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第06章 獣人の土地
13 嫌な予感程よく当たる
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中央での話を聞いてみんなで相談したところ、もしかしたらシムサイト以外でも奴隷の首輪を作っているのではないという話になった。そこで、シュンナが族長に頼んで中央で使われているであろう奴隷の首輪の入手を頼むことにした。
「あっ、しまった」
俺はふとあることを思い出して声を上げてしまった。
「どうしたスニル」
俺が突然声を出したことに近くにいた父さんが少しびくっとしてからどうしたのかと聞いてきた。
「考えてみれば、警報の魔道具だけ渡しても意味なかったなぁと思ってさ」
「あ、ああそうか、あれって確か首輪をつけられたら警報が鳴るって道具だったよな」
「そう、だから結局首輪ははめられたままなんだよな」
警報の魔道具はあくまで首輪が付けられたということを知らせる道具でしかない。だからこそ簡単に作れるものなんだけど、問題はなんといっても’首輪が付けられている’という事実だろう。確かに警報が鳴ることでハンターたちから救出しそれぞれの集落へと戻ることができる。しかし、首輪はついたままとなってしまう。これはでは元の生活に戻れるかというよ疑問となるだろう。なにせ、首輪をつけられるのは大体だハンターたちから集落を守る戦士がほとんどだからだ。首輪が付くと武器が持てないし戦えない。その上もし下手に出て行って首輪をハメた奴に出くわした場合今度は有無を言わせず連れていかれてしまう。それじゃ意味がない。
ここらの場合は俺が近くにいたから定期的に別の集落を回って”解呪”をかけることで事なきを得ていたことを忘れていた。
「俺もセットなのを忘れてたよ」
「ああ、ああ、確かにそうね。でも、そうなるとスニル大変よ」
「そうなんだよなぁ」
何が大変かというと、俺はこの先中央はおろか西などのすべての集落を永遠に回らないといけないことになるからだ。というかそんなの面倒だし嫌なんだけど……
「これは、本当に別の方法を考えたほうがいいよな」
「だな」
「ただいまぁ。あれ、どうしたの?」
どうしたもんかと考えていると族長のところに行ったシュンナが帰ってきた。
「ああ、シュンナ、おかえり、いやそれがな」
さっそくシュンナにも考えてもらおう。
「ああ、確かにね。どうするの?」
「それを今考えているんだよ」
「それもそっか、うーん」
シュンナも考え出したようだが、ほんとどうしようか。
それから俺たちは考え続けたが、特によさげな考えが浮かばなかった。まっ、とにかく今一番の問題はシムサイト以外でも奴隷の首輪を作っているのかどうかとなる。俺が永遠にってやつもそれが前提でのことだしな。というわけで、まずは中央で使われている奴隷の首輪を入手することが先だな。そうした結論に達したことで再び族長の元へ訪れそれらのことを話したのだった。
「ふむ、確かにそうだったな。ではこうしてみてはどうかな」
族長の話ではアグリスに警報の魔道具を渡したが当然すべて渡したわけではない、そこで誰かに追加として届けてもらう必要がある。それに同行してはということになった。
「俺が行っても?」
人族の俺が行ってもいいのだろうか。
「確かに人族を警戒する者も多いだろう、しかしスニルの”解呪”は必要不可欠となる。これは中央もそれは理解するはずだ。それにブレイスとともに行けば幾分かましになるだろう」
族長の話ではブレイスは時期東の族長ということを中央獣人族でも知られている。そのブレイスは俺のことを紹介し保証すれば問題ないだろうという。
「わかった。それじゃ行くよ」
「頼むぞ」
そんなわけで俺は中央獣人族の集落へと向かうことになった。
「それじゃ、行ってくる」
「行ってくるぜ」
「行ってらっしゃい」
「気を付けてね」
「ダンクス、スニルを頼んだぞ」
「シュンナ、スニルいってらー」
中央には俺だけではなくダンクスも行くためにこうして送り出されているというわけだ。なぜダンクスかというと特に理由はない。ただ単に俺だけで行くという選択肢がなかったことと、だからと言って別に俺たちは常にセットで動かなければならないというわけでもないし、何よりサーナがいるからだ。
それはそうとテントを出た俺とダンクスは族長の家へと向かっている。そこではブレイスたちと合流する予定となっているからだ。
「よぉ、ブレイス。待たせたか」
「いや、時間前だ」
