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第04章 奴隷狩り
06 屋台巡り
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やっとこさエイルードへとやってきた俺たちであった。
このエイルード、聞くところによると飯がうまいらしい。
ということでさっそくまずは屋台巡りをすることにした。
「どの屋台にする?」
「そうだなぁ。あれとかうまそうじゃないか」
「あっちもおいしそうじゃない」
「ああ、確かにどうする?」
さっそく屋台をめぐり迷い始める俺たち。
とはいえ、いつまでも迷ってばかりもいられないということで、まずは俺がうまそうだといった屋台へと向かうことにした。
その理由は単純に近い場所にあったからだ。
「おじさん、3つ頂戴♪」
「あいよ」
シュンナとダンクスが屋台へ並び、料理を買ってきてくれた。
俺はというと、近場で場所取りをして待っていた。
「おう、買ってきたぜ」
「ああ、おおぅ、やっぱりうまそうだな」
2人が買ってきたのは豚とトウモロコシを煮込んだスープで、ポソレというものだ。
なんとも豚骨スープみたいないい香りがしたので、興味をひかれたというわけだ。
んで、実際のその味はというと、まさに豚の出汁がうまく出ておりなんとも懐かしさを感じる味となっていた。
「うまいな」
「ほんとね。噂通り」
「ああ、全くだ」
俺たちもこれまでいくつかの街を通ってきたわけだが、そのどんな街の屋台料理よりもうまい。
前世では小食から食というものに興味がない上に好き嫌いも激しかった。そのために食うこと自体が面倒だとも思っていた。
また、今世においての幼少のころ、まぁ2歳からの10年となるわけだが、この間の食事はひどいものだった。
ろくなものも食べさせてもらえず、もはや生きることさえぎりぎりと思える量しかもらえないばかりか味もひどかった。
そのおかげか、今の俺は好き嫌いがなくなったのは皮肉というものだろう。まぁ、それはともかくシュンナとダンクスと出会い、俺の体が小さことからダンクスから食え食えと大量に食わされるものだから、今現在は結構食えるようになり、だんだんと食への興味も出始めている。
そんなわけでこの街に来るのを結構楽しみにしていた俺は、このうまい料理を堪能しつつ、今度はシュンナが興味惹かれた屋台へ並ぶことになる。
といっても、並ぶのは結局シュンナとダンクスなんだけどな。
俺だとほら、財布を持っていないし料理を受け取ったとしても手が小さいから運べないんだよな。
それに、見た目が幼児である俺が並んでシュンナとダンクスのどちらかが待っているという状況も、何かと外聞が悪いからである。
それで待っていると、また2人が料理をもってきた。
「これもうまそうだな」
「おう、食おうぜ、食おうぜ」
「はい、スニル」
2人が持ってきた料理は様々な素材をパンで挟んだサンドウィッチだった。
それを1口。
うまいな。
「へぇ、これもうまいな」
「ほんとにどれもおいしいよね。でも、さすがにもうおなか一杯かな。残念だけど」
「そうか、俺はまだ食えるぜ。スニルはどうだ」
「見ての通り限界だ」
それなりに食えるようになったといっても、さっきのポソレも具沢山で大きな豚肉も大量に入っていた。
その上にサンドウィッチはこれまたそれなりにでかかったために、結構腹いっぱいになった。
「あんだじゃぁ、お前ら休んでろよ。俺はもう少し食ってくるぜ」
「ああ、そうしろ」
俺がそう言ったところで、ダンクスは1人近場の屋台へと繰り出していった。
財布はシュンナが持っていると説明したが、ダンクスも多少なら金を持っている。
そうしないと、色々困るからだ。
尤も、ダンクスの奴は以前盾をいつの間にか買っていたことで、少し持ち金を減らされた。
しかし、屋台で買い食いをするぐらいは持っているので全く問題ない。
それから、ダンクスの奴は3つぐらいの屋台をめぐってから戻ってきた。
「ふぅ、食った食ったぁ。どれもうまかったぜぇ」
