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第03章 コルマベイント王国

08 西への逃避

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 真夜中の襲撃から何とか王都を脱出した。

「さて、これからどうする」
「……眠い、ふわぁ」
「ほんとね。まだ、真夜中だしね」
「なら、どっかでテント出して一旦寝るか」
「それがいいな」

 というわけで、俺は”収納”からテントを取り出して設置した。

「んじゃ、お休み」
「おう」
「お休み~」

 俺たちはあくびをしながらそれぞれの寝室へと引っ込んだのだった。



 翌朝、少し遅めの起床をした俺は身支度を整えてから部屋を出た。

「あっ、起きた」
「そうみたいだな」
「おはよ。2人はいつ起きたんだ」
「俺はいつもの時間だな。もう習慣になってるからな」
「あたしは、1時間ぐらい前かな」
「どうやら、待たせたみたいだな」
「まっ、いいさ。中身がどうあれ、お前は見た目が幼いんだからな」
「そうそう、ちゃんと寝ないとね」
「それはそうだけどな」
「朝ごはん食べる?」
「ああ、適当に頼む」

 その後、シュンナが持ってきた朝飯を食ってから、今後どうするかの会議をすることにした。

「んで、これからどうするんだ。とりあえず、短かったけれど王都は見ただろ」
「まぁな、だから、一応この国は出ようと思う」
「それがいいでしょうね。あたしのこともあるし、この国にいると下手するとまた襲われるかもしれないし」

 シュンナはそう言った。

「別にシュンナが悪いわけじゃないけどな。でも、確かにあの手際の良さからもたもたとこの国にいたら、また来そうだよな」
「だな。となると、このまま北へ行くか」

 俺たちは王都の北側から脱出したわけだから、街道に出れば北へ進むことになる。

「北かぁ。それもいいけど、この時期だと寒そうなんだよなぁ」
「ああ、確かに北ってここよりも寒いんでしょ」
「だろうな。この大陸は北半球にあるし、ゾーリン村より冷えることを考えると、おそらく北に行けば行くほど寒くなるはずだ」

 ”マップ”は俺が通った場所は詳細に描かれているが、そうじゃない場所は白地図だ。
 それでも、何とか地形はわかり、ここがこの星の北半球にあることは分かる。
 まぁ、北半球といっても配置的にたぶんフィリピンぐらいの位置にあるから、比較的赤道に近いと思う。
 だから、寒いといってもそこまでひどいことにならないんだよな。
 でも、ここから北に行けばわからない。

「それはいやね」
「俺は別に問題ないけどな」
「……だろうな」

 ダンクスは見ての通り分厚い筋肉に覆われているために、発熱しているのかあまり寒さを感じないらしい。
 だから、たとえ北海道のような寒さの場所でも平気な顔していそうだ。
 だが、俺とシュンナは違う、普通にここでも寒さを感じている。

「あたしは寒いのは嫌だから、西に行きましょ」
「賛成だ」
「まぁ、お前らがそうしたいなら俺はどこでもいいぜ」
「なら、決まりだな」

 なぜ西へ行くことになったのかというと、南は来たところだから除外、北は先ほどから言っているように除外した。
 それじゃ東は? となるが、東は東で現在ここコルマペイント王国は、東の隣国カッサリオ公国と交戦中のため行き来が制限されていた。
 というわけで、西に行くしか選択肢がないのであった。

「そんじゃ西ってことで」
「おう」
「ええ」

 そんなわけで、俺たちは西へ向かうこととなった。


 それから、出立の準備を整えてからまずは街道を目指して森の中を歩いていく。

「おっ、街道に出たな」

 森の中を進むことしばし、俺たちはついに街道に出た。
 その街道は、見たところ北東に伸びているように思えた。

「南に行くと、王都に戻っちゃうわけだから、このまま北に行く?」
「そうだな。そのほうがいいか、少し北に行って、どっか街を通って、西に向かうか」
「そうするか」

 というわけで、俺たちはこのまま北への街道を進むことにした。


 そうしててくてくと歩くことしばし、ふいに背後からどたどたガシャガシャとそんな音が響いた。

「なんだ?」
「この音は、鎧だな。騎士か」
「多分ね。なにかあったのかな」
「さぁ」

 そう言って話しているとダンクスの予想通り騎士たちが12人、街道を埋め尽くすように走ってきた。
 そこで、俺たちは街道から外れてやり過ごすこととした。

「んっ、貴様らは……」

 俺たちが街道を外れ騎士たちが通り抜けるのを見ていると、ふいにそう声をかけられた。

「大男と女、それから子供……特徴は一致しているな。お前たちどこから来た」

 俺たちを持た騎士がいきなりそう尋ねてきたのでシュンナが答える。

「王都ですけど」

 相手が騎士ということでシュンナも敬語だ。

「王都だと、そんなはずはない。王都は現在封鎖中だ」
「封鎖? なんでまた」
「役人が5名、宿で殺害されたのが発見されたからだ。その犯人を王都から出さないよう封鎖している」

