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第04章 奴隷狩り

19 事実確認

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 ブロッセンに立ち寄った俺たちは、空腹によりある料理屋へと足を踏み入れた。そこで目にしたものは明らかにピザ、この世界においてはリーラパンと呼ばれるものであった。そのことでダンクスと給仕がもめ、その後出てきた店主である会長とも言い合いが始まった。

「おい、このことを調べるぞ」
「はい」

 そんな騒ぎの中そう言って数人の客が慌てて店を飛び出していったのだった。おそらく彼らは急いで事実確認に向かったのだろう。

「だから言ったろ、こいつは別の奴が作ったものをプリアルスってやつが盗んだんだって」
「なんとっ、無礼な。我が弟を貶めるつもりですか?」
「貶めるも何も、事実を言っているだけだぜ」

 ダンクスは事実を述べているだけだが、一方の商会長はそれを認めるわけにはいかないと、そんな言い合いとなっている。

「わかりました。そこまでおっしゃるのでしたらあなたを訴えさせていただきます」

 なんと、ダンクスが訴えられてしまったようだ。ずいぶんと大事になったな。俺としてはここまで大事にしようとは思ってもいなかった。確かに、俺も前世の子供時代なぜ犯罪が起きるのかとかそんなことを思うほどには正義感があった。というか中学のころは一番ひどくニュースすらまともに見ることができなくなった時がある。ニュースで事件の話を聞くとどうしても考えちまう。実は以前俺の考えとして犯罪者に人権はないということを話したと思うが、これはこの考えちまったことに起因している。まぁ、でもあれ以来人間嫌いとなった今ではそれほど気にはならなくなっている。まぁ、正直気に入らないそんな風には思うがそれだけで、何か行動を起こそうとは思わない。まぁ、だからといってダンクスを止める気はないけどな。それはシュンナも同じだからこそダンクスが暴走気味にもめることになったわけだ。はてさて、訴えられたわけだがどうするかな。これ。


「ああ、悪いな。思ったよりも大事になっちまった。でもまぁ、許せることじゃないんでな。リーラがどんな思いであの料理を作り上げたのかを考えるとな」
「まぁ、それは分かるわ。あたしもリーラから直接リーラパンのことを聞いているしね」
「だな。それを盗んで儲けてるってのは確かに俺も気に入らねぇのは事実だよ。でも、どうすんだ」
「そうなんだよなぁ」

 俺たちがそうして話し合っている間に、会長の指示を受けた給仕が店の外に出ていって、どこかの私兵を連れてきた。

「この男です」
「お前か、レイベル商会から訴があった。詳しい事情が聞きたい。我々と同行してもらおう」
「ああ、わかった」

 訴えられたということで、俺だったら普通に面倒だから逃げるんだが、ダンクスは堂々と同行することを選んだ。まぁ、実際にダンクスは事実を述べているだけで、悪いのはどちらかというと向こうだし。

「それで、そこの者たちはお前の仲間か?」
「ああ、そうだ」
「なら、貴様たちも来てもらおう」
「まっ、仕方ないか」
「ああ」

 というわけで俺たちは連行されたわけだが、行きついた場所は街の中心に位置する建物だった。ここは、街の有力商人たちが持ち回りで議長を務める議会所だそうだ。
 議会に入った俺たちが連れてこられたのはちょっと広い部屋で、中央の机に1人の禿げたおっさんが座っており、その背後には2人の私兵、装備からして俺たちを連行してきた連中の仲間だろう。そして、訴えられた俺たちはその正面に立たされ、訴えた側の会長は右手の椅子に座った。しかも俺たちの背後には先ほどの私兵ががっちりと立っている。ちなみに、こういった場合武器を取られるのが普通だが俺たちは取られていない。というのもこういうことを考えて事前に武器類は”収納”に収めていたからだ。俺たちの武器は明らかに普通ではないからな、そんなものを預けた日にはなんだかんだといって奪われる可能性がある。それを避けるための処置だ。

「さて、レイベル商会、ブレンド・レイベル殿の訴えによると、営業妨害と名誉棄損となっているが間違いはありませんかな」
「ええ、間違いありません。この者は我が店で出させていただいております。プリアルスをあろうことか盗作であると申したのです」
「なるほど、では旅人ダンクス殿にお聞きしますが、貴殿はなぜそのようなことを聞けば貴殿はこの街にはつい先ほど入ったばかりと聞きましたが?」
「ああ、確かに俺たちはこの街に入ったのはついさっきだな。そいつの店にも腹が減って飯でもって思ったときに目についたからだな」