「相変わらず、よく食うな」
「ほんと。この街ではうらやましいわ」
まったくだ。
ダンクスほど食えれば、もっとうまい飯を堪能できるというものだろうからな。
「ま、仕方ない。しばらくこの街でうまい飯でも堪能しよう」
「そうね」
というわけで、俺たちはしばらくこのエイルードにとどまり屋台巡りをはじめ、料理屋などを回ってうまい飯というものを楽しもうと思う。
料理もまた文明文化だからな。
翌日宿に泊まった俺たちは、再び屋台巡りとしゃれこんでいた。
「しかし、昨日の晩飯までうまかったな」
「ああ、確かに」
「この街って、おいしくないものなんてないんじゃないの」
「ありうるな」
昨日の夜は宿の食堂で食べたわけだが、これもまたかなりのうまさだった。
なぜ、この街の料理はどれもうまいのか謎だな。
そんなことを思いつつも今日もまた屋台巡りをする。
「今日も屋台か?」
「朝は、屋台にして昼はどっか食堂に入ろう」
「そうね。夜もどっかお店にしましょう」
「だな」
という話し合いをした結果として、朝はまず屋台へ赴くことにした。
「んで、何食う」
「俺は、サンドウィッチにしとくかな。気のとは違う味があるだろうし」
「あたしもそうしようかな。ダンクスは?」
「俺もそうすっかな。とはいえそれじゃ足りないから、あっちも食うか」
そういうわけで、俺とシュンナで昨日とは別のサンドウィッチ屋台へ並び3人分買い、ダンクスは1人別の屋台へ並びに行った。
そうして、朝食を食べた後、俺たちは腹ごなしを兼ねて、街をぶらつきいた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
エイルードにやって来てあっという間に一か月が経過したわけだが、俺たちはいまだにエイルードにいた。
というのも、やはりこの街の料理はどれをとってもうまい、その結果としてダンクスがすべての店を回りたいと言い出し、俺とシュンナが同意したというわけだ。
そして、この街の屋台をはじめ食堂などを巡って一か月、ようやく今から行く店が最後の店となる。
「ここで最後かぁ」
「まさか、本当に全部回るとは思わなかったよねぇ」
「ホントにな」
全部回りたいとは思っていたが、さすがに全部は無理だろうと思っていた俺たちであったが、結局は全部回ってしまった。
まぁ、そんな感慨深くなっていても仕方ないので、店の中に入る。
「いらっしゃいませー」
店に入ると元気いっぱいの少女が出迎えてくれた。
年のころならまだ一桁ぐらいだと思うが、しっかりしているように見えた。
「あら、かわいい店員さん」
「……き、きれいですぅ……」
元気よく挨拶した少女であったが、シュンナに声をかけられてその姿を見た瞬間から、ぼぅっとし始めてしまった。
「バネッサ客か?」
奥から1人の男が出てきた。見たところこの少女の父親だろうなんとなく似てるし、多分さっきの声で客が来たと思って出てきたと思われる。
「……えっ、あっ、お父さん、う、うん、あっ、ごめんなさい」
父親に声をかけられたことで我に返り、突然ぼぅとしたことを俺たちに誤ってきた。
「ふふっ、気にしないで」
「え、ええと、こちらにどうぞ」
バネッサの案内で俺たちは近場の席に座ったのだった。
「ご注文は?」
「そうね。なにかおすすめあるかな」
「おすすめですか? それならシチューがおすすめです」
前世と違いこの世界の食堂にはメニューというものはない。その理由は単純に識字率の悪さにある。
文字を読めない者が多いために、たとえメニューを置いていたとしても読める奴が少ないから意味がない。
だから、店に入ると常連とかなら決まったものを頼めるが、俺たちみたいに新規の客となると何があるかわからないために、おすすめを聞くのが一般的だ。
そんで、そのおすすめはシチューだそうで、俺たちはそれを注文することにした。
「それじゃ、それを3つお願い」
「あっ、1つは大盛で頼む」
シュンナが全員分注文してから、ダンクスが自分の分は大盛で注文した。
「はーい、1つ大盛ですねぇ」
