ということもあり、当然のようにサブカルチャーに触れており、エルフとは何かということを知っている。そして、エルフとは見目麗しい美男美女というイメージが強いために、この世界にエルフがいると聞きぜひにも会ってみたいと考えていた。

 そんなワクワクした3人は意気揚々と迷いの森を進み、ついに何やら開けた場所へと出たのだった。

「なんだここ?」
「ふっ、ふははははっ、よくぞここまで来た勇者よ。しかし貴様らの旅はここまで、ここより先はこの魔王軍四天王の1人リンデルウムノース・デラボルス・マナフォースリムが通さぬ」

 突如目の前に1人のエルフが出現してそう名乗った。

「エ、エルフ?!」
「す、すげぇ、本物だ!」
「き、きれい」

 リンデルの登場に別の意味で湧く孝輔たち3人であった。

「それじゃ、今度は俺が……」
「いえ、勇者様ここは我々にお任せください、エルフごとき我らで十分です」

 人族である彼らは亜人と称する者たちを下に見ており、このエルフも自分たちであれば余裕で倒せると考えている。そのため勇者である孝輔たちが戦うまでもないと考えたのである。

「えっ、でも」
「問題ありません。さぁ、勇者様ここは我々に任せ先にお進みください」

 俺を置いて先に行け、まさにそういった聖騎士たちにこのセリフを生で聞けるとはと思いながらも、彼らの自信に満ち溢れた態度から大丈夫だろうと考え任せることにした。

「それじゃ、お願いします。姉ちゃん、那奈、俺たちは先に行こう」
「え、ええ」
「わ、わかった。えっと、それじゃダゴンさん、皆さん気を付けてください」
「了解しました。お任せを」

 というわけで、孝輔たちはリンデルの相手を聖騎士たちに任せて、先に進むことになったのであった。もちろんリンデルもただで通すわけもなく攻撃を入れようとした。しかしそこは聖騎士たちの攻撃で防がれてしまったのだった。


 そうして、リンデルを躱した孝輔たちはその後しばし歩いたのちに迷いの森を抜けることに成功したのだった。


 それから、さらに6日が経過したこの間に聖騎士たちが追いついてくるかと思っていた孝輔たちであったが、聖騎士たちは一向に追いついてこなかった。それでも彼らの無事を祈り魔王を討伐すべく歩を進めるのをやまない孝輔たちであった。
 そのかいあってか、ついに目の前に街らしきものが見えてきた。

「ね、ねぇ、あれって?」

 街が見えてくると同時、その前に人影が見えた。近づいていくとその人影の全貌が見えてきた。

「……魔族?」
「う、うん、教皇様から聞いていたのと同じ」
「ええ、青い肌で頭に角、間違いないと思うわ」
「でも、あれ女の子だよね」
「どう見てもそうだろ」
「孝輔、どこ見てるの?」
「えっ、いや、どこも見てないよ」

 孝輔の視線の先に気が付いた麗香が孝輔をたしなめるが、こればかりは仕方ない、なにせその魔族の胸は凶悪なほどに大きいものであったからだ。

「あたしは魔王軍四天王の1人で、シュンナ。ここから先はいかせないよ」

 待っていた魔族の名はシュンナ、その正体は名前の通りスニルの姉的存在であるシュンナ本人である。現在の姿は変装の魔道具を使っている。

「ここは、俺が……」
「私も一緒にやるわ。相手が女の子じゃ貴方もやりずらいでしょ。それに、たぶんだけど一緒にやらないと勝てない」
「そ、それは、わかるけど」

 孝輔も麗香ももともと空手と剣道という格闘技を学んでいた。そのために多少なりとも相手が自分よりも上か下かぐらいはわかるようになっている。そんな2人からしてもシュンナは上、2人がかかりでも倒せるかどうかわからないという強さに見えた。

「待ってください、それなら私も、支援ですが戦います」

 そんな2人の様子を見ていた那奈も何かを感じたようで、魔法での支援を申し出た。

「決まった。それじゃ、そろそろ行くよ」

 誰が戦うか決まったところでシュンナは一気に駆け出す、もちろんいきなり全力でかけると3人で目でとらえることすらできないために、ギリギリ見えるだろう速度での駆けとなる。

「はやっ!」
「くっ、これ、魔法?」

 シュンナの速さに驚いた麗香はもしやシュンナが魔法を使ったのではないかと思ったが、実際にはまだ使っていない。

「あたしの本気はこんなもんじゃないよ。ほら、ぼうっとしているとやっちゃうよ」

 楽しそうに双剣を振るうシュンナに翻弄される3人、しかし3人とも何とかシュンナの攻撃をこらえている。

「くそっ、早くて、とらえられない。きぇぇぇぃ、ここだー。ミェーーン」
「おっと、当たらないよ」

 孝輔と麗香が必死になってシュンナをとらえようとしているが全くとらえることができない。一方で、シュンナの攻撃も当たるには当たるが、那奈が張った結界に阻まれてダメージを与えることはできずにいた。

