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第08章 テレスフィリア魔王国

02 災害復興

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「はぁ、疲れたぜ」
「ほんとね。これじゃぁレッサードラゴンと戦った方が楽だったわよ」
「違いないな」

 午前中から始まった議会もようやくひと段落が付いたところで俺たちはやっとこさ解放されたわけだが、そんな俺たちが向かっているのは、俺たちがレッサードラゴンと戦った現場だ。
 どうしてここにきているかというと、この地域は現在復興が行われており、俺も魔王として視察と手伝いにやってきたというわけだ。

「あらっ、魔王様」

 俺の存在にいち早く気が付いた魔族の女性が親しみを込めて手を振ってきた。

「復興はどう、進んでる?」

 いつものごとくしゃべらない俺の代わりに、シュンナが女性に進捗を聞いている。

「いえ、身体強化は使っているのですが、なかなか1つ1つが重くて苦戦しているようですよ」

 魔族というのは人族に比べて魔法に長けた種族ということもあり、実は全員が魔法を使える。そして身体強化という魔法は無属性のために、魔法が使えれば誰でも使おうと思えば使える魔法だ。そして、魔族はすべてこの身体強化を当たり前のように使える。だからといって、みんながみんなありえないほどの強化ができるわけでもなくまぁせいぜい5倍ぐらいが妥当だろうと思う。つまり10kgの米袋を何とか持てる人が50kgの重さを同じ感覚で持てるようになるということだ。確かにそれでもがれきを持ち上げるにしては十分な力を出せるようになるんだけどね。

「そう、それじゃ、あたしたちも手伝うわ。ダンクスもいるしね」
「あら本当、ありがとう助かるわ。でも、大丈夫疲れているんじゃないかしら」

 また別の女性がやってきて礼を述べてきたが、俺たちが今日議会に出ていることを知っているためにつかれていないか心配してくれた。

「まぁ、確かに疲れたが、あれは別だからな。というかむしろ動きてぇ」
「そうそう、難しい話ばっかだったし」

 シュンナとダンクスは俺と違って本当にこの世界での一般庶民、政治の話を聞かされてもさっぱりだろう。それに対して俺は一応前世で基本教育を受けているので2人よりは理解できた。もちろん理解できてもさっぱりだったけどな。

「俺もといいたいところだが……」
「魔王様は休んでいてくださいな」

 俺も手伝おうかと言おうと思ったが、すぐさま俺は休んでいるようにと言われてしまった。そりゃぁ、いくら俺が実年齢14歳で魔王となったとしても、見た目が幼い子供だ。そんな俺が重いがれきを運ぶという姿はあまりいい光景とは言えないからな、昨日もこうして断られてしまった。

「それじゃ、行ってくるわ」
「おう、気をつけてな」

 シュンナとダンクスはがれき撤去の手伝いに向かっていった。残された俺はというと特にすることもないので、適当にあたりを見渡してみている。

「それにしても、ずいぶんと壊れたもんだな。というかこれだけ惨事に被害者ゼロってのがさすが異世界って感じだよなぁ。まぁ、俺がそうしたんだが……」

 そう、これだけの災害であるにもかかわらず住人に被害は出なかった。それは俺たちも馬鹿ではないからで、戦いが始まってからすぐに探知魔法で人の状況を確認し人がいない場所に誘導していたからだ。尤もそれでも相手はレッサードラゴン予期せぬ動きをされてこちらの思うようにいかなかった場面もいくらかあった。その場合はすかさず結界を張って保護していったというわけだ。それで、その保護した人たちは戦闘終了後警備兵に伝えていたといたからすぐに掘り起こされたことだろう。ちなみに張った結界は人間は通れるようにしたために、道ができればすぐに出れたことだろう。もちろんそれも含めて伝えていたので本当にスムーズに救助が進んだと喜ばれたのは言うまでもないだろう。本当に魔法というのは便利だよな。もし地球でも使えたら、俺がこっちに来るときに続いていた世界各地での災害時に使えたことだろうと悔やまれるほどだ。

 それはともかくとしてがれきの撤去だけでも結構大変そうに思える。何せこの世界には重機がないからな。魔法で一気に更地に変えるという方法も考えたが、それをやると住人の無事な私物まで破壊してしまうためにこうして地道にやるしかないということだ。

「お母さん、お腹すいたぁ」

 ふと俺の近くにいた子供の声が聞こえてきた。

「そっか、そろそろ飯時か、そうだなここにいてもやることないみたいだし、俺は炊き出しもやるか」

 そう思った俺は現場から少し離れた場所にいた女性陣のもとへと向かったのだった。

「あらっ、魔王様」
「どうしました?」

 俺が魔王であるということはすでに議員たちを通してアベイル中に広がっており、しかもほぼすべての民が受け入れているために女性たちも微笑みながら応対してくれている。

「そろそろ飯時だからな。炊き出しをした方がいいだろう」
「ああ、そうですね。ですがあまり食材が残ってなくて、一応街中から集めてはいるんですが」

 実は昨日も炊き出しは行われたが、その時俺はこの場にいなかったので彼女たちは街中から食材を集めてきたようだ。

「こういう時の備蓄はないのか?」

 日本だとこういった災害時のために保存食をある程度備蓄しているのが普通だが。

「いえ、これまでこういったこともなかったですからそういったものはないのですよ」

 ということらしい。これは困ったなこれからはもっと必要になるぞ。なにせ、今回の災害によりそれぞれが家庭で持っていた食料すらほとんどダメになっているだろうからな。

「そっか、そうなると俺が出すしかないな」

 少し前の俺だったら考えても実行していたかわからないことだが、今の俺は魔王でありここは俺が王を務める国で彼らは国民。となると彼らを養いその命に責任を負わなければならない。特に責任感なんてものはない俺ではあるが、さすがにこれぐらいはわかる。なら、俺の持つ食料を放出するぐらい当然というべきだろう。
 そんなわけで、”収納”に収めている大量の食糧を取り出していく。

「人族が作ったものでよければこれを」
「まぁ、美味しそうですね。これ、いいのですか?」
「ああ、かまわない」
「というよりさすが魔王様ですね。まさか”収納”魔法をお使いになれるなんて」

 俺が何もないところから出したのを見てすぐに”収納”と看過したが、かなり珍しそうな顔をしているな。

「魔族でも、珍しいのか?」

 疑問に思ったので聞いてみた。俺もこうして少しは会話をして慣れていかないとな。

「ええ、そうですね。使い手はたまにいますが、容量が小さいですからね。使えても使わない人が多いですわ」

 別の女性がそういった。確かに”収納”の容量というのは魔力量に依存している。俺の場合ほぼ無限に近いほどの魔力量があるためにいくらでも入る便利なものだが、魔族が持つ魔力量でも大した量にはならないんだろうな。

「なるほどな」
「魔王様はやっぱり容量が大きいのですか?」

 これまた別の女性が聞いてきた。

「かなり、だな」
「そ、それはすごいですね」
「それは実にうらやましいですなぁ」

 俺の答えに驚く女性たちの中から1人のおっさんが出てきた。

「いや失礼、私はこの街で店を開ているブルドートというものでして、私も”収納”が使えるのですがいかんせん魔力量が小さいために容量がカバンほどしかないのですよ。まぁ、カバンを余計に1つ持っていると考えれば便利なのですがね。このような大きな鍋をいくつもというわけにはいきませんからな」

 ブルドートは少し苦笑いを浮かべながらそう言った。

「なるほど、商人からしたら喉から手が出るほどにほしいものというわけか」
「喉から手が出るですか? 初めて聞く言葉ですが何となくわかる気がします」

 喉から手が出るというのは日本のことわざであり、この世界にはない言葉だからな。つい使ってしまったがニュアンスでわかってくれたようだ。

「俺の故郷のことわざで、欲しくてたまらないという意味だよ」
「ああ、なるほど、確かに言いえて妙ですな」
「あの、魔王様」

 ブルドートと話をしていると不意に呼ばれたのでそちらを振り返ってみると、女性が数人立っていた。

「どうした?」
「はい、申し訳ありませんが、何か食材はお持ちではありませんか?」
「食材?」
「はい、確かにこちらのお料理も惜しそうなのですが、中には人族が作ったものに嫌悪感を示すものもいるようでして、いえ、私は大丈夫なのですが……」

 そう言って申し訳なさそうにしている。まぁ確かに人族が作ったと聞けば嫌な奴はいるだろう。というか俺自身そうなるだろうと思っていた。だからこそ最初に人族が作ったものだと告げたわけだ。

「だろうな。それで食材から自分で作るってことか」
「はい、すみません」
「かまわない。ちょっと待ってなっと、これぐらいあれば大丈夫か?」

 食材をといわれて”収納”から手持ちの食材から肉と野菜を適当な量取り出して見せた。

「はい、ありがとうございます。ですがそのこれはいただいても」
「ああいいぞ、肉は俺たちが道中に狩ったもので、野菜類は俺の故郷でとれたものだけどな」
「魔王様の故郷ですか?」
「俺の故郷は小さな農村だから昔からいろいろ野菜を作っているんだ。これもそんな村で作ったものをもらってきたものでな」
「そうですか、本当にありがとうございます」

 女性たちはそういって近場にある簡易窯場へと向かっていった。あの窯場を作ったのはドワーフで、簡易といってもかなりしっかりしたものに見えるな。

「魔王様よろしいでしょうか?」
「んっ?」

 ここで再びブルドートが声をかけてきた。

「先ほどの食材ですが、魔王様の故郷でとれたものとのことですが、その、鮮度は大丈夫なのでしょうか? いえ、見た感じは大丈夫そうに感じましたが……」
「ああ、そのことかそれなら大丈夫だ。俺は魔王に関してはそれなりに高い能力を持っているからな。魔法の改造もできるんだ。そんで俺の”収納”は時間も止めるようにしてある。だからあれはとれたて新鮮なものだよ」

 女性たちは気が付かなかったが、実際に”収納”が使えるブルドートは、これが通常時間経過があることを知っているための心配が出たようだ。

「なんとっ、それは素晴らしいです」

 それから俺はブルドートからいくらかの質問を受けたのち、満足したブルドートからようやく解放されたのだった。

「何か手伝うことはあるか?」

 手が空いたところで料理をしている女性陣のもとへと向かい手伝いを申し出てみた。実はこれも俺としては驚くべき行動だ。これまでの俺だったらこういったことはまずしないからだ。

「いえ、もうできますから大丈夫です」

 予想はしていたが手伝いはいらないらしい。

「そうか、なら配膳ぐらいはやらせてくれ」
「わかりました。お願いします」

 というわけで配膳を手伝うことにした。これは数が多いためにたとえ魔王であっても手を借りたいことだからだ。さて、配膳するにあたって注意しておくべきは俺が用意した人族が作った料理と、俺が用意した食材から女性たちが作った料理。どちらを選ぶかを聞く必要があるということだ。まぁ、知らせずに配膳すればいいといえばそれまでなんだが、何となく告げておきたかった。どっちも俺が用意したものだが、ここに住む者たちがどちらをより多く取るのか、今後のことを含めて知っておきたいことでもあるしな。

「どっちにする」
「えっ、あ、はい、ええと、それじゃこっちの方で」

 最初の1人目は女性たちのものを選んだ。

「ほれっ」
「すみません」
「気にするな」

 俺が魔王ということは周知に事実のため、その魔王が自ら配膳をしているということで若干恐縮しているが気にするなと少しだけ笑いかけてみた。俺ってば表情もあまり出さないからな。さすがに無表情だとさらに恐縮してしまうだろうから多少はな。

 それからもそれなりの数の配膳をこなしてみたが、全体的にやはり女性たちが作った料理の方がおおく売れている。これはたぶん人族の料理ということもあるだろうが何より見慣れない料理だからというものもあると思う。こういう時はやはり食べなれたものがいいしな。俺だってご飯とみそ汁があったら迷わずそれを食べる。

「ほぉ、これはうまいな。よし、これを全部もらうぞ」
「えっ!?」

 配膳をしていると隣からそんなやり取りが聞こえてきた。なんだろうかと思ってみてみると、何やらよさそうな服を着て、数人の従者のような連中が周囲に侍っていた。

「運べ!」
「はいっ」
「お、お待ちください!」

 あまりのことに女性も呆けていたが、いい服を着たやつの市維持を受けて、2人の男が鍋を抱えようとしたところでようやくわれに返り止めに入った。

「なんだ? 邪魔をするな。僕を誰だと思っている」

 なんかどかの貴族のボンボンみたいなことを言い出している。服装からしてどこかの坊ちゃんであることは間違いなさそうだけど、でもおかしい。ここアベイルにそんな奴いたっけか?

 この街でも多くの商人がおり中には結構裕福な奴もいるという。しかし、こんな取り巻きを持つほどの力はないはずだ。なにせ、彼らはここアベイルという1つも街でしか稼げないからだ。大商会と呼ばれるほどに稼ぐにはどうしても別の街などでも商売をする必要があると思う。そう考えてもこいつの親は商人ではないということが分かる。じゃぁ一体なんだ。ちょっと興味をひかれたので様子をうかがってみよう。

「わかっています。グルップリル卿のご子息ですよね。先代議長の」

 正体が分かった。なるほど先代議長の息子ならこれほど偉そうなのも頷ける。というのも俺も聞いたばかりではあるが、この街の議員は基本その地域の代表者となっているわけだが、この代表者は世襲制となっていることが多く、特に派閥のトップとなるとなおのことだそうだ。そしてその派閥のトップが任期5年で持ち回りとしているようだ。ここまでの説明でわかったと思うが、この目の前の偉そうなやつは将来的には父親の後を継いで派閥のトップとなり、いずれは議長の座に就くということが約束されているわけだ。

「議長は、トップだからなぁ」

 しかし残念、俺という魔王が登場したことにより議長は決してトップではなくなったわけだ。

「そうだ。だから僕の邪魔をするな」
「い、いや、しかしですね。こちらはその、被災された方々への炊き出しですので、そもそもグルップリル卿は被災されていないはずです」

 先ほども言った通り議員は地域の代表、そのため議員もまたその地域に住んでいる。だから今回の被災した地域も当然議員の家もあるというわけだ。しかし、このグルップリルの家は別の地域という。あれっ、それじゃぁなんでこいつ炊き出しの料理を食ってるんだ。
 疑問に思っていると、どうやらしれっと従者に並ばせていたらしい。まぁ、俺が出した料理は人族が作ったことや見慣れないということ敬遠されたが、その料理はエイルードのオクトが作ったものだからな。料理大会で優勝するような男が作っただけありめっちゃうまい。その匂いにつられたというところだろう。
 とまぁそれはともかく相手が先代議長の息子なら少し相手が悪い、ちょっと手助けをするか、そう思い緊張から深呼吸を1つすると隣に話しかけた。

「そのくらいにしておけ」
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