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第06章 獣人の土地

02 聖都トリアール

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 ミザークレス聖教国へと入国して約2週間が経過した。

「ここが、聖都か」
「やっと着いたわね」
「思ったよりも時間がかかったからな」
「そうだな。でも、その分キリエルタについてわかったけどな」

 順路をたどったことで、これまでそれほど知らなかったキリエルタについて理解することができた。

 これまでの俺たちのキリエルタに対するものは、人族至上主義で多種族に対して厳しい反面聖人としてあがめられているということぐらいだけだった。しかし、この2週間キリエルタの痕跡を聖地として巡って、そこにある資料などを読み漁ったり、実際に遺跡などを見学したことで、キリエルタ教についてはっきりと理解することができた。それによると、キリエルタ教の教祖トリアール・キリエルタという人物は、まさに聖人であった。彼は大賢者と呼ばれていたことからおそらく大賢者スキルを所持していたと思われる。そのおかげか、大魔法すらもあっさりと扱い、多くの人々を救ってきた。そして、ある時は回復魔法を使い多くの人を無償で治療したり、疫病が流行った場所に赴き率先して治療に当たったそうだ。また、別のところでは不作により貧困と飢餓で苦しんでいるさなか、私財をなげうってこれを助けたという。さらに、訪れた各地で見つけた孤児を引き取っていたという話まであり、俺たちが訪れた聖地の中にその孤児院があり、今も多くの孤児たちが元気に暮らしている。ここまでの話で分かるように本当にトリアール・キリエルタはまさに聖人だったようだ。尤も、多種族に対してを除けばだが。
 しかし、実はこれにも新事実が判明している。それによると、なんとキリエルタ自身が嫌い、いや、憎んでいたのは獣人族だけだった。その理由こそ、俺たちがこうしてここ聖都にやって来た理由でもあるわけだが、実はここ聖都はかつてレイベルという少し大きめの村だった。そして、川を挟んだ向かい側に獣人族たちが住んでいたという。キリエルタの時代よりさらに昔は隣人として仲が良く交易などを行っていたそうだが、ある時を境に急に仲たがいするようになり、それが時代と世代が進むごとにこじれて憎しみを持つようになっていた。キリエルタはそうした中で育った。つまり、キリエルタは反獣人族という教育を生まれた時から受けていたことになる。これを知った時、納得したよなぁ。どこで聞いても聖人でしかないキリエルタがなぜ獣人族を憎んでいたのか、そういう教育を受けていたのだからある意味仕方ないのかもしれないな。
 それでは、なぜキリエルタ教が獣人族だけでなく多種族全体となったのかというと、これもまた時代と世代を超えた結果だといってもいいだろう。最初は獣人族だけだったものが増えていったか、キリエルタと同じようにほかの種族を憎むものが信者の中におり、そいつがえらい立場となり追加したのか、そこらへんは分からないが。
 とにかく、そういうことが聖地巡礼で知ることができたのは行幸だった。

「ついた? ここどこ?」

 俺が少しこの巡礼のことを考えていると、サーナがそう言いだした。
 サーナはまだここがどこなのかわからず首をかしげている。その姿がかわいかったのかシュンナと母さんがともに撃ち抜かれた。
 ちなみにサーナは着々と成長しており、今では舌足らずではあるが言葉を話せるようになっている。

「ここは、聖都、まぁなんていうか、……街だな」

 サーナにキリエルタ教のことはまだ難しくて説明できないので、街とだけ説明した。

「まち? わーい、まちー」

 サーナもこれまで何度か街を見てきているのでわからずともなんとなくわかったらしい。

「ふふっ、それで、スニルこれからどうするの?」

 母さんが今後の予定を聞いてきた。

「そうだなぁ。もう夕方だし、今日は聖都に宿をとって、明日エイパールに入るか」

 エイパールというのは、聖都と隣接している小さな国のことだ。この国はちょっと特殊な国で大きさは小さな街程度しかない。また、王とかという国家元首もハンターギルドというギルドのギルマスが務めており、その人物はキリエルタ教の息がかかっていると言われている。いやまぁ、人族である限り息はかかっているんだけど。その息が濃厚ということだ。尤もこれは噂で表立ってつながって言うわけではなくあくまで別だといっているらしいけど、調べによると明らかにつながっている。まぁ、それはいいとして、こんな国ができた理由がハンターということから想像できるかもしれないが、獣人族を狩るために組織となる。つまり、俺たちが以前つぶした奴隷狩り、あれを獣人族相手に行っている連中であり、もしかしたらサーナの母親を奴隷にしたかもしれない連中ということだ。もちろん獣人族が奴隷にされるのはここだけとは限らないが、かの地より一番近くがおそらくここだというわけだ。

「それがいいな。でも、宿なんてあるのか?」

 ダンクスがそう言ってあたりを見渡すが、確かに人が多く宿が取れるかどうかかなり心配になってくる。

「早めに探したほうがよさそうね」
「そうだな。シュンナ急いでどっか取って来てくれ」
「わかったわ。それじゃ、サーナをよろしくね」
「任せて、さぁ、サーナちゃんこっち来て」

 そう言ってシュンナが抱いていたサーナを下すと、とことことゆっくりと歩いて母さんの元までやって来た。
 実はサーナは最近少しだけだが歩けるようになってきた。もちろんこのことは疾風を使って村へと伝え、すぐにポリーから呼び出しがあったのは言うまでもないだろう。ほんと村の連中はサーナのことをかわいがってくれているなぁ。

「よっと、重くなったねぇ。サーナちゃん」

 日々成長しているサーナは母さんたちと再会したあの日よりも大きなっているために、母さんでも重くなったことが分かったらしい。

「それじゃ、行ってくる」
「おう、頼むぜ」
「俺たちは、あの公園で待ってるから」
「わかった」

 そう言ってシュンナは走っていった。ちなみにだがシュンナに宿とりを任せたのは、単純にシュンナしかいないからだ。俺や父さんと母さんは見た目子供だし、ダンクスは巨漢強面あまりこうしたことに向いていない。それに対してシュンナなら人当たりもいいし何より美少女、いや、もう19となったからもはや美女といってもいいぐらいか、まぁ、そこはいいとして何よりシュンナは足が速いからすぐに宿へとたどり着けるという理由もある。

「シュンナどこ?」

 シュンナが走っていったことにサーナがシュンナを探している。サーナにとってシュンナはやはり一番の母親役なんだろう、姿が見えなくなるとよく探している。

「シュンナは今俺たちが今日寝る場所を探してもらっているんだ」
「ねるとこ?」
「そう、だから待とうね」
「うんっ」

 それからサーナはおとなしく地面に座り込んで遊びはじめ、俺たちはそれをほほえましく眺めているのであった。

「それにしても、サーナちゃんは成長が早いわね」
「そうなの?」
「ええ、サーナちゃんはまだ1歳と一か月ちょっとでしょ」
「ああ、そうなるな」
「そのぐらいだと、単語とかは話すけど、ここまで文章は話さないわ。スニルもポリーちゃんもそうだったし」
「へぇ、そうなのか、まぁ、種族が違うしそこらへんは違いがあるのかもしれないな」

 俺たち人族と獣人族ではそういった成長のぐらいの違いがあっても全くおかしくない。

「そういうもんか、でもまぁ、遅いよりはいいだろ」
「まっ、それは確かだな」
「そうね」
「そうだな」

 こうして公園にてサーナの成長を喜んでいるとシュンナが戻っていた。

「いたいた、宿取れたよ」
「よく取れたな」

 周囲を見てもかなりの数の人族がいる。みんな聖地巡礼を果たした連中なんだが、彼らが全員宿に泊まるとなるとどう考えても宿が足りなくなるような気がするんだけど。

「この街、宿がかなりあるみたいでね。ホラ、あたしたちもそうだけど、この街って住人よりも巡礼者が多いのよ。そんな人たちを収容するためにここから見える建物がほとんどが宿みたい」
「まじか」

 ここから見える建物っていうと、相当な数があるそれがすべて宿となると、それは確かに宿を得ることは可能だな。

「まぁ、とにかく宿が取れたならさっそく行ってみるか」
「そうすっか、ほらっサーナ行くぞ」
「やぁ」

 俺たちがそれぞれ立ち上がり宿に向かおうとしたところ、サーナだけが遊び足りないのかその場を動こうともせずに嫌がった。

「あらあら、もう少し遊びたいのね」
「はぁ、しゃぁない。もう少しここらにいるか」

 俺たちは全員サーナに甘いためにすぐにそう決断してサーナとともに遊び始めた。


 それから俺たちはサーナが飽きるまでその場で遊んだのであった。

「ふふっ、寝ちゃったわね」
「ほんと、急だな」
「まさに電池切れって感じだな」
「デンチ?」
「まぁ、俺がいた世界にあった動力ってとこだ。動力が切れると途端に止まるから、こういう状態のことをそういうんだ」
「へぇ、そういうことなのね」
「まっ、寝ちまったし宿に向かうか」
「そうね」
「おう、そうだな」

 というわけで俺たちはシュンナが取った宿へ向かうこととなった。

「いらっしゃいませ。あらっ、先ほど」
「ちょっと、遅くなったけれど仲間を連れてきたわ」
「いえいえ、構いませんよ。あらっ、かわいらしいお客さんね」

 宿の受付にいた女性がサーナを見て顔をほころばせながらそう言った。

「ありがと、それで部屋に案内してもらえるかな」
「ええ、もちろんです」

 それから俺たちは女性に連れられて2階へと上がっていったのであった。

「こちらと、こちらとなっています」

 女性はそう言ってからシュンナに鍵を2つ手渡した。

「では、お食事は1階に併設されている食堂にてお願いします」
「ええ、わかったわ。あっ、でも外で食べたくなったらどうするの」

 泊っているからといってその宿で食事をする必要はなく、別の店で食べるということだってあるだろう。

「いえ、この街には食事だけのお店というものがないのですよ。ですので皆さん泊っている宿で食事をされているのですよ」
「そうなの。街に入ってからまっすぐに来たから気が付かなかった」

 シュンナの言う通り全く気が付かなかったが、どうしてないんだろう。

「ええ、この街は多くの巡礼者がやってきますから、そういった食事だけの店というものを作る場所がないのです」

 女性によると、食堂を作る場所があるのなら宿を作らないと巡礼者を収容しきれないとのことだった。だからこの街はほとんどが宿なんだそうだ。

「なるほどね。確かにあれほどの数となると必要となるわけか」
「ええ、そうなんですよ。まぁ、エイパールにまで行けば食堂はありますけどね。わざわざあそこに行く人はいませんから」
「そうなの?」
「ええ、ここだけの話あそこの人たちはなんというか粗暴で、あなたみたいな娘は近づかないほうがいいと言われていますから」

 そう言って女性はシュンナを見たが、シュンナの場合粗暴は関係ない気がする。まぁ、シュンナの場合どこに行ったとしてもどうにもならないし、むしろ相手がかわいそうになる。

「へぇ、そんなとこなのか。でもまぁ、シュンナなら問題ないだろ」
「そうね」
「そうだな」

 俺たちの言葉に女性は少し疑問符を浮かべていた。まぁ、シュンナは一見するとそこまで強いとは思えないからな。

「ええと、それでは失礼しますね」

 そう言って女性は去っていった。残された俺たちはそれぞれいつも通り男女に分かれて部屋へと入っていたのであった。

「さてと、荷物も置いたしさっそく飯行こうぜ」
「おっ、行こうぜ」

 ダンクスと父さんがそんな話をしていると、ふいに俺たちの部屋の扉があけ放たれた。

「ごはんいこっ」
「おう、今行く」

 ノックもせずにやって来たわけだが、俺たちの間にそんなものは必要ないということで誰一人全く気にしていない。
 そう言うことで俺たちはそろって1階へ降りていき食堂にて飯をそれぞれ注文した。

「お待たせ、こちらはその子の離乳食です」
「あっ、ありがとう」

 1歳を過ぎたサーナはすでにミルクから離乳食へと移行し始めている。といってもまだ、ミルクは手放せないが。

「さっ、サーナちゃんごはん食べようね」

 シュンナはそう言って離乳食をスプーンで少しすこってサーナの口元へと運ぶ。

「やっ」

 しかし、サーナはそれを拒否、まぁ、ここあたりはセットになってる。サーナは離乳食を嫌がるんだよな。別に嫌いなわけじゃなくて、なんていうかまだ口の中に食べ物が入ることが嫌みたいだ。まぁ、これまでは見るこちう液体のみだったのに柔らかいとはいえ固体が入るからな。よくわからないが異物感があるのだろう。まぁ、こればかりは数をこなして慣れてもらうしかない。

「いやじゃないよ。ほらっ、食べないと」

 シュンナは少し強引にでもスプーンを口へと運ぶ。これは母さんがシュンナへアドバイスした結果だ。このぐらい少しでも強引にしないと、結局ミルク離れできなくなってしまうからと、さすが俺という赤ん坊を育てた経験者だ。
 実際強引に口へ運ばれたサーナは嫌がりながらもそれを口へ入れて飲み込んだ。それを見たシュンナと母さんは満足そうにしている。

「俺たちも食うか」
「そうだな」

 俺たちもそんなシュンナとサーナの様子を見てから自分たちの目の前の食事をすることとする。まぁ、サーナの世話でシュンナだけが食えない状態となるが、こればかりは仕方ない。実はこのサーナに食べさせるという役はシュンナだけではなく、ダンクス以外の全員が順番にやっていることでもあるから、この食べられないという状況はみんな経験しているからだ。ちなみになぜダンクスだけはやっていないのかというと、もちろん最初はダンクスもやろうとした。しかし、ダンクスは知っての通り巨漢、そのためその手も巨大となる。サーナに食べさせるための皿は俺たちが持つと茶碗ぐらいとふつうのサイズなんだが、ダンクスが持つとお猪口にしか見えない。また、食べさせるスプーンも気のスプーンなんだが、ダンクスには小さすぎるみたいで、持つたびにぽきりと折ってしまった。なんでも、小枝を持っているようにしか思えないらしい。

 それから俺たちはそろっての食事を楽しんだのだった。
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