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第05章 家族

01 新たな旅立ち

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 サーナを保護して、俺たちで引き取るようになってから10か月の時が経った。本当なら半年ぐらいで旅を再開するつもりだったが、ポリーをはじめとした多くの村人たちから待ったをかけられたために今日まで村にいたというわけだ。さて、そんな10か月の間の話を少ししておこう、まず最初に話すのはシムサイト商業国のことだ。

 結論から言うとオリフェイスをはじめ、奴隷狩りに関わっていた連中は軒並み失脚、いや転落した。

 どういうことかというと、まず俺が改造した奴隷の首輪が出回るようになったわけだが、一番割を食うことになったのは当然ながら奴隷狩りどもだった。それはそうだろう俺が改造したものは犯罪や借金を含む自業自得な奴だけに嵌めることができるものだ。コルマベイントやウルベキナしか知らないが普通に使う分には問題は起きない。しかし奴隷狩りははじめから無実の人間に首輪を勝手にはめる。そういったことでは当然はまるわけはない。そうなるとどうなるか、その相手が一般人なら何も起きないだろうが、相手が戦闘職例えば冒険者などなら怒って反撃を受けることになるだろう。

 実際ウルベキナで高位冒険者相手に、だまして首輪をはめようとしたものがいた。その時に使ったのが俺が改造したものだった。しかもその冒険者はまっとうな冒険者であり不正も犯罪も全くしていなかった。そのため首輪がはまらず、しかも冒険やはすぐにそれが奴隷の首輪で自分が騙されたことに気が付いた。そこで憤慨した冒険者は奴隷狩りを締め上げた。そうして、聞き出した情報をもとに奴隷狩りの拠点を襲撃。得られた情報を冒険者ギルドへ報告したという、ギルドもこれまで多くの冒険者が行方不明になったり、仲間がさらわれたなどの情報も得ていたことで、本腰を入れて調査を行った。その結果シムサイトが関わっているということが分かった。これにはギルドも手を出せない案件となった。それはそうだろう、相手は国、しかも冒険者ギルドのない国だ、そんなところに喧嘩を売れるわけがない。そこで国民がさらわれたということで、国に託した。さすがに国もシムサイトに抗議という形を使ったわけだが、これを受けたシムサイト側が、偶然にも野党側の議員だった。もちろん彼ら野党側には身に覚えのないこと、それでも奴隷狩りという話は聞いたことがあったために、これはもしやと思い秘密裏に調査を開始、その結果俺たち同じような経緯をもってオリフェイスたちにたどり着いた。野党議員たちは歓喜したことだろう、これを使えば与党から政権を奪えると考えたからだ。
 
 なぜ俺がここまで知っているのかというと、実はここまでシムサイト側から見ていてこれらの動きはすべて把握していたからだ。また助け舟として、オリフェイスたちの店から奪っておいた犯罪の証拠などを書き記したものを、野党議員トップ議員の机の上にいくつか置いておいた。もちろんその議員も意味が分からず困惑していたが一応という感じに裏付け捜査を行った。その結果間違いないことが判明し、それをもとにオリフェイスたちを糾弾した。その結果オリフェイスたち奴隷狩りにかかわった議員を含む与党議員数名が更迭ののち逮捕された。それからさらに詳しく調べるために各店に家宅捜査を行い、多くの犯罪が判明したこと、奴隷狩りという他国民を誘拐し奴隷にするという暴挙を行ったことから逮捕され犯罪奴隷となった。まさか皮肉にも奴隷狩りを行っていたものたちが自ら奴隷となったわけだ。

 とまぁ、シムサイトの話はこれぐらいにして、次は俺たちの話をしておこう。あれからシュンナはエリゼ婆ちゃんや、村の女性たちとともにサーナのおむつや服などを縫いまくっていた。あとは主にサーナのための動きばかりしていたように思える。はたから見ていると大変そうにしか見えないが、シュンナ自身は母性にでも目覚めたのかかなり楽しそうにしていた。

 一方ダンクスはというと、この際と言わんばかりに森へと赴き狩りをしまくり、村の男たちへの簡単な戦闘訓練や狩りの仕方などを教えていった。

 んで、俺はというと先も言ったようにシムサイトにちょくちょく行ったり、ポリーの遊び相手をしたり、ダンクスとともに狩りに出かけたりしていた。そのほかにも俺たち3人はサーナを連れてカリブリンに出かけて、ワイエノおじさんとシエリルおばさんの元を訪れたりしていた。そうそう、その時2人に頼まれてフリーズドライの工場を新たに建てた。ていうか、貧民街の土地をかなり工場として建て替えることになった。そのおかげで貧民街がだいぶ縮小された上に治安もかなり良くなったといってもいいだろう。それに、これまで孤児院に行くには治安の悪い場所を通らなくてはならず女子供がおいそれと歩き回れるような道ではなかったが、今では孤児院までの道がすべて工場の敷地となり子供たちも安全に街へ出かけられるようになった。ちなみに増やした工場の従業員はどうしたのかというと、これは貧民街の住人たちを雇い入れることで解決した。もちろん誰でもってわけではなくちゃんと人となりを見た上に、鑑定をかけて問題ないことを確認してからであることは言うまでもないだろう。

 それと、ついでに言っておくとカリブリンの孤児院やフリーズドライの件で領主から権利などを差し出せてきなとことを言われたようだが、そこらへんは俺たちもぬかりなく行っており問題ない。というのも、孤児院で作っている野菜、これは領主の土地ではなく俺たちが買った土地となり表向きはダンクスの畑となっている。そこを子供たちが世話をし、給料としてその売り上げを与えているという形にしてある。また、フリーズドライに関しては言うまでもなくシエリルおばさんとワイエノおじさんの所有、たとえ領主でも無理は言えないというわけだ。

 とまぁ、そんな風に過ごすこと10か月、今日は8月15日俺の誕生日だが、実は俺たちが今日まで村にとどまっていた理由でもある。というのも2か月ほど前、その日はポリーの誕生日だったわけだがその際についついポリーの日本ではどうかという質問に毎年祝っていたことを話した。すると、なら今年俺の誕生日を祝っても問題ないということになり、旅の再開は今日まで延期しなさいと言われ、それを聞いたシュンナとダンクスまで乗り気になったことでこうなったわけだ。

「スニル、誕生日おめでとう」
「おめでとう」
「お、おう、ありがと」

 ポリーが代表して誕生日を祝ってくれたが、なんとも恥ずかしいものがあるな。考えてみると前世でも俺は家族以外からこうして誕生日を祝ってもらったことはなかった。だからだろうか今結構うれしいと感じている。
 それから相も変わらず誰が主役かわからないままの宴会が行われて、俺たち子供組はさっさと寝てしまったが、大人たちは夜通し飲んでいたようだ。

 そうして翌日、俺たちは再び旅立つことになった。

「スニル、ちゃんと手紙書いてよね。それと、たまには帰って来てよ」
「おう、わかってるって」
「シュンナいいかい、サーナは……」

 俺とポリーが別れの挨拶をいつものようにしていると、近場ではエリゼ婆ちゃんがシュンナにサーナの世話の仕方などを話しているようだ。俺も後で聞いておかないとな。

「ダンクス、スニルとサーナを頼むぜ」
「おう、任せろ」

 一方でダンクスは村の男たちとの別れを行っているようだ。
 こうしてそれぞれの別れを済ませたのち俺たちは旅立った。

「まずはカリブリンだな。”転移”するか?」
「いや、特に焦る旅でもないし、のんびり行こう」

 俺たちがまず向かうのはカリブリン、今回はそこから南へ向かう予定となっている。なぜ続きとしてのシムサイトに行かないかというと、あそこはもともと奴隷狩り関連ということで向かっただけで、シュンナのことを考えるとできることなら行きたくない。あそこではシュンナはいろいろ制限されることになるしな。それにシムサイトは先のことでまだまだ混乱が続いているということもある。というわけで、せっかくスタート地点であるゾーリン村に戻ったのだから、どうせなら今度は南へ行ってみようとなったわけだ。
 さて、そういうわけで歩くことしばし、サーナはよくわかってはいなくとも出かけることは分かっているのか、先ほどからきゃっきゃっ言って喜んでいるようだ。

「サーナ、喜んでるな」
「ほんとねぇ。お出かけってわかってるのかな」
「かもな」

 サーナは現在ダンクスが抱いているわけだが、これには当然理由がある。まず俺の場合、最近130ぐらいまで伸びたとはいえ、まだまだ赤ん坊を抱くと大きくて下手すると前が見えなくなるし見た目がちょっと問題がある。また、シュンナは150ぐらいなので、抱く分にはそれほど問題はないが、実はシュンナは力がそこまでない。普段戦闘時などは身体強化を使っているために人並外れた力を発揮するが、使わなければ一般的な女性より少し力がある程度でしかなく、サーナを抱いて長時間歩くなんてできない。そんな俺たちに対してダンクスは身体強化を使うまでもなく人並外れた力を持っている。ていうか、多分地球で世界一の力を持っているというギネスやオリンピックの金メダリストなどを圧倒する力を持っており、ダンクスにとって赤ん坊の重さなんてものは綿毛みたいなものだそうだ。

「俺にとってはスニルだって綿毛みたいなもんだぜ」

 そう言うことらしい、確かに俺は小さく痩せているから軽いだろうな。それはさておき、街道を歩くことしばらく、そろそろ日が暮れそうな時刻となってきた。

「そろそろ、今日はこのぐらいにしておくか」
「そうね」
「おう、んじゃ、テント出すか」

 今日はここまでということでテントを取り出し中へと入っていく。

「ほれっ、サーナはここな」
「あぅー、だ」

 テントに入るとすぐにあるリビングにはサーナ専用のベビーベッドがあり、そこにサーナを下した。

「まずはサーナのミルクだね」

 そう言ってシュンナはキッチンへ向かいお湯を沸かし始めた。その後、慣れた手つきで哺乳瓶を取り、そこに粉ミルクとお湯を入れてよく振り出した。

「このぐらいかな。どうスニル」

 シュンナがそう言ってできたミルクを俺に手渡してきた。シュンナも作り慣れているので問題ないはずだが、何か間違いがあっても困るのでこうして俺もまた確認しているというわけだ。うん、問題ないな、温度も人肌ぐらいだ。

「いいんじゃないか。これなら問題ないだろ」
「うん、それじゃ。さぁ、サーナちゃん……」

 シュンナは普段話す時はサーナと呼ぶがこうして直接呼びかけるときはちゃんをつけて呼んでいる。それで、そのサーナを抱き上げてミルクを与え始めたのだった。それを見ていた俺とダンクスはというと、自分たちのご飯を取り出し準備をしていくのだった。

 その後、寝てしまったサーナを眺めつつ俺たちも適当に過ごしたのちそれぞれ眠りについたのだった。初めての旅で、サーナはどうだろうかと思ったが、思った以上にサーナは喜んでいたことにほっとする俺たちであった。
 こうして、出発してから3日、道中でダンクスとシュンナと出会ったところを懐かしみながらも、俺たちは何とかカリブリンへと到着したのだった。あの時は俺もヒーヒー言いながら歩きダンクスの肩に乗ったものだが、今では何とか息切れもせずに歩くことができるようになっている。まぁ、歩く速度はそこまで変わっていないが、こればかりは仕方ない。身長が伸びたといっても100が130になっただけ、結局は子供の身長でしかないからな。俺たちの間で一番歩幅のあるダンクスには悪いがゆっくり行くとしよう。

「カリブリンにはよらないんだよね」
「そうだな。村にいた時さんざん行ったしな」
「だな」

 この間までよくカリブリンに行っていたこともあり、いまさら改めていく必要を感じない。ということで、今回はカリブリンを素通りして南へ向けて出発することにした。
 てなわけで、さらに歩くこと4日が経過した。

「そろそろ、あれを起動しておいた方がいいんじゃないか」
「あっ、忘れてた」
「おう、そうだな」

 ダンクスが言ったあれというのは、俺たちが身に着けているフード付きマントの留め具として作った魔道具のことだ。これは変装の魔道具で、サーナを含めた俺たち全員が持っているものだ。サーナの場合は耳と尻尾を隠すためのものでこれがないとサーナが獣人だとばれてしまうから、基本常につけるようにしている。一方で俺たちのものはというと、まずダンクスはその特徴である身長を縮むようにして、顔も強面ではなく普通にしておいた。シュンナに関しては、やはりその大きな胸を小さくし、顔も少しだけ年齢を上げて、普通にしておいた。それで、俺はというと、身長は少し上げて顔はダンクスに施したもの寄りにしてある。こうすることでダンクスとシュンナが夫婦で俺とサーナがその子供という設定にすることができる。

「ダンクスと夫婦ってのはちょっとね」
「仕方ないだろ、俺たちの組み合わせで一番しっくりくるからな」
「まっ、どうせ国境を超えるまでだろ」
「そういうこと」
「はぁ、仕方ないか、さっさと済ませましょ」

 ということで俺たちは魔道具を起動してから連れ立って歩き出した。そうそう、俺たちの姿が変わっていることにサーナは大丈夫かという心配があるだろうが、これには全く問題ない。一応確認として村でやってみたが姿が変わってもサーナは変わらず俺たちになついていた。というのも、サーナたち獣人という種族は鼻がよく人などを見て判断しているわけではなくにおいで判断している。それは赤ん坊でも同じで、いくら姿が変わっていてもにおいまでは変わらないからサーナにとっては変わっていないのと同じということだ。

 余談だが、変装の魔道具で身長まで変えているわけだがこれはどういうことかというと、なんてことはない単にそういう風に見えるようにしてあるというだけで、実際に身長が変わっているわけではない。そのため、例えばダンクスは本来の胸のあたりに頭が来るようになっているから、相手はダンクスの顔を見ているつもりでも実際にはダンクスの胸を見ているというわけだ。

「次、身分証と渡航目的は?」

 国境へとやって来たところで兵士がそう言ってきた。

「身分証はない、目的は旅だな」
「旅? 子供連れでか?」
「ああ、まぁな」

 普通子供を連れて旅をすることはない。だから兵士も驚いている。

「そ、そうか、まぁ、気をつけろよ。それと、通行料は……」

 その後通行料を払い、緩衝地帯を抜けたのち、ブリザリア王国へと入国したのだった。

「全く疑われなかったな」
「変装は完璧ってな」
「ほんとすごいよね。これ」
「あうぁー」

 本当にあっさりと国境を抜けることができたことで、安堵しつつも拍子抜けしている俺たちであった。
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