55 / 162
第04章 奴隷狩り
09 第01回料理大会開催
しおりを挟む
俺たちがこの街に滞在してさらに1週間が過ぎたわけだが、俺たちはまだエイルードに滞在していた。
当初の予定では、レイグラット亭でシチューを受け取ったらその足で街を出るつもりだった。
しかし、ゴッドファーザーの部下のやらかしで、シチューがダメとなり1日滞在が伸びた。
ふざけんなと、ゴッドファーザーに文句をつけに言ったら、とんでもない話を聞いてしまった。
それは、ゴッドファーザーがレイグラット亭をつぶそうとしているとものだった。
そうなると、今後二度とあの絶品料理を味わえなくなるということになり、それは俺たちにとっては何が何でも回避したいことであった。
そこで、料理人ギルドへ赴き料理人を集めた料理バトル的なイベントをやったらどうかと提案した。
んで、その提案がちゃんとした形になるかとか、それで本当にレイグラット亭が何とかなるのか、それを見届けてから街を出るかという話となったことで、まだ滞在しているってわけだ。
そうして、滞在している間レイグラット亭へ入り浸り、うまい飯を堪能しつつ情報を集めていた。
その結果として、今日から第01回料理大会が開催される運びとなった。
普通に考えて構想からわずか1週間で開催までこぎつけるなんてことはいくら何でも早すぎると思う。
いやまぁ、普通の速度は知らないけどそれでも早いだろう。
ここで疑問なぜこんなにもハイスピードでことがなせたのか?
その答えは料理人ギルドのギルマスとここの領主にあった。
まず、料理人ギルドだが、実はこれができたのはまだ12年前、つまり組織としてはまだ腐敗が起きていないということ、そしてこのギルマスと領主が幼友達であったことだろう。
どうして、貴族である領主と平民であるギルマスが幼友達なのかについては知らない。
しかしそのおかげもあって、ギルマスが考えたことがまさに一瞬にして領主の耳に入った。
そして、何よりこの領主もあのギルマスと同様面白いことが好きらしく、この話に飛びついたそうだ。
俺にとって領主というのはやはりカリブリンの領主を思い出すし、何よりコルマベイントの王のことを思い出すとあまりいいイメージがなかった。
しかし、こういう領主もいるんだなぁと、しみじみ思ったものだ。
さて、そんなことはどうでもいいとして本題である料理大会についてだが、これはまず料理人ギルドに属ている料理人は強制参加(店に料理人が複数いる場合は代表者)となった。
その理由こそ俺たちの苦情の答えで、すべての料理人が参加することで当然料理人たちの順位が出る。
それをもとに行く店の指針にしてほしいということだ。
また、料理人ギルドとしても、いい加減この多すぎる料理人をどうにかしたいと考えていたそうで、この順位をもとにランクをつけることにしたらしい。
つまり、上位となったものたちをAランクとして、B、C、Dとランクをつけていく、そしてそれを店先で示すようになれば、一発でその店の料理がうまいということが分かる。
だが、ここで1つ問題がある。というの、街の店を全部回った俺たちからしたら、大体どの店もうまかったという点だろう。
つまり、この大会で最下位となった料理人の料理も普通の街であったら上位、もしくは中間ぐらいの腕というわけだが、最下位は最下位というわけでそんな店に誰が行きたいかということになるんだよな。
これは困った問題だ。
「そうなったら、ちょっとかわいそうな気がするわね」
話し合っているとシュンナがそんなことを言い出した。
「そういえば、スニルの前世の世界でもこういうのってあるんだろ」
「ああ、あるないろいろ」
ミ〇〇ンや食〇〇グなどだろうか、あの頃の俺はそういうことに全く興味がなかったが、同時にこうも思っていた。
そこで星を取ったり、上位を取った店はいいが、それ以外調査員が来たのに星がもらえなかった店や酷評を受けてしまった店、そういった店はもはやつぶれるしかない。
確かに多すぎた店を減らすという目的なら問題ないが、店を出すのは個人の自由だろうそれを勝手に評価されて、貶められてつぶされる。当人からしたら余計なお世話だろうな。
あと、中には静かに店をやりたいってやつだっている。
でも、そんな店がガイドブックに載ってしまったり上位に入ってしまった日には、せっかくの静けさがなくなる。
これもまた余計なお世話だろうな。
実はオクトもどちらかというと静かに料理をじっくりと作っていたいというタイプで、この料理大会の結果次第では、その静かさがなくなってしまうと懸念される。
