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第04章 奴隷狩り
23 奴隷狩りの正体
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最後のほうに人によっては気分の悪くなる話があると思いますが、ご了承ください。
--------------------------------------------
サカリームを出て22日が経過して、ついにシムサイト商業国首都シムヘリオへ到着した。高い通行料を払い街の中に入ったところであっけにとられた。……なんじゃこりゃ?
ここシムヘリオはこれまで通て来たどの街よりも豪華絢爛で、ここから見える範囲の建物のほとんどに金がふんだんに使われている。って、まぶしいわっ!
日の光に照らされてきらきらとすげぇまぶしいんだけど、ほんとなんなんだ一体、どこの成金だよっ!
さっきから突っ込みが止まらない。そして、極めつけが……
「ね、ねぇ、あれって、ワイバーンだよね」
「だ、だな」
「あ、ああ」
俺たちの目の前にある建物の正面商会の名が入った看板がかかっているわけだが、その上部になぜかワイバーンの頭が鎮座している。ていうかよく見たらあちこちの建物に同じように魔物の首や、そのものが鎮座していた。ほんとなにこれ、ここまで来るとまさに混沌、カオスだな。でも、このカオスが行き過ぎたことで逆に秩序ができているような気がする。
「と、とりあえず。宿を取っておくか」
「そ、そうね。そうしようか」
「そうだな」
というわけで俺たちはまずは宿をとるために宿探しを始め、あたりの人にダンクスに聞いてもらったところすぐ近くにちょうどいい宿があった。尤もその値段はほかの街に比べると割高だったが、これでもこの街では安い方なんだそうだ。
「さてと、とりあえず宿は10日ほど取ったけど、これからどうする?」
「そうねぇ。一応サカリームの時と同じようにダンクスには聞き込みをしてもらって、あたしとスニルで忍び込んめばいいんじゃないのかな」
「まっ、それでいいだろ」
「おう、任せろ」
そうと決まればと、ダンクスはさっそく街に繰り出していった。
そうして、夜となると今度は俺とシュンナの出番である。
「それじゃ行ってくるわね」
「おう、気をつけてな」
「ああ」
これから向かうのはトライエ商会というところで、こここそサカリームにおいて奴隷狩りの連中が金を送り込んでいた商会だ。そしてここがその本店となる。俺としてはここを探索し奴隷狩りをしているという証拠やそれにかかわっているやつを探り出して、場合によっては国へ通報し捕らえてもらおうと思っている。シムサイト商業国とてさすがに他国の人間を拉致し奴隷とするのはまずいだろうしな。
というわけで、徹底的に調べるために俺とシュンナの2人で侵入することにした。
「あれが本店か、結構大きいね」
「そうだな。やっぱり裏で悪いことをしているからこそなんだろうな」
俺たちの目の前にある商会は周囲に比べても一回り大きいように見える。これこそ裏で悪事を働いている証拠になる気がする。
「まっ、なんにせよ。入ってみればわかるだろ」
「そうね」
そんな会話をしつついよいよトライエ商会へ侵入を開始した。侵入ルートは窓、ちょうどよく開いていた窓があったのでそこから”探知”を使い誰もいないことを確認したのち中に入ったわけだ。そうして、探索することしばし、建物上層階に商会長室らしきものが見えたのでゆっくりと入り、室内を物色した。そして見つけた書類には間違いなくこの商会が奴隷狩りにかかわっているという告げていた。見つけたようだが、全く隠されていないのが気になるな。サカリームでもそうだったけれど、わかりやすすぎる。これはこれで何かを隠しているような気がするので、それを見越して徹底的に探してみる。するとやはり隠し金庫がありそこには何やらやばそうな書類が数枚、何かのリストみたいだな。ぱらぱらとめくり”森羅万象”に記憶していく、そうしたことを繰り返していき、俺とシュンナはトライエ商会を後にしたのだった。
