98 / 163
第07章 魔王
04 魔族の接待
しおりを挟む
「少しよろしいでしょうか?」
夕飯を食い終わり、食後に落ち着いているとふいにそう言って声を掛けられた。見てみるとそこにいたのは紳士風ないでたちをした魔族の男性だった。
「何かしら?」
これまたいつものごとくシュンナが応対した。
「失礼ですが、そちらはスニル様でいらっしゃいますか?」
声を掛けてきた魔族の男が俺を見て、俺がスニルかどうかと尋ねてきた。
「ええ、そうだけどあなたは?」
この街にはすでに獣人族やエルフたちから俺たちのことが伝えられているので、この魔族が俺のことを知っていても全く不思議ではない。というかそうでなけれは俺たちが昨日今日と大手を振って街中を歩き回ることなどできるはずがなく普通に攻撃されるだろう。
「これは失礼、わたくしは種族議会ジマリート議長の秘書を務めさせていただいております。セビスと申します。以後お見知りおきを願います」
そう言って自己紹介をしてくれたわけだが、この種族議会というのは、名前のごとくこの島に住む魔族を始めエルフ、獣人族、ドワーフを統括するもので、日本でいう国会のようなものだ。そして、ジマリートという人物の役職が議長ということは、総理大臣のような人物ということだ。その秘書をしている人物が俺に一体何の用なんだろうか。と、思ってみるがぶっちゃけ予測はできている。
「ずいぶんなお偉いさんが出てきたものだな」
「ほんとね」
「それで、その秘書さんが何の用かしら」
ダンクスが少し揶揄し、母さんが同意したところでシュンナが用事を聞いてくれた。
「はい、失礼とは存じますが、主人がぜひお会いしたいと願っております。どうかこの願いお聞き届け願えませんでしょうか?」
あくまで低姿勢でそう言ってきたが、はてさてどうしたものか。
「なるほどねぇ。スニル、どうする?」
ここにきてシュンナが俺に聞いてきた。
「予想はしてたし、特に断る理由はないな」
「そっ」
いつもならお偉いさんに会うなんて面倒ごとは是非にも避けたいところなんだが、俺たちは獣人族を助けた英雄とされており、その獣人たちとここの魔族たちとは運命共同体のような関係を築ているらしくこのように接触してくることは事前にわかっていたことだった。というか俺たちが大手を振って昨日今日と街中を歩き回っても周囲から悪感情を向けられなかったのは、俺たちが獣人族を救った英雄であるということが周知されていたからでしかなくそれを行ったのが、その種族議会という人たちのおかげである。だからその誰かが接触してくるだろうとは思っていた。まぁ、思っていたよりも遅かったけどね。
「だそうよ」
「ありがとうございます。では、早速ですが明日でもよろしいでしょうか?」
セビスはそう言ったが、明日か、特に予定はないな。というわけで両親やシュンナダンクスを見渡してから軽くうなずいた。
「ええ、いいわよ。特に予定もないし」
俺がうなずいたのを見たシュンナがそう言って答えた。
「畏まりました。では、明日お迎えに上がります」
「ええ、お願い」
その後、シュンナとセビスで何時ごろに迎えに来るとかほか細かい話を詰めていったのであった。その間俺たちはというと話は終わったとばかりに再び落ち着いていたのだった。
翌日
「皆さま、お迎えに上がりました」
「ええ、わかったわ。みんな行きましょ」
「ああ」
「おう」
「あいっ」
セビスが迎えに来たところで、俺たちが順に返事をしていると最後に元気よくサーナが手を上げて返事をした。……うん、これはわかってはいないな。俺たちの返事をまねしただけだろう。しかし俺たちはそんなサーナを見て見事全員が顔をほころばせていた。
セビスの後について宿の外に出ると、そこには何とも豪華な造りの馬車がたたずんでいた。
「どうぞお乗りください」
誰のだろうかと思っていると、セビスがそう言って乗るようにと促してきた。まさか、俺たち用だったとは、そうは思うが拒否するわけにもいかずおとなしく乗り込んだのだった。
