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第03章 コルマベイント王国

07 真夜中の客

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 王都に到着したその日の夜、俺はぐっすりと眠りこけていた。

「スニル、起きろ」

 気持ちよく眠っていると、突然起こされた。

「……んっ、んぁ、あんだ」

 若干寝ぼけながら返事をしたのは仕方ない、いくら中身がおっさんでも肉体は12歳、いや肉体年齢だけを考えればもっと幼い俺は体力がないからだ。
 それはいいとして、一体なんだこんな時間に。

「客だ」
「客ぅー、こんな時間にか? ふわぁ」

 俺は前世から寝起きはいいほうで起き抜けには頭がはっきりしている。
 客といっても、こちらに友好的な客では当然なく襲撃者のことだ。
 というわけで、客が何かを考えつつも探知魔法を発動。

「数は?」

 シュンナが聞いてきた。

「5人だな。窓に2人、扉に3人、あっ、いや、離れたところにもう1人、宿の主かな」
「なるほど、主の手引きってわけか」
「狙いは、あたしかな」
「多分な。ふわぁ」

 起きたといってもまだ眠い俺は、何度目になるかのあくびをしながら答える。

「さっさと片づけるか」
「それがよさそうね」

 あくびをする俺を見ながらシュンナとダンクスがそんな会話をしているわけだが、こっちから行くわけにもいかないので早く終わるかは向こう次第なんだよな。

 さて、どう出るか。
 俺がそう考えつつ”収納”から刀を取り出し腰に差したとこで、突如窓から2人、黒づくめの怪しい奴らが飛び込んできた。

「! ガッ」

 しかし待ち構えていたダンクスによってあっという間に床に沈むこととなった。
 同時に扉からも襲撃者、しかしこちらも俺とシュンナによってすぐさま倒れた。

「あっけなかったな」
「そりゃぁ、あたしたちに5人じゃね」
「だからといって、大量に来ても今度は奴らの身動きが取れなくなるだろうけどな」
「違いない」
「ふふっ、そうね」

 俺たちは床に転がる5人を見下ろしながら、狭い空間にすし詰め状態となった黒づくめの連中を考え笑いあった。

「さて、馬鹿な話はこのぐらいにして事情を聴かないとな」
「それもそうね。あたし、ちょっと行ってくる」

 そう言ってシュンナが寝間着姿のまま部屋の外に出ていった。
 まぁ、寝ていたんだから寝間着姿のままなのは当たり前で俺とダンクスもまた寝間着姿だ。

「連れてきたわよ」
「ヒィッ、お、お許しを、お許しを~」

 シュンナが連れてきたのは宿の主、主は床に転がっている連中を見た後、悲鳴を上げながら許しを乞うてきた。

「許すも何も、こいつらを手引きたのはお前だろ。説明してもらおうか、こいつらが何者でなんの目的でここに来たのかをな」

 ダンクスがその強面を利用して宿屋の主に尋問すると、主はもはや真っ青な顔をしてしどろもどっろになりながら説明を始めた。

 それによると、どうやらやはり狙いはシュンナだった。シュンナを手に入れて国王に差し出す算段だったようだ。
 これについては思った通りだったこともあり、俺たちは特に驚くことはなかった。
 しかし、問題はなぜ俺たちを狙ったかだ。
 というのも、俺たちはあれ以来ずっと認識疎外のフード付きマントを身に着けていた。
 それは当然宿に来た時もだし、食事の時も外していない。
 まぁ、ずっと顔を見せない3人組ということでかなり怪しかった自信はあるが、しかし、どう考えてもおかしいだろ、顔を隠していたシュンナをどうして絶世の美少女だと知ったのかということだ。
 この街でシュンナのそれを確認できたのは、門をくぐってから屋台のおばちゃんに絡まれるまでのわずかな時間のみだったはずだ。
 どういうことかと聞いてみると、なんでもこの主には家族や親せきの多くがこの街で仕事をしている。
 門の近くで屋台を出しているもの、俺たちが寄った服屋で働いているもの、それ以外にも俺たちが立ち寄ったいくつかの場所にもいたそうだ。
 道理で、誰かに後をつけられた覚えもないはずだ。行く先々でそういった連絡を取り合っていたらしい。
 そして、何より俺たちにこの宿を勧めるように仕向けたのもその誰かだった。
 つまり、俺たちはいくら顔を隠したとしてもまんまと罠にはまったようなものだった。
 その過程で、俺たちが旅人であることを知ったこいつらは、この宿にいるということなどを含めて王城に伝えたという。