 役人が殺されるって物騒だな。んっ、5名? それってまさか。
 シュンナとダンクスを見ると2人も俺と同じ結論に達したようで嘆息している。

「それはまた。それで、あたしたちにどんな用件ですか?」
「とぼけるな。犯人の特徴は宿の主がしっかりと見ている。大男に女、そして子供の3人組だとな」
「確かに、それは俺たちの特徴と同じだな」
「でも、それだけであたしたちってことはないんじゃ」
「ほかにあるものか、さぁ、おとなしく我々と来てもらおうか」

 有無を言わさぬ感じで全員が抜剣して剣先を俺たちに向けてきた。

「どうする?」
「どうしよっか」
「面倒だな」

 ダンクスがどうするか聞き、シュンナが悩むなか俺は心底面倒だと思っていた。

「とりあえず、逃げるか」
「それがよさそうね」
「だな」

 俺の提案に2人が乗ったことで、さっそく行動開始。
 というわけで、まず俺は水魔法の”ミスト”を周囲に展開した。
 この”ミスト”は文字通り霧を発生させる魔法で、魔力を多く籠めればその分広範囲に及ぼすことができる。
 それを、半径50mほどの範囲にして発動。
 その瞬間あたり一帯を埋め尽くすような霧が発生した。

「なっ、”ミスト”だと、いつの間に! ええい、払え!」
「はっ、風よ……」

 騎士の1人が風魔法で霧を晴らそうとするが、詠唱をしなければならず、その間に俺たちはすでにその場から逃げていた。

 それから少しして、あたりを包んでいた霧が払われた。

「くっ、逃がしたか、追え、まだ遠くには行っていないはずだ」
「はっ」

 そうして、騎士たちは俺たちを追い、方々に散っていった。

「何とかなったみたいだな」
「ああ、でもまさか騎士が追ってくるとは」
「ちょっと予想外よね」

 俺たちは遠くに逃げたと見せかけて、実は結構近くで”霧散”を使い騎士たちの様子を眺めていた。

「どうするんだ?」

 こういう時どうすればいいのかわからない俺は、シュンナとダンクスにこれからどうするのか尋ねた。

「このまま西に向かうしかないだろうな」
「少し面倒だけど、なるべく人目をさけて行動するのがよさそうね」
「それがいいか、どうやらこれを身に着けてても俺たちは目立つみたいだしな」
「だな。顔は隠せても俺の図体は隠せねぇしな」
「俺が子供ってのもな」

 たとえフード付きマントを身に着けていたとしても、これはあくまで顔を隠すためのもので体格までは隠せない。
 それは、ダンクスの巨体はもちろん俺の小さな体もだ。
 一方、シュンナだけはしっかりとマントで覆えば、隠せるのではと思うかもしれないが、それは難しい。
 というのも、シュンナの胸はかなり大きく、いくらマントで覆い隠そうと隠れないからだ。
 だからといって、それらを隠すようなものはいくら俺でも作れない。
 そもそも”認識疎外”とは、認識ができなくなるようにする魔法で、この魔法が発動するためには対象の座標が一定であることが条件となっている。
 つまり、顔については表情などの変化はあれど、基本動き回るものではないフード内とすれば(相対)座標は変わらない。
 一方、体はというとそうはいかない、歩けば手足は大きく動くし時にはマントからはみ出ることもある。
 というかマントだと足は隠せないしな。
 だったら、体全体を指定すればいいのではとなるわけだが、これも無理だ。
 なにせ、”認識疎外”で設定できる座標は小さく、顔がせいぜいだからだ。
 また、ほかの魔法でもそういったことができるものはなく、俺でもそういった魔法を作ることはできない。
 というわけで、そういった魔道具を作ることができないというわけだ。

 閑話休題。

「とりあえずこいつはこのままで、街道をはずれつつ西に向かうしかないだろうな」
「そうね。スニルの”探知”もあることだし、怪しい集団が来たらわかるでしょ」
「だな」

 ということで、俺たちはこのまま街道をはずれつつ、”マップ”に従い西へと向かって歩き出したのだった。


 それからしばらくして、俺たちは街道を外れ森の中を歩いていた。

「それにしても、まさか騎士が出張ってくるとは思わなかったぜ」
「そうよね。それに、あの連中を役人なんて言って、どう考えても違うでしょ」
「だよな。どう見ても裏稼業の連中だろ」
「いや、おそらくだがあの連中は騎士だ」

 俺とシュンナの予想の半面、ダンクスはあの連中を騎士だと断じた。

「騎士? どういうこと」

 シュンナが聞いたが俺も同意見だ。
 騎士とは先ほどの連中のように鎧に身を包み国のため、街のために敵と戦う存在であり戦うなら正面から堂々とが戦うものだと思っている。
 実際元騎士であるダンクスの戦い方がそんな感じだからだ。
 でも、昨日の連中はどう考えても真逆、こそこそと隠れて俺とダンクスを殺害、シュンナを拉致しようとしていた。果たしてそんな奴らが騎士なのだろうか、疑問が尽きない。

「俺も騎士時代に噂程度で聞いたことがあってな。なんでも王都に詰めてる王国騎士団の中にはそういった隠密を得意とした部隊が存在しているという話でな、んで、そいつらは普段は一般の騎士らしい」
「なるほどね。だとすると、その噂は本当だったのかもね」
「だろうな。だからこそ騎士たちがこうして出張ってきたってわけだろ」
「仲間を殺された恨みってわけか」
「厄介だな」
「ホントにな」

 嘆息しつつ再び森の中を歩き続ける俺たちだった。




▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



 3日経った。
 街道は騎士や兵士たちがひしめき合いながら俺たちを探しているようなので、俺たちはひたすらに身を隠しながら森の中をかなりゆっくりと歩いていた。
 おかげで、街を1つ分通り越すのにここまでかかってしまったよ。

 通り越したと表現したが、俺たちは街の中には入っていない。
 というのも、俺たちは騎士や兵士に追われる身となっているらしく、ダンクス曰くすでに王都をはじめ多くの街に俺たちの手配書が出回っている可能性が高い。
 それも、騎士たちが言っていたように役人殺害の容疑でだ。
 そのため、街に入ろうものなら門番に見つかりその場で即逮捕されてしまう。
 そんな面倒ごとになるなら、あの時あの連中を殺さなければよかったと後悔したくなるが、それも詮無きせんなきこと。
 終わってしまったことは仕方ない。

 もし、俺たちが普通の逃亡者なら何としても街に入ろうとしただろう。
 というのも、何度も言うようにこの世界の街の外というのは、魔物や盗賊などが闊歩している世界だ。
 そんな場所で夜営をすれば、当然そういったものたちを警戒し交代で見張る必要がある。
 しかも、そこに追跡者も加わっての警戒となるために気の休まるときがない。
 それじゃストレスなどで体を壊すことは必定だろう。
 また、食事にしてもそうだ。普通なら簡単な干し肉など保存食で済ますことになり、栄養も足りないしなにより味気なさすぎる。

 それに対して、俺たちはというと夜は俺が空間魔法を駆使して改造し、結界魔法で保護しているテントのため見張りの必要もなくぐっすりとベッドで快適に寝ることが可能だ。
 というより、この世界の基準でいうとどんな高級宿よりも快適だと思う、なにせ、それぞれの個室があり風呂トレイも完備しているんだからな。
 また食事だって”収納”に入っているゾーリン村の女性たちが作ってくれたものがまだ大量にあり、いつでも作り立てを食べることが可能だ。
 そんなわけで、俺たちはわざわざ街へ行く必要自体がないんだよな。

 まぁ、それでも森の中を隠れながら進むってのはそれなりに疲れる。
 特に俺なんだけど、いくらカリブリンから王都まで歩き続けたといっても俺の体は幼く小さい、そんな体で森の中を歩くのは思っている以上につらいものがあるんだよな。
 そんなわけで、休み休み動いているのも時間がかかる要因となっている。


「ふぅ、やっぱり森の中は歩きにくいな」
「こればっかりは慣れるしかないからな」
「スニルの場合歩幅も小さいし、倒木をよけるのも一苦労よね」
「全くだよ。街道のありがたさをかみしめてるよ」
「それは同感だ」

 そんなのんきな会話ができているのも、ひとえに俺のテントと”収納”のおかげだろう。

「おっと待った」

 ここでダンクスが俺たちの前に手を出して制止した。

「今度は兵士か」
「みたいだな。こっち来るぞ」
「……」

 俺たちは”霧散”で身を隠した。

「なぁ、こんなところ探して意味あんのか?」
「知らねぇよ。命令なんだから仕方ないだろ」
「でもよ。あれから3日経ってるんだろ。だったらもうこの辺りにはいないんじゃないか」
「かもな。でも、連中の中には子供が混じってるっていうしな。子供の足だとこの辺りでもおかしくないだろ」
「ああ、そうか」

 会話の内容から多分俺たちを探しているようだ。

「でもよ、男はかなりでかいっていうし、こんなところにいたら目立つだろ」
「だな」
「というわけで、ここはいないってことでいいな」
「そうしよう」

 そう言いながら兵士たちはこの場を去っていった。
 まさか目と鼻の先に目的の俺たちがいるとも知らずにな。

「俺たちも行くか」
「そうね」

 というわけで、俺たちは再び歩き出した。
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