「よう、帰ったか。んで、どうだった」
「思った通り、犯人で間違いなかったぞ。それと、こういうもんが見つかった」
「見せてくれ」
ダンクスに請われるままに”森羅万象”で記憶したものを種類として出力したものを渡した。
「こいつは顧客リストか、いや指示書にも見えるな」
「そうね。多分指示書ね。となると、トライエ商会は下請けってこと?」
「おそらくな。ほんと根深そうだなこの組織、一体いつになった本星にあたるんだか」
真犯人かと思っていたトライエ商会が実はただの手先、いうなれば実行犯、俺がダンクスに渡した奴らこそ真犯人であることになるわけだが、その人数は7人、いったいこいつらは誰なのか、ダンクスに調べてもらう必要がありそうだ。
というわけで、ダンクスはその日から街中で聞き込みを開始し、リストに記されている人物を洗い出していった。尤もこの人物たちはすぐに判明する。なにせこの街では7人が7人とも有名人だったからだ。
「……まさか、全員が議員だったとはな」
「そうね。でもさあたしよくわからないんだけど、スニルわかる?」
ダンクスの言うようにリストに載っている連中はなんとここシムサイト商業国の国会議員ということが判明した。それも、派閥でいうなれば与党となる議員だったからさらに驚きだ。
「コルマベイントやウルベキナは王政って言って、王が中心になって政治を行うんだ。それに対してこの国は議会制という王ではなく議員、つまり一般人が政治を行うって制度のことだ。つまり、このリストに載っている連中は、この国を動かしている奴らってことだ。しかも、特にこのオリフェイスっていうのは議長だ。この議長こそがいうなればこの国の王に相当する国家元首となるし、この議長補佐は文字通り王を補佐する立場にあるわけだからなこの国のナンバー2ってことだよ」
そう、リストに載っていた人物が誰かを探ってみると、そこにはなんと国家元首がかかわっていた。ていうか指示書を見る限り、この男こそが中心人物であることが分かった。そうだ、ついに俺たちは本星にたどり着いたというわけだ。
「ねぇ、これってまずくない」
「だな。最悪だ」
「まさかにもほどがあるな」
いくら何でも相手が悪すぎる。俺たちはできればこの奴隷狩りの組織をつぶしたかった。しかし、その真犯人が一国の国家元首となると手が出せねぇ。それにこのオリフェイスというのは代々国会議員を務めており、議長にも幾度となく就任している一族である名門中の名門だった。そんな奴が奴隷狩りにかかわっているとして訴えたところでもみ消されることは明らか、また、下手をするとこっちが逆に犯罪者にされかねない。
「正直、お手上げだな」
「そうね。悔しいけれど、これ以上は危険ね」
「ああ、まったく悔しいがな」
俺たちは泣く泣くこの調査を打ち切ることにした。さすがに3人でどうにかできることじゃないしな。
「でもさ。さすがにこのまま引き下がるのは癪だよね」
「それは同感だな」
「ああ、でも、どうすんだ?」
俺も2人動揺、このまま引き下がるのはしたくないしかし、何かするにしても何をすればいいのか俺には思いつかないな。
「そうだなぁ。できれば何か痛手になることしたいよね」
「ああ、とはいえ何かあるか」
何かネタでもあればそれを使って何か考えられるかもしれない。
「まぁ、なんにせよ。とりあえずそれぞれの商会に行ってみるか」
ダンクスの言う通り、ただ何もせずにおずおずと帰るのもなんだしせっかくなら奴隷狩りにかかわっているであろう7人の商会へ行ってみるのもいいだろう。もしかしたら何かネタが手に入るかもしれないからな。
というわけで、その日から1日1軒ではあるが、それぞれの商会に昼間ダンクスが行って話を聞き、夜に俺とシュンナで忍び込んで調査を行うことにした。
その結果、最後にしておいたオリフェイス商会以外の商会から奴隷狩りに関する証拠と、それ以外にも数々の犯罪と思われる証拠が出てきたのだった。
「まさか、ここまでこの国が腐っていたとはな」