「なんとも巧妙な罠だったな」
「そうね」
「でもま、街中に家族や親戚が多くいるってのは、よくある話だしな」
「そうなのよね」

 地球なら生まれ育った町を離れて別の街で過ごすなんてことはよくあることだが、この世界では基本生まれ育った街に一生住み続けるなんてことはよくある話だ。
 なにせ、外には魔物が闊歩しているんだからな。
 そんな危険を冒して街を出るなんて言うのは、俺たちみたいな旅人か冒険者ぐらいなものだ。
 商人ですら、仕入れや行商でない限り生まれ育った町を出ることはほぼないみたいだ。

「それで、どうするんだこいつ」
「お助けを、お助けを~」

 宿の主は必死だが、ここまで迷惑をかけられてはいそうですかとはならない。
 かといって、襲撃者たちと違いこいつまで殺す必要はない。
 さて、どうしたものか。

「とりあえず、宿代は返してもらおう」
「だな」
「も、も、もちろんでございます」
「迷惑料も込みでな」
「そうね」
「あとはそうだなぁ、ああ、地味な呪いでもかけておくか」
「なんだそれは?」

 思い付きで地味な呪いをかけてやろうというとダンクスが何だと聞いてきた。

「そうだなぁ。例えば毎日毎朝机の角で小指をぶつけるとか?」

 俺が言うとダンクスとシュンナがものすごく嫌そうな顔をした。

「そ、それは……」
「……地味に来るわね。それ」

 俺が思いついた理由は、前世の漫画かアニメでそんな呪いをかけようとしたキャラがいたのを、なんとなくで思い出したからだ。

「さすがにずっとはきついからなぁ。ひと月ぐらいにしておくか」
「ひぃ、おやめください~」

 主も想像したのか青い顔で懇願してくるが、そんなこと俺が知るか、こんな時間にたたき起こされて、眠いんだよ。
 子供は寝る間に育つんだぞ、俺が育たなかったらどうしてくれるんだよ。

 眠気から若干機嫌が悪い俺は、止める主を無視して魔法を行使した。

「うし、これでいいな」
「ほんとにやったのか」
「ああ」
「スニルを怒らせないほうがよさそうね」
「だな」

 別に怒ってないんだけどな。

「まぁ、それはともかくとして、この後は?」
「お金を返してもらったら、街を出ましょう、門は閉まってると思うけど、乗り越えれば可能でしょ」
「それがよさそうだな。こいつらがどこのどいつかはわからねぇが、いても面倒になりそうだ」
「まぁ、大方見当はつくけど、だからこそ面倒だな」
「そうね」

 襲撃者たちを誰が送ってきたのかは想像できる。
 おそらくは国王だろ。多分な。
 主たちからシュンナがここにいると聞いて、拉致るつもりだったってとこだろう。
 というのも、俺たちが街の住人なら普通に役人を送り金を積んで妾にすればいい。
 しかし、俺たちは身分証を持たないただの旅人、残念ながら妾にはできない。
 それはそうだろう、妾といっても一応王城内ではそれなりに力が与えられるわけだからある程度身分のしっかりした奴じゃないとできない。
 だからといってシュンナほどの絶世の美少女は手に入れたい、そう考えた国王の策として拉致して監禁でもすれば誰に見られることもなく楽しむことができるからな。

「それにしても、話を聞いてその日にすぐってのは早すぎないか」
「確かにそうだが、でもよ考えてみれば俺たちは旅人だからな、奴さんも急ぎたかったんじゃないか。それにこいつらの手並みから見ても慣れてる感じだ」
「つまり、これまでも何度かやってるってことね」
「最悪だな」
「全くな」
「ほんとね」

 ここコルマベイント王国の国王は賢王であるという話を王都内で聞いた。
 確かに、政治など統治を見るとそうなのかもしれないが、そこに女が絡んでくると途端に最悪な王へと変貌するらしい。
 情報が入ったその日の夜に襲撃を仕掛ける上に、こいつらの手並みからこうやって旅人なんかを拉致るなんてことはよくやってるんだろう。
 おそらくだが、これまでも何人か同じように襲撃している可能性がある。
 そして、その想像が正しければ国王は妻のほかに妾と奴隷、それ以外にも女を持っている可能性が出てきた。

 そんなわけで、俺たちは宿の主をせっついて宿代と迷惑料をもらった後、王都を出るために防壁へと向かっていった。


「それで、どこから出るんだ」

 防壁へ向かっている最中ダンクスが聞いてきた。

「そうだなぁ。”探知”によると、北側のスラム街奥がよさそうだな」

 宿を出たところで”探知”を広範囲で展開したところ、王都の北側にあるスラム街側の防壁には兵士の数が少ないことが分かった。

 というわけで、俺たちは認識疎外を付与しているフード付きマントを身に着けてスラム街へと向かった。


 真夜中のスラム街は真っ暗だが、周囲に多くの気配があるようで、ダンクスとシュンナはあたりを警戒しながら歩いている。
 まぁ、俺も多少ながら気配は分かる。なんていうか、肌で感じるというか、音が聞こえるというか、よくわからないが、人がいるんじゃないかという気がするんだ。
 それを2人に話したら、俺が感じる気配の主は気配の消し方も知らない素人だけで、俺が思っている以上に多くの人間がこの辺りにいるらしい。
 そう言われたので試しに”探知”を使ってみたら、確かにかなりの数が俺たちの近くに集まっているようだ。

「結構いるな」
「だろ」
「まぁ、向こうも様子見てるだけみたいだし、大丈夫でしょ」
「だといいけど」

 これがちょっとしたフラグだったのだろうか、スラム街を程よく奥までやってきたころのことだった。

「なにか用か?」

 何もないところから突如人がぬらっと現れて、俺は思わずびっくりした。
 といっても、俺は驚いても特に声を出すタイプではないために、ちょっとビクってなっただけだけどな。

「お前らには用はねぇよ。ただ通りたいだけだ」

 いつもならシュンナが答えるところだが、相手がスラム街に住む無頼ということでダンクスが答えた。

「外か?」
「そんなところだ」

 短いやり取りだったがそれで通じたようで、声をかけてきた男は納得した。

「そうか、だが、これ以上この先に通すわけにはいかない。死んでもらう」

 どうやら、俺たちが通っている場所はこいつらにとっては都合の悪い場所だったらしく、いきなり周囲から複数の連中が出てきて襲ってきた。
 もちろん、シュンナとダンクスは分かっていたし、俺自身は”探知”で把握していたのでその攻撃をすべてよけたり結界で防いだことで事なきを得た。

「いきなりだな」
「なっ!!」

 俺たちがすべての攻撃を防ぎきるとは思っていなかったのか、最初に声をかけてきた男は驚愕している。

「さて、通してくれるか、俺たちはさっきも言ったようにお前らとことを構えり気はねぇ」

 実際俺たちは襲撃者たちを気絶はさせても殺してはいない。

「はっ、どうやら俺たちの負けだ。ていうか俺たちじゃこいつらを止められねぇ。いいぜ、通りな。ただし、こっちで案内させてもらうぜ」

 これまたいつのまにか男の隣に、もう1人男が立っていてそういった。
 誰かは分からないが、声をかけてきた男の様子から見て奴のリーダー格ってとこか。

「まぁ、それでいいぜ。俺たちはこの街を出れればいいからな」

 こうして、俺たちは最初に現れた男の案内で防壁のところへやっていた。

「ここまでだ。さっさと行きな」

 そう言って男は去っていった。……と見せかけて少し離れた場所からこっちを見ているのが”探知”で確認できた。

「どうする、スニル」
「前の時は屋根に上って確認したんだけど、この辺りじゃ屋根に上ったところで確認できそうもないからな。”探知”で確認してから合図して”浮遊”をかけるから防壁の上まで飛んでくれ」
「おう」
「わかったわ」

 ”浮遊”という魔法は、文字通りものを浮かせる魔法だが、メティスルを持つ俺でも少しだけしか浮かすことができない。
 といっても、ジャンプする際にこれを使うと普段より高く飛ぶことができる。
 それを利用して防壁まで飛び上がってしまおうというわけだ。
 この方法がとれるのは、やはり俺もそうだが2人とも高い身体能力を持つが故のことだろう。

「よし、いまだ”浮遊”」

 ”探知”で確認して、見張りの目が届かないタイミングを見計らって、合図をしつつ”浮遊”の魔法を俺たち自身にかける。
 すると、シュンナとダンクスはあっという間に飛び上がり防壁まで上ると、そのまま駆け抜け飛び降りた。
 もちろん、俺もただ見ているだけじゃなく同時に”身体強化”で飛び上がり、素早く防壁の上を駆け抜けて、飛び降り着地した。

「うぉっと、何とかなったな」
「だな」
「ふぅ、そうだね」

 こうして、俺たちは何とか襲撃から身をかわし、王都を脱出したのだった。
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