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第07章 魔王

04 魔族の接待

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「少しよろしいでしょうか?」

 夕飯を食い終わり、食後に落ち着いているとふいにそう言って声を掛けられた。見てみるとそこにいたのは紳士風ないでたちをした魔族の男性だった。

「何かしら?」

 これまたいつものごとくシュンナが応対した。

「失礼ですが、そちらはスニル様でいらっしゃいますか?」

 声を掛けてきた魔族の男が俺を見て、俺がスニルかどうかと尋ねてきた。

「ええ、そうだけどあなたは?」

 この街にはすでに獣人族やエルフたちから俺たちのことが伝えられているので、この魔族が俺のことを知っていても全く不思議ではない。というかそうでなけれは俺たちが昨日今日と大手を振って街中を歩き回ることなどできるはずがなく普通に攻撃されるだろう。

「これは失礼、わたくしは種族議会ジマリート議長の秘書を務めさせていただいております。セビスと申します。以後お見知りおきを願います」

 そう言って自己紹介をしてくれたわけだが、この種族議会というのは、名前のごとくこの島に住む魔族を始めエルフ、獣人族、ドワーフを統括するもので、日本でいう国会のようなものだ。そして、ジマリートという人物の役職が議長ということは、総理大臣のような人物ということだ。その秘書をしている人物が俺に一体何の用なんだろうか。と、思ってみるがぶっちゃけ予測はできている。

「ずいぶんなお偉いさんが出てきたものだな」
「ほんとね」
「それで、その秘書さんが何の用かしら」

 ダンクスが少し揶揄し、母さんが同意したところでシュンナが用事を聞いてくれた。

「はい、失礼とは存じますが、主人がぜひお会いしたいと願っております。どうかこの願いお聞き届け願えませんでしょうか?」

 あくまで低姿勢でそう言ってきたが、はてさてどうしたものか。

「なるほどねぇ。スニル、どうする?」

 ここにきてシュンナが俺に聞いてきた。

「予想はしてたし、特に断る理由はないな」
「そっ」

 いつもならお偉いさんに会うなんて面倒ごとは是非にも避けたいところなんだが、俺たちは獣人族を助けた英雄とされており、その獣人たちとここの魔族たちとは運命共同体のような関係を築ているらしくこのように接触してくることは事前にわかっていたことだった。というか俺たちが大手を振って昨日今日と街中を歩き回っても周囲から悪感情を向けられなかったのは、俺たちが獣人族を救った英雄であるということが周知されていたからでしかなくそれを行ったのが、その種族議会という人たちのおかげである。だからその誰かが接触してくるだろうとは思っていた。まぁ、思っていたよりも遅かったけどね。

「だそうよ」
「ありがとうございます。では、早速ですが明日でもよろしいでしょうか?」

 セビスはそう言ったが、明日か、特に予定はないな。というわけで両親やシュンナダンクスを見渡してから軽くうなずいた。

「ええ、いいわよ。特に予定もないし」

 俺がうなずいたのを見たシュンナがそう言って答えた。

「畏まりました。では、明日お迎えに上がります」
「ええ、お願い」

 その後、シュンナとセビスで何時ごろに迎えに来るとかほか細かい話を詰めていったのであった。その間俺たちはというと話は終わったとばかりに再び落ち着いていたのだった。


 翌日

「皆さま、お迎えに上がりました」
「ええ、わかったわ。みんな行きましょ」
「ああ」
「おう」
「あいっ」

 セビスが迎えに来たところで、俺たちが順に返事をしていると最後に元気よくサーナが手を上げて返事をした。……うん、これはわかってはいないな。俺たちの返事をまねしただけだろう。しかし俺たちはそんなサーナを見て見事全員が顔をほころばせていた。


 セビスの後について宿の外に出ると、そこには何とも豪華な造りの馬車がたたずんでいた。

「どうぞお乗りください」

 誰のだろうかと思っていると、セビスがそう言って乗るようにと促してきた。まさか、俺たち用だったとは、そうは思うが拒否するわけにもいかずおとなしく乗り込んだのだった。