いや、俺たちの見込みでは間違いなく優勝すると考えている。
「オクトには少し悪い気がするが、これを乗り越えれば借金も返せるからな」
「だな」
「ある程度時間がたてば落ち着いてくると思うけどね」
「そうだな。一応予定では来月には2回目の料理大会を開くらしいし、その際上位にはいいた奴は参加しなくてもいいらしいからな」
上位の奴が次まで参加すると、またそいつが上位となり結局その店に客が集まってしまう。
もちろん、参加も可能で客をもっと呼びたいという奴であれば参加すればいいだろう。
しかし、もうこれ以上はというオクトタイプの料理人は参加しなければいいというわけだ。
人間というものは新しいものが好きだからな、たとえ第01回の優勝者がオクトでも、次の優勝者が決まればそこに集まるようになる。
でも、オクトの料理がまずくなるわけじゃないので、ある程度は客がレイグラット亭に残るというわけだ。
「あっ、みなさんここにいたんですね」
俺たちが話しているとそこにやってきたのは、レイグラット亭オクトの娘であるバネッサであった。
「おう、そっちはもういいのか」
「はい、でも驚きました。こんな大会が開かれるって聞いたの2日前ですよ。もう、慌てましたよ」
「はははっ、そうだろうな」
バネッサの言う通り、料理人たちに本日の大会の話が入ったのは2日前、いきなり言われて料理人たちもさぞ慌てたことだろう。
なぜ、こんな急なのかというとこれはやはり単に、俺たちの提案を聞いたギルマスと領主が乗りに乗って開催を速めたのが原因だろう。
そのおかげで、ギルドの職員たちは大慌てで準備やルールの設定、時に提案者の俺たちへのアドバイスを聞きに来たりとかなり大変な目にあっていた。
なかにはなんでこんな提案をしたんだって、文句を言いに来た奴だっていたぐらいだ。
「でも、材料とかはギルドが用意するってことでそこは大丈夫なんですけど」
これは俺がアドバイスした結果だ、個人で材料を集めさせると下手をするとどこかの店がライバル店を落とすために必要もないのに買い占めるということをやりかねない。
例えばゴッドファーザーとかやりそうだ。
たとえそれが2日前でもやる奴はやるだろうから、なら材料はあらかじめギルドが用意しておけば公平だろうということ、また、会場で材料を並べて置き、そこから最良の材料を選び出す目も料理人には必要な能力だろう。
「予選が始まるみたいだな」
「そうみたいね」
何度も言っているようにエイルードには料理人が多すぎるというのに、料理人全員が強制参加となっている。
そんな数を一か所でバトルさせるわけにはいかないというわけで予選という形を取り、まず地区を小さくわけて行われることとなった。
んで、俺たちが見ているのはレイグラット亭がある西地区エンドラという場所だ。
ここには8軒の料理屋がありトーナメント方式で争われることになる。
「レイグラット亭は何試合目だ」
ダンクスがバネッサに尋ねた。
「第3試合です。お父さん大丈夫かな」
バネッサは心配そうにしているが、俺たちはむしろこの地区のオクト以外の奴らが心配になる。
なにせ、どう考えてもオクトがこの地区優勝だからな。
ちなみに、ゴッドファーザーの店は隣の地区となるためにこの予選でぶつかることはない。
ていうか、奴の店のレベルでは多分本大会に出場もできないだろう思う。
そんなわけで、俺たちはのんびりと予選大会を眺めていた。
そうして、第3試合ついにオクトの出番である。
「まったく、緊張してないな」
「そうみたいね」
「ほんとです。なんだか私だけ緊張してバカみたい」
「あはははっ」
会場に出てきたオクトは俺たちが見る限り全く緊張した様子はなく、まさにいつも通りだった。
そして、その材料の見極めも、料理もすべていつも通り、これはバネッサの言葉なので間違いない。
そうしてできた料理を食べた審査員。
ああそうそう、この審査員はギルド職員と冒険者、あとは別の地区の住人となっている。
別の地区の住人という意味は、この地区内や近所の地区で選ぶとどうしてもひいきの店がある可能性があるからだ。
そうなると公平性に欠けてしまうからだ。
こうして、厳選に行われた結果、俺たちの思惑通り、オクトはトーナメントを勝ち進めての優勝、本大会出場を勝ち取ったのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