そういって笑顔を向けてから奥から出てきた父親のところへと向かった。
「お父さん、シチュー3つ、1つは大盛だって」
「おう、待ってろ」
バネッサから注文を受け取った父親はさっそく奥に引っ込み料理を始めた。
そうして、少し待っているとバネッサと父親が並んで料理を持ってきた。
「お待たせしましたぁ」
「こいつが大盛だ。あんただろ」
「おう、待ってたぜぇ」
当たり前のように大盛をダンクスの前に置いたが当然正解だ。
「うわぁ、おいしそう、食べよ」
「ああ、待ちきれないぜ」
「はははっ」
ダンクスは早く食おうぜと言わんばかりにスプーンを手に取りさっそく食べ始める。
確かに、うまそうだしな、シチューというが、見た感じはビーフシチューみたいな感じだ。
もちろん肉は牛ではない、この世界にきて12年たつし、いろいろ街を巡ったが、今のところ牛肉って見てことないんだよな。
牛自体はいることはいるが、食肉牛より乳牛が主体となっているように感じだ。
そのほかには大体農耕用だろうな。
ゾーリン村にもいたし、でもその牛を食うということはない、なにせその牛たちは農耕を手伝ってくれる仲間で、その仲間を死んだからって食わないだろ普通。
そんなわけで、牛は食うものじゃないんだよな。
じゃぁ、なんの肉かというと、それは分からない、多分何かの魔物の肉だろうけどな。
まっ、そんなことはどうでもよくさっそく一口食べる俺たち。
「!! う、うめぇぇぇぇ」
「! な、なにこれぇ!!」
「……!!!!!」
な、なんだこれ、なんだこれ、うますぎる。まじで、なんだよこれ。
あまりのうまさに頭の中が大パニックを起こしていた。
そのうまさを表現しろと言われても無理、そもそも食リポなんてできない俺だが、この料理は誰だって無理だろ、とにかくうまい、それしかどうあっても出てこない。
まさか、この世にこんなにうまい飯が存在していようとは思ってもみなかった。
神様もつまらないといっていたが、これを知ればそんなことないと思うだろう。
間違いなく、これ以上のうまさは前世の世界、地球でもめったにお目にかかれないと思う。
それほどの美味であった。
「ふぅ、うまかったぁ」
「ほんと、こんなにおしい物初めてだよ」
「まったくだな」
「気に入ってくれたみたいだな」
そんな俺たちの反応を見て主であるバネッサの父親が嬉しそうにそう言った。
「ああ、こんなうまい物初めて食ったぜ」
「うんうん、すっごいおいしかった、ねっ、スニル」
「ああ、間違いなく世界一だろう」
「そいつはありがとよ」
「というわけで、もう一杯くれ!」
「あっ、あたしも」
「……俺も」
あまりにうまかったので俺たちはそろってお代わりを注文した。
「あいよ。ちょっと待ってな」
こうして俺たちは2杯目のシチューを堪能したのだった。
結構ボリュームがあったんだが、うまさにより2杯目もすぐさま空になってしまった。
「いやぁ、うまかったぁ」
「そうね。ねぇ、スニル、ダンクス、これいいかな」
シュンナが何を言いたいのか俺にはすぐに理解した。
「いいんじゃないか、また食いたいし」
「おっ、いいな」
「んっ、なんのことだ」
俺たちの会話を聞いてた主は首をかしげていたので、説明をすることにした。
「えっと、ここって大鍋で注文とかできます」
「大鍋? 別に構わねぇがどうすんだ?」
主から当然ともいえるセリフが飛び出してきた。
主としては、新たに大鍋で料理を出すことはいいが、たった3人しかいない俺たちがそれをどうするのかが気になったようだ。
「どうするも何も、食うんだよ俺たちでな。ここのシチューはさっきも言った通り俺たちがこれまで食ってきたどんなものよりもうまかったからな。旅の途中でも食えるようにってわけだ」
「それはありがたいが、どうやって運ぶんだ。馬車でもあんのか、っても、それじゃ途中で冷めちまうだろ、あっためんのもそれなりに技術がいるぞ」
「それなら問題ない」
「ええ、スニルの言う通りあたしたちにはこういうものがあって」
シュンナ俺の言葉を受け継ぎ、ダンクスが持つマジックバックを手に取り言った。
「なんだそれ」
「これは、マジックバックといって、どんなものでも入れることができて中に入れたものは時間が停止するっていう魔道具なんですよ。あっ、これ内緒ですよ」
「はっ? いやいや、そんなもんあるわけないだろ」
「ありますって、これ証拠です」
そう言って、シュンナはマジックバックからゾーリン村で作ってもらったスープを取り出して見せた。
それは、まださっき作ったみたいに熱々だった。
「これ作ったの1年近く前なんですよ。それなのにまだ湯気が出てるでしょ」
「あ、ああ、確かにそうだが、いや、ちょっと待てこんなもんどうやって、ああ、そのかばんか、って、まじかよ」
「ええ、まぁ、結構特殊ですから、それで、お願いしていいですか?」
「ああ、もちろんだ」
主も納得して大なべ料理の注文を受けてくれた。
といっても、大鍋も余っているわけではないので、その大鍋もこっちで用意する必要がありその分の金も上乗せした金額となった。
「明日また来てくれ、それまでに仕込んでおく」
「頼んだ」
そうして俺たちは店を出たわけだが、ここで気になっていた疑問を話すことにした。
「まさか、最後にあんなうまいもんがあるとは思わなかったな」
「ホントだよね」
「そうだよなぁ。でもよぉ、なんであの店客がいなかったんだ」
「さぁな」
そう、ダンクスの言う通りさっき言ったあの店、あんなにうまい飯を出すというのになぜか客が俺たちだけだった。
これがもし3時や4時といった中途半端な時間ならいいが、今はまさに昼時、食堂なんかで行けば間違いなく稼ぎ時、そんな時間に客がいない、これはどう考えてもおかしい。
そんな謎を抱えつつ俺たちはいつものように街へと繰り出したのだった。
このエイルード、聞くところによると飯がうまいらしい。
ということでさっそくまずは屋台巡りをすることにした。
「どの屋台にする?」
「そうだなぁ。あれとかうまそうじゃないか」
「あっちもおいしそうじゃない」
「ああ、確かにどうする?」
さっそく屋台をめぐり迷い始める俺たち。
とはいえ、いつまでも迷ってばかりもいられないということで、まずは俺がうまそうだといった屋台へと向かうことにした。
その理由は単純に近い場所にあったからだ。
「おじさん、3つ頂戴♪」
「あいよ」
シュンナとダンクスが屋台へ並び、料理を買ってきてくれた。
俺はというと、近場で場所取りをして待っていた。
「おう、買ってきたぜ」
「ああ、おおぅ、やっぱりうまそうだな」
2人が買ってきたのは豚とトウモロコシを煮込んだスープで、ポソレというものだ。
なんとも豚骨スープみたいないい香りがしたので、興味をひかれたというわけだ。
んで、実際のその味はというと、まさに豚の出汁がうまく出ておりなんとも懐かしさを感じる味となっていた。
「うまいな」
「ほんとね。噂通り」
「ああ、全くだ」
俺たちもこれまでいくつかの街を通ってきたわけだが、そのどんな街の屋台料理よりもうまい。
前世では小食から食というものに興味がない上に好き嫌いも激しかった。そのために食うこと自体が面倒だとも思っていた。
また、今世においての幼少のころ、まぁ2歳からの10年となるわけだが、この間の食事はひどいものだった。
ろくなものも食べさせてもらえず、もはや生きることさえぎりぎりと思える量しかもらえないばかりか味もひどかった。
そのおかげか、今の俺は好き嫌いがなくなったのは皮肉というものだろう。まぁ、それはともかくシュンナとダンクスと出会い、俺の体が小さことからダンクスから食え食えと大量に食わされるものだから、今現在は結構食えるようになり、だんだんと食への興味も出始めている。
そんなわけでこの街に来るのを結構楽しみにしていた俺は、このうまい料理を堪能しつつ、今度はシュンナが興味惹かれた屋台へ並ぶことになる。
といっても、並ぶのは結局シュンナとダンクスなんだけどな。
俺だとほら、財布を持っていないし料理を受け取ったとしても手が小さいから運べないんだよな。
それに、見た目が幼児である俺が並んでシュンナとダンクスのどちらかが待っているという状況も、何かと外聞が悪いからである。
それで待っていると、また2人が料理をもってきた。
「これもうまそうだな」
「おう、食おうぜ、食おうぜ」
「はい、スニル」
2人が持ってきた料理は様々な素材をパンで挟んだサンドウィッチだった。
それを1口。
うまいな。
「へぇ、これもうまいな」
「ほんとにどれもおいしいよね。でも、さすがにもうおなか一杯かな。残念だけど」
「そうか、俺はまだ食えるぜ。スニルはどうだ」
「見ての通り限界だ」
それなりに食えるようになったといっても、さっきのポソレも具沢山で大きな豚肉も大量に入っていた。
その上にサンドウィッチはこれまたそれなりにでかかったために、結構腹いっぱいになった。
「あんだじゃぁ、お前ら休んでろよ。俺はもう少し食ってくるぜ」
「ああ、そうしろ」
俺がそう言ったところで、ダンクスは1人近場の屋台へと繰り出していった。
財布はシュンナが持っていると説明したが、ダンクスも多少なら金を持っている。
そうしないと、色々困るからだ。
尤も、ダンクスの奴は以前盾をいつの間にか買っていたことで、少し持ち金を減らされた。
しかし、屋台で買い食いをするぐらいは持っているので全く問題ない。
それから、ダンクスの奴は3つぐらいの屋台をめぐってから戻ってきた。
「ふぅ、食った食ったぁ。どれもうまかったぜぇ」
「相変わらず、よく食うな」
「ほんと。この街ではうらやましいわ」
まったくだ。
ダンクスほど食えれば、もっとうまい飯を堪能できるというものだろうからな。
「ま、仕方ない。しばらくこの街でうまい飯でも堪能しよう」
「そうね」
というわけで、俺たちはしばらくこのエイルードにとどまり屋台巡りをはじめ、料理屋などを回ってうまい飯というものを楽しもうと思う。
料理もまた文明文化だからな。
翌日宿に泊まった俺たちは、再び屋台巡りとしゃれこんでいた。
「しかし、昨日の晩飯までうまかったな」
「ああ、確かに」
「この街って、おいしくないものなんてないんじゃないの」
「ありうるな」
昨日の夜は宿の食堂で食べたわけだが、これもまたかなりのうまさだった。
なぜ、この街の料理はどれもうまいのか謎だな。
そんなことを思いつつも今日もまた屋台巡りをする。
「今日も屋台か?」
「朝は、屋台にして昼はどっか食堂に入ろう」
「そうね。夜もどっかお店にしましょう」
「だな」
という話し合いをした結果として、朝はまず屋台へ赴くことにした。
「んで、何食う」
「俺は、サンドウィッチにしとくかな。気のとは違う味があるだろうし」
「あたしもそうしようかな。ダンクスは?」
「俺もそうすっかな。とはいえそれじゃ足りないから、あっちも食うか」
そういうわけで、俺とシュンナで昨日とは別のサンドウィッチ屋台へ並び3人分買い、ダンクスは1人別の屋台へ並びに行った。
そうして、朝食を食べた後、俺たちは腹ごなしを兼ねて、街をぶらつきいた。
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エイルードにやって来てあっという間に一か月が経過したわけだが、俺たちはいまだにエイルードにいた。
というのも、やはりこの街の料理はどれをとってもうまい、その結果としてダンクスがすべての店を回りたいと言い出し、俺とシュンナが同意したというわけだ。
そして、この街の屋台をはじめ食堂などを巡って一か月、ようやく今から行く店が最後の店となる。
「ここで最後かぁ」
「まさか、本当に全部回るとは思わなかったよねぇ」
「ホントにな」
全部回りたいとは思っていたが、さすがに全部は無理だろうと思っていた俺たちであったが、結局は全部回ってしまった。
まぁ、そんな感慨深くなっていても仕方ないので、店の中に入る。
「いらっしゃいませー」
店に入ると元気いっぱいの少女が出迎えてくれた。
年のころならまだ一桁ぐらいだと思うが、しっかりしているように見えた。
「あら、かわいい店員さん」
「……き、きれいですぅ……」
元気よく挨拶した少女であったが、シュンナに声をかけられてその姿を見た瞬間から、ぼぅっとし始めてしまった。
「バネッサ客か?」
奥から1人の男が出てきた。見たところこの少女の父親だろうなんとなく似てるし、多分さっきの声で客が来たと思って出てきたと思われる。
「……えっ、あっ、お父さん、う、うん、あっ、ごめんなさい」
父親に声をかけられたことで我に返り、突然ぼぅとしたことを俺たちに誤ってきた。
「ふふっ、気にしないで」
「え、ええと、こちらにどうぞ」
バネッサの案内で俺たちは近場の席に座ったのだった。
「ご注文は?」
「そうね。なにかおすすめあるかな」
「おすすめですか? それならシチューがおすすめです」
前世と違いこの世界の食堂にはメニューというものはない。その理由は単純に識字率の悪さにある。
文字を読めない者が多いために、たとえメニューを置いていたとしても読める奴が少ないから意味がない。
だから、店に入ると常連とかなら決まったものを頼めるが、俺たちみたいに新規の客となると何があるかわからないために、おすすめを聞くのが一般的だ。
そんで、そのおすすめはシチューだそうで、俺たちはそれを注文することにした。
「それじゃ、それを3つお願い」
「あっ、1つは大盛で頼む」
シュンナが全員分注文してから、ダンクスが自分の分は大盛で注文した。
「はーい、1つ大盛ですねぇ」
そういって笑顔を向けてから奥から出てきた父親のところへと向かった。
「お父さん、シチュー3つ、1つは大盛だって」
「おう、待ってろ」
バネッサから注文を受け取った父親はさっそく奥に引っ込み料理を始めた。
そうして、少し待っているとバネッサと父親が並んで料理を持ってきた。
「お待たせしましたぁ」
「こいつが大盛だ。あんただろ」
「おう、待ってたぜぇ」
当たり前のように大盛をダンクスの前に置いたが当然正解だ。
「うわぁ、おいしそう、食べよ」
「ああ、待ちきれないぜ」
「はははっ」
ダンクスは早く食おうぜと言わんばかりにスプーンを手に取りさっそく食べ始める。
確かに、うまそうだしな、シチューというが、見た感じはビーフシチューみたいな感じだ。
もちろん肉は牛ではない、この世界にきて12年たつし、いろいろ街を巡ったが、今のところ牛肉って見てことないんだよな。
牛自体はいることはいるが、食肉牛より乳牛が主体となっているように感じだ。
そのほかには大体農耕用だろうな。
ゾーリン村にもいたし、でもその牛を食うということはない、なにせその牛たちは農耕を手伝ってくれる仲間で、その仲間を死んだからって食わないだろ普通。
そんなわけで、牛は食うものじゃないんだよな。
じゃぁ、なんの肉かというと、それは分からない、多分何かの魔物の肉だろうけどな。
まっ、そんなことはどうでもよくさっそく一口食べる俺たち。
「!! う、うめぇぇぇぇ」
「! な、なにこれぇ!!」
「……!!!!!」
な、なんだこれ、なんだこれ、うますぎる。まじで、なんだよこれ。
あまりのうまさに頭の中が大パニックを起こしていた。
そのうまさを表現しろと言われても無理、そもそも食リポなんてできない俺だが、この料理は誰だって無理だろ、とにかくうまい、それしかどうあっても出てこない。
まさか、この世にこんなにうまい飯が存在していようとは思ってもみなかった。
神様もつまらないといっていたが、これを知ればそんなことないと思うだろう。
間違いなく、これ以上のうまさは前世の世界、地球でもめったにお目にかかれないと思う。
それほどの美味であった。
「ふぅ、うまかったぁ」
「ほんと、こんなにおしい物初めてだよ」
「まったくだな」
「気に入ってくれたみたいだな」
そんな俺たちの反応を見て主であるバネッサの父親が嬉しそうにそう言った。
「ああ、こんなうまい物初めて食ったぜ」
「うんうん、すっごいおいしかった、ねっ、スニル」
「ああ、間違いなく世界一だろう」
「そいつはありがとよ」
「というわけで、もう一杯くれ!」
「あっ、あたしも」
「……俺も」
