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第08章 テレスフィリア魔王国

06 再び王都へ

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 伯母さんに俺と父さんがともに転生していることを話し終えたところでようやくの本題である。

「姉貴、俺たちの最終的な目標は奴隷の解放なんだ。でもスニルが言うにはいきなり各国の王とかに会いに行って奴隷を解放しろといっても無駄だろ」
「ええそうね」

 いくら俺が魔王といってもこれはあくまでも事象に過ぎないから、人族の世界では全く通用しないだろう。それに各国がキリエルタ教を国教とし、その教えを守っているから当然他種族に対しての考えも先ほど伯母さんが告げたように前世で罪を犯したものという認識だ。

「だからまず、キリエルタ教での教えが間違っているということを改めてもらいたいんだよ」
「ん~、ヒュリックそれも難しいわよ。それは神の御言葉を曲げるということなのよ」
「いや伯母さん、そもそもキリエルタの言葉を捻じ曲げたのはのちの信者たちだよ」
「どういうこと、スニル君」

 伯母さんがじっとこっちを見てきたので、俺は何とか説明をしてみることにした。

「俺たちは旅の途中で聖教国に行って巡礼をしたんだ」
「あら関心ね」

 嬉しそうにそういう伯母さん。

「伯母さんも知ってると思うけれど、各地にある石碑があるでしょ」
「ええあるわ。といっても神の文字で書かれていて私たちでは読むことすらできないのだけれど」

 実は俺たちが廻った聖地には石碑がありそこには誰も読むことができない碑文が刻まれている。まぁ、ぶっちゃけ時代が進みすぎて読める奴がいなくなっただけなんだけど。

「だろうね。今ハッシュテル語を知っている人はいないから」

 ハッシュテル語、この世界の神様が人間に伝えた最初の文字であり、俺がサーナやテレスフィリアの名づけに用いた言語だ。この言葉はキリエルタの時代ですらすでに失われた言語だから一般人は知らなかったであろう。しかし、俺が見た碑文によるとキリエルタの故郷ではひそかに伝わっていて、それを碑文として刻んだようだ。

「ちょっと待って、もしかしてスニル君はあれが読めるの?」

 俺が言語名を告げたために伯母さんが驚きながら聞いてきた。

「読める。俺にはあらゆる言語を理解する能力があるから、これも神様からもらったものだよ」
「そ、そう、そうなのね。それで、あれには何が書いてあるの」

 伯母さんは俺を疑うことなくまたは好奇心からか碑文の内容を聞いてきた。

「まぁいろいろだけど、中には他種族に対して書かれたものがあったよ。魔族については今と変わらないけど、エルフ、ドワーフに関してはそれぞれ交流すべきとあって、獣人族は敵視していたみたいだよ。といってもこの敵視も親からそういう教育を受けていただけみたいだけど」
「……」

 俺の言葉に伯母さんがしばし絶句している。

「ま、まさか、キリエルタ様がそのようにおっしゃっていたのならなぜ。今のように……」
「姉貴、それこそさっき言ったのちの信者が捻じ曲げたってことなんだよ」
「キリエルタは獣人族だけを敵視、といってもこれもさらに昔をたどってみるとキリエルタの故郷の村と獣人族は交流していたみたいなんだけどね。どこかで何かがあっていつの間にか敵対するようになっただけらしい」

 伯母さんは口をあんぐりとあげて、司教にあってはならなそうな表情をしている。

「そういうわけだから、俺たちはまずこの捻じ曲げられたことを正してもらいたいってことだな。これなら可能だろ」
「え、ええもしそれが本当のことなら、でも私はあなたたちを信じているからいいけれど、ほかの方々はそうはならないわ」

 そう、そこが一番の問題だ。これまで信じていたことが間違っていたということを認めることはそう簡単ではない。むしろ俺たちを信じているからとすぐに認めてくれた伯母さんがおかしいと思う。

