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第04章 奴隷狩り

21 リーラとオクト

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 リーラが開発したピザ、リーラパン改めリーラのレシピを盗んだプリアルスの判決が下った。それにより、どうなるかはこの時の俺にはわからないが、きっとよくなるだろう。というわけで、俺たちはさっそくブロッセンに帰ろうと思ったわけだが、キルベルトがせっかくだからと少しの間この街にいたいと言い出した。といってもキルベルトも自身の店を放り出したままということもあり、時間としても1、2時間程度となった。一方でブレンドはプリアルスに対して説教をしている最中だ。

「急に時間ができたな」
「そうね。だったら、久しぶりにレイグラット亭に行かない。バネッサにも会いたいし、リーラのことも聞きたいし」
「だな、そうすっか」

 というわけで俺たちは空いた時間にレイグラット亭へと赴くことになった。リーラとともに……




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 レイグラット亭へとやって来たわけだが、今はちょうど休憩中のようで店の前も閑散としたものだった。

「忙しいときだと、ずらっと並んでるのよ」
「まだ続いているんだ」
「あれから、もう2か月は経っただろ」
「ええと、私のせいなんだよね」
「リーラの?」
「この間第2回の料理大会があって、私それに出たんだけど、オクトが出てないから優勝して……」
「ああ、それで」

 第2回料理大会が先日行われ、前回優勝者であるオクトは出場を見送ったが、リーラは前回の雪辱を晴らすために出場し優勝したのだそうだ。そんなリーラがレイグラット亭にいるということで多くの客が殺到しているということらしい。

「なるほどねぇ」
「あっ、おかえりって、あれ、もしかしてシュンナさん、それにダンクスさんにスニル君まで、どうして?」

 店に入るとそこにはバネッサがおり、リーラを迎えたが、そのすぐ後ろにいた俺たちを見て驚愕した。まぁ、2か月前に街を出た俺たちがこうしてやってくれば驚くよな。

「もしかして、もうお料理なくなったんですか?」
「いえ、まだまだあるわよ。今回はちょっとあってね」
「ちょっと、えっと、それってもしかしてリーラさんと一緒にいるのと関係があるんですか?」
「そう、実はね……」

 そこでリーラは突然呼び出されたことをバネッサに聞かせたのだった。

「……そんなっ、ひどいっ!!」

 話を聞いたバネッサは憤慨した。バネッサも料理人を目指しているだけあり、レシピが料理人にとってどれだけ重要なものかを知っているからだろう。

「あんだ、何を騒いでるんだ。バネッサ、ん? なんだ帰ったのか。それにそいつらはあの時の、なんだまた何か注文か?」

 バネッサが騒いだために奥からオクトが様子を見にやって来た。そこで、リーラにまず気が付きその背後にいる俺たちに気が付いたが、注文があるのかと聞いてきた。まぁ、確かに俺たちはここに来るたびに何か注文していた気がするけど。

「お父さん聞いてよ!」

 バネッサの怒気はいまだ収まらず、やって来たオクトに先ほどリーラから聞いたことを話したのだった。

「なるほどなぁ。それでギルドから呼ばれたのか。俺はてっきり、何かやったのかと思ったぞ」
「私が何をしたっていうのよ」
「あっ、いや、なんだ。おおう、それで、お前らはどうしたんだ」

 オクトがついぽろっといってしまった言葉に、リーラがにらみつけたことでひるみ早々に俺たちに尋ねてきた。逃げたな。

「この話を持ってきてくれたのが、彼らなのよ。なんでも旅の途中で、あいつの実家っていう店に立ち寄ったらしいのよ」
「まぁ、偶然だけどね。でもまさかこんなことになるとは思わなかったけれど」
「悪いな、なんというか黙っていられなくてな」
「まぁ、気持ちはわかるけどね。ねぇ、スニル」
「ああ、そうだな」

 もしダンクスが言わなければ、俺もシュンナも多分何も言わなかったとは思うが、それでも後で気になっていたことだろう、そう考えるとダンクスが言ってくれてよかったのかもしれない。