そうして、揺られること5分、まさにあっという間に馬車が停車した。どうやらもう着いたようで、馬車から降りていくセビス、いや、ていうか近くない。これじゃ馬車に乗る意味が分からない。
そうは思うも特に何も言わず、俺たちはセビスに続いて馬車を降り、そのあとをついていく。
「おっきいーね」
「そうね」
「確かにな」
目の前にある建物を見て大きいと手を伸ばすサーナに、母さんが答えて続いて父さんが同意した。この建物に関しては街について時から気にはなっていた。
「こちらは現在議会所となっております。どうぞこちらへ、主人がお待ちです」
セビスによると、この建物は議会所、日本でいうところの国会議事堂って奴らしい。尤もどう見ても城なんだけどな。
「こちらはもともと城として建てられたのですが、あいにくと我らに王はおりませんので、議会所として使っているのです」
本当に城だったようだが、王がいないのになぜ城を作ったのか、よくわからん。
それはともかく俺たちはセビスに促されるままに城、改め議会所へと足を踏み入れたのだった。
「うわっ、すごっ、なにこれ!」
「綺麗ねぇ」
「そうか?」
「まぶしいな」
「うわぁ」
「金かかってそうだな」
シュンナと母さん、サーナの女性陣は感嘆の声を上げているが、ダンクス、俺、父さんの男連中は何がすごいのかというのが全くわからなかった。ていうかほんとにまぶしいんだけど、目がちかちかする。あちこちに金を使ったり光が多様過ぎてほんとまぶしい。まぁ、シュンナも母さんも宝石とか好きだしな。こうしたキラキラしたものがいいんだろう。あいにくと俺には宝石はただの石ころにしか見えないんだけどな。それは父さんやダンクスも同様だ。
「お気に召しましたでしょうか。こちらはドワーフが作ったものです」
ドワーフと言えば技術、俺たちが今まで出会ったドワーフはカリブリンの鍛冶屋だが、ドワーフがあらゆる技術を極めるのが得意で目標としている種族だ。そのためこうした装飾系のものもドワーフの技術が生きるというわけだ。ていうか本当にドワーフってすごいよな。おっ、あの絵もドワーフかな。
俺が見つけたのは、どこかは分からないが風景画でなんというか落ち着く雰囲気を出したものだった。なんか日本の原風景みたいだ。尤もかやぶき屋根の家はないけどな。
「そちらは、エシュタル作の幻風景という作品です。エシュタルによると夢で見た風景だそうです」
夢で見たものを描くって、それはまたすごいな。俺だったら夢で見た風景なんて起きたら覚えていないぞ。
なんてことを感心しつつ階段を上がり、3階に上がったところで廊下を歩く。
そうして少し歩いたところでセビスが立ち止まった。
「こちらでございます」
そう言った後扉をノックしたところ中から返事がした。
「スニル様方をお連れいたしました」
「おおっ、入ってくれ」
「失礼いたします」
中から男の声がしたところでセビスがゆっくりと扉を上げて中へと入っていった。そして、そのまま扉を開けつつ一礼して俺たちに入るようにと促した。
「失礼するわ」
「おおっ、これはまた、美しい、ようこそ、私は議会において議長を務めさせてもらっているジマリート申します」
「あたしはシュンナ、こっちの大きいのがダンクスで、こっちがミリアとヒュリック、あとサーナとこの子がスニルよ」
本来なら招待を受けた俺がみんなを紹介するべきなんだろうが、あいにくと俺は人見知り、この世界にきて多少は治ってきたとはいえ、まだまだこうしたことはできない。そこで、いつの模様に人当たりの言いシュンナが代わりを務めているというわけだ。
「なるほど、そちらがスニル殿ですか」
ジマリートは俺を確認すると俺へ向かって小さく微笑んだ。
「さぁどうぞ、お座りください。セビスお茶を」
「はっ」
座るようにと勧められたので俺たちを素直にそれに従いソファに座ったのだった。
「改めて、お初にお目にかかります。スニル殿」
「……」