「それは俺たちもわかってる。だからまず姉貴のところに来たんだ。姉貴ならこういうことを信じてもらえそうな。俺たちの話を聞いてくれそうな人を知らないかと思ってな」

 父さんも俺も伯母さんならこのことを信じてくれると思っていた。

「わかったわ。でも、どうしてそんなことを言い出すことになったのか、それだけは聞かせて頂戴」
「わかってる。もちろんそのつもりだ」

 そうして、俺と父さんはどうしてこうなったのかことの経緯をすべて話したのだった。



「……それは、本当なの?」

 話を聞き終えた伯母さんは絞り出すようにそういった。無理もない俺たちが話した内容はまず奴隷狩りに始まり、サーナの保護、この時点で伯母さんはあまりのことに真っ青になっていた。その上にサーナを連れて獣人族の土地へ赴きハンターたちを撃退、その後魔族の土地へ赴いてレッサードラゴンを討伐。これを話した時は真っ白になっていた。まぁ、甥として見ている俺がそんな無茶なことをしたわけだがそうもなる。そうして、最後俺が魔王になったと話した時など気を失っていた。
 そして、今意識を取り戻したというわけだ。

「残念ながらな。すべて本当のことだ」
「……そう」

 伯母さんの問に答えたのは父さんで、その答えを聞いた伯母さんはまさに意気消沈していた。


 それからしばらくしてから伯母さんがようやく口を開く。

「スニル君、あなたたちの願いだけれど、1人だけ思い当たる人がいるわ。その方は以前から獣人族たちへの対応を改めるべきだとおっしゃっていたわ。『たとえ罪を犯した者たちだとしても亜人となることで罪は償っている。そこに私たち人間がさらなる罰を与える必要はない』と」
「へぇ、キリエルタ教にそんなこと言う人がいるのか」
「父さん、キリエルタ教は他種族に対してはああでも、基本は善良な宗教だよ。今のところはね」
「それはわかるが、獣人族に対してで考えるとな」
「そうね。私も今までは獣人族などは亜人、人にあらずと思っていたから、まさか私たちと同じ人間だったなんて、しかも……ああ、神様、お許しください」

 伯母さんがそういって天を仰ぎだしたのだが、これはどの神を仰いだんだろうか、キリエルタなのかそれとも神様のことなのか。

「とにかく、姉貴それを言った人ってのは誰なんだ」

 今の俺たちにはこれが重要だ。伯母さんの言い方からして伯母さんより上の立場ということ、つまりは大司教か枢機卿ということになる。教皇ってことはないだろう。

「ええ、コルマベイント王国王都におられる枢機卿猊下のことよ」

 なんと枢機卿だったしかも王都にいるって、ということは俺はこれから王都に行かないといけないのか。まぁ、あの手配も3人であり俺が言ったところでわからないだろうけど、あまりいい思いがないんだよな。

 とはいえいかないわけにはいかない。

「王都なら一度行ってるからすぐに行けるな」
「そういえばそうだったな。それじゃさっそく行きたいところだけど、姉貴大丈夫か」
「えっ、ええ、私は大丈夫だけれど、今から王都へ発つの?」
「俺の転移を使えばすぐに行ける」
「転移? スニル君はそんな魔法まで使えるの!」
「使えるぜ。というかアベイルからそれで来たんだしな」

 俺が転移魔法が使えると聞き伯母さんはもはや驚き疲れたのかため息をこぼしている。

「まっ、何はともあれこれから王都だろ。といっても俺はこれ以上いてもしょうがないし、スニルも姉貴がいれば大丈夫だろ」
「……」

 父さんの問に無言でうなずく。

「というわけだ姉貴スニルを頼むぜ」
「ええ、任せて頂戴、でもヒュリックはこのあとどうするの」
「俺はミリアのところに行くよ。久しぶりにワイエノの奴にも会いてぇし」
「そ、それじゃ院長先生を頼んだわよ」
「おう、任せろ」