ブレイスとダンクスはともに防衛のためにハンターたちと戦っていたために結構仲がいいらしい。よく一緒に酒を飲んでいるみたいだしな。
「それじゃ行くか、準備はいいんだろ」
「ああ、いいぜ」
そんな2人の会話ののち俺たちは集落を出たのであった。ちなみに同行者はブレイスだけではなく集落の戦士が5名となっている。俺たちがこれから通る場所は特に街道があるわけではなく普通に森の中となる。そのため魔物や獣が襲ってくるということも当然ながらあるためにこの数で行く必要がある。実際中央から来たアグリスも6人ぐらいで来ていた。
それから、4日ぐらい歩いただろうか、途中で獣人族の集落を回って止まらせてもらったんだが、やはり東側の集落は俺のことを知っているためにもろ手を挙げて歓迎されたが、中央の集落となるとなんで人族が? そんな疑問の目で何度も見られたよ。まぁ、これに関しては特に気にすることもなく一旦通り過ぎることにした。なんでもまだ中央の族長に挨拶もしていない状態で警報の魔道具などを配ったり”解呪”を行うのはやめた方がいいらしく、ブレイスにそう言われた。
そうして、ようやくたどり着いた中央獣人族族長が住む集落である。
「やぁ、ブレイス」
「アグリス、あれはどうだった?」
「ああ、好評だ。おかげで多くが巣食われた。しかし、問題もあってな」
ブレイスとアグリスは会うなりさっそく魔道具についての話を始めてしまった。
「アグリス、客人をそのように立たせて、中に入ってもらいなさい」
「あ、ああ、悪いな中に入ってくれ」
家の中から女性の声が聞こえてきたけど、誰だろうかアグリスの母親か。
そう思いながらアグリスに続いて家の中に入ると、そこには柔和そうな笑みを浮かべつつも鋭い目つきをした犬系獣人の女性が立ち上がった。
「ようこそ、東の同胞そして英雄殿。私は中央獣人族族長を任されているアンリエルです」
出迎えてくれた女性がそう言った。まさかこの人が族長だったとは、というか英雄って誰のことだ。
「中央のお久しぶりです。ところで英雄というのは」
「ええ、アグリスから聞いているわ。その子がスニル君なのね。人族の子供と聞いて最初は信じられなかったけれど、ふふっ、そうね実際にこの目で見ればわかるわ。その子相当魔力量があるでしょう」
「へぇ、わかるのか」
「ええ、私には人の魔力量を図ることができるから、それでもさすがにスニル君の魔力量は把握できないのだけれど、それほど大きいということでしょう」
「ああ、そうなるな。とはいえ俺もスニルの全魔力量はよくわからねぇんだけどな」
アンリエルの言葉に俺ではなくダンクスが答えたがそれにしても相手の魔力量が分かるって、確かにそういうスキルがあったな。ええと、確か”魔力感知”だったか、熟練具合によってなんとなくわかる程度からはっきりと数値化できるまでだったはずだ。ちなみに俺の場合は”鑑定”の能力でわかるので必要ないスキルだ。
「さて、中央の族長我々が今回訪問した理由だが、アグリスにも伝えていたように追加の魔道具を持ってきた」
「ええ、聞いているわ。ありがとう、あの魔道具はとても助かっているわ。おかげで多くの同胞を助けることができているわ」
「だが、さっきも言いかけたが問題もある」
「わかっている。首輪が付いたままということだろう」
アグリスにはこのことを伝えるのを忘れていたんだよな。あの魔道具はあくまで首輪がつけられたら警報が鳴るというものだということを。
「ええ、そうよ」
「だからこそこのスニルを連れてきたんだ。スニルなら首輪を外すことが可能だ。俺たちの集落でもスニルに外してもらっていたからな」
「本当に外せるの?」
族長のアンリエルは少し疑い気味にそう聞いてきた。そりゃぁあの首輪は一度着けたら二度とはずれないのは常識だからそう感じるのは当たり前だ。
「ああ、外せるぜ。スニルによると首輪はかなり強い”呪い”が付与されているらしい」
「”呪い”だとっ」
「それなら”解呪”できるはずよね」
さすがは族長”解呪”を知っているようだ。
「まぁな。スニルも”解呪”で外しているからな。でも、この”呪い”を解くには10倍の魔力が必要になるらしいぜ」
”呪い”を解くのに必要な魔力というのはかける呪いの種類によってまちまちとなる。
「10倍!」
「そ、それでは普通は外せないわね」
「しかしダンクスそれって”解呪”がつかえる奴が10人いれば外せるってことなんだろ」
「神聖魔法の使い手が10人か、ちょっと難しいができないことはなさそうだな」
話を聞いていたアグリスたちは単純にそう考えたようだが、族長は苦い顔をしている。