 禿のおっさん、現在この街で議長を務めるアプリス商会の商会長のキルベルト・アプリスが裁判長としてブレンドの訴えを聞き、ダンクスから事情を聞いている。

「嘘をつくな」
「嘘じゃねぇさ。あんたの店に行ったのは偶然、そこでリーラパンがプリアルスって名前で売られていたからその事実を言っただけだ」
「ふむ、リーラパンですか。それがレイベル商会で先ごろ発売されているプリアルスのことですかな」

 キルベルトがダンクスにそう尋ねたが、ここまでの印象としてはこのおっさんは中立の立場に立っているように見えるな。だが、俺たちはアウェイである以上油断は禁物だな。

「そうだ。俺も別に全く同じ料理が別のところでほぼ同時期に生まれたって話なら何も言わねぇ。そういうこともあるって話だしな」

 ダンクスはそう言って俺を見たので俺もうなずいておいた。

「なるほど、ではなぜ盗作だと考えたのですか」
「プリアルスって名前だよ。なんでもこの名前はそいつの弟の名前なんだろ」
「ええ、確かにブレンド殿にはプリアルスという弟がいますね」

 さすがに議長を務めるだけあってよく知っているらしい。

「もちろん名前だけならこれも同じ名前ってこともありうる。しかし、そのプリアルスはウルベキナ王国のエイルードで商人ギルドギルドマスターをしているって話だ」
「ええ、そうですね。彼は商業組合に属し、エイルードに出向しております」
「そうなると、これは疑惑ではなく核心となる」
「とおっしゃいますと」
「俺たちは旅人だ。そしてウルベキナ王国からここシムサイト商業国に入った。これは調べてもらえればわかるんじゃないか、なにせ俺たちは目立つからな」

 ダンクスの言う通り強面の巨漢とスタイル抜群の美少女と一見幼く見える少年。うん、目立つな。

「それについっては後で調べておこう、それで、貴殿の言うことが本当だとして続きを」
「ああ、それで俺たちはエイルードにも立ち寄ったんだよ。確かあれは2か月ぐらい前だったと思うぜ」
「2か月前ですか」
「ああ、そんでその時エイルードでは料理人ギルドを中心に料理大会ってものが行われたは知っているか?」
「ええ、もちろん知っていますよ。出入りの者から聞き及んでおります」

 さすがは商人だけあって遠く離れたエイルードの情報もある程度得ているようだ。

「なら話は早い。俺たちはそいつを見ていてな」

 正確には発案者なんだけどな。

「その決勝戦でリーラっていう女性料理人が作ったのがリーラパンというパンを使った料理だった。こいつはエイルードでも初めて作られた料理で、エイルードではリーラパンと呼ばれている。まぁ、残念ながらリーラは女ってだけで商人ギルドが店を売っても貸してももらえなくて販売はされてないんだけどな」

 ほんとに残念なことだよな。俺だってピザ食いてぇよ。まぁ、前世ではそれほど好きなわけではなかったけどな。乳製品が苦手でね。でも食えないとなるとそれはそれで食いたくなるのがピザなんだよな。

「ええ、そうでしょうね。女というものは信用できませんからね。店舗を与えるなどもってのほかでしょう」

 キルベルトもやはりシムサイトの男だけあって自然と女性の差別意識があるようだ。まぁ、こればかりはしょうがない長年それが染みついているんだからな。こういうのってなかなか抜けるものではないしな。実際前世でも、黒人が奴隷として扱われていた時代があり、その奴隷から解放されて160年ぐらい経っているってのにいまだに差別意識が一部で残っているみたいだしな。それが、現役で差別が行われているこの国でそれを求めるのは無理がある。

「まぁ、とにかくだ。その料理大会の審査員として商人ギルドのギルマスも参加していた。そのギルマスがリーラパンを遠く離れたこの場所に自ら考案したといってレシピを送り込んでくるってことは明らかに盗作ってことじゃねぇのかってことだ」

 料理大会と商人ギルドのギルマスの存在が確実である以上、ダンクスの言葉はすべて正しいと言えるだろう。

「……た、確かに……」
「お待ちを、証拠は、証拠があるというのですか。そのリーラという女が本当にプリアルスを作ったという証拠が、もしかしたらその女が弟が考案したレシピを盗み、大会で作ったと考えることもできましょう」
「うむ、確かにそれもありますな。女である以上それを武器にプリアルス殿に近づいたと」
「ええ、ええ、そうでしょうとも」

