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第05章 家族

09 早々の帰還と報告

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 サーナがしゃべった。この一大事件をすぐさまポリーへ報告したわけだが、するとポリーはすぐにサーナを連れて帰って来いといってきた。ということをみんなに伝える。

「まぁ、そうなるよね」
「なるだろうな」
「みんな、サーナのことかわいがっていたものね」
「そうだな。んで、どうする」

 俺が聞いたのは戻るかどうか、特に父さんと母さんは村に戻ると面倒ごとになる可能性が高い。まぁ、普通に増えた同行者と言えばそれまでだが、カリブリンで育ち結婚後ゾーリン村へとやって来た父さんはともかくとして、ゾーリン村で生まれ育っている母さんはその正体がばれる可能性がある。普通なら転生なんてことは思いもつかないが、なにせ俺が転生していることは村長一家は知っている。そこにきて幼馴染でもあるノニスおばさんならおそらく母さんの正体に気が付いてしまう。だから、父さんと母さんを連れていくことは憚れる。

「俺たちはさすがに行くわけにはいかないだろ。説明もどうしたらいいかわからないし」
「そうね。スニルがすでに生まれ変わっていることを知っているわけだし、下手をすればノニス達にばれて厄介なことになりそうね」
「だからと言って2人だけおいていくってわけにもいかないよね」
「だな」

 父さんと母さんだけをこの場に残して、俺たち4人だけで村に帰るというのも俺たちとしてはできれば避けたい。悩みどころだ。

「だったら、スニルは絶対として、サーナとシュンナの3人で帰ればいいんじゃないか、俺はホラまだこいつを仕上げないといけねぇし」

 話し合っているとダンクスがそう言って増築中の部屋を指さした。

「まぁ、それはそうだがでも、そうなると村に帰った時ダンクスだけおいてきたと思われないか」
「ああ、確かにね」
「それこそ、なんか適当に用事があってこれなかったとかにしちまえばいいだろ、なぁ」
「適当にねぇ。まぁ、あたしたちが常に一緒じゃなきゃいけないってこともないか」
「まぁ、そうだな」
「そういうこった」
「2人もそれでいい」
「ああ、俺は構わないぞ。確かに俺とミリアで残ったところでやることはないからな。ダンクスがいれば部屋の増築もできるし」
「そうね。本当なら私とヒュリックだけでもと言いたいところではあるけれど」
「さすがに俺たちだけでは無理がある。細かいところならできるんだが、まだ力が必要なところも多いからな」
「おう、それなら任せておいてくれ」

 というわけで、村には俺とサーナ、シュンナで帰ることになり、ダンクスと父さんと母さんの3人がここに残ることとなった。

「なるべく早く帰ってくるよ」
「ゆっくりしてきていいわよ」
「そうだな。そうしてこい、俺たちのことは気にせずにな」
「村の連中もサーナに会いたいだろうしな」

 俺が早めに帰ってくるというと、父さんたち居残り組はそう言ってくれた。


 それから、俺とシュンナは群れへ戻る準備をすることとなった。まぁ準備といっても、俺の”収納”に収まっている数日分の食糧や食材をテント内の収納庫に収めるぐらいしかないんだけど。

「それじゃ、行ってくるわね」
「行ってくる」
「おう、行ってこい」
「みんなによろしく」
「こっちのことは気にせずゆっくりしてこいよ」

 こうして、俺とサーナを抱いたシュンナ”転移”でゾーリン村へと飛んだのだった。


「あっ、スニルおかえり……あれっ? ダンクスさんは?」

 村へ転移するといきなりそんな声がかけられた。かけてきたのは当然ながらポリーだ。どうやら、俺たちがそろそろ戻ってくると踏んで、俺がいつも転移してくる村の入り口付近で待機していたらしい。

「ポリー、ただいま、ダンクスは用事があって、残してきたんだ。だからあまりのんびりはしてられないぞ」
「あっ、そうなんだ。残念、それよりサーナちゃん、お話したんでしょ」
「ええ、そうよほら、サーナ、ポリーお姉ちゃんよ」
「サーナちゃん、こんにちは、ポリーだよぉ。ほら、ポリーお姉ちゃんって言ってごらん」
「あいっ、ぽいーちゃ?」

 サーナはゆっくりとだが確かにポリーの名を呼んだ。

「わっ、言った。ねぇ、今、わたしのこと言ったよね」
「ああ、確かにな」
「ええ、言ったわね」
「わぁ、サーナちゃんすごーい、すごーい」

 ポリーはそう言ってサーナの頭を撫でたのだった。

「あっ、そうだ。お母さんたちも早くサーナちゃんに会いたがってたから、早くいこっ」
「おぉう、そうだな。そうするか」

 いつまでも村の入り口で固まってても仕方ないので俺たちはポリーに導かれて村の中央にある村長の家まで行くことになった。

「今日は、みんな宴会だって言ってたよ」
「宴会って、ただ飲みたいだけじゃないのか」
「ふふっ、確かにね。でもみんなうれしいんだよ。サーナちゃんがお話できるようなったってことがね」
「みんなもかわいがってたものね」
「そうそう、サーナちゃんもうちの村みんなの子なんだもん」

 ポリーがそう言ったように確かに村にいた間ずっと、ことあるごとに村のみんなはサーナに構っていた。それは俺に対する何かではなく純粋にサーナをかわいがっていたのはよくわかった。それを見た時もし、俺もあいつらに引き取られなかったら、サーナのようにかわいがってもらえていたのかもしれないな。ほんとそう考えるとあいつらだけがふざけた連中だったよ。まぁ、あの野郎に踊らされて俺を襲撃してきたやつらもいたけど、それはまた別にいいさ。

「お爺ちゃん、お母さんスニル達帰って来たよ」
「おお、帰ったか」
「おかえり、スニル君、シュンナさん、あれっ、ダンクスさんはどうしたの?」

 案の定ダンクスだけがいないことにノニスおばさんが不思議そうに尋ねてきた。

「ダンクスは、用事があって、今回は来られなくて」
「そうなのか、それは残念だな」
「なんだ、ダンクスの奴来ないのか」
「用事ってなんだよ」

 村の男たちがダンクスが来ないと聞いて残念がっている。ダンクスの奴は村の男たちからはそれなりに人気があるからな。女性受けはあまりないんだけどな。

「まぁ、ちょっとね。ダンクスもみんなに会いたがってたわ」
「そうかい、まぁ、野郎の面なんてあまり見たいものでもないけどな」
「違いない」

 笑いあう面々、これはいかにダンクスが村の男たちとの間に友情を築いているという証拠だろう。人見知りが激しい俺としてはうらやましい限りだ。現在俺がこうして、悪態をつける相手というのはやはりダンクスとシュンナだけなんだよな。あっ、そういやウィルクがいたな。ちょっと忘れていた。まっ、とにかくそれでもダンクスはすぐにこうした仲間を作ることができるのは本当にうらやましい限りだ。

 その後、村長たちもサーナが話すところを見たりして、一時村の連中がこぞって自分のことをサーナに呼んでもらおうと躍起になったのは笑えたな。どう聞いても違うだろという言葉も言っただの、違うだの言いあいとなったり、似た名前に奴がいて、サーナがどっちを呼んだだの言い合いになったりしていた。ほんと平和なひと時となった。まぁ、確かにサーナは今のところまだちゃんとした言葉を話したわけではない。実際名前だって、はっきりといったのは俺のスニルだけで、他はどっか違う、ポリーだって、ぽいーだし、シュンナだって、シュナだしな。でも、俺たちの耳にはちゃんと聞こえている気がする。

「ダンクスさんがこれなかったってことは、今日はもしかしてこのまま帰る?」

 ポリーがそんなこと寂しげな表情で聞いてきた。

「いや、数日は居るつもりだよ」
「そうなの。でも、大丈夫なの」
「問題ないって、俺たちも常に一緒にいなければならないってこともないしな。ダンクスだってたまには1人でいるのもいいだろ」
「そっか、よかった」

 何やら嬉しそうな表情を薄るポリー、どうやらポリーもサーナと遊べるということがうれしいらしい、まぁ、ずいぶんとかわいがっているからな。
 ただ、ダンクスに関して若干嘘をついていることが少し心苦しいのは俺の気のせいだろうか。でも、さすがに父さんと母さんが転生して再会したとは言えないからな。

「ああ、まっそういうわけだから数日頼むぞ」
「任せてっ」

 というわけで、俺とシュンナ、サーナは数日村で過ごすこととなった。


 その日の夜は宴会となり、男たちは飲み明かしてその状態でサーナを構おうとして女性陣に怒られていた。中にはその飲みっぷりと酔っ払いぶりにしばらく禁酒令がだされた男もいたほどだ。
 俺はというと、いつものように早々に眠くなりさっさとサーナとともに実家にて眠り込んでしまっていた。

 翌日

「スニル、何しているの」

 実家リビングでサーナにミルクを与えているシュンナを楽しそうに見ていたポリーが俺をちらっと見て聞いてきた。

「この前テント用の家具を買ったからな、それまで使っていた家具を戻そうと思ってな。っと」
「スニル、手伝おうか」
「いや、大丈夫だ。シュンナはサーナを頼む」
「わかったわ。でも、手伝うときは言ってよ」
「おう、その時は頼む」

 そうは言うが実際シュンナに手伝ってもらうことはない。というのも家具と言えばでかくて重い物となるわけだが、俺の場合”収納”から取り出すだけだからだ。もし配置が気に入らなければまた”収納”に収めて取り出せばいい。
 というか、シュンナに手伝ってもらったところで重い家具なら結局運べないしな。

「ほら、サーナちゃん、げっぷしましょうね」
「……けぷぅ」
「わっ、ちゃんとできたね。サーナちゃん」

 ミルクを飲み終わってからシュンナがいつものようにサーナにげっぷをさせ、サーナがそれをするとポリーがサーナをすかさずほめた。村にいたころは毎回この光景が広がっていた。

「よしっ、俺も終わった」

 サーナのミルクが終わったところで俺の作業も終了したのだった。

「この後はどうするの、おじさんとおばさんのお墓?」
「あっ、ああ、そうだな。そうすっか」

 俺はいつも村に帰ってくるたびに両親の墓へ行っている。ポリーもそれを知っており、毎回ついてくることもあり、当たり前のようにそう聞いてきた。しかし、正直言ってこれまでは意味のある墓参りだったが、今は転生した両親と再会を果たしている。そのため、墓参りという行為にあまり意味を感じない。とはいえ、ポリーはそのことを知らないから、ここでやめておこうといっても不振に思うだけだ。というわけで、墓参りをしておこうと思う。