「ダンクスさんでしたね。もしあなたの話が本当ならなぜ今まで一度着けたら二度と外せないということになっているのでしょうか?」
族長も俺が話さなさずダンクスが説明していることからダンクスに尋ねた。
「そりゃぁ、単純に”呪い”をかける時点での魔力量の違いだな」
「とおっしゃいますと?」
「こいつを作成する際は10人の魔法使いが儀式魔法によって行っているからだ。つまりこれを”解呪”するためにはゆうに100人の神聖魔法の使い手が必要になるんだよ。神聖魔法の使い手は少ないからな10人なら何とかなってもさすがに100人は無理だろ」
そう言った説明に獣人たちが絶句した。
「おいおい、ダンクスちょっと待て、今の話を聞くと、いや、あり得ないだろ」
ブレイスがわなわなと震えながら俺とダンクスを交互に見つめた。その目はまさに信じられないというものだった。
「そうね。100人、それをスニル君は簡単に外せるという、つまりスニル君は1人で100人分の魔力を保有しているということね」
「なっ、馬鹿な!!」
族長もいたり驚愕し、アグリスはさらに驚愕している。
「いや、ちょっとまて100人分の魔力が必要なのは1つだけなんだよな」
「そりゃぁな」
「確かスニルは複数個あってもあっさりと”解呪”していたよな」
ブレイスがその時のことを思い出したのか身震いをしている。確かに俺はあの時、というか最大で15人ぐらいの首輪をはしたことがある。当然その時ブレイスも近くにおりその光景を見ていた。それを思い出しているのだろう。
「いったい、どれだけの魔力をもってやがんだ」
「さぁ、スニルが言うにはほぼ無限、数えきれないくらいだそうだぜ。なぁ、スニル」
「……」
ダンクスの言葉に首肯した。
「し、信じられねぇ。そんな魔力量、聞いたことないぞ」
「相当な量があるとは思っていたけれど、まさかそれほどとは」
族長も身震いをするほどということらしいな。
「まぁ、とにかくだ。スニルなら首輪を外せるから、今ついてる奴らを集めてくれ」
「わ、わかった」
というわけでさっそく村の広場に首輪をつけられた人たちを集めて、一気に”解呪”したのだった。もちろんこれには大いに驚かれ感謝された。尤もだからといって俺たちがすぐに受け入れられるわけではなく、一応感謝というものたちがほとんどであり、黙って去っていった者たちもいたが、これは仕方ないし俺も礼を求めてやったことではないので特に気にもしなかった。
それから、しばらく集落に滞在しこれまでのように警報の魔道具を量産しつつ首輪が付けられた人たちの首輪を外すという作業を繰り返していった。あっ、余談だけど俺はここに常駐する必要がなかったが、たまに東の集落に”転移”してサーナに会いに行って癒しを受けたり、その際に同行者を交代したりしていた。また、そのついでと言わんばかりに東の集落から戦士を連れてきて戦力増強を図ったりもした。しかし、それでもハンターたちがあきらめるということはなく、被害者も多少なりとも出る始末なっていた。
「これは、本当にどうにかしないといけねぇな」
「そうね。何かあればいいのだけれどね」
俺のつぶやきに答えているのは俺の世話をするためとやって来ている母さんだ。
「このままじゃ、スニルも大変でしょ」
「そうなんだよね。向こうさんも結構しぶといしな」
いい加減あきらめてほしいものだが、引いてくれないんだよな。ほんと、どうにかしないと……ああ、そうそう、言い忘れていたが、ハンターたちが使っている奴隷の首輪を鑑定した結果、やはり思っていた通りシムサイト産ではなかった。いやまぁ、多少はシムサイト産もあったけれど、でも多くが全く別の産地となっていた。しかも、しかもだ。別の産地はなんと4つもあったんだよ。いやいや、多すぎっ。さすがにそれらを1つ1つつぶし機になんてならなかった。そもそも、その産地がどこにあるのかもわからないままだし、わかったとしてそこに行くのも面倒だしね。というわけで別の方法を考えているというわけだ。
「いっそのことこの森、島だっけここを結界で覆ってしまったらどう?」
母さんの提案はまさにシンプル、某国のトップみたいなこと言いだした。
「それもいいけれど、無理なんだよね」
「そうなの?」
「うん、この島を覆うぐらいの結界となると頂点の起点にはそれほどでもないんだけど、中心に設置する物がねぇ。多分ドラゴンぐらいのサイズがないと」
「ああ、それは無理ね」
「ああ」
この島の大きさを覆うにはそれほどでかい魔石を中心に置かないとできない。そしてドラゴンの魔石となると入手は不可能となる。さすがの俺でもドラゴンを1人で討伐するのは無理だし、ダンクスとシュンナがいたとしてもなんの助けにもならない。それほど絶望的に強いのがドラゴンだったりする。