 なんだかそんな話になっているが、そこまで俺たちが知るわけがない。

「なら、その女を訴えましょう」
「まぁ、それらは実際にエイルードに行き調べる必要がありましょう。さすがに他国の人物を我々が捕らえるわけにはいきませんからな」

 ダンクスの言葉の裏を取るために実際にエイルードに行き調べるという。それはいいんだけど、エイルードはここから遠い、結構時間がかかることを考えると、その間俺たちはどうなるんだ。

「おいおい、調べるのはいいけどよ。その間俺たちはどうなるんだ」
「調べが付くまではおとなしくしていてもらいますよ」

 おとなしくって、牢とかに拘束されるってことだろ、それは勘弁してほしい。別に急ぐ旅ではないが今回は隣の街サカリームで奴隷狩りについて調べたいし、拘束されるのは嫌いなんだよなぁ。はぁ、仕方ないか。
 俺はため息をこぼしつつダンクスの裾を引っ張った。

「んっ、どうしたスニル」
「エイルードに行く」
「いいのか、まぁ、それが手っ取り早いか。なぁ、あんたエイルードに行ったことあるか?」

 それなりに濃い付き合いをしているだけあって、ダンクスは俺の言いたいことを理解してキルベルトに尋ねた。

「エイルードですか、若いころに訪れたことはありますが、それがどうしましたか?」
「なら、話は早いな。じゃぁ行くか」
「行く? どこに……」

 キルベルトがそう言った瞬間俺は無言で”転移”を発動した。



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「なっ、なんだここは?」
「ど、どこだ。どういうことだ? 私たちは議会所にいたはず?」
「会長、おさがりを」

 突如いる場所が変わったことでかなり混乱している俺たち以外の面々である。それはそうだろうなんの説明もなしにいきなり、室内から屋外に移動したんだからな。

「ここは、エイルードだ。”転移”で移動したんだ」

 ダンクスがそう説明した。

「”転移”まさか、あなたは空間魔法が使えるのですか?」
「いや、使を持っていてな。まぁ、あと1つしかないがな。あとはブロッセンに帰る分しかないぜ」
「そ、そのような貴重なものを使ったというのですか?」
「このほうが手っ取り早いからな。そもそも俺たちでは”転移”の魔道具なんて使い道がないし、たまたま見つけたものだが、役に立ったな」
「だな」

 ダンクスがとっさに言ったように俺が”転移”が使えるということは基本隠す必要があり、そのために使い捨てであとは1つしかないと強調して言ったわけだ。これで、後々の面倒ごとを避けることができるだろう。

「本当にここは、エイルードなのですか?」
「ああ、間違いないぜ。ていうか疑うなら実際に街に入って確認してみてくれ」
「わ、わかりました。おい」
「は、はい」

 キルベルトは護衛の私兵の1人を見えている門へと向かわせた。そして急いで帰ってきた私兵が言った。

「ま、間違いありません。門番に確認しましたがここはエイルードとのことです」
「なっ、まさか!!」

 キルベルトも急いで門へと走っていく、もちろんそれにはブランドと俺たちもついていった。

「本当にここはエイルードというのですかな?」
「ああ、そうだといっているだろう。それで、入るのかどうなんだ」

 門番もいきなりのことで困惑しながらどうするのかと聞いている。

「い、いえ、入りましょう、よろしいですね」
「は、はい」

 そうしてようやく街に入った俺たちであったが、いや、2か月前とはいえ懐かしいな。オクトの奴とバネッサは元気にしているかな。そう考えるも今はレイグラット亭に行っている暇はなさそうだな。

「んで、キルベルトだったっけ、どうだここがエイルードで間違いないだろ」
「は、はい、間違いありません。昔のことなので変わったところはありますが、間違いなくここはエイルードです」
「馬鹿なっ、こんなことが」
「それが分かったらさっそく料理人ギルドに行くぞ。そこでギルマスに聞いてくれ」
「わ、わかりました」

 それから俺たちは料理人ギルドへと足を運んだのだった。


「あれっ! ダンクスさん。それにシュンナさんとスニル君まで、どうしたんですか、もう戻ってきたんですか?」

 俺たちが料理人ギルドに行くと受付嬢が驚いたようにそう言った。まぁ、実際にかなり驚いているな。それはそうだろう俺たちは2か月前にこの街を発っているその俺たちが再びやってくればそりゃぁ驚くか。

