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第08章 テレスフィリア魔王国

05 フェリシア司教

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 父さんと院長、母さんとシエリルおばさんの再会が無事達成されたのはいいが、俺たちがここに来た理由はもう1つあった。それは、父さんの姉的な存在である人に会うということ。
 しかし、その人はここカリブリンの教会で司教の座す人物だった。そんな人物に俺と父さんがそう簡単に会えるわけがない。そりゃぁ、父さんが前世の姿であったなら簡単に会えたことだろう。でも、父さんは姿かたちが全く違う、そして、俺はというと確かに俺は1度伯母ともいえる司教に会ったことがあるが会ったのは孤児院だったから、教会に行っても誰も俺を知らないと思う。そうなると確実に会える人物に連れて行ってもらうのが一番いいだろうとなり、院長に頼むことにしたというわけだ。

「それじゃ、先生頼むよ。今の俺じゃ姉貴もわからないだろうし」
「そうね。わかったわ」

 というわけで院長が快く引き受けてくれて俺たちは教会へ赴くこととなった。


「それじゃぁ、俺たちはいくけどミリアはどうする」
「そうね。こうしてせっかくシエリルと会えたし、このままワイエノのところにでも行くわ。ねっ」
「それはいいけど、どうするのワイエノにもいうの?」
「そのつもりよ。というかシエリルだけにってわけにもいかないでしょ」
「それもそうか」

 というわけで母さんはシエリルおばさんとともにワイエノおじさんのもとに行くことになった。

「それじゃ後でな」
「ええ」

 そうしてまずは母さんとシエリルおばさんが立ち上がり部屋を出ていったわけだが、俺たちはまだだ。
 というのも、俺と父さんはすっと立ち上がったが院長がまだ立ち上がっていないからだ。

「先生、大丈夫か、ほらっ」

 実は院長、長い間の栄養失調から急に子供たちに交じって畑仕事をしたことでか、最近足が悪くなってきている。ということをポリーを通して聞いていた。こうして実際に悪そうにしているんだよな。それを見た父さんがすかさず院長の手を取っている。

「ふふっ、ありがとう、ヒュリックは相変わらず優しいのね」
「そ、そんなことねぇよ。それより行くぞっ」
「ふふっ、ええそうね」

 父さんに手を引かれて嬉しそうにほほ笑む院長、まるで年老いた母親の世話をする息子だな。おっと、比喩じゃなく事実だったな。

 そんな2人にほっこりしているとふと思い出した。

「そうだ、院長これを」

 そう言って”収納”からあるものを取り出した。

「あら? これは、杖かしら」
「……ポリーから院長の足が弱ってるって聞いて、作ったんだ。杖自体は父さんが作って、それに歩行の補助をするような魔方陣を刻んだ魔石を埋め込んである。だから歩くのが荒くになると思う」
「あらあら、これを2人で、ありがとう、大事に使わせてもらうわね。あら! 本当に楽になったわ」

 院長は心底嬉しそうにお礼を言ったのち実際に杖を使ってその効果から本当にうれしそうに笑った。

「お、おう」

 父さんは若干ぶっきらぼうに答えつつも院長を支える手は離さなかった。その顔はまさに母に向けるものである。


 それから、俺と父さん、院長で孤児院を出て街の教会へと向かったのだった。

「こんにちは」
「あっ、院長先生、こんにちは、今日はどうしたの」

 教会につくと放棄で掃除をしていたシスターに院長が声をかけると、元気な声でそう返事が届いた。

「アンリ、元気?」
「うん、元気だよ。あと、みんなも元気よ。院長先生、最近足が悪いって聞いたけれど、大丈夫なの」
「ええ、大丈夫よ。ほら、この通りこの杖もあるしね」
「そうなんだ。よかったぁ」

 シスターとのやり取りを見ているとどうやらこのシスターは孤児院の出身みたいだ。実は道中に聞いたがここの司教が孤児院の出身ということもありこの教会には孤児院出身者が結構いるそうだ。このシスターもそのうちの1人なのだろう。