「一時的はるなら俺の魔法で何とかなるんだけどね。それじゃ、意味ないでしょ」
俺の魔法で数日程度なら結界を張ることは可能だ。しかし、せいぜい時間稼ぎにしかならないだろうし、何よりそんなものを俺がここで勝手に張るわけにはいかない。獣人族はいいとしてもほかの種族が黙っていないと思うんだよな。特に魔族とか。
「確かにそうね。でもそうなると、どうしましょうねぇ」
ほんとに悩みどころだよ。ていうかふと思ったんだけれど、なんで俺はここまで考え込んでいるんだ。東の集落はサーナの身内ということで俺も何も考えずに動いたけれど、中央とか西は俺関係ないよね。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
考えても仕方ないし、とりあえず俺はやりたいことをやればいいか、昔からそうだったしな。
その後、考え抜いた末にやはり結界を張ることにした。といっても島全体にというわけではなく人族たちとの境にある川、名前は大川というらしいし正確には海なんだけれど、この川に川幅ぐらいの大きさの結界をいくつか張って、ハンターたちの航路をふさぐこととなった。尤も敵もさるものですぐに結界のない新たな航路を開拓してきたが、それはこちらが用意した航路、つまり奴らが上陸した瞬間を狙って戦士たちが一斉に攻撃をしたり、ちょっとしたトラップを仕掛けることにしたというわけだ。これにより奴らもそうそう手を出すことができなくなった。そしてこの成果をもって西側にも同じようにしたこともあり、その結果獣人族の勝利と相成ったのであった。
「あっ、しまった」
俺はふとあることを思い出して声を上げてしまった。
「どうしたスニル」
俺が突然声を出したことに近くにいた父さんが少しびくっとしてからどうしたのかと聞いてきた。
「考えてみれば、警報の魔道具だけ渡しても意味なかったなぁと思ってさ」
「あ、ああそうか、あれって確か首輪をつけられたら警報が鳴るって道具だったよな」
「そう、だから結局首輪ははめられたままなんだよな」
警報の魔道具はあくまで首輪が付けられたということを知らせる道具でしかない。だからこそ簡単に作れるものなんだけど、問題はなんといっても’首輪が付けられている’という事実だろう。確かに警報が鳴ることでハンターたちから救出しそれぞれの集落へと戻ることができる。しかし、首輪はついたままとなってしまう。これはでは元の生活に戻れるかというよ疑問となるだろう。なにせ、首輪をつけられるのは大体だハンターたちから集落を守る戦士がほとんどだからだ。首輪が付くと武器が持てないし戦えない。その上もし下手に出て行って首輪をハメた奴に出くわした場合今度は有無を言わせず連れていかれてしまう。それじゃ意味がない。
ここらの場合は俺が近くにいたから定期的に別の集落を回って”解呪”をかけることで事なきを得ていたことを忘れていた。
「俺もセットなのを忘れてたよ」
「ああ、ああ、確かにそうね。でも、そうなるとスニル大変よ」
「そうなんだよなぁ」
何が大変かというと、俺はこの先中央はおろか西などのすべての集落を永遠に回らないといけないことになるからだ。というかそんなの面倒だし嫌なんだけど……
「これは、本当に別の方法を考えたほうがいいよな」
「だな」
「ただいまぁ。あれ、どうしたの?」
どうしたもんかと考えていると族長のところに行ったシュンナが帰ってきた。
「ああ、シュンナ、おかえり、いやそれがな」
さっそくシュンナにも考えてもらおう。
「ああ、確かにね。どうするの?」
「それを今考えているんだよ」
「それもそっか、うーん」
シュンナも考え出したようだが、ほんとどうしようか。
それから俺たちは考え続けたが、特によさげな考えが浮かばなかった。まっ、とにかく今一番の問題はシムサイト以外でも奴隷の首輪を作っているのかどうかとなる。俺が永遠にってやつもそれが前提でのことだしな。というわけで、まずは中央で使われている奴隷の首輪を入手することが先だな。そうした結論に達したことで再び族長の元へ訪れそれらのことを話したのだった。
「ふむ、確かにそうだったな。ではこうしてみてはどうかな」
族長の話ではアグリスに警報の魔道具を渡したが当然すべて渡したわけではない、そこで誰かに追加として届けてもらう必要がある。それに同行してはということになった。
「俺が行っても?」
人族の俺が行ってもいいのだろうか。