あまりにうまかったので俺たちはそろってお代わりを注文した。
「あいよ。ちょっと待ってな」
こうして俺たちは2杯目のシチューを堪能したのだった。
結構ボリュームがあったんだが、うまさにより2杯目もすぐさま空になってしまった。
「いやぁ、うまかったぁ」
「そうね。ねぇ、スニル、ダンクス、これいいかな」
シュンナが何を言いたいのか俺にはすぐに理解した。
「いいんじゃないか、また食いたいし」
「おっ、いいな」
「んっ、なんのことだ」
俺たちの会話を聞いてた主は首をかしげていたので、説明をすることにした。
「えっと、ここって大鍋で注文とかできます」
「大鍋? 別に構わねぇがどうすんだ?」
主から当然ともいえるセリフが飛び出してきた。
主としては、新たに大鍋で料理を出すことはいいが、たった3人しかいない俺たちがそれをどうするのかが気になったようだ。
「どうするも何も、食うんだよ俺たちでな。ここのシチューはさっきも言った通り俺たちがこれまで食ってきたどんなものよりもうまかったからな。旅の途中でも食えるようにってわけだ」
「それはありがたいが、どうやって運ぶんだ。馬車でもあんのか、っても、それじゃ途中で冷めちまうだろ、あっためんのもそれなりに技術がいるぞ」
「それなら問題ない」
「ええ、スニルの言う通りあたしたちにはこういうものがあって」
シュンナ俺の言葉を受け継ぎ、ダンクスが持つマジックバックを手に取り言った。
「なんだそれ」
「これは、マジックバックといって、どんなものでも入れることができて中に入れたものは時間が停止するっていう魔道具なんですよ。あっ、これ内緒ですよ」
「はっ? いやいや、そんなもんあるわけないだろ」
「ありますって、これ証拠です」
そう言って、シュンナはマジックバックからゾーリン村で作ってもらったスープを取り出して見せた。
それは、まださっき作ったみたいに熱々だった。
「これ作ったの1年近く前なんですよ。それなのにまだ湯気が出てるでしょ」
「あ、ああ、確かにそうだが、いや、ちょっと待てこんなもんどうやって、ああ、そのかばんか、って、まじかよ」
「ええ、まぁ、結構特殊ですから、それで、お願いしていいですか?」
「ああ、もちろんだ」
主も納得して大なべ料理の注文を受けてくれた。
といっても、大鍋も余っているわけではないので、その大鍋もこっちで用意する必要がありその分の金も上乗せした金額となった。
「明日また来てくれ、それまでに仕込んでおく」
「頼んだ」
そうして俺たちは店を出たわけだが、ここで気になっていた疑問を話すことにした。
「まさか、最後にあんなうまいもんがあるとは思わなかったな」
「ホントだよね」
「そうだよなぁ。でもよぉ、なんであの店客がいなかったんだ」
「さぁな」
そう、ダンクスの言う通りさっき言ったあの店、あんなにうまい飯を出すというのになぜか客が俺たちだけだった。
これがもし3時や4時といった中途半端な時間ならいいが、今はまさに昼時、食堂なんかで行けば間違いなく稼ぎ時、そんな時間に客がいない、これはどう考えてもおかしい。
そんな謎を抱えつつ俺たちはいつものように街へと繰り出したのだった。
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田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
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王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
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そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
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