料理大会予選開始から3日が経った。
この3日間はというと、ずっと予選を行っていた。
オクトが出た西地区エンドラは料理店が8軒と比較的少なかったこともあり1日で予選会が終わったが、ほかはそうはいかない、特に中央通りに面した地区においてはひしめき合った屋台も参加者となるために出場者が多い。そのために3日を要したのであった。
「やっと、本戦だな」
「どんな料理が出るのか楽しみだよね」
「確かにな。といっても、俺たちは食えないわけだが」
「そうなんだよね。審査員断らなければよかったかな」
「ちげぇねぇ。ははははっ」
実は俺たち3人はこの大会の発案者ということで審査員として呼ばれていた。
しかし、俺たちはこの1週間はほとんどオクトの店に入り浸っていた。
つまり、審査をするとどうしてもオクトに有利な審査をしてしまうという不公平性が出てしまう。
もちろん俺たちだって審査するときはちゃんと厳選に行うが、俺たちが入り浸っていた事実を知っている者からしたらそう見えてしまう。
また、俺を筆頭に基本目立つことが大嫌いな3人であり、審査員なんかになったらどうしても目立ってしまうことが嫌だったという理由もあったりするんだよな。
てなわけで審査員を断った俺たちであったが、出場者が威信をかけて作る料理が食えないことで、ちょっとだけ後悔しているのだった。
さて、そんな俺たちが辞退した料理大会の審査員だが、これは領主をはじめ料理人ギルドギルドマスター、エイルード冒険者ギルド支部ギルドマスター、商人ギルドギルドマスターなど、各界のトップという錚々たる面々となっている。
それを思うとますます俺たちは審査員とならずに済んでよかったと思うな。こんな街の大物の中にどこの誰とも知れない旅人を入れるなよ。
「皆さまお静かに願います。本日第01回エイルード料理大会本戦を開催したいと存じます」
俺たちが会場を見ていると1人の女性が大声を張り上げてそういった。
会場は街の広場となっており、その中央に特設の調理場が2つ作られており、その広場を眺めるように階段状の観客席が設けられていた。
なんでもこの観客席は街の大工が領主の依頼で突貫工事で救護氏らで作ったらしいが、……崩れないよな。
昔、テレビのニュースや衝撃映像でこういった観客席が崩れる映像を見たことがあるが、一瞬それがよぎったのは言うまでもない。
閑話休題。
ああ、そうそう彼女は料理人ギルドの受付嬢で、俺たちを受け付けた女性であった。
なんでも、俺たちの窓口となったことでギルマスから指名を受けて今大会の司会進行を任されたようだ。
最初こそ涙目で嫌がった彼女ではあったが、今見るとかなりノリノリだな。
「さて、まずは審査員の方々をご紹介いたします」
そうして、まず審査員が次々に紹介されていくわけだが、うわぁ、ほんとに目立つ。
「あたしたちあそこにいなくてよかったわね」
「全くだ」
「辞退して正解だったな」
あんな目立つことはしたくない。
「では、皆様お待ちかね。本戦出場者のご紹介をしていきたいと思います……」
今回予選が行われた地区は、東西南北の地区がそれぞれ3から4つに分類されており計14か所で行われた。
つまり、出場者は全部で14名となっている。
紹介は当然名前はもちろん店名や地区名も紹介されるために、オクトが出た時は多くの人が驚愕した。
だってそうだろ、俺たちが聞いた噂安くてまずい、それを聞いたことがあるものはそれなりにいるはずだ。
そいつらからしたら、どういうことだってことだろ。
中にはオクトが何か不正でもしたんじゃないかとか、オクトが出場した西地区エンドラにはまともな料理屋はないんじゃないかという話まで持ち上がっている。
そうなんだよな地区予選で勝ち進んだってことは、その地区で一番うまい店ということになる。
それすなわち、出場者たちは自分の店だけではなく地区すべての店を背負っているといっても過言ではない。
「お父さん、大丈夫かな」
それをわかったからこそ、俺たちの隣にいるバネッサは心配しているわけだ。
「大丈夫だろ、オクトの料理は間違いなくこの街一番だ」
「それはあたしたちが保証するよ。ねっ、スニル」
「ああ、そうだな」
「あ、ありがとうございます」
俺たちが続いて大丈夫だと太鼓判を押したことで、バネッサの心配も少し落ち着いたようだ。
さて、いよいよ本戦がスタートするわけだがはてさてどうなることか、楽しみだ。
最後に余談だが、ゴッドファーザーの店は予選敗退しており、本戦には出場していないことは明記しておこう。