「へぇ、すごいねその結界、あたしの攻撃じゃ通じないかな」

 どちらの攻撃もダメージを与えられないという状況となって、まさに持久戦となった。動き回っているシュンナの体力が尽きるか、那奈の結界が耐えられなくなるかだ。そうして戦いが始まって小一時間ほどが経過したころだった。

「勇者様!」

 そこに聖騎士が追い付いてきた。

「ダゴンさん!」

 聖騎士隊長の名を呼び振り返る孝輔であったが、一瞬顔をしかめる。なんとやってきた聖騎士の数が足りない10人いたはずが、今は7人となっていた。それだけで残りの3人がリンデルに敗れたのだろうと推測された。しかし、この膠着状態での援軍はありがたいのでそこの追及はしない。

「あら、援軍が来ちゃったのか。ちょっとまずいかな」

 援軍を見たシュンナがそういったことで、孝輔たちも光明が見えてきた。これなら勝てるかもしれないと。

「助太刀します」
「お願いします」

 そうして始まった10人対1人、それぞれの力ではシュンナに及ばないものの数が多いことで、さすがのシュンナも押され始める。そして、ついに孝輔たちはシュンナを追い詰めた。

「これで最後だーー!」

 孝輔渾身の一撃、袈裟懸けにシュンナを切りつける。すると、シュンナはあっさりと真っ二つに切り裂かれたのだった。

「はぁはぁ、はぁ、か、勝ったぁ」
「か、勝ったの、よね」
「は、はい、勝ちました」

 その瞬間ウォーと聖騎士たちが歓声を上げたのだった。

「また、死体が残っていませんね隊長」
「ああ、そうだな。ほかの四天王と同じだ」

 ダゴンたちが言うようにこの場にシュンナの死体は残っていないことを不思議に思っていた。

「ダゴンさん助かりました。そ、それでその」
「いえ、勇者様我々の使命は勇者様を無事に魔王の元へ送り届けること、そのためならば喜んでこの命捧げましょう。これも人類のためです」

 孝輔がほかの3人はどうしたのかと聞きずら層にしているところで、ダゴンはそういった。

「そうですか、そうですよね。俺たちだって、人類のために」

 ダゴンの言葉に孝輔は決意を新たにしたのだった。

「それにしても、これが魔族の街か、思っていたよりも綺麗そうじゃない」
「はい、ここから見ただけでもすごい綺麗です」

 男たちのやり取りとは裏腹に麗香と那奈はそろって、目の前にある街魔族の街アベイルに見とれていた。2人としては魔族の街と聞きもっとおどろおどろしい恐ろしいところを想像していた。

「しょせんうわべだけでしょう。それで勇者様さっそく向かわれますか?」
「えっと、そうですね。早く倒しに行きましょう」
「待ちなさい孝輔、気持ちはわかるけれど、今は少し休んでからにしましょう。私もそうだけれどあなたもかなり疲れているでしょう」
「わ、わかったよ姉ちゃん」

 姉にたしなめられて孝輔も街に入る前に休むことにしたのだった。



 そうして、小一時間ほど街の前でゆっくりと休養したのち、孝輔たちはゆっくりと立ち上がった。

「そろそろ行こう、たぶん四天王があと1人いるだろうし、もしかしたらさっきのシュンナって魔族よりも強いかもしれない、それにそのあとには魔王がいる。それでも勇者である俺なら負けない。負けるわけにはいかない。あともう少しだ」
「ええ」
「う、うん」
「はっ!」

 こうして、いよいよ最後の戦いと、勢い込んでついに魔族の街アベイルへと足を踏み入れた勇者一行である。そんな彼らが見たのはやはり美しいとしか表現のしようのない街並み。これは下手したら聖都よりも美しいのではないかと思えるほどであった。もちろん孝輔たちは素直にそう思ったが、聖騎士たちはそうはいかない。魔族が自分たちよりも優れた街を作れるはずがない。そうだ、おそらくここにはかつてひそかに反映していた人類が居り、魔族が侵略によって奪ったのだ。そうに違いないと思うことで納得したようだった。だからだろう。

「勇者様、必ずや魔王を倒しこの街をわれら人類に取り戻しましょう」
「えっ?」

 孝輔も思わぬことを言われて困惑してしまったのは言うまでもないだろう。
 はてさて、そうした彼らがまっすぐに目の前にあった魔王城を目指し、ついにはその姿を眼前にとらえたのだった。
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