 父さんはそういって院長を連れて部屋を出て行った。そして残された俺と伯母さんはというと。

「それじゃぁスニル君伯母さん準備をしてくるからここで待っていてね」
「わかった」

 王都に急遽行くことになったことでその準備をしなければならず、伯母さんは早々に部屋を出て行った。その結果部屋には俺一人となってしまったわけだ。


 1人ぼうっとしていると不意に扉がノックされてシスターが1人入ってきた。

「ええと、スニル君、スニル君はヒュリック兄さんのお子さん、だよね」

 入るなりそう言ってきたが、父さんを兄呼びするということは孤児院出身の人か。

「そうなる」
「そう、私はリサといって、あなたのお父さんには昔遊んでもらっていたのよ」

 リサと名乗ったシスターはそういってほほ笑んだ。

「ええと……」
「あっ、ごめんなさい。フェリシア姉さんからあなたのことをお願いされて、まずはこれに着替えてもらえる」

 そう言ってリサが差し出したのは真っ白な服だった。

「これは?」
「ああうん、これはね修道服というものなのよ」

 俺はこれでも司教の甥であり、これから行くのは王都の教会、この普段着で行くわけにはいかないということだろう。まぁ、郷に入っては郷に従えというし、伯母さんがそう指示したのだろうから着るしかないか。というわけでリサに手伝ってもらいながら修道服を着こんでいったのだった。


 そうしている間にどうやら伯母さんの準備も整ったようで、リサとは別のシスターが呼びにやってきた。

「お待たせ、スニル君ちょっと人数が多いけれど大丈夫かしら」

 シスターに案内されていった場所には伯母さんをはじめシスターが4人と、聖騎士と呼ばれる教会の騎士が5人と全部で10人集まっていた。それに加えて馬車が1台とそれをひく馬が2頭と騎士がそれぞれ乗る馬が5頭いた。

「このぐらいなら問題ない」
「そうよかった。それじゃぁ、お願いしてもいいかな」
「うん」
「司教様」

 ここで騎士の1人から待ったがかかった。

「どうしました?」

 俺や父さんが相手だと普通にしゃべる伯母さんではあるが、騎士相手だと司教らしく対応している。

「先ほど王都へ向かわれるとおっしゃられましたがこれでは少なすぎるかと、それにその子供は一体?」
「これでいいのです。それにこの子はわたくしの甥でスニルといいます。先ほども申しましたが王都へはこの子の魔法で行きます」
「はい、確かに先ほど伺いましたが、そのような子供の魔法というのは問題ないのでしょうか?」

 俺の見た目から心配になっているようだ。

「ふふっ、それこそ大丈夫ですよ。この子はこう見えてすでに14歳ですし、何より神様よりお力を授かっておりますから」
「か、神様から、ですか?」
「ええ」

 その瞬間騎士をはじめシスターたちがひざをつき祈りだした。おもに俺に対して……ええと、どういうこと。

「彼らにとって神様はキリエルタ様だから、あなたがキリエルタ様の使者と思ったのよ」

 困惑する俺に対して伯母さんが小さく教えてくれたが、それでいいのかとも思うがここで彼らに真実を話す必要はないためにここは黙っておくことにした。

「それじゃぁ行きましょうか」
「わかった。”転移”」

 伯母さんに言われて”転移”を発動させたのだった。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「こ、ここは?」
「司教様を守れ!」

 突然周囲の景色が変わったことで混乱しつつもあたりを警戒している騎士たち、そんな彼らに感心していると伯母さんが声をかけてきた。

「スニル君、ここは?」

 騎士やシスターたちが混乱している中、伯母さんは1人冷静に落ち着いている。伯母さんも”転移”は初めてのはずなんだが、これは明らかに俺への信頼だろう。ありがたいが、もう少し警戒してもいいような気がする。

「王都から少し離れた場所、そっち行けば街道に出るから、そこを少し北に行けば王都がある」
「あらそうなの。ベンスあなた少し行ってみてきてもらえるかしら、それと先ぶれをしてきてもらえますか」
「かしこまりました」

 ベンスと呼ばれた騎士が混乱しつつも、伯母さんに命じられるままに馬にまたがり王都へ向かった。

「それでは、わたくしたちも馬車に乗りましょう、スニル君も一緒よ」

 伯母さんはそういって普通に馬車に乗り込んでいる。そのあとをシスターたちが追うように馬車に乗っていった。それを見送った俺もまた馬車に乗り込んだのだった。そうして、しばし時間がたったところで王都へ先行していたベンスが帰ってきた。

「どうでした?」
「はっ、確かに王都でございました。また、王都へはすでに先ぶれをいたしまし故すぐにでもここを発ちたいと存じます」
「ええ、お願いします」

 というやり取りの後騎士に従い馬車が動き出したわけだが、そういえば御者はと思ったら同行していたシスターの1人が手綱を握っているようだ。


 それから街道に出てしばし進んでいくと懐かしき王都の防壁が見えてきた。

「ほ、本当に王都が……」

 伯母さん以外誰も信じていなかったようで、みんながみんな驚愕に目を見開いている。

「ふふっ、本当にすごいわね。自慢の甥よ」

 一方で伯母さんはそういって俺の頭をなでるんだが、ぜひやめてほしい子供じゃないんだから。

「司教様、ようこそ王都へ」

 門へ着くと門番がそういって敬礼をし始める。

「急に申し訳ありません」
「い、いえ問題ありません。どうぞお通り下さい」

 通常ならここで身分の確認などを行うんだが、相手が司教ということになるとそういった面倒ごとはしなくてもいいらしい。

「さぁ、教会へまいりましょう」
「はっ」

 門を抜けたところで伯母さんの号令の下さっそく教会へと赴くこととなった。


 王都の中央通りを突き進む馬車、その中でのんびりと周囲を見渡してみると、人々がその場で跪いて祈りだした。
 俺は伯母ということもあって普通に接しているが、司教という存在は一般人にとっては偉大な存在だということを感じざるを得ない。


 そうして街道を進んでいると目の前に巨大な教会が見えてきた。こうしてみるとカリブリンの教会よりも圧倒的にでかい。それはまぁカリブリンの最高位は伯母さんである司教だが、ここは枢機卿だから当然といえば当然なのだろう。そういえば以前王都に来たときはいろいろあって教会を見るということがなかった。といってもそもそも俺は教会には興味が全くないから余裕があってもまともには見ていなかっただろうが。

 さてそれはともかく馬車が教会にたどり着きシスターたちが下りると、そのあとをついて伯母さんが下りていくので俺も後をついていく。

「ようこそフェリシア司教様、突然のご訪問いかがなされましたか」

 伯母さんによると通常司教が別の教会を訪れる場合、出発の数日前に先ぶれを出すのが普通でこんな急に押し掛けるようなことはしないそうだ。まっ、それでも司教であるから追い返されるということもないということだ。

「申し訳ありません。急に猊下とお話をする必要ができたのです。そこで猊下とのお約束をさせていただきたいのですがお願いできますか」

 伯母さんはここで枢機卿にアポイントメントをとる。いくら司教でもさすがに枢機卿には簡単には会えないようだ。

「かしこまりました。では、しばしお待ちいただけますか?」
「はい」

 それから俺と伯母さんは王都教会のシスターに教会内の一室へと通された。

「ここでしばらくお過ごしください」
「ええ、ありがとう」

 去っていくシスターを見送った後部屋を見渡す俺に伯母さんがこの部屋について説明してくれわけだが、なんでもここは伯母さんがここに来た時に過ごす部屋なんだそうだ。
 そうして、それからしばらくして枢機卿とのアポが取れ3日後に決まったのだった。
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