ジマリートがそう言って俺に改めて挨拶をしてきたが、俺はそれに返さなきゃと思いながらもいつのごとく無言でうなずくだけとなってしまった。ほんとこれ、いい加減直さないとな。
「ごめんなさい、スニルは人見知りだから、初めて会った人にはちゃんと喋れないのよ」
「いえ、そのこともうかがっておりますから、お気になさらずに、しかし、こうしてみてみると普通の子供に見え、まさか獣人族の英雄とは思えませんな」
当然ながら俺が獣人族の英雄ともてはやされているのは知っているようだ。まぁ、今回呼ばれたのもそのことについて以外ないだろうけど。
「まっ、色々あったからね。それで、今日呼んだ理由を聞かせてもらえる」
シュンナはさっそく本題に入るようだ。
「ええ、もちろん。本日お招きしましたのは、獣人族の英雄たるスニル殿にお会いし、ご挨拶をと思ったのです」
「挨拶?」
「はい、獣人族からもエルフからのスニル殿のことはお聞きし是非にお会いしたいと思ったのです。また、1つお聞きしたいのですがよろしいですかな」
俺が声を発したことに少し驚きつつも、何やら質問があるらしい。なんだろうか。無言で首をかしげてみた。
「率直聞きます。なぜ、獣人族に対してあれほどのことを、こういっては何ですがスニル殿は人族、ならば我等他種族に対しては差別の意識がおありなのでは?」
ジマリートが言いたいことは分かった。つまり俺たちがやったことが理解できないのだろう。長い年月人族からさげすまれてきたからこそ、同じ人族である俺たちが信じられないというわけだ。
「なんてことない。サーナのため」
ここは自分で答えるべきだろうと、短いながらもそう答えた。俺があの時獣人族を助けたのはどこまで行ってもサーナのためだからな。
「? それはどういう、いえ、そちらのサーナちゃんでしたな。その子が獣人族の子であることは分かりますが」
少し言葉が足りなかったようだ。
「……東獣人族にはサーナの家族がいる。その家族を守ることはサーナの心を守ることにつながる」
「ああ、ええとあたしたちはこの子が生まれて間もないころからずっと育ててきたのよ……」
俺の言葉がまだまだ足りなかったようでシュンナが補足説明をしてくれている。俺ってばほんと人としゃべることがほとんどないから会話をしても要領を得ないというか、自分でも言っててよくわからなくなることがある。というか人に説明とかまじ無理。だからこういう時シュンナの存在は助かる。
「というわけ」
「なるほど、しかし、たったそれだけのことであそこまでしていただけたのですか?」
俺たちの動機は単純にサーナのため、これに尽きるわけだが、ジマリートからしたらそんな小さな女の子のためだけにあそこまでするものなのかと驚いている。
「あたしたちにとっては大きいことだからね。まっ、中央や西に関してはついでかな」
シュンナが語ったことが俺たちの本音だ。
「それに、あたしたちは別に他種族に対して思うところはないわよ。まぁ、田舎育ちだからっていうのもあるけど、何よりあたしたちは真実っていうのかな。魔族や獣人族、エルフとドワーフ、人族以外の種族がただの別の種族の人間だってことを知っているからね。同じ人間である以上違いはないでしょ。まぁ、さすがに魔族に対しての恐怖心は少しあるけれどね」
シュンナはそう言って微笑んだ。その笑みを見たジマリートはシュンナに若干見とれた後、ごまかすように咳払いして何かを考えている。
「そうでしたか、人族の中にはあなた方のような人物がいるということなのですね」
「まぁね。といってもあまりいないとは思うけれど、あたしたちはたまたま知っているだけだし」
「そうですか、心しておきます」
その後俺たちは適当な話をした後、仕事があるというジマリートに別れを告げて宿へと戻ったのだった。
夕飯を食い終わり、食後に落ち着いているとふいにそう言って声を掛けられた。見てみるとそこにいたのは紳士風ないでたちをした魔族の男性だった。
「何かしら?」