「そうか、まぁそのおかげで今回のことが分かったってんならいいだろ、しかし、あの野郎普段からふざけているが、今回のはさすがに許せねぇな」
「ほんとよね。レシピは料理人の財産、それを盗むなんてね」
「しかもそれで利益を得ていたってんだからな」
「ねぇ、お父さんこれってどうにかならないの」
「無理だな。この街でやったんならできるが、ほかの街、しかも国まで違うってんだからどうにもならねぇだろ」
「そうだな。残念ながらな。でも、多分大丈夫だと思うぜ」
「どういうこと?」
「ダンクスが店でこれは盗作だって言ったとき、店にはほかのお客さんがいたし、彼らも慌てて店から出ていったからね」
「多分事実を確認しに行っただろうし、今はよくてもいずれこいつが広まればさすがに出せなくなるだろ」

 商人は信用が命というからな、盗作だと知られたものをいつまでもしれっと出せるとは思えない。

「だといいけど」
「まっ、この話はこれぐらいでいいじゃない。それより気になってるんだけど」
「なんだ?」

 盗作の話はこれでいいとして、シュンナが気になっていることをオクトに尋ねるようだ。

「どうしてここにリーラがいるわけ?」
「あっ、ああ、ええと、それは」
「お、おう、それはだな」

 リーラとオクトが急にどもり始めた。

「それはですね……」

 バネッサが代弁してくれたわけだがそれによると、リーラがこの店に現れたのは俺たちが街を去って5日ほどしたころだった。その目的はオクトの料理を食べること、なんでもリーラは自分がオクトに負けたことに納得がいっていなかった。というのも実はリーラ、幼いころにレイグラット亭に来たことがあり、その料理を食べそのおいしさに衝撃を受けたことで、将来はそんな料理人になりたいと考えたそうだ。しかし、ある時レイグラット亭の先代、つまり自身が目標としていた料理人が他界し、その息子が後を継いだ。そうして、あの噂を耳にしたのだった。リーラはこれを聞き憤慨、自分の目標の店をオクトがダメにしてしまったと思ったからだ。そう、リーラは噂をそのまま信じてしまいいつしかレイグラット亭のことなど記憶のかなたに追いやっていた。そんなとき料理大会が開かれ、決勝まで残った自分の相手がまさかのレイグラット亭のオクト、信じられないと思いながらも、自分なら勝てる、そう思ったのは仕方ないことだった。しかし、ふたを開けてみると自身の敗北だった。だから、オクトが本当に自分より優れた料理を出すのか確認しに来たというわけだ。

「食べた時は驚いたわ。あんな深い味わいなんですもの。私がばかだった、あんな噂を信じてしまったなんてね」

 初めてオクトの料理を食べた時、その味のうまさと奥深さに幼いころに受けた衝撃を思い出したという。そして、自分のリーラパンにはその奥深さはなく、あるのは物珍しさだけだったことに気が付いてしまった。そんな思いとともにすごすごと引き下がったリーラであったが、その数日後には再びレイグラット亭へとやって来ていた。

「ここで修業をし直そうと思ったのよ。だから、オクトに頼んで店で働かせてもらうことにしたの」

 というわけで、リーラは屋台を閉めてレイグラット亭にやって来たのだという。

「そういうことね」
「ああ、そういうことだ」
「でもさ。その割にはさっき動揺していなかった?」

 ここでシュンナが核心を突くような質問をした。確かにただ所業のし直しならあんなに動揺する必要はないよな。

「ふふふっ、実はですね。お父さんとリーラさん、今度結婚することになったんですよ」

 バネッサがほんとに嬉しそうにしながらそう言った。

「へぇ、結婚」
「そいつはめでてぇな」
「だな」

 なるほど、修行をし直している間にってわけか。

「お、おう」
「あ、ありがと」
「結婚式はいつ、といってもあたしたち旅の途中だし事情があって多分出れないけど」

 シュンナがワクワクしながら2人の結婚式がいつかを聞いているが、シュンナの言う通り俺たちには奴隷狩りをどうにかするという目的がありその結婚式に出ることはできないだろう。