当初の予定では、レイグラット亭でシチューを受け取ったらその足で街を出るつもりだった。
しかし、ゴッドファーザーの部下のやらかしで、シチューがダメとなり1日滞在が伸びた。
ふざけんなと、ゴッドファーザーに文句をつけに言ったら、とんでもない話を聞いてしまった。
それは、ゴッドファーザーがレイグラット亭をつぶそうとしているとものだった。
そうなると、今後二度とあの絶品料理を味わえなくなるということになり、それは俺たちにとっては何が何でも回避したいことであった。
そこで、料理人ギルドへ赴き料理人を集めた料理バトル的なイベントをやったらどうかと提案した。
んで、その提案がちゃんとした形になるかとか、それで本当にレイグラット亭が何とかなるのか、それを見届けてから街を出るかという話となったことで、まだ滞在しているってわけだ。
そうして、滞在している間レイグラット亭へ入り浸り、うまい飯を堪能しつつ情報を集めていた。
その結果として、今日から第01回料理大会が開催される運びとなった。
普通に考えて構想からわずか1週間で開催までこぎつけるなんてことはいくら何でも早すぎると思う。
いやまぁ、普通の速度は知らないけどそれでも早いだろう。
ここで疑問なぜこんなにもハイスピードでことがなせたのか?
その答えは料理人ギルドのギルマスとここの領主にあった。
まず、料理人ギルドだが、実はこれができたのはまだ12年前、つまり組織としてはまだ腐敗が起きていないということ、そしてこのギルマスと領主が幼友達であったことだろう。
どうして、貴族である領主と平民であるギルマスが幼友達なのかについては知らない。
しかしそのおかげもあって、ギルマスが考えたことがまさに一瞬にして領主の耳に入った。
そして、何よりこの領主もあのギルマスと同様面白いことが好きらしく、この話に飛びついたそうだ。
俺にとって領主というのはやはりカリブリンの領主を思い出すし、何よりコルマベイントの王のことを思い出すとあまりいいイメージがなかった。
しかし、こういう領主もいるんだなぁと、しみじみ思ったものだ。
さて、そんなことはどうでもいいとして本題である料理大会についてだが、これはまず料理人ギルドに属ている料理人は強制参加(店に料理人が複数いる場合は代表者)となった。
その理由こそ俺たちの苦情の答えで、すべての料理人が参加することで当然料理人たちの順位が出る。
それをもとに行く店の指針にしてほしいということだ。
また、料理人ギルドとしても、いい加減この多すぎる料理人をどうにかしたいと考えていたそうで、この順位をもとにランクをつけることにしたらしい。
つまり、上位となったものたちをAランクとして、B、C、Dとランクをつけていく、そしてそれを店先で示すようになれば、一発でその店の料理がうまいということが分かる。
だが、ここで1つ問題がある。というの、街の店を全部回った俺たちからしたら、大体どの店もうまかったという点だろう。
つまり、この大会で最下位となった料理人の料理も普通の街であったら上位、もしくは中間ぐらいの腕というわけだが、最下位は最下位というわけでそんな店に誰が行きたいかということになるんだよな。
これは困った問題だ。
「そうなったら、ちょっとかわいそうな気がするわね」
話し合っているとシュンナがそんなことを言い出した。
「そういえば、スニルの前世の世界でもこういうのってあるんだろ」
「ああ、あるないろいろ」
ミ〇〇ンや食〇〇グなどだろうか、あの頃の俺はそういうことに全く興味がなかったが、同時にこうも思っていた。
そこで星を取ったり、上位を取った店はいいが、それ以外調査員が来たのに星がもらえなかった店や酷評を受けてしまった店、そういった店はもはやつぶれるしかない。
確かに多すぎた店を減らすという目的なら問題ないが、店を出すのは個人の自由だろうそれを勝手に評価されて、貶められてつぶされる。当人からしたら余計なお世話だろうな。
あと、中には静かに店をやりたいってやつだっている。
でも、そんな店がガイドブックに載ってしまったり上位に入ってしまった日には、せっかくの静けさがなくなる。
これもまた余計なお世話だろうな。
実はオクトもどちらかというと静かに料理をじっくりと作っていたいというタイプで、この料理大会の結果次第では、その静かさがなくなってしまうと懸念される。
いや、俺たちの見込みでは間違いなく優勝すると考えている。
「オクトには少し悪い気がするが、これを乗り越えれば借金も返せるからな」
「だな」
「ある程度時間がたてば落ち着いてくると思うけどね」
「そうだな。一応予定では来月には2回目の料理大会を開くらしいし、その際上位にはいいた奴は参加しなくてもいいらしいからな」
上位の奴が次まで参加すると、またそいつが上位となり結局その店に客が集まってしまう。
もちろん、参加も可能で客をもっと呼びたいという奴であれば参加すればいいだろう。
しかし、もうこれ以上はというオクトタイプの料理人は参加しなければいいというわけだ。
人間というものは新しいものが好きだからな、たとえ第01回の優勝者がオクトでも、次の優勝者が決まればそこに集まるようになる。
でも、オクトの料理がまずくなるわけじゃないので、ある程度は客がレイグラット亭に残るというわけだ。
「あっ、みなさんここにいたんですね」
俺たちが話しているとそこにやってきたのは、レイグラット亭オクトの娘であるバネッサであった。
「おう、そっちはもういいのか」
「はい、でも驚きました。こんな大会が開かれるって聞いたの2日前ですよ。もう、慌てましたよ」
「はははっ、そうだろうな」
バネッサの言う通り、料理人たちに本日の大会の話が入ったのは2日前、いきなり言われて料理人たちもさぞ慌てたことだろう。
なぜ、こんな急なのかというとこれはやはり単に、俺たちの提案を聞いたギルマスと領主が乗りに乗って開催を速めたのが原因だろう。
そのおかげで、ギルドの職員たちは大慌てで準備やルールの設定、時に提案者の俺たちへのアドバイスを聞きに来たりとかなり大変な目にあっていた。
なかにはなんでこんな提案をしたんだって、文句を言いに来た奴だっていたぐらいだ。
「でも、材料とかはギルドが用意するってことでそこは大丈夫なんですけど」
これは俺がアドバイスした結果だ、個人で材料を集めさせると下手をするとどこかの店がライバル店を落とすために必要もないのに買い占めるということをやりかねない。
例えばゴッドファーザーとかやりそうだ。
たとえそれが2日前でもやる奴はやるだろうから、なら材料はあらかじめギルドが用意しておけば公平だろうということ、また、会場で材料を並べて置き、そこから最良の材料を選び出す目も料理人には必要な能力だろう。
「予選が始まるみたいだな」
「そうみたいね」
何度も言っているようにエイルードには料理人が多すぎるというのに、料理人全員が強制参加となっている。
そんな数を一か所でバトルさせるわけにはいかないというわけで予選という形を取り、まず地区を小さくわけて行われることとなった。
んで、俺たちが見ているのはレイグラット亭がある西地区エンドラという場所だ。
ここには8軒の料理屋がありトーナメント方式で争われることになる。
「レイグラット亭は何試合目だ」
ダンクスがバネッサに尋ねた。
「第3試合です。お父さん大丈夫かな」
バネッサは心配そうにしているが、俺たちはむしろこの地区のオクト以外の奴らが心配になる。
なにせ、どう考えてもオクトがこの地区優勝だからな。
ちなみに、ゴッドファーザーの店は隣の地区となるためにこの予選でぶつかることはない。
ていうか、奴の店のレベルでは多分本大会に出場もできないだろう思う。
そんなわけで、俺たちはのんびりと予選大会を眺めていた。
そうして、第3試合ついにオクトの出番である。
「まったく、緊張してないな」
「そうみたいね」
「ほんとです。なんだか私だけ緊張してバカみたい」
「あはははっ」
会場に出てきたオクトは俺たちが見る限り全く緊張した様子はなく、まさにいつも通りだった。
そして、その材料の見極めも、料理もすべていつも通り、これはバネッサの言葉なので間違いない。
そうしてできた料理を食べた審査員。
ああそうそう、この審査員はギルド職員と冒険者、あとは別の地区の住人となっている。
別の地区の住人という意味は、この地区内や近所の地区で選ぶとどうしてもひいきの店がある可能性があるからだ。
そうなると公平性に欠けてしまうからだ。
こうして、厳選に行われた結果、俺たちの思惑通り、オクトはトーナメントを勝ち進めての優勝、本大会出場を勝ち取ったのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
料理大会予選開始から3日が経った。
この3日間はというと、ずっと予選を行っていた。
オクトが出た西地区エンドラは料理店が8軒と比較的少なかったこともあり1日で予選会が終わったが、ほかはそうはいかない、特に中央通りに面した地区においてはひしめき合った屋台も参加者となるために出場者が多い。そのために3日を要したのであった。
「やっと、本戦だな」
「どんな料理が出るのか楽しみだよね」
「確かにな。といっても、俺たちは食えないわけだが」
「そうなんだよね。審査員断らなければよかったかな」
「ちげぇねぇ。ははははっ」
実は俺たち3人はこの大会の発案者ということで審査員として呼ばれていた。
しかし、俺たちはこの1週間はほとんどオクトの店に入り浸っていた。
つまり、審査をするとどうしてもオクトに有利な審査をしてしまうという不公平性が出てしまう。
もちろん俺たちだって審査するときはちゃんと厳選に行うが、俺たちが入り浸っていた事実を知っている者からしたらそう見えてしまう。
また、俺を筆頭に基本目立つことが大嫌いな3人であり、審査員なんかになったらどうしても目立ってしまうことが嫌だったという理由もあったりするんだよな。
てなわけで審査員を断った俺たちであったが、出場者が威信をかけて作る料理が食えないことで、ちょっとだけ後悔しているのだった。
さて、そんな俺たちが辞退した料理大会の審査員だが、これは領主をはじめ料理人ギルドギルドマスター、エイルード冒険者ギルド支部ギルドマスター、商人ギルドギルドマスターなど、各界のトップという錚々たる面々となっている。
それを思うとますます俺たちは審査員とならずに済んでよかったと思うな。こんな街の大物の中にどこの誰とも知れない旅人を入れるなよ。
「皆さまお静かに願います。本日第01回エイルード料理大会本戦を開催したいと存じます」
俺たちが会場を見ていると1人の女性が大声を張り上げてそういった。
会場は街の広場となっており、その中央に特設の調理場が2つ作られており、その広場を眺めるように階段状の観客席が設けられていた。
なんでもこの観客席は街の大工が領主の依頼で突貫工事で救護氏らで作ったらしいが、……崩れないよな。
昔、テレビのニュースや衝撃映像でこういった観客席が崩れる映像を見たことがあるが、一瞬それがよぎったのは言うまでもない。
閑話休題。
ああ、そうそう彼女は料理人ギルドの受付嬢で、俺たちを受け付けた女性であった。
なんでも、俺たちの窓口となったことでギルマスから指名を受けて今大会の司会進行を任されたようだ。
最初こそ涙目で嫌がった彼女ではあったが、今見るとかなりノリノリだな。
「さて、まずは審査員の方々をご紹介いたします」
そうして、まず審査員が次々に紹介されていくわけだが、うわぁ、ほんとに目立つ。
「あたしたちあそこにいなくてよかったわね」
「全くだ」
「辞退して正解だったな」
あんな目立つことはしたくない。
「では、皆様お待ちかね。本戦出場者のご紹介をしていきたいと思います……」
今回予選が行われた地区は、東西南北の地区がそれぞれ3から4つに分類されており計14か所で行われた。
つまり、出場者は全部で14名となっている。
紹介は当然名前はもちろん店名や地区名も紹介されるために、オクトが出た時は多くの人が驚愕した。
だってそうだろ、俺たちが聞いた噂安くてまずい、それを聞いたことがあるものはそれなりにいるはずだ。
そいつらからしたら、どういうことだってことだろ。
中にはオクトが何か不正でもしたんじゃないかとか、オクトが出場した西地区エンドラにはまともな料理屋はないんじゃないかという話まで持ち上がっている。
そうなんだよな地区予選で勝ち進んだってことは、その地区で一番うまい店ということになる。
それすなわち、出場者たちは自分の店だけではなく地区すべての店を背負っているといっても過言ではない。
「お父さん、大丈夫かな」
それをわかったからこそ、俺たちの隣にいるバネッサは心配しているわけだ。
「大丈夫だろ、オクトの料理は間違いなくこの街一番だ」
「それはあたしたちが保証するよ。ねっ、スニル」
「ああ、そうだな」
「あ、ありがとうございます」
俺たちが続いて大丈夫だと太鼓判を押したことで、バネッサの心配も少し落ち着いたようだ。
さて、いよいよ本戦がスタートするわけだがはてさてどうなることか、楽しみだ。
最後に余談だが、ゴッドファーザーの店は予選敗退しており、本戦には出場していないことは明記しておこう。
20
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる