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第07章 魔王
07 会議は踊る
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突如アベイルの街を襲ったレッサードラゴンを何とか討伐することできた。
「とはいえ、だいぶ壊れちゃったわね」
「それは仕方ねぇって。野郎いきなりまちなかに現れやがったんだからな」
シュンナが言うように美しいと表現していたアベイルの街の一部ではあるが瓦礫レベルまで破壊されている。ほとんどがブレスによる破壊であり俺達の攻撃によってできたわけではないことがせめてもの救いだ。
「お疲れ様3人とも」
「しゅんなぁ」
「まさか、レッサードラゴンを討伐しちまうなんてな思わなかったぞ」
父さんと母さんがサーナを連れて俺達のもとへとやってきて、なんとも言えない表情をしている。その表情はやはりまさかレッサードラゴンを討伐できるとはというおどろいきと、俺達がなんとか無事に戦いを終えたという安堵からくるものだろう。
「それは俺達もだぜ。本当にすニルはすげぇな。できるとは思っていたけどよ」
「ほんとにねぇ。ていうかあたしたちの攻撃最初ほとんど意味がなかったし」
シュンナはそう言って若干落ち込んだが、いや、それが当たり前だから……
「そうは言うが、普通は当てることすら難しいと思うぞ」
レッサードラゴンは以前にも行ったように人間と同等の知能があるだけではなく長い寿命を持つために、戦闘に関する経験も豊富だ。つまりは達人の域にいると言っても過言でもないだろう。そんな相手に攻撃を当てるそれだけでもかなりすごいと思う。間違いなく俺だけだったら魔法を当てることすらできなかっただろう。
「たしかにね。そう考えると2人は本当に強いのね」
「俺達もそれなりに強くなったとは思うが、2人には叶わないだろうな」
シュンナとダンクスの強さには父さんと母さんも負けを認めざるを得ないようだ。
「な、なぁ、ちょっといいか?」
俺達が話していると突然声をかけられたので、振り向いてみるとそこには数人の魔族が立っていた。
「なに?」
いつものごとくシュンナが対応だ。
「いや、そのあんたらがあのドラゴンを倒したのか? ていうかあのドラゴン消えたけど、どこいったんだ?」
代表して1人の男が質問してきた。
「ええ、一応ね。まぁ、あたしたちは隙きを作っただけで倒したのはこの子なんだけどね」
そう言ってシュンナは俺を指差したので男は俺を見て驚愕している。
「そんな子供が!」
「嘘でしょ!!」
「ありえない!」
魔族たちが口々にそう言って驚愕している。それはまぁ、俺みたいな見た目幼い子供がレッサードラゴンを討伐し得る魔法を行使したのは信じられないだろう。
「それに、あれは”インフェルノレーザー”だろう。あんなものを使えるって、我ら魔族ですら失われた魔法だ」
叫ぶようにそういったのはメガネをかけて白衣を身にまとった学者前とした人物だった。
「”インフェルノレーザー”、なんだそれ?」
学者魔族が言ったように本当に失われた魔法だったのだろう、話を聞いた別の魔族たちが疑問符を浮かべている。
「上級に位置する火炎魔法だ。”フレイムランス”とは比べ物にならない魔法だ」
「マジかよ!」
「そんな魔法があるのか?」
再び口々に驚愕の声が上がった。
「それにだ。最後あのレッサードラゴンが消えた理由、あれは”収納”だな。最も私が知っている”収納”とは容量が桁違いのようだが、君は一体どれだけの魔力を秘めているのか、ぜひ知りたいものだ」
そう言って学者魔族が目を光らせた。
「相当量なのは確かだよ」
俺はそれだけを答えた。
「ふむ、人族のみでありながら我らよりも圧倒的な魔力料に加え、失われた魔法まで使う。おそらくだが君は”大賢者”を持っているね」
さすが学者魔族だけあって状況からその答えを導き出したようだが、この”大賢者”という言葉に再び魔族たちが驚愕しつつも納得顔になっている。
「大賢者、まじかよ! でも確かに納得だよな」
「ええ、確かにね」
あちこちでそんな声が聞こえてきた。実際には違うんだが、特にここで否定する気もないし放置でいいだろう。
「ちょっと失礼、やはりここにおられたようですな」
人垣をかき分けて一人の魔族が現れたが、見覚えのある人物であった。
「あら、あなたは、ええと……確か、セビスさんだったかしら」
やってきたのはセビス、正直俺は顔は何となく覚えていたんだが、名前は完全に忘れていた。
んで、シュンナのおかげで思い出したが、確かこのアベイルの議会の議長を務めているジル……ジル何とかという人の秘書をしている人物だったはずだ。
「用は……ああ、もしかして……」
「はい、先ほどのレッサードラゴンの件でございます。ぜひあなた方をお呼びするようにと申し付かってまいりました」
どうやら、ジル何とかには俺たちがレッサードラゴンを討伐したという事実が伝わっているようで、その話がしたいとこのセビスを使いに出したようだ。
「まぁ、断る理由もないし別にいいわよ。ねぇ」
「ああ、そうだな」
「というか、この状況を考えると呼び出しは予想できていたしな」
俺たちは結構派手に暴れていたからな。というかそれにより結構建物が破壊されたというのもあるからこうして呼び出されるであろうことはある程度予想はできていた。特に元騎士であるダンクスは間違いなくあると考えていたようだ。
「では、こちらへどうぞ。馬車を用意いたしました」
というわけで馬車に乗り込んで先日に続き、再び議会所へと向かったのだった。
議会所へ着くとそこは、なんというか半ばパニック状態だった。多くが避難民で、中には怒号を挙げている者たちまでいる。それを警備兵たちが必死に抑え込んでいるという状況だ。
「表は少々込み合っておりますので、申し訳ありませんが裏からお願いいたします」
そういうことでセビスに促されて馬車は議会所の裏へ向かう。
そうしてやってきた議会所、その中をセビスに後に続いて歩き、2階へと上がる。どうやら今回は前回とは違う場所らしい。
そう思って後をついていくと、なんとも重厚な扉の前に立った。
「こちらでございます」
そう言ってセビスが扉を開けると、そこは何というかそこは規模こそ小さいが議事堂の議場のような作りの場所だった。そこで、一番高い椅子にこの間あった、ジマリート(来る途中で話で出てきたので思い出した)が座り、その周りにも数人が座り、その対面に多くの魔族や獣人族、エルフ、ドワーフが座っていた。見たところ現在議会が開かれている最中みたいだ。まぁ、話している内容はおそらくレッサードラゴンについてだろう。
「……」
「……!」
よくは聞こえないが会議は白熱しているようだ。
「申し訳ありませんが、少々お待ちいただけますか?」
「ああ、かまわないぜ」
会議が一段落するまで待つこととなったわけだが、ちょっと暇ということもあって会議の内容に耳を傾けてみる。
すると、やはり人間というのはどこまでも同じだということが分かった。それというのも、まず耳に入ってきたのは、責任の押し付け。彼らが話し合っているのは当然レッサードラゴンについてと、それに伴う被害状況だ。主張としては、当然のごとく警備を担当しているものが攻められているようだ。本来なら警備のものが討伐するべきではなかったのかといったものであったり、もっと早くに気が付かなかったのかというもの。それに対する警備担当は、警報装置に問題があるのではないかと技術担当の責任だという。また、技術担当も警報を出すかどうかの判断が遅かった。などといったなんともよくある口論となっている。
