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第05章 家族

05 旅立ちと過去

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 神様から贈り物は何かと思っていたらまさかの両親だった。これに喜んだのは俺の中で眠っていただった。というのは、俺が記憶を取り戻すまでスニルとして生き、虐待を受け続けたことで精神が崩壊しかけただ。スニルは恋焦がれていた本当の両親に再会できたことで眠りから覚めたというわけだ。まぁ、覚めたからといって俺がどうこうなるというわけではないけどな。僕も俺も同じ人間であり別人格というわけではなく、合わせてスニルだからだ。とまぁ、こうして再会した両親に俺は記憶を取り戻してから今日までのことを話して聞かせたのだった。その際カリブリンで孤児院にしたことでは褒められ、サーナを救い出したところでもほめられた。なんだか両親に褒められるってのもこれはこれでくすぐったいものがあるな。

「ホント、スニルよくやったぞ」
「そうね。サーナちゃんのことは腹立たしいけれど、その報いを受けているのならいいわ。あれっ? でも待って、それじゃ、サーナちゃんはシュンナさんの子じゃないってことよね」

 サーナのことを話していると、シュンナの子ではないということに母さんが気付いた。

「そうなる。一応対外的にはシュンナの子供みたいに見せているけどね」
「ということは、どうしているの? シュンナさんは出ないのよね」
「?」
「おっぱい、出産しなきゃ出ないでしょ」

 母さんが言っていることが理解できず疑問符を出していると、母さんが続けて言った。ああ、そういうことか、最近当たり前に使っていたからちょっと忘れてていた。

「それなら大丈夫だよ。代用品を使ってるからね。まぁ、説明するより見たほうが早いか、ちょうどそろそろ時間だし、それにダンクスとシュンナを改めて紹介するよ」
「代用品? よくわからないけれど、そうね見たほうが早いと言えばそうだけど、いいのかしら」
「ああ、問題ないよ。俺にしか作れないから一般的には教えられないけれど、父さんと母さんなら問題ないからね」
「そうか、ていうか俺もいいのか、ほら、こういうのは男の俺が見るものじゃないだろ」
「大丈夫だよ。それじゃ、行こうか、俺たちが借りているのは隣だし」
「ええ」
「お、おう」

 そんなわけで、父さんと母さんを連れて隣の、俺たちが借りている部屋へ向かったのだった。

「俺だ、2人とも入るぞ」

 そう言ってから俺は部屋に入っていった。

「おう、スニルそっちはいいのか?」
「ああ、大体の話は済んだ。それで、改めて2人を紹介しようと思ってな」
「そう」
「とういうわけで、父さんと母さんだ」
「ヒュリックだ。改めてよろしくな」
「ミリアよ。私たちの息子がずいぶんとお世話になったわ。ありがとう」

 父さんと母さんがそれぞれ、前世の名で改めて自己紹介をした。

「聞いているとは思うが、俺はダンクス、元騎士で犯罪奴隷として過ごしかけた時にスニルに救われた」
「あたしはシュンナです。お2人と同じく元冒険者で借金奴隷にされてたところをスニルに救われたんです。それに、お世話にっていうけど、どちらかというとお世話になっているのはあたしたちの方ですよ」
「確かに、スニルがいなかったら俺たちはとっくに死んでるしな。それに、スニルのおかげでいろいろ助かってる」
「あぎゃぁ、おぎゃぁ」

 お互いに紹介しあっているとタイミングよくサーナが泣き出した。

「あらあら、サーナちゃんおなかすいちゃったかな」
「そうみたいですね。ダンクスお願い」
「おう、待ってろ」

 シュンナがサーナを抱き上げたために手が離せない、そこで手の空いているダンクスにミルクを作るように言ったのだった。
 それから、ダンクスはマジックバックから哺乳瓶をはじめ、お湯、粉ミルクを取り出してミルクを作り出した。これらはいつでもどこでもできるようにセットとして用意していた。