これまたいつものごとくシュンナが応対した。
「失礼ですが、そちらはスニル様でいらっしゃいますか?」
声を掛けてきた魔族の男が俺を見て、俺がスニルかどうかと尋ねてきた。
「ええ、そうだけどあなたは?」
この街にはすでに獣人族やエルフたちから俺たちのことが伝えられているので、この魔族が俺のことを知っていても全く不思議ではない。というかそうでなけれは俺たちが昨日今日と大手を振って街中を歩き回ることなどできるはずがなく普通に攻撃されるだろう。
「これは失礼、わたくしは種族議会ジマリート議長の秘書を務めさせていただいております。セビスと申します。以後お見知りおきを願います」
そう言って自己紹介をしてくれたわけだが、この種族議会というのは、名前のごとくこの島に住む魔族を始めエルフ、獣人族、ドワーフを統括するもので、日本でいう国会のようなものだ。そして、ジマリートという人物の役職が議長ということは、総理大臣のような人物ということだ。その秘書をしている人物が俺に一体何の用なんだろうか。と、思ってみるがぶっちゃけ予測はできている。
「ずいぶんなお偉いさんが出てきたものだな」
「ほんとね」
「それで、その秘書さんが何の用かしら」
ダンクスが少し揶揄し、母さんが同意したところでシュンナが用事を聞いてくれた。
「はい、失礼とは存じますが、主人がぜひお会いしたいと願っております。どうかこの願いお聞き届け願えませんでしょうか?」
あくまで低姿勢でそう言ってきたが、はてさてどうしたものか。
「なるほどねぇ。スニル、どうする?」
ここにきてシュンナが俺に聞いてきた。
「予想はしてたし、特に断る理由はないな」
「そっ」
いつもならお偉いさんに会うなんて面倒ごとは是非にも避けたいところなんだが、俺たちは獣人族を助けた英雄とされており、その獣人たちとここの魔族たちとは運命共同体のような関係を築ているらしくこのように接触してくることは事前にわかっていたことだった。というか俺たちが大手を振って昨日今日と街中を歩き回っても周囲から悪感情を向けられなかったのは、俺たちが獣人族を救った英雄であるということが周知されていたからでしかなくそれを行ったのが、その種族議会という人たちのおかげである。だからその誰かが接触してくるだろうとは思っていた。まぁ、思っていたよりも遅かったけどね。
「だそうよ」
「ありがとうございます。では、早速ですが明日でもよろしいでしょうか?」
セビスはそう言ったが、明日か、特に予定はないな。というわけで両親やシュンナダンクスを見渡してから軽くうなずいた。
「ええ、いいわよ。特に予定もないし」
俺がうなずいたのを見たシュンナがそう言って答えた。
「畏まりました。では、明日お迎えに上がります」
「ええ、お願い」
その後、シュンナとセビスで何時ごろに迎えに来るとかほか細かい話を詰めていったのであった。その間俺たちはというと話は終わったとばかりに再び落ち着いていたのだった。
翌日
「皆さま、お迎えに上がりました」
「ええ、わかったわ。みんな行きましょ」
「ああ」
「おう」
「あいっ」
セビスが迎えに来たところで、俺たちが順に返事をしていると最後に元気よくサーナが手を上げて返事をした。……うん、これはわかってはいないな。俺たちの返事をまねしただけだろう。しかし俺たちはそんなサーナを見て見事全員が顔をほころばせていた。
セビスの後について宿の外に出ると、そこには何とも豪華な造りの馬車がたたずんでいた。
「どうぞお乗りください」
誰のだろうかと思っていると、セビスがそう言って乗るようにと促してきた。まさか、俺たち用だったとは、そうは思うが拒否するわけにもいかずおとなしく乗り込んだのだった。
そうして、揺られること5分、まさにあっという間に馬車が停車した。どうやらもう着いたようで、馬車から降りていくセビス、いや、ていうか近くない。これじゃ馬車に乗る意味が分からない。
そうは思うも特に何も言わず、俺たちはセビスに続いて馬車を降り、そのあとをついていく。