正直俺に言わせてもらえば、そもそも今回の件はただの人間にはいろいろ無理がある。というか俺ですら気が付くのが遅れるほどレッサードラゴンは猛スピードでやってきた。これに気が付けというのは酷というものだろう。つまり、仕方なかった、そう片付けるが一番いいと思う。でも、そういうわけにはいかないらしく話し合いが白熱しているというわけだ。さて、とはいえさすがにこれ以上口論を聞き続けるのも厄介だし、そもそも俺たちはいまだ放置されている。いい加減こっちの用件を終えたいんだけどな。
そう思っていると、議長であるジマリートが静かに声を上げた。
「此度の件について、先ごろレッサードラゴンを討伐した者たちを呼んである。詳しい話は彼らに聞こうではないかな」
そういうと俺たちを見たジマリート、その目線に従い議員たちもまた俺たちを注目している。
中には、あれが獣人族の英雄か、といった言葉やまだ子供ではないかというようなことまでつぶやいている。
「静粛に、スニル殿ぜひこちらに、レッサードラゴンについて聞かせてもらいたい」
ジマリートがそう言ったことでセビスが立ち上がり、こちらですと促して来たのでやっとかと腰を上げてセビスの後について歩きだしたのだった。
そうしてやってきたのは、ジマリートが座る場所から一段低いところ、どうやらここは俺たちのように外部の人間を招き聴取する場所のようだ。
「さて、まずは此度のことアベイルを代表して礼を述べさせていただきたい。あなた方のおかげをもち街が救われた。感謝する」
そう言ってジマリートは立ち上がってから頭を下げた。同時にほかの議員も立ち上がり頭を下げてきたわけだが、これにはちょっと戸惑ってしまった。
この倍にいる議員はおよそ100人、それだけの数からいきなり一斉に頭を下げられればちょっとした恐怖を感じたからだ。でも、それを表には一切出さず黙って様子を見ている。
「あたしたちは自分たちの身を守っただけよ。それであたしたちを呼んだのはそのお礼を言うためじゃないのよね」
いつものごとくシュンナが代表して尋ねている。
「もちろんだ。まず聞きたいのはなぜ、人族であるあなた方がわれらを守ってくださったのか、それを聞きたい」
ジルマリートがそういうと多くの議員がうなずいている。おそらくかららにとっても人族は敵、そんな人族である俺たちがどうしてレッサードラゴンを討伐したのか聞きたいのだろう。
「さっきも言った通りあたしたちは自分たちの身を守っただけ、まぁ、その前にあたしたちは人族とか魔族とかそういった、ただ種族が違うだけにこだわってないというだけよ」
シュンナが言ったことは俺たち共通の認識だ。
「種族が違うだけだとっ」
「馬鹿なっ、お前たち人族がこれまでわれらにしてきたことを忘れたわけではないだろう!」
議員の中にはそう言って怒号を上げるものも多くいたが、これもまた仕方ない。ちなみに今現在そう言って声を上げているのは実際に被害を受けてきているエルフやドワーフ、獣人族ばかり。魔族はここアベイルに引きこもっており、人族と接触することがないために伝聞程度でしかなくそこまで人族に怒りは覚えていないようだ。
「そう言われても、あたしたちは田舎出身だから、特にほかの種族とかかわったことがなかったしそういう風に教わっていないのよ」
これもまた事実で、俺たちが育た場所には他種族自体がほとんどいなかったから差別意識を持ちようがなかった。そもそも俺は自分のことで精いっぱいの状況で育ち、記憶を取り戻した時も”森羅万象”の記述で他種族が種族が違うだけであるという真実を知っていたし、何より前世の記憶により他種族の存在は逆にテンションが上がるんだよなぁ。まぁ、そこまで説明する気はないけどな。
とまぁ、シュンナもそういうことを言うわけではなく俺たちには差別意識がないということを強調していた。
「ふむ、確かに彼らは獣人族であるその娘を保護し里まで送り届けたという話もあり、何より獣人族の英雄として知られている。そんな彼らに今更われらに対する差別はないだろう。そうは思わんかな」
「む、た、確かに、ですが……」
ジマリートの言葉に納得するものがいる一方で、やはり納得しきれないというものもそれなりにいるようだ。
「やっぱり、溝は深いみたいね」
「まぁ、2500年以上も迫害を受けていればな」
キリエルタ教ができてからすでにそれほどの期間が経っており、現在でもなお彼らは迫害を受け続けているのだから人族である俺たちに警戒するのは必然といえるかもしれないな。俺たちがしたことを考えてもそれで納得しろというのが無理がある気がする。
その後も、会議での話し合いは俺たちを半ば無視して白熱していくことになったが、最終的に俺たちのことは受け入れるが人族はやはり信用できないというとなった。まっ、俺たちだけ特例ってわけだ。
「さて、スニル殿方をお呼びしておいてこのような話し合いになったことをまずはお詫びします。しかし、これを放置し話を進めるわけにはいかなかったのです」
ジマリートが壇上から降りてきて頭を下げつつそういった。どうやら、俺たちがここに呼び出された本題が始まるようだ。
「別に、かまわない」
「ありがとうございます。さて、皆さんもご存じのようにこちらにおられるスニル殿は先ごろ出現したレッサードラゴンを討伐されました。しかもその際に強大な魔法を放ったことは皆さんもご覧になっていたでしょう」
ジマリートによると俺たちがレッサードラゴンと戦っている姿をしっかり全員で見ていたらしい。まぁ、いきなり現れたレッサードラゴンの対策として集まったわけだし、その対象と戦う連中を見たらそりゃぁ見るわな。
実際集まっている人々はみな頷いている。
「われら魔族は魔法に長けた種族として知られておりますが、われらですらあのような強大な魔法は扱えません。また、これは獣人族の方より聞き及んだことですが、スニル殿は”大賢者”を超えるスキルをお持ちとのこと」
ジマリートがそういうと、多くの人が馬鹿なっ、とかありえない。などといったことを言っている。そりゃぁ、”メティスル”は俺専用に神様が新たに作ったものだから当然だが。
「そこで皆さんに提案ではあるのですが、本日の新たな議題として『スニル様を新たな魔王としてお迎えするか否か』というものにしたいと考えております」
!!!!!!!!!?
特大の感嘆符が頭の上に浮かんだ。はっ? どういうこと? ちょっと意味が分からないんだけど……
「とはいえ、だいぶ壊れちゃったわね」
「それは仕方ねぇって。野郎いきなりまちなかに現れやがったんだからな」
シュンナが言うように美しいと表現していたアベイルの街の一部ではあるが瓦礫レベルまで破壊されている。ほとんどがブレスによる破壊であり俺達の攻撃によってできたわけではないことがせめてもの救いだ。
「お疲れ様3人とも」
「しゅんなぁ」
「まさか、レッサードラゴンを討伐しちまうなんてな思わなかったぞ」
父さんと母さんがサーナを連れて俺達のもとへとやってきて、なんとも言えない表情をしている。その表情はやはりまさかレッサードラゴンを討伐できるとはというおどろいきと、俺達がなんとか無事に戦いを終えたという安堵からくるものだろう。
「それは俺達もだぜ。本当にすニルはすげぇな。できるとは思っていたけどよ」
「ほんとにねぇ。ていうかあたしたちの攻撃最初ほとんど意味がなかったし」
シュンナはそう言って若干落ち込んだが、いや、それが当たり前だから……
「そうは言うが、普通は当てることすら難しいと思うぞ」
レッサードラゴンは以前にも行ったように人間と同等の知能があるだけではなく長い寿命を持つために、戦闘に関する経験も豊富だ。つまりは達人の域にいると言っても過言でもないだろう。そんな相手に攻撃を当てるそれだけでもかなりすごいと思う。間違いなく俺だけだったら魔法を当てることすらできなかっただろう。
「たしかにね。そう考えると2人は本当に強いのね」
「俺達もそれなりに強くなったとは思うが、2人には叶わないだろうな」
シュンナとダンクスの強さには父さんと母さんも負けを認めざるを得ないようだ。
「な、なぁ、ちょっといいか?」
俺達が話していると突然声をかけられたので、振り向いてみるとそこには数人の魔族が立っていた。
「なに?」
いつものごとくシュンナが対応だ。
「いや、そのあんたらがあのドラゴンを倒したのか? ていうかあのドラゴン消えたけど、どこいったんだ?」
代表して1人の男が質問してきた。
「ええ、一応ね。まぁ、あたしたちは隙きを作っただけで倒したのはこの子なんだけどね」
そう言ってシュンナは俺を指差したので男は俺を見て驚愕している。
「そんな子供が!」
「嘘でしょ!!」
「ありえない!」
魔族たちが口々にそう言って驚愕している。それはまぁ、俺みたいな見た目幼い子供がレッサードラゴンを討伐し得る魔法を行使したのは信じられないだろう。
「それに、あれは”インフェルノレーザー”だろう。あんなものを使えるって、我ら魔族ですら失われた魔法だ」
叫ぶようにそういったのはメガネをかけて白衣を身にまとった学者前とした人物だった。
「”インフェルノレーザー”、なんだそれ?」
学者魔族が言ったように本当に失われた魔法だったのだろう、話を聞いた別の魔族たちが疑問符を浮かべている。
「上級に位置する火炎魔法だ。”フレイムランス”とは比べ物にならない魔法だ」
「マジかよ!」
「そんな魔法があるのか?」
再び口々に驚愕の声が上がった。
「それにだ。最後あのレッサードラゴンが消えた理由、あれは”収納”だな。最も私が知っている”収納”とは容量が桁違いのようだが、君は一体どれだけの魔力を秘めているのか、ぜひ知りたいものだ」
そう言って学者魔族が目を光らせた。
「相当量なのは確かだよ」
俺はそれだけを答えた。
「ふむ、人族のみでありながら我らよりも圧倒的な魔力料に加え、失われた魔法まで使う。おそらくだが君は”大賢者”を持っているね」
さすが学者魔族だけあって状況からその答えを導き出したようだが、この”大賢者”という言葉に再び魔族たちが驚愕しつつも納得顔になっている。
「大賢者、まじかよ! でも確かに納得だよな」
「ええ、確かにね」
あちこちでそんな声が聞こえてきた。実際には違うんだが、特にここで否定する気もないし放置でいいだろう。
「ちょっと失礼、やはりここにおられたようですな」
人垣をかき分けて一人の魔族が現れたが、見覚えのある人物であった。
「あら、あなたは、ええと……確か、セビスさんだったかしら」
やってきたのはセビス、正直俺は顔は何となく覚えていたんだが、名前は完全に忘れていた。
んで、シュンナのおかげで思い出したが、確かこのアベイルの議会の議長を務めているジル……ジル何とかという人の秘書をしている人物だったはずだ。
「用は……ああ、もしかして……」
「はい、先ほどのレッサードラゴンの件でございます。ぜひあなた方をお呼びするようにと申し付かってまいりました」
どうやら、ジル何とかには俺たちがレッサードラゴンを討伐したという事実が伝わっているようで、その話がしたいとこのセビスを使いに出したようだ。
「まぁ、断る理由もないし別にいいわよ。ねぇ」
「ああ、そうだな」
「というか、この状況を考えると呼び出しは予想できていたしな」
俺たちは結構派手に暴れていたからな。というかそれにより結構建物が破壊されたというのもあるからこうして呼び出されるであろうことはある程度予想はできていた。特に元騎士であるダンクスは間違いなくあると考えていたようだ。
「では、こちらへどうぞ。馬車を用意いたしました」
というわけで馬車に乗り込んで先日に続き、再び議会所へと向かったのだった。
議会所へ着くとそこは、なんというか半ばパニック状態だった。多くが避難民で、中には怒号を挙げている者たちまでいる。それを警備兵たちが必死に抑え込んでいるという状況だ。
「表は少々込み合っておりますので、申し訳ありませんが裏からお願いいたします」
そういうことでセビスに促されて馬車は議会所の裏へ向かう。
そうしてやってきた議会所、その中をセビスに後に続いて歩き、2階へと上がる。どうやら今回は前回とは違う場所らしい。
そう思って後をついていくと、なんとも重厚な扉の前に立った。
「こちらでございます」
そう言ってセビスが扉を開けると、そこは何というかそこは規模こそ小さいが議事堂の議場のような作りの場所だった。そこで、一番高い椅子にこの間あった、ジマリート(来る途中で話で出てきたので思い出した)が座り、その周りにも数人が座り、その対面に多くの魔族や獣人族、エルフ、ドワーフが座っていた。見たところ現在議会が開かれている最中みたいだ。まぁ、話している内容はおそらくレッサードラゴンについてだろう。
「……」
「……!」
よくは聞こえないが会議は白熱しているようだ。
「申し訳ありませんが、少々お待ちいただけますか?」
「ああ、かまわないぜ」
会議が一段落するまで待つこととなったわけだが、ちょっと暇ということもあって会議の内容に耳を傾けてみる。
すると、やはり人間というのはどこまでも同じだということが分かった。それというのも、まず耳に入ってきたのは、責任の押し付け。彼らが話し合っているのは当然レッサードラゴンについてと、それに伴う被害状況だ。主張としては、当然のごとく警備を担当しているものが攻められているようだ。本来なら警備のものが討伐するべきではなかったのかといったものであったり、もっと早くに気が付かなかったのかというもの。それに対する警備担当は、警報装置に問題があるのではないかと技術担当の責任だという。また、技術担当も警報を出すかどうかの判断が遅かった。などといったなんともよくある口論となっている。
正直俺に言わせてもらえば、そもそも今回の件はただの人間にはいろいろ無理がある。というか俺ですら気が付くのが遅れるほどレッサードラゴンは猛スピードでやってきた。これに気が付けというのは酷というものだろう。つまり、仕方なかった、そう片付けるが一番いいと思う。でも、そういうわけにはいかないらしく話し合いが白熱しているというわけだ。さて、とはいえさすがにこれ以上口論を聞き続けるのも厄介だし、そもそも俺たちはいまだ放置されている。いい加減こっちの用件を終えたいんだけどな。
そう思っていると、議長であるジマリートが静かに声を上げた。
「此度の件について、先ごろレッサードラゴンを討伐した者たちを呼んである。詳しい話は彼らに聞こうではないかな」
そういうと俺たちを見たジマリート、その目線に従い議員たちもまた俺たちを注目している。
中には、あれが獣人族の英雄か、といった言葉やまだ子供ではないかというようなことまでつぶやいている。
「静粛に、スニル殿ぜひこちらに、レッサードラゴンについて聞かせてもらいたい」
ジマリートがそう言ったことでセビスが立ち上がり、こちらですと促して来たのでやっとかと腰を上げてセビスの後について歩きだしたのだった。
そうしてやってきたのは、ジマリートが座る場所から一段低いところ、どうやらここは俺たちのように外部の人間を招き聴取する場所のようだ。
「さて、まずは此度のことアベイルを代表して礼を述べさせていただきたい。あなた方のおかげをもち街が救われた。感謝する」
そう言ってジマリートは立ち上がってから頭を下げた。同時にほかの議員も立ち上がり頭を下げてきたわけだが、これにはちょっと戸惑ってしまった。
この倍にいる議員はおよそ100人、それだけの数からいきなり一斉に頭を下げられればちょっとした恐怖を感じたからだ。でも、それを表には一切出さず黙って様子を見ている。
「あたしたちは自分たちの身を守っただけよ。それであたしたちを呼んだのはそのお礼を言うためじゃないのよね」
いつものごとくシュンナが代表して尋ねている。
「もちろんだ。まず聞きたいのはなぜ、人族であるあなた方がわれらを守ってくださったのか、それを聞きたい」
ジルマリートがそういうと多くの議員がうなずいている。おそらくかららにとっても人族は敵、そんな人族である俺たちがどうしてレッサードラゴンを討伐したのか聞きたいのだろう。
「さっきも言った通りあたしたちは自分たちの身を守っただけ、まぁ、その前にあたしたちは人族とか魔族とかそういった、ただ種族が違うだけにこだわってないというだけよ」
シュンナが言ったことは俺たち共通の認識だ。
「種族が違うだけだとっ」
「馬鹿なっ、お前たち人族がこれまでわれらにしてきたことを忘れたわけではないだろう!」
議員の中にはそう言って怒号を上げるものも多くいたが、これもまた仕方ない。ちなみに今現在そう言って声を上げているのは実際に被害を受けてきているエルフやドワーフ、獣人族ばかり。魔族はここアベイルに引きこもっており、人族と接触することがないために伝聞程度でしかなくそこまで人族に怒りは覚えていないようだ。
「そう言われても、あたしたちは田舎出身だから、特にほかの種族とかかわったことがなかったしそういう風に教わっていないのよ」
これもまた事実で、俺たちが育た場所には他種族自体がほとんどいなかったから差別意識を持ちようがなかった。そもそも俺は自分のことで精いっぱいの状況で育ち、記憶を取り戻した時も”森羅万象”の記述で他種族が種族が違うだけであるという真実を知っていたし、何より前世の記憶により他種族の存在は逆にテンションが上がるんだよなぁ。まぁ、そこまで説明する気はないけどな。
とまぁ、シュンナもそういうことを言うわけではなく俺たちには差別意識がないということを強調していた。
「ふむ、確かに彼らは獣人族であるその娘を保護し里まで送り届けたという話もあり、何より獣人族の英雄として知られている。そんな彼らに今更われらに対する差別はないだろう。そうは思わんかな」
「む、た、確かに、ですが……」
ジマリートの言葉に納得するものがいる一方で、やはり納得しきれないというものもそれなりにいるようだ。
「やっぱり、溝は深いみたいね」
「まぁ、2500年以上も迫害を受けていればな」
キリエルタ教ができてからすでにそれほどの期間が経っており、現在でもなお彼らは迫害を受け続けているのだから人族である俺たちに警戒するのは必然といえるかもしれないな。俺たちがしたことを考えてもそれで納得しろというのが無理がある気がする。
その後も、会議での話し合いは俺たちを半ば無視して白熱していくことになったが、最終的に俺たちのことは受け入れるが人族はやはり信用できないというとなった。まっ、俺たちだけ特例ってわけだ。
「さて、スニル殿方をお呼びしておいてこのような話し合いになったことをまずはお詫びします。しかし、これを放置し話を進めるわけにはいかなかったのです」
ジマリートが壇上から降りてきて頭を下げつつそういった。どうやら、俺たちがここに呼び出された本題が始まるようだ。
「別に、かまわない」
「ありがとうございます。さて、皆さんもご存じのようにこちらにおられるスニル殿は先ごろ出現したレッサードラゴンを討伐されました。しかもその際に強大な魔法を放ったことは皆さんもご覧になっていたでしょう」
ジマリートによると俺たちがレッサードラゴンと戦っている姿をしっかり全員で見ていたらしい。まぁ、いきなり現れたレッサードラゴンの対策として集まったわけだし、その対象と戦う連中を見たらそりゃぁ見るわな。
実際集まっている人々はみな頷いている。
「われら魔族は魔法に長けた種族として知られておりますが、われらですらあのような強大な魔法は扱えません。また、これは獣人族の方より聞き及んだことですが、スニル殿は”大賢者”を超えるスキルをお持ちとのこと」
ジマリートがそういうと、多くの人が馬鹿なっ、とかありえない。などといったことを言っている。そりゃぁ、”メティスル”は俺専用に神様が新たに作ったものだから当然だが。
「そこで皆さんに提案ではあるのですが、本日の新たな議題として『スニル様を新たな魔王としてお迎えするか否か』というものにしたいと考えております」
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