「それが代用品?」
「そう、前世の世界ではみんなが使っている物なんだ」
「便利そうだな。これならほかに出る奴を探す必要はないし、孤児院でも赤ん坊を育てるのにわざわざ頼みに行く必要がなさそうだな」
「そうね。確か、私の場合はノニスがいたからよかったけれど、いない場合のほうが多いのよね」

 2人とも粉ミルクの利便性を考えているようだ。

「これは俺にしか作れないし、その俺も正確にはこれの作り方が分からないんだよね。だから、これを広めることはできないんだ」
「そういえば、さっきもそう言っていたが、どういうことだ。スニル」

 俺の言葉に父さんが疑問を投げかけてきた。そこで俺は父さんと母さんに向けて粉ミルク作成について説明をしていったのだった。

「へぇ、前世の知識ね。本当にすごいのねスニル」

 母さんはそう言って俺の頭をなでているが、少し照れくさいのでやめてもらいたい。しかし、母さんにとって俺はやはり小さいころのままだから仕方ない、これは慣れるしかないか。まぁ、それはともかく俺たちが話している間にシュンナはサーナにミルクを与えたのだった。


 そうして、夜が更け翌日のことだ。

「……というわけで、私たちダンクスさんとシュンナさんたちと一緒に旅に出たいと思うの」
「いいだろ、じいちゃん」

 父さんと母さんはロリッタとヘイゲルに戻って、育ての親でもある村長に俺たちと一緒に旅に出ることを頼み込んでいる。

「いや、しかしお前たちまで一緒に行くとなると迷惑になるだろう」

 そう言いつつ村長は俺とサーナを見た。まぁ、村長が言いたいことは分かる。父さんと母さんが加わると俺たちは6人となり、そのうち4人が子供という構図が出来上がってしまう。これは確かにダンクスとシュンナの負担が大きくなる。でも、村長は知らないが、俺は14歳ではあるが、中身は40過ぎのおっさんで、父さんと母さんも12歳ではあるが、中身は俺の親であり大人。つまり俺たちの中で子供というのはサーナだけとなる。

「そこらへんは大丈夫だぜ。スニルはこう見えて14だし」
「結構頼りになるんですよ。ていうかあたしたちよりしっかりしてるところもありますしね。それに、ロリッタとヘイゲルだって、結構強いみたいだし、サーナもなついているから一緒に来てもらえると助かるところもあるんですよ」

 ダンクスとシュンナがそれぞれ助け舟を出した。俺はどうかというと黙ってそれらを見守っている。まだ成人していない俺が何を言っても無駄だし、そもそも人見知りが発動しているから俺はしゃべれない。

「お2人がそう言うなら、ですが、本当によろしいのですか?」
「ああ、構わないぜ」
「ええ、もちろん」
「うーん、わかりました。ヘイゲル、ロリッタお前たちは昔から旅に出るといっていたし、こうしてダンクスさんとシュンナさんが一緒というのは心強い。しかし、あまり迷惑はかけないようにするんだよ」
「うん、ありがとうお爺ちゃん」
「ありがと、じいちゃん」

 こうして父さんと母さんは俺たちの旅に同行することを許されたのだった。

 それから、その日は父さんと母さんの旅の準備と送迎の宴会が行われ、その翌日俺たちは旅立つこととなった。

「それじゃ、お爺ちゃん行ってきます」
「行ってくるぜ。みんな」
「ああ、いてらっしゃい、改めてこの2人をお願いします」
「ええ、任せてください」
「しっかりと預かるぜ」
「サーナちゃん、またね」
「あぅぁー、だぅー、だっ」

 サーナはすっかり村の人気者となっており、多くの女性陣がサーナと別れを惜しんでいる。とまぁ、そんな旅立ちとなったが俺たちはアリナス村を旅立った。


「どんな旅になるのか楽しみだな。ミリア」
「ふふっ、ええそうね」

 旅に出ることができて若干ヘイゲルが出ている父さんを微笑みながら同意する母さんだった。

「まずは、ルンボーテに行くんだよな」
「ああそうだな。そこ行ってから南の王都へ向けていくつもりだ」
「王都かぁ、前世でも行ったことないのよね。まぁ、国は違うけど」
「コルマベイントの王都はもう行きたくないなぁ」
「だろうな」
「そっか、スニルから聞いてるけど大変だったって」
「ホントですよぉ」

 シュンナはほとほとコルマベイントの王都に懲りたというが、俺もできればあそこは二度と行きたくない。

「それにしてもずいぶんとゆっくり歩くんだな」

 しばらく歩いたところで父さんがそんなことを言い出した。

「まぁ、そんな急ぐ旅でもないからな。ていうかスニルに合わせてるんだよ。スニルは体が小さいから歩くのも遅いんだ」
「なるほどな」

 それで納得したのか父さんはそれ以上聞くことはなかった。まぁ、確かに早い奴に合わせるより遅い奴に合わせたほうがいいからな。

「それに、あたしたちの旅ってそもそもスニルの旅に、あたしたちが同行しているって形だからっていうのもあるかも」

 シュンナの言う通りこの度は俺が世界を見たいという目的のための旅だからな。

「そうか、じゃぁリーダーはスニルってわけね」
「そうなるかな、ねぇ、スニル」
「別に俺はリーダーになった覚えはないけど、まぁ、行き先を決めているのは大体俺だしな。でも俺が決めているのって大まかなもので、細かいところは大体3人で相談してたよな」
「へぇ、いいわね。それ」
「ああ、そうだな」

 そんな会話をしながら俺たちはルンボーテへ向かって歩を進めていると、だんだんと日が傾いてきた。

「今日はこの辺りまでにしておくか」
「ふぅ、ああ、そうだ、な」
「あたしはいいわよ」
「いいけど、スニル、大丈夫?」
「大丈夫、問題ない」
「そうは見えねぇが、まぁいいか。それで、テント張るのか?」
「ふぅ、いや、テントはすでに俺の”収納”に入ってるから出すだけだよ」

 俺はそう言いながら、街道から少し入ったところにテントを取り出して設置した。

「あれっ、これって」
「懐かしいな。俺たちのテントじゃないか」
「あっ、やっぱり2人のなんだ。うちにおいてあったからそうじゃないかとは思っていたんだ」
「まぁな。最初のころはミリアとシエリルで使ってたんだが、あいつらが出来ちまったから結局俺らで使ってたんだよな」
「そうね。懐かしいわ。でも、これ2人用だから狭いわよ」
「ああ、あと2つあるのか」
「いや、これだけだよ。まぁ、中は改造して魔道具にしてあるから、まぁ入ればわかるよ」

 そう言って俺はテントの中に入り、そのあとをダンクスとシュンナがサーナを連れて入ってきた。

「まじか、いやでもな」
「私たちも入ってみましょう」
「そ、そうだな」

 そんな会話をしたのち恐る恐るといった感じに2人が入って来て、一旦外に出た。

「ああ、わかるわかる」
「そうなるよねぇ」

 ダンクスとシュンナは父さんと母さんの行動を懐かしむように見ていた。そういえば2人も最初このテントにはいいた時に似たような反応していたな。

「ちょ、ちょっと、スニル、これどういうこと、なんでテントの中に家があるの」
「どういうことだよ。どうなっているんだこれ」

 何度も出入りした後、それぞれ俺に詰め寄ってきた。

「空間魔法を使って、テントの中の空間を広げて、ダンクスに部屋を作ってもらったんだ」
「これは魔道具、なのか」
「そう、ああ、それだけど家にあった魔石を使ったんだけどよかった」
「家に、ああそういえばおいていたな。まぁ、俺たちも持っていただけで、特に何かに使おうと思っていたわけではないからな」
「そうね。せいぜい将来お金に困ったら売ろうと思っていたものだしね」
「ならよかった。まぁ、とりあえず座ってよ」
「あ、ああ、それにしても魔法ってのはすげぇな。まさかこんなことまでできるなんてな。これがあったら旅もかなり楽になるわね」
「確かに実際楽だな。結界で守られているから見張りも必要ないしな」
「そうなのか。それはまたすげぇな」
「ホントねぇ」

 テントについての説明をしていると父さんと母さんは感心しきりだった。それから、”収納”に収めていた料理を取り出し夕食を終えた後、なんとなくのんびりしていた。

「ああ、そうだ2人にこれ渡しておくよ」

 そう言って俺は”収納”から2本の剣を取り出して2人へ渡した。

「これって、私たちの?」
「おう、そうだぜ俺の剣」
「ちょうど持ってたからね。形見として持ってたんだけど2人がいるなら本人が持ってた方がいでしょ」
「おう、助かるぜ。これもそれなり使ってるが、やっぱり手になじんだものがいいからな」
「そうね。ありがとう、スニル」

 そう言って父さんと母さんはそれぞれ片手剣とショートソードを受け取った。これが2人の前世使っていた得物である。



 夜、俺とサーナが眠りについたころである。といっても父さんと母さんに前世の得物を渡してからさほど時間が経っていない。というのも俺はやはり体が小さいことや元の体力が低すぎたことで、まだ一日歩くと早い時間に眠くなる。
 まぁ、それはともかくとしてこれは、そんな時間の出来事をのちにダンクスたちから聞いたことである。

「ふぅ、今日も酒がうめぇ」
「ほんと、おいし」

 ダンクスとシュンナは俺が寝た後も起きており、主に晩酌をしている。そんな2人のほかに今日からは父さんと母さんが加わっている。

「酒か、うらやましいな。俺も飲みてぇ」
「まだ駄目よ。私たちはまだ12歳なんだから」
「わかってるって」

 前世で大人だった父さんは当然酒を飲んでおり、結構好きだったらしいが、今はまだ子供ために飲むことはできない。

「悪いな」
「まぁ、いいさ。それより、2人に聞きたいことがあるんだがいいか」
「聞きたいこと? もしかしてそれってスニルのこと?」
「え、ええ、そのね」
「あれだろ、スニルのことだ。記憶を取り戻す前のことは話してないんだろ」

 ダンクスとシュンナは俺の過去をすべて話しているために俺が両親に村での出来事などを話していないことは予想出来ていた。

「ああ、知っているのか?」
「まぁ、あたしたちは大体聞いているから、それに確かにあれはかなり言いづらいからね」
「だな」
「一体、何があったんだ」
「そ、それはやっぱり、スニルがあんなに小さいことと関係が」
「そうなるな」
「お願い聞かせて」

 それから、ダンクスとシュンナが俺の過去を語りだした。

「結論から言うと、スニルは虐待を受けていた」

 ダンクスは結論から言った。

「……ん、だ、とっ!」
「……っ!!」

 その結論を聞いただけで、父さんと母さんからどす黒い殺気が漏れ出てきた。ちなみにこの時の俺はそれに気が付かずにグースか眠っていた。その理由は俺が施した結界にある。俺たち3人は仲がいいとはいえさすがにお互いのプライベートがある。それを守るためにそれぞれの部屋に遮音などを含むいくつかの結界を張っており、リビングで殺気があふれたところで気が付かないというわけだ。

「そ、それは、本当なのか?」
「ああ、スニルから直接聞いたからな」
「物心つく前からこき使われて、食事もほとんどもらえなかったそうよ」
「っ、一体、一体」
「誰がそんなことをっ!」

 殺気を漏らしたままの状態で尋ねる父さんと母さん、ダンクスとシュンナはそれを受けても全く意に介さない。それというのも、2人殺気は強いが2人に向けられたものではないからだ。俺だったら、ビビりそうだ。
 まぁ、それはともかくダンクスとシュンナはそのあと、あの一家のことそして俺が神様から聞いた顛末までを話して聞かせたのだった。

「……そうか、あの野郎、俺だけならまだしも、スニルまで、許せねぇ」
「ギブリ……カリッサまで、どうして……」

 父さんは怒り心頭、母さんはやはりあいつらと古いなじみだったこともあり相当にショックを受けたようだ。
 こうして、父さんと母さんは俺の、いやスニルがいかにして育ったのかを聞いたのだった。
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