「この国大丈夫かな」
国のトップと思われる連中が行っている多くの犯罪、これは心配になるほどであった。これを公表なんてしたら逆に国が大混乱になりそうだ。そうなるとそれは俺たちの本意ではない。別に国を混乱させたいわけじゃないからな。できれば7人や奴隷狩りに関する奴らが失脚すればそれでいいんだけどな。これは別の方法を考えるしかないか。
「ここは仕方ない、最後のオリフェイスも調べてみるとしよう」
「そうだな。そうすっか」
「そ、そうね」
せっかくほかの6人を調べたのだから最後のトリに取っておいた一番の大物、オリフェイス商会を調べることにした。
そうして、夜俺とシュンナはいつものように2人そろって、オリフェイス商会近くの建物の屋根の上に立っていた。
「これで、最後にしたいわね」
「だな。でもま、さすがにこれ以上はないだろ」
そう願いつつオリフェイス商会へと足を踏み入れたのだった。
まず最初に向かったのはやはりいつも通り最上階、どの店も大体最上階に会長室があったからだが、やはりオリフェイス商会も最上階に会長室があった。
会長室でやることもいつも通り、探り探って奴隷狩りの証拠や何らかの犯罪の証拠などをあさっていくわけだが、さすがは国のトップだけあってそうやすやすと証拠をつかませてくれない。といっても、俺にはあまり関係なくどんな鍵でもあっさりと開けることができる。というわけで、さっそく手当たり次第の証拠の品を確保していく。
「んっ?」
最後と言わんばかりにちょっと広範囲に”探知”をかけてみた。これは奴隷狩りにかかわっていたほかの6つの商会でも同じことをしている。というのも、奴隷狩りは何も金だけど運んでいたわけではなく奴隷そのものも送り込んでいた。もしその奴隷を発見出来たら保護しようと思ったからだ。俺なら”転移”でウルベキナへ送れるからな。ちなみにこれまでの商会では残念ながら奴隷と思われる人たちは見つからなかった。それでもここではどうだろうとやってみたところ、地下にわずかながら反応があった。
「反応あった?」
俺の声に反応したシュンナが小声で聞いてきた。
「あ、ああ、でも、なんだろう、妙に反応が小さいんだよな」
「小さい? どういうこと」
俺の”探知”でえられる反応の大きさは魔力の大きさとなる。そして、どんな人間でもある一定以上の魔力量を持っているためにその反応もそれなりの大きさとなるわけだが、どうもこの反応があまりにも小さい。
「弱っているにしても、もう少し反応があるはずなんだよなぁ。となると、どういうことだ?」
ちょっとよくわからない。
「とにかく反応がある以上、行ってみましょう。それで、数は?」
「1つだ」
何はともあれ反応がある以上、行ってみようと思う。そうそう言っておくが小動物や虫だったとかいう落ちはない。その理由は簡単で”探知”で反応を示すものを人間に限定しているからだ。それはそうだろう何でもかんでも反応するようにしていたら、それこそ頭が情報でパンクする。というわけで、地下の反応が人間であることは間違いない。となるとなぜこんなにも小さいのか、そこがよくわからん。たとえ弱っていてももう少し大きい反応のはずだ。
まぁ、そんなことを考えながら俺とシュンナは地下へと向かっていく。もちろんこの際、考えながらでも慎重に進み、警備の目をごまかしながらである。
そうして、ついに地下へとやって来たわけだが、なんとも懐かしい光景が広がっている。そう、地下にあったのは牢、俺が記憶を取り戻したときに見た光景そのものが目の前に広がっていたのだった。
「どうやら、地下牢みたいね。スニル大丈夫?」
俺が地下牢にいたことを知っているシュンナが心配そうにそう聞いてきた。
「ああ、何とかな。あまりいい気分ではないが、問題ない。それより、反応があったのはあっちだ。行くぞ」
「ええ」
とにかくさっさと保護してここを脱しよう、そう思って足早に反応のあった奥へと向かっていく。
そして、ついに地下牢の奥、そこで俺たちはとんでもないものを見ることになった。
まず目に飛び込んできたのは、1人の女性、頭に獣の耳が付いていることからして獣人族のようだ。まさかこんなところで初獣人とは、しかしそんな感動も吹っ飛ぶ、なにせその女性はすでにこと切れているからだ。とはいえ脈を確認した時に思ったが、まだ少し体温が残っている。つまりこと切れたのはほんの少し前、俺にはこういった知識がないために死亡推定時刻は分からないが、俺が”探知”を使ったときはすでに死亡していたものと思われる。では、反応を示したのは何か、その答えは女性の足の間にあった。
「!!!!!!!」
「!!」
それを見た瞬間俺とシュンナは絶句した。それと同時に沸き起こる怒り、いや、それよりも。俺はすぐさま牢の鍵を”解錠”によって開けて、中に飛び込んだ。
「まじかよっ! くそ野郎っ」
怒り心頭であった。でも、俺はすぐさま冷静さを取り戻した。というのも俺の隣でシュンナのこれまでに感じたことのない濃密な殺気が漏れ出ていたからだ。それも無理もない、なにせ、”探知”で反応したものは赤ん坊、しかもまだへその緒までついたままで、おそらく先ほど生まれたばかりなんだろう、必死に母親である女性に取り付き、消え入りそうな声で泣いていた。妙に反応が小さいと思ったら、そうか赤ん坊、それもかなり弱っている危ない状況、これじゃ反応が小さいのもうなづける。それはともかく、とにかくどうにかしないと、そう思った俺は赤ん坊を抱き上げる。
「わぁぁぁぁん」
どうする。まずは、えっと、ああ、へその緒を切らないと、というわけで腰にさしてある脇差を抜き放ち素早くへその緒を断ち切ろうと思ったんだが、どこ出来ればいいのかわからないので、母親に近いほうで斬ることにした。すると、ちょっと血が出てきたのですぐに縛っておいた。
「シュンナ、シュンナ、気持ちはわかるが、今は落ち着け、とにかく飛ぶぞ」
「えっ、あっ、うん」
俺の呼びかけにようやく渦巻く怒りから覚めたシュンナが返事をしたところですぐさま”転移”を発動の前にもちろん母親を”収納”に収めたのは言うまでもないだろう。
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サカリームを出て22日が経過して、ついにシムサイト商業国首都シムヘリオへ到着した。高い通行料を払い街の中に入ったところであっけにとられた。……なんじゃこりゃ?
ここシムヘリオはこれまで通て来たどの街よりも豪華絢爛で、ここから見える範囲の建物のほとんどに金がふんだんに使われている。って、まぶしいわっ!
日の光に照らされてきらきらとすげぇまぶしいんだけど、ほんとなんなんだ一体、どこの成金だよっ!
さっきから突っ込みが止まらない。そして、極めつけが……
「ね、ねぇ、あれって、ワイバーンだよね」
「だ、だな」
「あ、ああ」
俺たちの目の前にある建物の正面商会の名が入った看板がかかっているわけだが、その上部になぜかワイバーンの頭が鎮座している。ていうかよく見たらあちこちの建物に同じように魔物の首や、そのものが鎮座していた。ほんとなにこれ、ここまで来るとまさに混沌、カオスだな。でも、このカオスが行き過ぎたことで逆に秩序ができているような気がする。
「と、とりあえず。宿を取っておくか」
「そ、そうね。そうしようか」
「そうだな」
というわけで俺たちはまずは宿をとるために宿探しを始め、あたりの人にダンクスに聞いてもらったところすぐ近くにちょうどいい宿があった。尤もその値段はほかの街に比べると割高だったが、これでもこの街では安い方なんだそうだ。
「さてと、とりあえず宿は10日ほど取ったけど、これからどうする?」
「そうねぇ。一応サカリームの時と同じようにダンクスには聞き込みをしてもらって、あたしとスニルで忍び込んめばいいんじゃないのかな」
「まっ、それでいいだろ」
「おう、任せろ」
そうと決まればと、ダンクスはさっそく街に繰り出していった。
そうして、夜となると今度は俺とシュンナの出番である。
「それじゃ行ってくるわね」
「おう、気をつけてな」
「ああ」
これから向かうのはトライエ商会というところで、こここそサカリームにおいて奴隷狩りの連中が金を送り込んでいた商会だ。そしてここがその本店となる。俺としてはここを探索し奴隷狩りをしているという証拠やそれにかかわっているやつを探り出して、場合によっては国へ通報し捕らえてもらおうと思っている。シムサイト商業国とてさすがに他国の人間を拉致し奴隷とするのはまずいだろうしな。
というわけで、徹底的に調べるために俺とシュンナの2人で侵入することにした。
「あれが本店か、結構大きいね」
「そうだな。やっぱり裏で悪いことをしているからこそなんだろうな」
俺たちの目の前にある商会は周囲に比べても一回り大きいように見える。これこそ裏で悪事を働いている証拠になる気がする。
「まっ、なんにせよ。入ってみればわかるだろ」
「そうね」
そんな会話をしつついよいよトライエ商会へ侵入を開始した。侵入ルートは窓、ちょうどよく開いていた窓があったのでそこから”探知”を使い誰もいないことを確認したのち中に入ったわけだ。そうして、探索することしばし、建物上層階に商会長室らしきものが見えたのでゆっくりと入り、室内を物色した。そして見つけた書類には間違いなくこの商会が奴隷狩りにかかわっているという告げていた。見つけたようだが、全く隠されていないのが気になるな。サカリームでもそうだったけれど、わかりやすすぎる。これはこれで何かを隠しているような気がするので、それを見越して徹底的に探してみる。するとやはり隠し金庫がありそこには何やらやばそうな書類が数枚、何かのリストみたいだな。ぱらぱらとめくり”森羅万象”に記憶していく、そうしたことを繰り返していき、俺とシュンナはトライエ商会を後にしたのだった。
「よう、帰ったか。んで、どうだった」
「思った通り、犯人で間違いなかったぞ。それと、こういうもんが見つかった」
「見せてくれ」
ダンクスに請われるままに”森羅万象”で記憶したものを種類として出力したものを渡した。
「こいつは顧客リストか、いや指示書にも見えるな」
「そうね。多分指示書ね。となると、トライエ商会は下請けってこと?」
「おそらくな。ほんと根深そうだなこの組織、一体いつになった本星にあたるんだか」
真犯人かと思っていたトライエ商会が実はただの手先、いうなれば実行犯、俺がダンクスに渡した奴らこそ真犯人であることになるわけだが、その人数は7人、いったいこいつらは誰なのか、ダンクスに調べてもらう必要がありそうだ。
というわけで、ダンクスはその日から街中で聞き込みを開始し、リストに記されている人物を洗い出していった。尤もこの人物たちはすぐに判明する。なにせこの街では7人が7人とも有名人だったからだ。
「……まさか、全員が議員だったとはな」
「そうね。でもさあたしよくわからないんだけど、スニルわかる?」
ダンクスの言うようにリストに載っている連中はなんとここシムサイト商業国の国会議員ということが判明した。それも、派閥でいうなれば与党となる議員だったからさらに驚きだ。
「コルマベイントやウルベキナは王政って言って、王が中心になって政治を行うんだ。それに対してこの国は議会制という王ではなく議員、つまり一般人が政治を行うって制度のことだ。つまり、このリストに載っている連中は、この国を動かしている奴らってことだ。しかも、特にこのオリフェイスっていうのは議長だ。この議長こそがいうなればこの国の王に相当する国家元首となるし、この議長補佐は文字通り王を補佐する立場にあるわけだからなこの国のナンバー2ってことだよ」
そう、リストに載っていた人物が誰かを探ってみると、そこにはなんと国家元首がかかわっていた。ていうか指示書を見る限り、この男こそが中心人物であることが分かった。そうだ、ついに俺たちは本星にたどり着いたというわけだ。
「ねぇ、これってまずくない」
「だな。最悪だ」
「まさかにもほどがあるな」
いくら何でも相手が悪すぎる。俺たちはできればこの奴隷狩りの組織をつぶしたかった。しかし、その真犯人が一国の国家元首となると手が出せねぇ。それにこのオリフェイスというのは代々国会議員を務めており、議長にも幾度となく就任している一族である名門中の名門だった。そんな奴が奴隷狩りにかかわっているとして訴えたところでもみ消されることは明らか、また、下手をするとこっちが逆に犯罪者にされかねない。
「正直、お手上げだな」
「そうね。悔しいけれど、これ以上は危険ね」
「ああ、まったく悔しいがな」
俺たちは泣く泣くこの調査を打ち切ることにした。さすがに3人でどうにかできることじゃないしな。
「でもさ。さすがにこのまま引き下がるのは癪だよね」
「それは同感だな」
「ああ、でも、どうすんだ?」
俺も2人動揺、このまま引き下がるのはしたくないしかし、何かするにしても何をすればいいのか俺には思いつかないな。
「そうだなぁ。できれば何か痛手になることしたいよね」
「ああ、とはいえ何かあるか」
何かネタでもあればそれを使って何か考えられるかもしれない。
「まぁ、なんにせよ。とりあえずそれぞれの商会に行ってみるか」
ダンクスの言う通り、ただ何もせずにおずおずと帰るのもなんだしせっかくなら奴隷狩りにかかわっているであろう7人の商会へ行ってみるのもいいだろう。もしかしたら何かネタが手に入るかもしれないからな。
というわけで、その日から1日1軒ではあるが、それぞれの商会に昼間ダンクスが行って話を聞き、夜に俺とシュンナで忍び込んで調査を行うことにした。
その結果、最後にしておいたオリフェイス商会以外の商会から奴隷狩りに関する証拠と、それ以外にも数々の犯罪と思われる証拠が出てきたのだった。
「まさか、ここまでこの国が腐っていたとはな」
「この国大丈夫かな」
国のトップと思われる連中が行っている多くの犯罪、これは心配になるほどであった。これを公表なんてしたら逆に国が大混乱になりそうだ。そうなるとそれは俺たちの本意ではない。別に国を混乱させたいわけじゃないからな。できれば7人や奴隷狩りに関する奴らが失脚すればそれでいいんだけどな。これは別の方法を考えるしかないか。
「ここは仕方ない、最後のオリフェイスも調べてみるとしよう」
「そうだな。そうすっか」
「そ、そうね」
せっかくほかの6人を調べたのだから最後のトリに取っておいた一番の大物、オリフェイス商会を調べることにした。
そうして、夜俺とシュンナはいつものように2人そろって、オリフェイス商会近くの建物の屋根の上に立っていた。
「これで、最後にしたいわね」
「だな。でもま、さすがにこれ以上はないだろ」
そう願いつつオリフェイス商会へと足を踏み入れたのだった。
まず最初に向かったのはやはりいつも通り最上階、どの店も大体最上階に会長室があったからだが、やはりオリフェイス商会も最上階に会長室があった。
会長室でやることもいつも通り、探り探って奴隷狩りの証拠や何らかの犯罪の証拠などをあさっていくわけだが、さすがは国のトップだけあってそうやすやすと証拠をつかませてくれない。といっても、俺にはあまり関係なくどんな鍵でもあっさりと開けることができる。というわけで、さっそく手当たり次第の証拠の品を確保していく。
「んっ?」
最後と言わんばかりにちょっと広範囲に”探知”をかけてみた。これは奴隷狩りにかかわっていたほかの6つの商会でも同じことをしている。というのも、奴隷狩りは何も金だけど運んでいたわけではなく奴隷そのものも送り込んでいた。もしその奴隷を発見出来たら保護しようと思ったからだ。俺なら”転移”でウルベキナへ送れるからな。ちなみにこれまでの商会では残念ながら奴隷と思われる人たちは見つからなかった。それでもここではどうだろうとやってみたところ、地下にわずかながら反応があった。
「反応あった?」
俺の声に反応したシュンナが小声で聞いてきた。
「あ、ああ、でも、なんだろう、妙に反応が小さいんだよな」
「小さい? どういうこと」
俺の”探知”でえられる反応の大きさは魔力の大きさとなる。そして、どんな人間でもある一定以上の魔力量を持っているためにその反応もそれなりの大きさとなるわけだが、どうもこの反応があまりにも小さい。
「弱っているにしても、もう少し反応があるはずなんだよなぁ。となると、どういうことだ?」
ちょっとよくわからない。
「とにかく反応がある以上、行ってみましょう。それで、数は?」
「1つだ」
何はともあれ反応がある以上、行ってみようと思う。そうそう言っておくが小動物や虫だったとかいう落ちはない。その理由は簡単で”探知”で反応を示すものを人間に限定しているからだ。それはそうだろう何でもかんでも反応するようにしていたら、それこそ頭が情報でパンクする。というわけで、地下の反応が人間であることは間違いない。となるとなぜこんなにも小さいのか、そこがよくわからん。たとえ弱っていてももう少し大きい反応のはずだ。
まぁ、そんなことを考えながら俺とシュンナは地下へと向かっていく。もちろんこの際、考えながらでも慎重に進み、警備の目をごまかしながらである。
そうして、ついに地下へとやって来たわけだが、なんとも懐かしい光景が広がっている。そう、地下にあったのは牢、俺が記憶を取り戻したときに見た光景そのものが目の前に広がっていたのだった。
「どうやら、地下牢みたいね。スニル大丈夫?」
俺が地下牢にいたことを知っているシュンナが心配そうにそう聞いてきた。
「ああ、何とかな。あまりいい気分ではないが、問題ない。それより、反応があったのはあっちだ。行くぞ」
「ええ」
とにかくさっさと保護してここを脱しよう、そう思って足早に反応のあった奥へと向かっていく。
そして、ついに地下牢の奥、そこで俺たちはとんでもないものを見ることになった。
まず目に飛び込んできたのは、1人の女性、頭に獣の耳が付いていることからして獣人族のようだ。まさかこんなところで初獣人とは、しかしそんな感動も吹っ飛ぶ、なにせその女性はすでにこと切れているからだ。とはいえ脈を確認した時に思ったが、まだ少し体温が残っている。つまりこと切れたのはほんの少し前、俺にはこういった知識がないために死亡推定時刻は分からないが、俺が”探知”を使ったときはすでに死亡していたものと思われる。では、反応を示したのは何か、その答えは女性の足の間にあった。
「!!!!!!!」
「!!」
それを見た瞬間俺とシュンナは絶句した。それと同時に沸き起こる怒り、いや、それよりも。俺はすぐさま牢の鍵を”解錠”によって開けて、中に飛び込んだ。
「まじかよっ! くそ野郎っ」
怒り心頭であった。でも、俺はすぐさま冷静さを取り戻した。というのも俺の隣でシュンナのこれまでに感じたことのない濃密な殺気が漏れ出ていたからだ。それも無理もない、なにせ、”探知”で反応したものは赤ん坊、しかもまだへその緒までついたままで、おそらく先ほど生まれたばかりなんだろう、必死に母親である女性に取り付き、消え入りそうな声で泣いていた。妙に反応が小さいと思ったら、そうか赤ん坊、それもかなり弱っている危ない状況、これじゃ反応が小さいのもうなづける。それはともかく、とにかくどうにかしないと、そう思った俺は赤ん坊を抱き上げる。
「わぁぁぁぁん」
どうする。まずは、えっと、ああ、へその緒を切らないと、というわけで腰にさしてある脇差を抜き放ち素早くへその緒を断ち切ろうと思ったんだが、どこ出来ればいいのかわからないので、母親に近いほうで斬ることにした。すると、ちょっと血が出てきたのですぐに縛っておいた。
「シュンナ、シュンナ、気持ちはわかるが、今は落ち着け、とにかく飛ぶぞ」
「えっ、あっ、うん」
俺の呼びかけにようやく渦巻く怒りから覚めたシュンナが返事をしたところですぐさま”転移”を発動の前にもちろん母親を”収納”に収めたのは言うまでもないだろう。
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魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
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