「い、一応、来月を予定しているわ」
「来月かぁ。それは楽しみね」
「はい、今からもうワクワクです」

 シュンナを含めた女性陣がそう言いあっている中、オクトは少し疲れた顔をしている。

「2人が張り切っててな」
「ああ、それは」
「大変そうだな」

 俺とダンクスもオクトに同情しつつも何も言えなくなっている。ていうかもしこの場で下手なことを言えば、女性陣から総スカンを受けることは目に見えているからだ。

「まぁ、とにかくだ、お前ら何か食っていくか、どうせそれ目当てだろ」
「おっ、いいな。今日は昼飯をほとんど食ってないからな腹減っているんだ」

 昼飯ということで入った店がブレンドの店でこの騒動に発展したために、注文したプリアルスはほとんど食ってない。

「あっ、だったらせっかくだしさ。本物のリーラパンを食べたい、あたしたちリーラパンは食べてないんだよね」

 シュンナの言う通りで俺たちはリーラパンを食べてない、そんな時間も機会もなかったからだが、にもかかわらず偽物であるプリアルスは少しだけ食べたんだよな。

「だな、せっかくリーラもいるし頼めるか」
「いいわよ。ちょっと待ってて」

 リーラは快くそう返事すると厨房の奥へと入っていった。

 それから数分後リーラが3人分リーラパンをもってやって来た。おっと、今はリーラっていう名前だっけ、でも、リーラがリーラを作って持ってきたって言ってもややこしいので継続してリーラパンと呼ぶことにする。

「ああ、これこれ、あの時は遠目でしか見てなかったからね。ほんとおいしそう」
「だな」
「そうだな」

 リーラパンとは、俺にとってはピザ、前世ではあまり好きではなかったが、今世の俺にそんなことを言っている暇はなかったために基本好き嫌いはなくなっている。ピザだって、今では懐かしさすら覚えるほどだ。というわけでさっそく実食である。

「うわっ、おいしっ」
「た、確かにうまいな」
「もはや別物だな」
「だな。一見すると同じものにしか見えないが、明らかにあれとは別物だな」
「さすが、考案者ね」
「ふふっ、ありがと、これでもあの時よりもおいしくできている自身があるんだよね」
「そうなの」
「ええ、このトマトソースだってオクトに協力してもらっていろいろ改良しているからね」
「なるほど、2人の合作か」

 オクトが加わったのならそりゃぁうまくなるだろう。でも、正直言うと俺からしたらなんだか違うという印象を受ける。まず形が四角い、ピザと言えば丸をイメージする俺としては違和感しかない。まぁ、ピザトーストだと思えば問題ないが、しかしあれは食パンを使ったものでこれはちゃんと生地から焼いた本格ピザ、それが四角いのはなんとも違和感がある。それとチーズがいただけない、ピザのーチーズと言えば伸びるものをイメージするがこのチーズは全く伸びないんだよな。別にそういうチーズがないというわけではなくこの街でも見たことがあった。なぜそれを使わないのか、まぁ多分リーラがそれを思いつかなかっただけだろうが。

「まぁね。でもこれもうちょっと改良の余地がある気がするんだけど、それが分からなくてね」

 ここでリーラがそんなことを言い出した。

「改良? 十分うまいけどな」
「そうだよね」
「ありがと、でも何かあるはずなんだよね。何か思いつかない」

 いきなりリーラに改良案を尋ねられたが、なんで俺たちなんだろうか。

「俺たちがか、俺たちは料理はできるがそれだけで、素人だぞ」
「それはもちろんわかってるわよ。でも食べてみて何かいいアイデアないかなって思って」

 素人である俺たちに聞きたくなるほどに煮詰まっているのかの知れないな。

「アイデアねぇ。スニルは何かある」

 シュンナは考えながら俺にも聞いてきた。そうだな、それなら俺の違和感を解消するためのアイデアをだすか。

「形を丸に変えてみたら」
「形を? 丸に? なんで?」

 当然の疑問だな。

「丸にすれば、複数に分割して場合によっては複数人で食べることができるようになる」
「複数で? ああ、そっか確かにそうすればグループで1つってことになって、窯の使用効率も上がって回転もよくなるわね」

 リーラもまたプロであるだけあってすぐに利点に気が付いたようだ。

「あとは、チーズかな」
「チーズ? 何か変かなこれ、美味しいと思うけど」
「いや、確かにうまいけどなんて言うか、これって硬いチーズ使ってるから、もっと柔らかい伸びるものを使うといいと思う」

 珍しく他人相手に長文をしゃべってしまったが、これだけは外せない気がするから仕方ない。

「スニルがこんなにしゃべるなんて珍しいな」
「ははっ、確かに」

 ダンクスとシュンナも俺が2人以外で長文をしゃべったのを驚いているようだ。

「チーズか、あまり考えてなかったが、確かにこのままよりそのほうがいいかもしれないな」

 オクトが俺のアイデアに乗ってきた。

「そう? それじゃ、一応それで作ってみようか」
「だな」

 オクトとリーラはさっそく俺のアイデアを形にするために厨房へと入っていった。そうしてしばらくしたところで2人して厨房から出てきたわけだが、その手にはまさに丸いピザがあった。

「できたよ。食べてみて」
「おっ、待ってましたっ」
「おいしそう」

 ダンクスはともかくシュンナも結構食う、そのため先ほどリーラパンを食べたばかりでも、もう1つ食うぐらいが軽いだろう。俺も前世よりは食うが、体が小さい分2人ほどは食わないからな。ていうか食えてもあと1切れぐらいだろう。というわけでさっそく食おうと思ったわけだが、ここで問題が発生。……切れてないな。

「これ、どう食うんだ?」

 ダンクスも伸ばした手の行き先を失ったままそういっている。

「あっ、ごめん切ったほうがよかったよね。でも、どう切ったらいいかわからなくて」
「スニル、どうするの」
「ちょっと待って、今切る」

 この形の発案者である俺にシュンナがどうするのかと聞いてきたので、”収納”から包丁を取り出して自ら切ることにした。

「だ、大丈夫?」

 見た目幼い子供にしか見えない俺が、包丁を取り出したことでリーラが心配そうな顔をした。

「大丈夫よ。この子はこう見えて13歳だし、普段剣を使っているし料理もするからね」
「えっ、そうなの?」
「ふふふっ、驚くよね。私も最初驚いたんだよね」
「確かにな」

 俺の年齢を聞いて驚くリーラに対して、すでに知っていたバネッサとオクトが何だか懐かしものを見るようにそう言った。2人も確かに驚いていたからな。まぁ、それはともかく俺はピザ、新たなリーラパンの中心に向かって外側から切り反対側に出る。それを90度返してからまた同じことを、そこから45度をつけて切り、そこから90度に回して切る。これで、8分割にした。

 思いっきり余談だが、実はついこの間俺は13歳になっている。確かナンベルに入ったその日だったはずだ。しかしこの世界では、特に誕生日だからといって祝うという習慣がない、せいぜい生まれた時と6歳、あとは15歳の成人の時ぐらいだそうだ。まぁ、俺は6歳の時やってないので、ポリー達からやらないかと言われたが、いまさらということもあるので遠慮したというわけだ。その代わり15になったら盛大にやろうという話になってしまったが……。

「これで、大丈夫だろ」
「なるほど、そうやって行けば、最高で8人ってわけね。すごいじゃない」

 リーラは感心したようにそう言っているが、そうかこの世界にはこうして丸い食い物なんてないからそもそもこうした切り方を知らないのかもしれないな。

「あとは、これを1切れ取って食えばいい」

 そう言いつつやっとこさ新たなリーラパンの手に取り食べた。うん、上手いな味は先ほどとそこまでかわらないが、やはりこれはこうしたものだそして何よりチーズが伸びてるな。

「おっ、こいつも美味いな」
「ほんと、あたしはこっちのほうが好きかも」
「こうしてみると、こっちのほうがおいしそうに見えるわね」
「ああ、味は変わらんはずなんだがな」
「本当においしそう、ねぇ、リーラさん私も食べたい」
「そうね。待ってて今作ってくるわね」

 そう言ってリーラは再び厨房へと入っていき、自分たちのリーラパンを作り戻って来て3人もまたそれを切り分けて食していったのだった。こうしてみるとまさにいい家族って感じだな。リーラとオクトは年齢なら10近く離れていたはずだけど、悪くない組み合わせなんだろう。2人ともいわば料理馬鹿だしな。バネッサもそんな2人を歓迎しているようだしな。
 その後のことだが、俺たちはレイグラット亭にて過ごしたのちキルベルトやブレンドと合流しブロッセンへと帰ったのだった。
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