 そうして、揺られること5分、まさにあっという間に馬車が停車した。どうやらもう着いたようで、馬車から降りていくセビス、いや、ていうか近くない。これじゃ馬車に乗る意味が分からない。

 そうは思うも特に何も言わず、俺たちはセビスに続いて馬車を降り、そのあとをついていく。

「おっきいーね」
「そうね」
「確かにな」

 目の前にある建物を見て大きいと手を伸ばすサーナに、母さんが答えて続いて父さんが同意した。この建物に関しては街について時から気にはなっていた。

「こちらは現在議会所となっております。どうぞこちらへ、主人がお待ちです」

 セビスによると、この建物は議会所、日本でいうところの国会議事堂って奴らしい。尤もどう見ても城なんだけどな。

「こちらはもともと城として建てられたのですが、あいにくと我らに王はおりませんので、議会所として使っているのです」

 本当に城だったようだが、王がいないのになぜ城を作ったのか、よくわからん。


 それはともかく俺たちはセビスに促されるままに城、改め議会所へと足を踏み入れたのだった。

「うわっ、すごっ、なにこれ!」
「綺麗ねぇ」
「そうか?」
「まぶしいな」
「うわぁ」
「金かかってそうだな」

 シュンナと母さん、サーナの女性陣は感嘆の声を上げているが、ダンクス、俺、父さんの男連中は何がすごいのかというのが全くわからなかった。ていうかほんとにまぶしいんだけど、目がちかちかする。あちこちに金を使ったり光が多様過ぎてほんとまぶしい。まぁ、シュンナも母さんも宝石とか好きだしな。こうしたキラキラしたものがいいんだろう。あいにくと俺には宝石はただの石ころにしか見えないんだけどな。それは父さんやダンクスも同様だ。

「お気に召しましたでしょうか。こちらはドワーフが作ったものです」

 ドワーフと言えば技術、俺たちが今まで出会ったドワーフはカリブリンの鍛冶屋だが、ドワーフがあらゆる技術を極めるのが得意で目標としている種族だ。そのためこうした装飾系のものもドワーフの技術が生きるというわけだ。ていうか本当にドワーフってすごいよな。おっ、あの絵もドワーフかな。

 俺が見つけたのは、どこかは分からないが風景画でなんというか落ち着く雰囲気を出したものだった。なんか日本の原風景みたいだ。尤もかやぶき屋根の家はないけどな。

「そちらは、エシュタル作の幻風景げんふうけいという作品です。エシュタルによると夢で見た風景だそうです」

 夢で見たものを描くって、それはまたすごいな。俺だったら夢で見た風景なんて起きたら覚えていないぞ。
 なんてことを感心しつつ階段を上がり、3階に上がったところで廊下を歩く。

 そうして少し歩いたところでセビスが立ち止まった。

「こちらでございます」

 そう言った後扉をノックしたところ中から返事がした。

「スニル様方をお連れいたしました」
「おおっ、入ってくれ」
「失礼いたします」

 中から男の声がしたところでセビスがゆっくりと扉を上げて中へと入っていった。そして、そのまま扉を開けつつ一礼して俺たちに入るようにと促した。

「失礼するわ」
「おおっ、これはまた、美しい、ようこそ、私は議会において議長を務めさせてもらっているジマリート申します」
「あたしはシュンナ、こっちの大きいのがダンクスで、こっちがミリアとヒュリック、あとサーナとこの子がスニルよ」

 本来なら招待を受けた俺がみんなを紹介するべきなんだろうが、あいにくと俺は人見知り、この世界にきて多少は治ってきたとはいえ、まだまだこうしたことはできない。そこで、いつの模様に人当たりの言いシュンナが代わりを務めているというわけだ。

「なるほど、そちらがスニル殿ですか」

 ジマリートは俺を確認すると俺へ向かって小さく微笑んだ。

「さぁどうぞ、お座りください。セビスお茶を」
「はっ」

 座るようにと勧められたので俺たちを素直にそれに従いソファに座ったのだった。

「改めて、お初にお目にかかります。スニル殿」
「……」

 ジマリートがそう言って俺に改めて挨拶をしてきたが、俺はそれに返さなきゃと思いながらもいつのごとく無言でうなずくだけとなってしまった。ほんとこれ、いい加減直さないとな。

「ごめんなさい、スニルは人見知りだから、初めて会った人にはちゃんと喋れないのよ」
「いえ、そのこともうかがっておりますから、お気になさらずに、しかし、こうしてみてみると普通の子供に見え、まさか獣人族の英雄とは思えませんな」

 当然ながら俺が獣人族の英雄ともてはやされているのは知っているようだ。まぁ、今回呼ばれたのもそのことについて以外ないだろうけど。

「まっ、色々あったからね。それで、今日呼んだ理由を聞かせてもらえる」

 シュンナはさっそく本題に入るようだ。

「ええ、もちろん。本日お招きしましたのは、獣人族の英雄たるスニル殿にお会いし、ご挨拶をと思ったのです」
「挨拶?」
「はい、獣人族からもエルフからのスニル殿のことはお聞きし是非にお会いしたいと思ったのです。また、1つお聞きしたいのですがよろしいですかな」

 俺が声を発したことに少し驚きつつも、何やら質問があるらしい。なんだろうか。無言で首をかしげてみた。

「率直聞きます。なぜ、獣人族に対してあれほどのことを、こういっては何ですがスニル殿は人族、ならば我等他種族に対しては差別の意識がおありなのでは?」

 ジマリートが言いたいことは分かった。つまり俺たちがやったことが理解できないのだろう。長い年月人族からさげすまれてきたからこそ、同じ人族である俺たちが信じられないというわけだ。

「なんてことない。サーナのため」

 ここは自分で答えるべきだろうと、短いながらもそう答えた。俺があの時獣人族を助けたのはどこまで行ってもサーナのためだからな。

「? それはどういう、いえ、そちらのサーナちゃんでしたな。その子が獣人族の子であることは分かりますが」

 少し言葉が足りなかったようだ。

「……東獣人族にはサーナの家族がいる。その家族を守ることはサーナの心を守ることにつながる」
「ああ、ええとあたしたちはこの子が生まれて間もないころからずっと育ててきたのよ……」

 俺の言葉がまだまだ足りなかったようでシュンナが補足説明をしてくれている。俺ってばほんと人としゃべることがほとんどないから会話をしても要領を得ないというか、自分でも言っててよくわからなくなることがある。というか人に説明とかまじ無理。だからこういう時シュンナの存在は助かる。

「というわけ」
「なるほど、しかし、たったそれだけのことであそこまでしていただけたのですか?」

 俺たちの動機は単純にサーナのため、これに尽きるわけだが、ジマリートからしたらそんな小さな女の子のためだけにあそこまでするものなのかと驚いている。

「あたしたちにとっては大きいことだからね。まっ、中央や西に関してはついでかな」

 シュンナが語ったことが俺たちの本音だ。

「それに、あたしたちは別に他種族に対して思うところはないわよ。まぁ、田舎育ちだからっていうのもあるけど、何よりあたしたちは真実っていうのかな。魔族や獣人族、エルフとドワーフ、人族以外の種族がただの別の種族の人間だってことを知っているからね。同じ人間である以上違いはないでしょ。まぁ、さすがに魔族に対しての恐怖心は少しあるけれどね」

 シュンナはそう言って微笑んだ。その笑みを見たジマリートはシュンナに若干見とれた後、ごまかすように咳払いして何かを考えている。

「そうでしたか、人族の中にはあなた方のような人物がいるということなのですね」
「まぁね。といってもあまりいないとは思うけれど、あたしたちはたまたま知っているだけだし」
「そうですか、心しておきます」

 その後俺たちは適当な話をした後、仕事があるというジマリートに別れを告げて宿へと戻ったのだった。
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