「アンリ、アンリ、ああ、もしかして」

 俺の隣で父さんが小さい声でそういった。もしかして知っているのか、まぁ、確かにこのシスターは20代だろうし、そうなるとこの人が孤児院にいた頃に父さんが出向いていたとしてもおかしくない。そうしてその際に父さんが遊んであげていたということも考えられる。

「それで、院長先生どうして? それにその子たちは?」
「今日はフェリシアに会いに来たのだけれど、会えるかしら?」
「司教様? 今確認してくるね」

 院長は俺たちのことはスルーして司教がいるかどうか尋ねたので、アンリもまた俺たちのことを気にしつつも司教が会えるかどうか確認するために教会内へ走っていった。

 それからしばらく、俺たちはシスターたちに囲まれつつ過ごしていると先ほどのアンリが帰ってきた。

「院長先生、司教様が会うって」
「そうよかったわ。ありがとうアンリ」
「ううん」

 それからアンリの案内で教会内へと足を踏み入れたのだった。


「どうぞ」

 アンリがある部屋の扉をノックすると中から優し気な声が聞こえてきた。それを聞いた父さんが何か懐かしむ表情をしていた。

「フェリシア、こんにちは」
「院長先生、ようこそ、おっしゃっていただければわたくしから出向きましたのに」
「忙しいのにごめんなさいね」
「いえ、それでどうして……まぁ、まぁ、まぁ」

 院長に何の用かと聞こうとしたところでその背後にいた俺に気が付いた司教(伯母よびを要求されているので今後は伯母さんと表記する)がいきなり目の前にやってきて俺を抱きしめた。えっと、ちょっと伯母さんの動きが見えなかったんだけど、いつの間に俺のところに?

「スニル君も来てくれたのね。さぁ、そこに座って頂戴、あら? その子は?」

 ここにきてようやく父さんに気が付いたようで見慣れない子供ということで首をかしげている。

「この子については後で教えるわよ」

 院長が少しイタズラっ子のように微笑みながらそう答えている。

「? よくわからないけれど、まぁいいわ。さっ、あなたも座って」
「あ、ああ」

 それから俺たちは伯母さんに勧められるままにソファに座ったわけだが、なんだろうか先ほどから伯母さんがじっと父さんを見ている。

「……?」

 じっと見られている父さんもなんだかいたたまれなくなり何かと聞こうと口を開きかけたところで伯母さんが驚愕の一言。

「……ヒュリック……いえ、そんなわけ」

 小さくて俺でもようやく聞き取れるようなものだったが、父さんをじっと見た後そうつぶやいた。それを聞いた俺はもちろん父さんも驚き、でも嬉しそうに答えた。

「さすがだな姉貴、正解だ」
「えっ!」

 伯母さんは自分のつぶやきに答えが返ってくることに驚愕、しかもそれが肯定だったからより一層驚愕しまさに思考停止状態となっている。

「姿かたちが変わったってのに、まさか俺だと気づかれるとは思はなかったよ」

 父さんが感心したようにそういうと、徐々に回復してきた伯母さんが院長を見た。

「ふふっ、本当にあなたはヒュリックが大好きなのね。私も驚いたけれど間違いなくこの子はヒュリックよ」
「父さんで間違いない」

 院長に続いて俺が父さんであると保証した。

「……ほ、本当に、本当にあなたなの? ヒュリック?」

 伯母さんは恐る恐る父さんに確認をしている。まぁ、普通は信じられないよな。俺だってもし前世でいきなりこう言われていたら間違いなく信じていなかった。というかどんな詐欺だよ! と突っ込んでいたと思う。

「そうだぜ。姉貴、久しぶりだな」
「あ、あ、ああ、ヒュリック!!」

 たっぷりと時間をとってからようやく俺たちの言葉を租借し終えた伯母さんはこれまたすごい速度で父さんを抱きしめた。

「あ、姉貴」
「ヒュリック、ヒュリック、ああ、ヒュリック~」

 父さんを抱きしめて号泣する伯母さん、まさに姉弟の感動的な再会である。


「ごめんなさいね」
「いいのよフェリシア、ヒュリックはあなたの弟だものね」
「はい」
「ふぅ、やっと解放されたぜ」
「ははっ」

 ようやく解放されたとほっとする父さんに苦笑いを向ける俺であった。

「はぁ、まさか、ヒュリックと再会できるとは思いませんでした。院長先生、本日はこのために? もちろんうれしい限りなんですが」
「いや姉貴、俺たちがここに来たのは別の目的なんだよ」
「別の、どういうこと?」

 俺たちがここに来たのは伯母さんに会いに来ただけでは当然ない。

「伯母さんに頼みたいことがある」
「あら、何かしら」

 俺が言うと伯母さんは何でも言えと言わんばかりに身構えることなく聞いくれた。

「スニルはこういうの苦手だからな。俺から説明すると、頼みたいことは教会内で姉貴よりも上の立場のやつと話をさせてほしいってことだな。最終的には教皇あたりがいいんだが」
「なっ! あなたたち何を言っているの、教皇様なんて会えるわけないでしょう。それに、一体どんな御用だというの」

 父さんが言った俺たちの頼みに伯母さんは顔を真っ赤にして怒り出した。それはそうだろういきなり教会のトップと話をさせろというのだから普通に怒るよな。

「落ち着けって姉貴、ちゃんと説明するから」

 さすがは長い付き合いであり弟の倒産、すぐさま伯母さんを落ち着かせた。

「わ、わかったわ。でも、ちゃんとした理由なんでしょうね」
「当たり前だろ、俺たちだって伊達や酔狂でこんなこと言わねぇって、んで、理由なんだけどちょっと長くなるけどいいか」
「いいわ。話してみなさい」

 というわけで父さんはなぜ教皇と話をしたいのかということを話し始めた。

「姉貴も当然知っていると思うが、獣人族をはじめエルフ、ドワーフたちが奴隷にされているだろう」
「え、ええそうね。でも、それは彼らが前世において大罪を犯したからよ。その償いね」

 伯母さんはそういったわけだが、これこそキリエルタ教である人族が平然と他種族を奴隷として非道な扱いができるんだよな。

「まっ、姉貴ならそういうだろうな。でも姉貴それは違うぞ」
「えっ!?」

 伯母さんは教会で司教という立場だけあって、どっぷりとキリエルタ教の教えにハマっている。

「俺はヒュリックとしては死んで、新たにヘイゲルとして生まれ変わってるんだ。つまり、俺は実際に死後の世界ってやつを見てきてるんだよ」
「!!」

 父さんの答えに伯母さんはなんとも複雑な表情をした。そこにあるのは伯母さんにとっての弟である父さんが死んだという悲しみと、死後の世界を見てきたという事実に対する驚きだ。

「もしかして、あなたは神様にお会いになったの」

 伯母さんが恐る恐るそういった。

「いや、俺があったのは本物の神様でキリエルタじゃないよ」
「えっ?」

 ここで、キリエルタ教で語られている死後について説明しておくと、かの教会の教えでは、人は死ぬとまずキリエルタの高弟エンリルン(閻魔大王みたいな存在)の審査を受け、善良なものとなれば天国のような場所へ行きそこで神であるキリエルタのそばへ行くことができる。そうしてその後人間(人族)として転生するとある。逆に審査の際に悪であるとされた場合は、地獄のような場所へ行き罪を償うわけだだが、その罪が重ければ亜人(他種族)として転生する。これがキリエルタ教での死後の話となる。

「姉貴、言っておくがキリエルタ教が言っていることは間違っているぞ。死んだときエンリルンなんていなかったしな」
「えっ、そんな。本当なの!」
「ああ、それとこれは俺自身が経験したこととスニルから聞いたことでもあるんだが、そもそも人は死ぬとすぐさま人間として転生することになっているんだよ。実際俺はヒュリックとして死んだその日にヘイゲルとして生まれているからな」

 キリエルタ教で言っているようにもしキリエルタのもとへ赴いたり、地獄へ落ちたりしていれば当然数日の間が空くと思う。

「そ、そう、でも、教会では……」

 伯母さんは少し戸惑いながらそうつぶやいている。そりゃぁ、これまで信じていたものが否定されたんだ。その相手がだれでもなければ伯母さんも信じなかったし何を言っているんだと一蹴したことだろうが、相手は父さんであり実際に死後の世界を見てきた人物だから、信じざるを得ないのだろう。

「姉貴が信じられないのも無理はないが、実際に俺はキリエルタではない、この世界を創造し管理するの神様に会ったんだよ」

 これには伯母さんは驚愕するしかないようで言葉すら失っていた。そりゃぁ、これまで自分が信じていた神様とは別の神様が本当の神様で、実在しそれにあったというのだからそうなる。

「そんな。どうして……今まで……」

 伯母さんのショックはかなり出かかったようでぶつぶつとつぶやいてしまっている。

「悪い姉貴、でもこれは真実であり、俺たちの願いを聞き入れてもらうためには必要なことだったんだ」

 父さんもいきなりことで混乱している伯母さんに、謝罪の言葉を口にしている。

「い、いえ、でも、ヒュリック、本当のこと、なのよね」
「ああ、それは間違いない。俺たち、俺とミリアはそれぞれ死んで、その瞬間には神様の前にいたからな。それにその神様はスニルも生まれる前にあっているし、俺たち再会するときも神様から直接聞いたらしいからな」

 ここで父さんが新たな爆弾を投下した。

「えっ、スニル君も、えっ、どういうこと」

 伯母さんの目が俺の方を向いてきたので、さすがにこれは逃げるわけにもいかないので話すことにした。

「俺も父さんたちと一緒で転生しているんだ。といっても俺の場合は異世界からだけど」
「異世界?」

 この世界にはかつて勇者召喚ということをしたという昔話があるために、異世界ということが理解されやすい。

「そう、神様がこの世界は進化がなくって面白みがないから、俺という異物を投入したんだけど、ほらそんな俺が2歳でまだ前世の記憶を取り戻していないときに両親が死んだでしょ。だから神様も焦って2人を転生させたらしい」
「ええと、まだ、よくわからないんだけれど、スニル君、嘘じゃないのよね」

 伯母さんは念を押してきたが、それに対して深く頷いた。

「……そ、そう、わかったわ。確かに信じられないことだけれど、ヒュリックは間違いなくヒュリックだしスニル君が嘘をついているとも思えない。それに、院長先生も信じているのですよね」
「ええ、そうよ。私も最初はとても信じることができなかったわ。でも、2人がいえ、ミリアちゃんも嘘をつているとは思えなかったの」
「そう、そうなんですね。あれ? そういえばミリアちゃんは?」

 ここにきて母さんがいないことに不思議がる伯母さん。

「ミリアは今シエリル達とこにいる。こっちに連れてきてもあれだし、何よりそっちの方がミリアにもいいだろ」
「そうね。それじゃ、シエリル達もこのことを」
「ああ、孤児院にシエリルがいたからな。ちょうどいいからまとめて話したんだ」
「そう、はぁ、それにしてもとんでもない話を聞いてしまったわね」

 伯母さんは心底疲れたおいう表情をしている。

「ははっ、悪い、でも姉貴、本題はここからだぜ」
「本題? ああ、そういえば教皇様に会いたいって言っていたわね。あまりの衝撃で忘れていたけれど、どういうことなの」

 というわけでここからが本題である。
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