「ああ、ちょっとね。ギルマスいる」

 ここはシムサイトではないのでシュンナが受付嬢に言った。

「はい、居られますよ。ちょっと聞いてきますね」
「お願い」

 そう言って受付嬢は奥へと走っていった。

「君たちはここではずいぶんと待遇がいいようですね」
「ああ、ちょっとあってな」

 俺たちが料理大会の発案者であることは基本内緒にしてもらっているから、ダンクスもごまかすような言い方をした。そうして、待っていると受付嬢がやって来てギルマスの部屋へと案内された。

「よぉ、お前たちかどうしたんだ。いきなり」
「ああ、実はな……」

 ダンクスが事の経緯を説明していった。すると最初こそ俺たち同様珍しいこともあるもんだという風に聞いていたが、その出始めた時期と考案者であるプリアルスの名を聞いたとたん憤慨した。

「な、なんだとっ! それは本当か」
「ああ、間違いない、あれはリーラが作ったあのパンだった」
「あ、あの野郎ぉ。おい、リーラを呼んで来い!」
「は、はい」

 ギルマスは俺たちにお茶を持ってきてくれた人物に怒鳴るようにそう命じた。

「おっと、悪いな。それで、あんただったなそいつを出しているってのは」
「え、ええ」
「悪いがそいつを今作ることは可能か?」
「は、はい」

 どうやらギルマスは事実確認のために実際にプリアルスを作らせてみるようだ。

「なら、作ってくれ材料はこちらで用意する」
「わ、わかりました」

 ブレンドはギルマスの迫力に気圧されながらも了承したのだった。


 それから少ししてリーラがギルドへとやってきた。

「なんかギルマスに呼ばれたんだけど、何の用? 私今忙しんだけど」
「おう、悪いな、実はなちょいと面倒ごとが起きてな。付き合ってもらうぞ」
「なんです。って、あっ、もしかしてダンクスさんとシュンナちゃん、あとはスニル君だっけ」
「よく覚えているな」
「あなたたちの場合は忘れようもないと思うわよ。ていうかまだ2か月しかたってないじゃない。あれ? でも何でここに?」
「まぁちょっと面倒ごとでね」
「おしっ、リーラも来たところでブレンドだったか、作ってもらえるか」
「は、はい」

 ブレンドはリーラを見た瞬間睨むようにしていたが、ギルマスに言われてすぐにその目をそらした。
 そうして、ギルドにある厨房へとやって来て、ブレンドはさっそくプリアルスを作り始めた。

「どうだ、リーラ」
「どうって、言われても、私の料理に似てますね」

 ブレンドはパン生地の伸ばして、そこに作ったトマトソースや具チーズをのせて焼いている。作り方もまんま同じだよな。
 そして出来上がったのは当然ながらどう見てもピザ、ここではリーラパンと呼ばれるものだった。

「なるほど、確かにこいつはリーラパンだな」
「はい、確かに私のですけど、これがどうしたんですか?」

 リーラはちゃんと説明を受けていないこともあって首をかしげていた。

「ダンクスによると、こいつは遠く離れたシムサイト商業国って国のブロッセンって街で出されているそうだ」
「えっ? 私の料理がですか? えっと、それはどういう?」

 リーラはますます訳が分からないという。それはそうだろうな。

「そんで、こいつの料理名何だったか、キルベルト殿」
「プリアルスという名ですね。由来は確か考案者であり、ブレンド殿の弟であるプリアルス殿からだったかと」
「へぇ、世の中は広いですね。私と同じ料理を作る人がいるなんて」

 リーラはまだわかっていないようだ。ていうか、リーラはプリアルスと聞いてもわかっていないってどうよ。

「リーラ、忘れているかもしれないが、プリアルスはこの街の商人ギルドのギルマスだ。大会の時も審査員やっていただろう」
「えっ、商人ギルド?!」

 商人ギルドと聞いてリーラは顔をしかめる。店を出せない原因でもある場所だからだろう。

「そうだ。そのギルマスがお前のレシピをあの時盗んで、てめぇの実家であたかも自分が考案したように出させていやがったんだよ」
「えーーー!!」

 リーラはようやく事態が分かり驚愕した。
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