「確かに人族を警戒する者も多いだろう、しかしスニルの”解呪”は必要不可欠となる。これは中央もそれは理解するはずだ。それにブレイスとともに行けば幾分かましになるだろう」
族長の話ではブレイスは時期東の族長ということを中央獣人族でも知られている。そのブレイスは俺のことを紹介し保証すれば問題ないだろうという。
「わかった。それじゃ行くよ」
「頼むぞ」
そんなわけで俺は中央獣人族の集落へと向かうことになった。
「それじゃ、行ってくる」
「行ってくるぜ」
「行ってらっしゃい」
「気を付けてね」
「ダンクス、スニルを頼んだぞ」
「シュンナ、スニルいってらー」
中央には俺だけではなくダンクスも行くためにこうして送り出されているというわけだ。なぜダンクスかというと特に理由はない。ただ単に俺だけで行くという選択肢がなかったことと、だからと言って別に俺たちは常にセットで動かなければならないというわけでもないし、何よりサーナがいるからだ。
それはそうとテントを出た俺とダンクスは族長の家へと向かっている。そこではブレイスたちと合流する予定となっているからだ。
「よぉ、ブレイス。待たせたか」
「いや、時間前だ」
ブレイスとダンクスはともに防衛のためにハンターたちと戦っていたために結構仲がいいらしい。よく一緒に酒を飲んでいるみたいだしな。
「それじゃ行くか、準備はいいんだろ」
「ああ、いいぜ」
そんな2人の会話ののち俺たちは集落を出たのであった。ちなみに同行者はブレイスだけではなく集落の戦士が5名となっている。俺たちがこれから通る場所は特に街道があるわけではなく普通に森の中となる。そのため魔物や獣が襲ってくるということも当然ながらあるためにこの数で行く必要がある。実際中央から来たアグリスも6人ぐらいで来ていた。
それから、4日ぐらい歩いただろうか、途中で獣人族の集落を回って止まらせてもらったんだが、やはり東側の集落は俺のことを知っているためにもろ手を挙げて歓迎されたが、中央の集落となるとなんで人族が? そんな疑問の目で何度も見られたよ。まぁ、これに関しては特に気にすることもなく一旦通り過ぎることにした。なんでもまだ中央の族長に挨拶もしていない状態で警報の魔道具などを配ったり”解呪”を行うのはやめた方がいいらしく、ブレイスにそう言われた。
そうして、ようやくたどり着いた中央獣人族族長が住む集落である。
「やぁ、ブレイス」
「アグリス、あれはどうだった?」
「ああ、好評だ。おかげで多くが巣食われた。しかし、問題もあってな」
ブレイスとアグリスは会うなりさっそく魔道具についての話を始めてしまった。
「アグリス、客人をそのように立たせて、中に入ってもらいなさい」
「あ、ああ、悪いな中に入ってくれ」
家の中から女性の声が聞こえてきたけど、誰だろうかアグリスの母親か。
そう思いながらアグリスに続いて家の中に入ると、そこには柔和そうな笑みを浮かべつつも鋭い目つきをした犬系獣人の女性が立ち上がった。
「ようこそ、東の同胞そして英雄殿。私は中央獣人族族長を任されているアンリエルです」
出迎えてくれた女性がそう言った。まさかこの人が族長だったとは、というか英雄って誰のことだ。
「中央のお久しぶりです。ところで英雄というのは」
「ええ、アグリスから聞いているわ。その子がスニル君なのね。人族の子供と聞いて最初は信じられなかったけれど、ふふっ、そうね実際にこの目で見ればわかるわ。その子相当魔力量があるでしょう」
「へぇ、わかるのか」
「ええ、私には人の魔力量を図ることができるから、それでもさすがにスニル君の魔力量は把握できないのだけれど、それほど大きいということでしょう」
「ああ、そうなるな。とはいえ俺もスニルの全魔力量はよくわからねぇんだけどな」
アンリエルの言葉に俺ではなくダンクスが答えたがそれにしても相手の魔力量が分かるって、確かにそういうスキルがあったな。ええと、確か”魔力感知”だったか、熟練具合によってなんとなくわかる程度からはっきりと数値化できるまでだったはずだ。ちなみに俺の場合は”鑑定”の能力でわかるので必要ないスキルだ。
「さて、中央の族長我々が今回訪問した理由だが、アグリスにも伝えていたように追加の魔道具を持ってきた」
「ええ、聞いているわ。ありがとう、あの魔道具はとても助かっているわ。おかげで多くの同胞を助けることができているわ」
「だが、さっきも言いかけたが問題もある」
「わかっている。首輪が付いたままということだろう」
アグリスにはこのことを伝えるのを忘れていたんだよな。あの魔道具はあくまで首輪がつけられたら警報が鳴るというものだということを。
「ええ、そうよ」
「だからこそこのスニルを連れてきたんだ。スニルなら首輪を外すことが可能だ。俺たちの集落でもスニルに外してもらっていたからな」
「本当に外せるの?」
族長のアンリエルは少し疑い気味にそう聞いてきた。そりゃぁあの首輪は一度着けたら二度とはずれないのは常識だからそう感じるのは当たり前だ。
「ああ、外せるぜ。スニルによると首輪はかなり強い”呪い”が付与されているらしい」
「”呪い”だとっ」
「それなら”解呪”できるはずよね」
さすがは族長”解呪”を知っているようだ。
「まぁな。スニルも”解呪”で外しているからな。でも、この”呪い”を解くには10倍の魔力が必要になるらしいぜ」
”呪い”を解くのに必要な魔力というのはかける呪いの種類によってまちまちとなる。
「10倍!」
「そ、それでは普通は外せないわね」
「しかしダンクスそれって”解呪”がつかえる奴が10人いれば外せるってことなんだろ」
「神聖魔法の使い手が10人か、ちょっと難しいができないことはなさそうだな」
話を聞いていたアグリスたちは単純にそう考えたようだが、族長は苦い顔をしている。
「ダンクスさんでしたね。もしあなたの話が本当ならなぜ今まで一度着けたら二度と外せないということになっているのでしょうか?」
族長も俺が話さなさずダンクスが説明していることからダンクスに尋ねた。
「そりゃぁ、単純に”呪い”をかける時点での魔力量の違いだな」
「とおっしゃいますと?」
「こいつを作成する際は10人の魔法使いが儀式魔法によって行っているからだ。つまりこれを”解呪”するためにはゆうに100人の神聖魔法の使い手が必要になるんだよ。神聖魔法の使い手は少ないからな10人なら何とかなってもさすがに100人は無理だろ」
そう言った説明に獣人たちが絶句した。
「おいおい、ダンクスちょっと待て、今の話を聞くと、いや、あり得ないだろ」
ブレイスがわなわなと震えながら俺とダンクスを交互に見つめた。その目はまさに信じられないというものだった。
「そうね。100人、それをスニル君は簡単に外せるという、つまりスニル君は1人で100人分の魔力を保有しているということね」
「なっ、馬鹿な!!」
族長もいたり驚愕し、アグリスはさらに驚愕している。
「いや、ちょっとまて100人分の魔力が必要なのは1つだけなんだよな」
「そりゃぁな」
「確かスニルは複数個あってもあっさりと”解呪”していたよな」
ブレイスがその時のことを思い出したのか身震いをしている。確かに俺はあの時、というか最大で15人ぐらいの首輪をはしたことがある。当然その時ブレイスも近くにおりその光景を見ていた。それを思い出しているのだろう。
「いったい、どれだけの魔力をもってやがんだ」
「さぁ、スニルが言うにはほぼ無限、数えきれないくらいだそうだぜ。なぁ、スニル」
「……」
ダンクスの言葉に首肯した。
「し、信じられねぇ。そんな魔力量、聞いたことないぞ」
「相当な量があるとは思っていたけれど、まさかそれほどとは」
族長も身震いをするほどということらしいな。
「まぁ、とにかくだ。スニルなら首輪を外せるから、今ついてる奴らを集めてくれ」
「わ、わかった」
というわけでさっそく村の広場に首輪をつけられた人たちを集めて、一気に”解呪”したのだった。もちろんこれには大いに驚かれ感謝された。尤もだからといって俺たちがすぐに受け入れられるわけではなく、一応感謝というものたちがほとんどであり、黙って去っていった者たちもいたが、これは仕方ないし俺も礼を求めてやったことではないので特に気にもしなかった。
それから、しばらく集落に滞在しこれまでのように警報の魔道具を量産しつつ首輪が付けられた人たちの首輪を外すという作業を繰り返していった。あっ、余談だけど俺はここに常駐する必要がなかったが、たまに東の集落に”転移”してサーナに会いに行って癒しを受けたり、その際に同行者を交代したりしていた。また、そのついでと言わんばかりに東の集落から戦士を連れてきて戦力増強を図ったりもした。しかし、それでもハンターたちがあきらめるということはなく、被害者も多少なりとも出る始末なっていた。
「これは、本当にどうにかしないといけねぇな」
「そうね。何かあればいいのだけれどね」
俺のつぶやきに答えているのは俺の世話をするためとやって来ている母さんだ。
「このままじゃ、スニルも大変でしょ」
「そうなんだよね。向こうさんも結構しぶといしな」