「おっきいーね」
「そうね」
「確かにな」
目の前にある建物を見て大きいと手を伸ばすサーナに、母さんが答えて続いて父さんが同意した。この建物に関しては街について時から気にはなっていた。
「こちらは現在議会所となっております。どうぞこちらへ、主人がお待ちです」
セビスによると、この建物は議会所、日本でいうところの国会議事堂って奴らしい。尤もどう見ても城なんだけどな。
「こちらはもともと城として建てられたのですが、あいにくと我らに王はおりませんので、議会所として使っているのです」
本当に城だったようだが、王がいないのになぜ城を作ったのか、よくわからん。
それはともかく俺たちはセビスに促されるままに城、改め議会所へと足を踏み入れたのだった。
「うわっ、すごっ、なにこれ!」
「綺麗ねぇ」
「そうか?」
「まぶしいな」
「うわぁ」
「金かかってそうだな」
シュンナと母さん、サーナの女性陣は感嘆の声を上げているが、ダンクス、俺、父さんの男連中は何がすごいのかというのが全くわからなかった。ていうかほんとにまぶしいんだけど、目がちかちかする。あちこちに金を使ったり光が多様過ぎてほんとまぶしい。まぁ、シュンナも母さんも宝石とか好きだしな。こうしたキラキラしたものがいいんだろう。あいにくと俺には宝石はただの石ころにしか見えないんだけどな。それは父さんやダンクスも同様だ。
「お気に召しましたでしょうか。こちらはドワーフが作ったものです」
ドワーフと言えば技術、俺たちが今まで出会ったドワーフはカリブリンの鍛冶屋だが、ドワーフがあらゆる技術を極めるのが得意で目標としている種族だ。そのためこうした装飾系のものもドワーフの技術が生きるというわけだ。ていうか本当にドワーフってすごいよな。おっ、あの絵もドワーフかな。
俺が見つけたのは、どこかは分からないが風景画でなんというか落ち着く雰囲気を出したものだった。なんか日本の原風景みたいだ。尤もかやぶき屋根の家はないけどな。
「そちらは、エシュタル作の幻風景という作品です。エシュタルによると夢で見た風景だそうです」
夢で見たものを描くって、それはまたすごいな。俺だったら夢で見た風景なんて起きたら覚えていないぞ。
なんてことを感心しつつ階段を上がり、3階に上がったところで廊下を歩く。
そうして少し歩いたところでセビスが立ち止まった。
「こちらでございます」
そう言った後扉をノックしたところ中から返事がした。
「スニル様方をお連れいたしました」
「おおっ、入ってくれ」
「失礼いたします」
中から男の声がしたところでセビスがゆっくりと扉を上げて中へと入っていった。そして、そのまま扉を開けつつ一礼して俺たちに入るようにと促した。
「失礼するわ」
「おおっ、これはまた、美しい、ようこそ、私は議会において議長を務めさせてもらっているジマリート申します」
「あたしはシュンナ、こっちの大きいのがダンクスで、こっちがミリアとヒュリック、あとサーナとこの子がスニルよ」
本来なら招待を受けた俺がみんなを紹介するべきなんだろうが、あいにくと俺は人見知り、この世界にきて多少は治ってきたとはいえ、まだまだこうしたことはできない。そこで、いつの模様に人当たりの言いシュンナが代わりを務めているというわけだ。
「なるほど、そちらがスニル殿ですか」
ジマリートは俺を確認すると俺へ向かって小さく微笑んだ。
「さぁどうぞ、お座りください。セビスお茶を」
「はっ」
座るようにと勧められたので俺たちを素直にそれに従いソファに座ったのだった。
「改めて、お初にお目にかかります。スニル殿」
「……」
ジマリートがそう言って俺に改めて挨拶をしてきたが、俺はそれに返さなきゃと思いながらもいつのごとく無言でうなずくだけとなってしまった。ほんとこれ、いい加減直さないとな。
「ごめんなさい、スニルは人見知りだから、初めて会った人にはちゃんと喋れないのよ」
「いえ、そのこともうかがっておりますから、お気になさらずに、しかし、こうしてみてみると普通の子供に見え、まさか獣人族の英雄とは思えませんな」
当然ながら俺が獣人族の英雄ともてはやされているのは知っているようだ。まぁ、今回呼ばれたのもそのことについて以外ないだろうけど。
「まっ、色々あったからね。それで、今日呼んだ理由を聞かせてもらえる」
シュンナはさっそく本題に入るようだ。
「ええ、もちろん。本日お招きしましたのは、獣人族の英雄たるスニル殿にお会いし、ご挨拶をと思ったのです」
「挨拶?」
「はい、獣人族からもエルフからのスニル殿のことはお聞きし是非にお会いしたいと思ったのです。また、1つお聞きしたいのですがよろしいですかな」
俺が声を発したことに少し驚きつつも、何やら質問があるらしい。なんだろうか。無言で首をかしげてみた。
「率直聞きます。なぜ、獣人族に対してあれほどのことを、こういっては何ですがスニル殿は人族、ならば我等他種族に対しては差別の意識がおありなのでは?」
ジマリートが言いたいことは分かった。つまり俺たちがやったことが理解できないのだろう。長い年月人族からさげすまれてきたからこそ、同じ人族である俺たちが信じられないというわけだ。
「なんてことない。サーナのため」
ここは自分で答えるべきだろうと、短いながらもそう答えた。俺があの時獣人族を助けたのはどこまで行ってもサーナのためだからな。
「? それはどういう、いえ、そちらのサーナちゃんでしたな。その子が獣人族の子であることは分かりますが」
少し言葉が足りなかったようだ。
「……東獣人族にはサーナの家族がいる。その家族を守ることはサーナの心を守ることにつながる」
「ああ、ええとあたしたちはこの子が生まれて間もないころからずっと育ててきたのよ……」
俺の言葉がまだまだ足りなかったようでシュンナが補足説明をしてくれている。俺ってばほんと人としゃべることがほとんどないから会話をしても要領を得ないというか、自分でも言っててよくわからなくなることがある。というか人に説明とかまじ無理。だからこういう時シュンナの存在は助かる。
「というわけ」
「なるほど、しかし、たったそれだけのことであそこまでしていただけたのですか?」
俺たちの動機は単純にサーナのため、これに尽きるわけだが、ジマリートからしたらそんな小さな女の子のためだけにあそこまでするものなのかと驚いている。
「あたしたちにとっては大きいことだからね。まっ、中央や西に関してはついでかな」
シュンナが語ったことが俺たちの本音だ。
「それに、あたしたちは別に他種族に対して思うところはないわよ。まぁ、田舎育ちだからっていうのもあるけど、何よりあたしたちは真実っていうのかな。魔族や獣人族、エルフとドワーフ、人族以外の種族がただの別の種族の人間だってことを知っているからね。同じ人間である以上違いはないでしょ。まぁ、さすがに魔族に対しての恐怖心は少しあるけれどね」
シュンナはそう言って微笑んだ。その笑みを見たジマリートはシュンナに若干見とれた後、ごまかすように咳払いして何かを考えている。
「そうでしたか、人族の中にはあなた方のような人物がいるということなのですね」
「まぁね。といってもあまりいないとは思うけれど、あたしたちはたまたま知っているだけだし」
「そうですか、心しておきます」
その後俺たちは適当な話をした後、仕事があるというジマリートに別れを告げて宿へと戻ったのだった。
21
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
まさか転生?
花菱
ファンタジー
気付いたら異世界? しかも身体が?
一体どうなってるの…
あれ?でも……
滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。
初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる