おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

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第04章 奴隷狩り

22 サカリーム

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 ブロッセンへと帰ったところで、改めて裁判が行われブレンドが訴えを取り消したことで正式に俺たちは釈放されたのであった。もちろんその際にブレンドからは謝罪と詫びの品を受けたのは言うまでもないだろう。
 というわけで、ようやっと騒動が終わり議会所から出たところでダンクスが口を開いた。

「さてと、寄り道しちまったが、これからどうする。すぐに行くか?」
「といってもねぇ。まだこの街見てないしね」
「だな。今日明日あたり見て回ってからでも遅くはないだろ」
「そうすっか」

 というわけでブロッセンの街を見て回ってから次の街へ移動することになった。


 翌々朝、今日は予定通りブロッセンを出発し次の街であり、今現在の俺たちにとっての目的地サカリームへと向かうことになった。

「サカリームはここから2日だっけ」
「そうらしいな」
「ようやくね」
「だな。すぐに見つかればいいけどな」
「そうね」

 こうして俺たちは一路サカリームへ向けて出発してから2日後、ついにサカリームへと到着した。

「ここがサカリームか、なんていうか普通だな」
「まぁそりゃぁな。いくら何でも街全体がってわけじゃねぇんだろうし」
「それはそれで、嫌よね」

 サカリームに来た目的は、ここに奴隷狩りの連中が金銭などを送っているという書き込みが奴らの拠点から押収した書類に記載されていたからだが、さすがに何らかの拠点などがあるだけで、街は特に関係はしていないだろうと思いたい。

「まぁ、とにかく入ろうぜ」
「そうね」
「おう」

 そんな会話をしたのち俺たちはサカリームへと入ることにしたのであった。はてさて、どんなものが待ち受けているのやら……


「身分証はお持ちですか?」
「いや、俺たちは旅人だから持ってないな。通行料は払うぜ。いくらだ」
「おひとり、3000シムスとなっております。そちらのお子さんは2000、女性は5000シムスですので、合計10000シムスとなりますが、よろしいですか?」

 門番がそう言ったが、ほんとどの街でも女というだけで通行料が跳ね上がるんだよな。

「おう、それじゃこれだな」

 ダンクスも若干嫌な顔をしつつも、ここで問題を起こすわけにもいかないので素直にその金額を財布から出した。

「確かに、それではどうぞようこそサカリームへ」

 門番に通されて俺たちはようやく件のサカリームへと足を踏み入れた。

「んで、問題の商会はどこにあるんだ?」
「さぁ、わからないしとりあえず探してみましょう」
「だな。といってもいつもみたいに手分けしてってわけにはいかないだろ」

 いつもならそれぞれ手分けして聞き込みなりして調査をするが、ここシムサイト商業国ではそれが難しい、ダンクスなら1人でうろちょろしててもいいんだが、問題はシュンナと俺だ。シュンナは女、この国では女の扱いがどんなものかはこれまでもさんざん言ってきたからわかる通り、シュンナを1人で行かせたら間違いなく問題が起きる。そして、次が俺だが、まぁ俺の場合見た目が幼児だからシムサイト関係なしなんだけどな。でも、この国で子供を一人で歩かせると下手すると拉致られることがあるらしい。

「そうなのよね。というわけでダンクス頼んだわよ」
「はぁ、まぁそうなるよな。仕方ねぇ行くか」

 聞き込みはダンクスが1人で行い、離れるわけにはいかない俺とシュンナはそれについて歩くことになる。

「なあ、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「この街にエリエルト商会ってのがあるか?」

 エリエルト商会というのは、奴隷狩りの拠点の書類に幾度となく書かれていた商会の名で、この商会こそが奴隷狩りどもが金銭を送り込んでいた先というわけだ。

「エリエルト商会? それならあっちの方にあるぜ」

 思っていたよりも早くたどり着けそうだ。まさか最初に聞いた人物にあっさりと教えてもらえるとはな。

「そうか、悪いな」

 聞いた人物より少し離れたところでダンクスがポロっといった。

「思ったよりあっさりわかったな」
「そうだな」
「う、うん、そうね」

 あまりにあっさりとわかり拍子抜けしながら教えられたとおりの場所に向かっていくと、そこにはでかでかとエリエルト商会と書かれた看板があった。

「でけぇな」
「ねぇ、こんなに大きいってことはこの街では有力者なんじゃない」
「ありうるな」

 俺たちが見つけたエリエルト商会はこの街にあるどの商会よりもでかい。おそらくここサカリームでは最も大きな商会ということだろう。

「ちょっと聞いてみるか?」
「ええ、お願い」

 エリエルト商会の評判を周囲に聞いてみることにした。


 その結果だが、評判は上々誰からも悪い噂1つ聞かなかった。どういうことだ。奴隷狩りをやっているのに悪評の1つもないって意味が分からないんだけど。

「なんだか、よくわからないわね」
「とりあえず店に入ってみるか」
「そうしてみるか」

 虎穴に入らずんば虎子を得ずというし、実際に入ってみることにした。

「いらっしゃいませ。おや、初めてのお客様でしょうか?」
「お、おう、そうだが、ここはなんの店なんだ」
「はい、こちらエリエルト商会では、赤子のおもちゃから棺桶まで、なんでもそろえております」

 なんでもって、まぁ確かに見たところジャンルを問わずあらゆるものが陳列されているように見える。ていうか武器が食器の隣にあるんだけど、ここまで来るとほんとに何でもあるな。

「なんでもって、奴隷も扱っているのか?」

 ダンクスがストレートに聞いた。

「はい、店舗は別にしておりますが奴隷も扱っておりますよ。お客様は奴隷をご所望ですか?」
「いや、特に必要はねぇな。なんでもっていったからな。気になって聞いてみただけだ」

 なるほど別店舗か、だからさっきからあたりを見ても奴隷らしきものが見えなかったんだな。でも、考えてみると当たり前か、食料品の隣に奴隷が陳列されててもな。購入意欲がそがれそうだ。

「そうでしたか。これは失礼しました。では、本日はどのようなものがご入用でしょうか? 見たところお客様は旅をされているようですので、こちらはいかがでしょう」

 そう言って進めてくれたのは夜営に使えそうな道具たちであった。

「そうだな。なら、そいつをもらおうか」
「こちらでございますね。ありがとうございます」

 ダンクスが買ったのは、実際俺たちが使っている物でそろそろ買い替えの時期が来ている物だった。それから、店を出て宿を取りそこで話をすることにした。

「どう思う?」
「怪しい点が見つからなかったわね」
「ああ、それが逆に怪しいともいえるが、本当に関係がないように思える」

 俺たちの総意としてエリエルト商会は全く怪しくないということだった。どう見ても普通に商売している大きな商会にしか見えないし、店員の対応もこの世界にしてはかなりのレベルにあると見た。そこが逆に怪しいと言えばそれまでだが、それでもなんというか勘みたいなものが言うんだよな。エリエルト商会は奴隷狩りに関与していないと、では、俺たちが見たエリエルト商会とは何か? そんな疑問が残るわけだ。

「考えられるのは、店員たちは全く知らず上層部の奴だけが行っている可能性だな」
「その可能性は捨てきれないな。俺たちの対応した奴もそのほかの店員もただの雇われってとこだろうし」
「うーん、そうね。そうなると商会に忍び込む?」
「それしかないか」
「それじゃ、あたしが夜にでも行ってみるよ」
「ああ、任せる」
「おう、頼むぜ」

 忍び込むのは基本ダンクスは向いてない。ていうかでかすぎて目立つからな。そんな奴が忍び込めるわけない。一方小柄な俺とシュンナはそれに向いているし、俺には魔法もあるからなお簡単にできるだろう。しかし今回はシュンナに任せようと思う。

 そんなわけで、そのあと再び街に繰り出した俺たちは適当に街をぶらつきながらそれとなくエリエルト商会のことを調べていったが、調べれば調べるほど全く問題ない商会なんだよな。ほんとなんだこれ、わからん、まぁ夜になればシュンナが忍び込んでくれるから明日には何かわかるだろう。

 ……と、思ったんだが、翌朝シュンナから聞いたのは、どこにも奴隷狩りにつながる証拠は見つからなかった上に、いくらか書き写してきたという書類を見ても妙な金の動きすら見えなかった。つまり、エリエルト商会は完全な白というわけである。

「こうなってくると何が考えられる?」
「そうだな。シュンナでも見つけられないほど巧妙に隠しているか」

 その可能性も捨てきれない。

「あとは、陽動ってとこか」

 陽動であっているかはわからないが、俺たちが襲撃してつぶした拠点はウルベキナ王国にあった。本来ならそのウルベキナ王国があの拠点の襲撃をしてもおかしくはない、そうなるとあそこにあった資料は当然その連中の目に触れることになり、そこに馬鹿正直に自分たちの名前を書いていると立場が悪くなる。そこで、自分たちとは全く関係ないエリエルト商会の名を記載しておくことでそっちに目を向けさせようというわけだ。実際俺たちはついさっきまでエリエルト商会こそ奴隷狩りを行っているやつだと思っていた。まぁ、俺たちのように個人だから騒動には発展しないが、これが国となると別、エリエルト商会はそこで終わることになるだろう。

「となると、一番怪しいのはエリエルト商会が落ち込むことで得をする奴ってことになるか」
「そうね。どこかしら?」
「それこそ、ライバル店とかそういうとこだろ」
「そうだな。じゃぁ次はそいつを調べるか?」
「だな。でも、エリエルト商会も白と決めつけるのは早計だからな。今日の夜にでも俺が忍び込んで再調査士見てみるよ。シュンナの見落としとかがあるかもしれないし」
「そうね。あり得るか、なら、今日あたしはダンクスが調べてきてくれるであろうライバルの調査かな」
「おう、そっちは任せろ」

 というわけでさっそくと言わんばかりに、ダンクスは聞き込みをするために街へと繰り出していった。一方で俺とシュンナは夜に備えて休息に入ることにした。

 そうして夜、俺はエリエルト商会に忍び込み、シュンナはダンクスが調べてきた商会へ向かったのだった。



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 というわけでやってきましたエリエルト商会。会長室っぽいところを見つけたのでさっそく入ってみる。うん、やっぱり鍵がかかってるな。しかし、俺にとって鍵はないようなものだ。”解錠”っと、これは読んで字のごとく鍵を開ける魔法で、メティスルの扱いに慣れてきたことで使えるようになったものだ。というのもこれかなり細かな制御が必要で、難しいんだよな。多分これを普通に使える奴なんてそうそういないんじゃないかな、よほど魔法制御が上手くて器用な奴だけだろ。俺の場合はメティスルがほとんどをまかなってくれるので問題ないんだけど。まぁ、それはいいとしてさてはて、さっそく探ってみますか。

 それから俺は会長室をあちこち探してみたが、シュンナから聞いていた通り怪しい点はないな。でも、全くなんてことはおかしいからな。となるとやはりセオリー通りと考えるべきだな。
 そう考えた俺は机や本棚、壁に飾ってある絵などの裏を探してみた。すると思った通り机の下の床に、不自然に途切れたじゅうたんがあったのでめくってみると、そこに隠し金庫が置いてあった。

「よっしゃ」

 見つけた瞬間思わず声を出してしまったが、さっそく鑑定を試みる。すると、ご丁寧に解錠番号が記載されているじゃねぇか、すげぇな鑑定。普通の鑑定スキルだと世界のデーターベースにアクセスするためにこうしたことはできない。しかし、俺の鑑定はメティスルの権能の1つで、個別のデーターベースにアクセスするためにこうした金庫の解錠番号なども記載されているというわけだ。もちろん言っておくがこの力を悪用するつもりは全くないことは明記しておく、またこれほどの鑑定ができるのはこの世界でも、メティスルを持つ俺だけだということも追記しておく必要があるだろう。さて、それはともかく”解錠”で鍵も開けて金庫の中身を確認してみる。
 すると中には、この店の裏帳簿が入っていた。思った通りだったな。さて、どんな内容かな。そう思ってみてみたが、その記述は不正に入手した物品をさばいた事実や、裏取引で使われた金などが記載されているだけで、俺たちが追っている奴隷狩りに関する記述は一切なかった。ということは、これでエリエルト商会は白だということが判明したのだった。



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「というわけで、不正はあったが奴隷狩りではなかったぞ」
「へぇ、そんな金庫があったんだ。よくわかったわね」
「俺の場合は前世でさんざんそういった話を読みまくったからな。そこら辺の知識が役に立ったってとこだろ」

 前世で読んだラノベやネット小説、アニメやドラマそういったものでも不正の事実を隠すための仕掛けを部屋に施すことは定番中の定番だからな。俺はそれを知っているがシュンナはそれを知らない、その違いだろ。

「なるほどね。そういうこともあるのね。それじゃ、調べてみるわ」
「おう、そうしてみな。それで、そっちは何かあったのか?」
「いや、スニルが言ったような場所までは探していないからはっきりとは言えないけれどね。一応エリエルト商会に対しての妨害工作なんかの証拠は見つかったけれど、それだけね。奴隷狩りの話はなかったわ」
「やっぱり、そういうのはあるんだな」
「そうみたいね。それも会長室の机に普通に重なっておいてあったんだよね」
「……まじか」
「ずいぶんとずさんな管理だな」
「ほんとにね」
「そうなると、もしかしたら隠し金庫的なものなんてないんじゃないか、あったとしてもちゃんと隠しているかどうか怪しいよな」
「言えてる。でも、明日もう一度行ってみる」
「わかった、それじゃ、俺は別の店に行ってみるか」

 ダンクスが調べてきた店はほかにもある。俺の勘では今日シュンナが向かった店はたぶん白、これ以上あまり出ない気がする。しかしそうなると、ほんとどこなんだろうな。エリエルト商会が潰れることで利益を得ることができる筆頭が違うとなると、間接的な利益を得られる奴ってことだろうか、わからん。

 それから、俺たちはサカリームの街全体の商会に足を踏み入れることになり結果、20日かかってようやくその正体が分かった。

「まさか、ほぼ関係ない商会だったとはな」
「まったくだぜ」

 ようやく見つけた商会はエリエルト商会とは全く商売がかぶっておらず、たとえエリエルト商会が潰れたとしてもほとんど利益を得られるような大きな商会でもなかった。まぁ、調べによると首都のシムヘリオに本店を持つ商会ではあるのでそれなりに大きな商会であることは確かだが、ここサカリームでは特に力のある所ではないというわけだ。

「それでどうする? シムヘリオに向かうのか」
「それするほかないだろう。金もそこに送られているんだし」
「そうね。それじゃ、明日さっそく行く?」
「だな」
「おう、行くか」

 というわけで、俺たちは明日さっそくサカリームを発ち首都シムヘリオへ向かうことになった。
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