いい加減あきらめてほしいものだが、引いてくれないんだよな。ほんと、どうにかしないと……ああ、そうそう、言い忘れていたが、ハンターたちが使っている奴隷の首輪を鑑定した結果、やはり思っていた通りシムサイト産ではなかった。いやまぁ、多少はシムサイト産もあったけれど、でも多くが全く別の産地となっていた。しかも、しかもだ。別の産地はなんと4つもあったんだよ。いやいや、多すぎっ。さすがにそれらを1つ1つつぶし機になんてならなかった。そもそも、その産地がどこにあるのかもわからないままだし、わかったとしてそこに行くのも面倒だしね。というわけで別の方法を考えているというわけだ。
「いっそのことこの森、島だっけここを結界で覆ってしまったらどう?」
母さんの提案はまさにシンプル、某国のトップみたいなこと言いだした。
「それもいいけれど、無理なんだよね」
「そうなの?」
「うん、この島を覆うぐらいの結界となると頂点の起点にはそれほどでもないんだけど、中心に設置する物がねぇ。多分ドラゴンぐらいのサイズがないと」
「ああ、それは無理ね」
「ああ」
この島の大きさを覆うにはそれほどでかい魔石を中心に置かないとできない。そしてドラゴンの魔石となると入手は不可能となる。さすがの俺でもドラゴンを1人で討伐するのは無理だし、ダンクスとシュンナがいたとしてもなんの助けにもならない。それほど絶望的に強いのがドラゴンだったりする。
「一時的はるなら俺の魔法で何とかなるんだけどね。それじゃ、意味ないでしょ」
俺の魔法で数日程度なら結界を張ることは可能だ。しかし、せいぜい時間稼ぎにしかならないだろうし、何よりそんなものを俺がここで勝手に張るわけにはいかない。獣人族はいいとしてもほかの種族が黙っていないと思うんだよな。特に魔族とか。
「確かにそうね。でもそうなると、どうしましょうねぇ」
ほんとに悩みどころだよ。ていうかふと思ったんだけれど、なんで俺はここまで考え込んでいるんだ。東の集落はサーナの身内ということで俺も何も考えずに動いたけれど、中央とか西は俺関係ないよね。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
考えても仕方ないし、とりあえず俺はやりたいことをやればいいか、昔からそうだったしな。
その後、考え抜いた末にやはり結界を張ることにした。といっても島全体にというわけではなく人族たちとの境にある川、名前は大川というらしいし正確には海なんだけれど、この川に川幅ぐらいの大きさの結界をいくつか張って、ハンターたちの航路をふさぐこととなった。尤も敵もさるものですぐに結界のない新たな航路を開拓してきたが、それはこちらが用意した航路、つまり奴らが上陸した瞬間を狙って戦士たちが一斉に攻撃をしたり、ちょっとしたトラップを仕掛けることにしたというわけだ。これにより奴らもそうそう手を出すことができなくなった。そしてこの成果をもって西側にも同じようにしたこともあり、その結果獣人族の勝利と相成ったのであった。
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二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
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俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
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俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
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宜しくお願いします。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
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田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
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王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
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