「それじゃ、あたしはサーナと散歩でもしようかな」
「ああ、わかった」
「あっ、あとで私も合流するね」
「ええ、待ってる」

 それから、俺とポリーはいつものように両親の墓へ向かい、軽く掃除をしたのち日本式に両手を合わせて拝んだのであった。まぁ、日本式といっても線香はないけど。

「それじゃ、私はシュンナさんと合流するから」
「おう、俺はこの辺りを見てから戻るよ」
「うん、それじゃね」

 ポリーはそう言ってからシュンナと合流するために走っていったのだった。俺はというと、特にすることがあるわけでもないために適当に過ごすこととなった。

「さて、どうすっかなぁ」
「たっ、大変だー。村長ー!!」

 ちょうどその時、村の方からそんな叫び声のような声が聞こえてきた。

「何かあったのか?」

 何か緊急事態のような気がして、俺も村へと走ったのだった。


「そ、村長!」
「どうした、そんなに慌てて」

 俺が村に着くと、村長の前で息せき切っている男が一人。

「おー、オークだ。オークが現れたんだ」
「なにっ、オークだって」

 なんと、村の近くにオークが現れたというじゃねぇか。これはあれだな、あの時ライってことだな。そう、俺の両親が命を落としたあの時だ。

「スニル! いたのか?」

 オークの名が出た瞬間村長はあわてつつ周囲を確認し、俺を見ると驚愕の表情とともにそういった。

「今しがた。それよりオークが出たって」
「あ、ああ、そのようだ」
「それだったら、俺たちでやってこようか」

 俺とシュンナならオークぐらいわけもない。ていうか、俺一人でも全く問題ない相手となっている。

「い、いや、しかし」
「あ、危ないよ。スニル」
「大丈夫だって、俺ならオークぐらいなら問題ない、なぁ、シュンナ」
「ええ、そうね」
「あぎゃあぎゃぁ」
「あーらら、サーナちゃん大丈夫だよぉ」

 俺の問いかけに答えつつ現れたシュンナだが、村人たちの雰囲気にサーナが泣き出してしまった。

「とはいえ、今回はあたしが行ってくるわ。スニルの場合両親のこともあるしね。スニルはよくても村長たちは落ち着かないでしょ」
「いや、しかしシュンナさん危険では?」

 村長たちにとってオークと言えば、元冒険者であり村の誰よりも強かった父さんと母さんが2人掛かり、しかも命を懸けて戦った相手。そして、村長たちにはシュンナがいかに強いかということすらわからない。そのためシュンナが1人で行くのは危険と判断しても仕方がない。

「大丈夫だよ村長、確かに父さんと母さんもそれなりに強かったらしいけれど、シュンナはそんな2人よりもはるかに強いんだ。ていうかダンクスを思い出してみてくれ、ダンクスだったら止めるか」
「ダンクスか、いや、ダンクスがオークにやられるとは思えねぇな」

 村長に聞いたのに答えたのは村の男たちだ。彼らはダンクスと飲んで騒いで、狩をしての仲であり何よりあの体格だ。

「シュンナとダンクスはほぼ同じ強さだ。まぁ、ベクトルは違うけどね」
「べくとる? それが何かわからないが、本当なのかい」
「ええ、まぁそうなるかな。だから、大丈夫よオークだったらたとえ10匹現れたって問題ないわ」

 シュンナは力強くそう言っているが、その腕にはサーナがすやすやと眠っているために、なんか妙な感じだ。

「それじゃ、ちょっと行ってくるわね。ポリーちゃんサーナのことお願いね」
「え、う、うん。でも、ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫よ。それじゃ、行ってくるわね」

 シュンナはそう言ってサーナをポリーに預けると、俺の実家に戻り武器を持ってまるで散歩にでも行くように森へと入っていき、それを村長たちは心配そうな表情で見送ったのであった。

 結果を言うと、シュンナはすぐに戻ってきた。

「ただいま、スニル念のため探知しておいてくれる」
「もうやった。シュンナが倒した奴だけだ。多分はぐれだな」
「そう、それなら大丈夫ね」

 シュンナが出た瞬間”探知”を使い周囲にほかのオークや魔物がいないかをチェックしたが、居たのはシュンナが倒した奴だけだった。

「え、ええと、本当にオークを?」
「ええ、これよ。みんなで食べましょ」

 村長が恐る恐る尋ねるとシュンナはそう言ってマジックバックの中からオークを1匹取り出した。少しやせた個体のようだが、問題なく食べるところはありそうだ。

 その瞬間村人たちから歓声が上がり、それを聞いたサーナが泣き出したのは言うまでもない。そして、その日は再びの宴会となったのである。

 そうして、数日が経過し俺とシュンナ、サーナの3人は村を後にしたのだった。
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