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第03章 コルマベイント王国

06 国王の悪癖

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 俺たちはようやっと王都へと到着した。
 王都でもいつものやり取りをした後、街に入ったわけだがとにかくでかいな。
 門をくぐると目の前に城が見えるんだけど、まさに豪華絢爛でありでかい。
 いかに、この国が栄えていることがわかる気がする。
 といっても、文明自体はやはりほかの街と同じく中世ぐらいだな。
 まぁ、それはともかくやはり王都だけあって街中は活気にあふれてるな。
 今日が年末ってこともあるのかと思ったが、よくよく考えたらこの国って年末とか年始とかってないんだよな。
 俺も12年生きてきてそんな話聞いたこともないし、シュンナとダンクスにも聞いたがそんなもの存在しないらしい。
 というわけで、年末にもかかわらずいつもの日常ってわけだ。
 まぁ、日本でも地方から東京に出てきたやつが、今日は祭りかと勘違いするほどに人が多いからな。
 そういうところは異世界でも変わらないんだろ。

「あっ、ちょっとあたしあそこ行ってくる。待ってて」

 お上りさんのごとくきょろきょろしていると、シュンナがそう言って屋台へ駆け出した。
 って、考えてみたら俺たちは完全に地方からのお上りさんだったな。
 とまぁ、そんなことを考えていると、シュンナがとつぜん屋台のおばさんに絡まれた。

「ちょっと、あんた何してんだい、こっち来な」
「えっ、あたし? ちょっと、なに?」
「んっ、どうしたんだ」
「さぁ」

 特に害があるわけでもないために、俺たちは様子を見ることにした。

「あんたみたいな若くてきれいな娘が、こんな顔を出してちゃ危ないよ。ほら、これ貸してあげるからさっさと顔を隠しな」

 そう言って、屋台のおばさんが布をシュンナの顔に撒いていく。
 なんだろうか、この街では女は顔を出してはいけないのか?
 そう思ったが、違うらしく周囲を見たらみんな顔を出して歩いている。
 いや、一部隠しているのもいるな。
 どういうことだろうか。なぞだ。

「え、えと、どういうこと?」

 シュンナもよくわからないようで、なすがままになりつつも質問している。

「あんた、もしかして王都は初めてかい」
「う、うんそうだけど」
「じゃぁ、よく覚えておきな。王都では若い女は顔を出しちゃいけないよ。そうしないと王城に連れていかれちまうからね」
「王城に? どういうこと?」

 ほんとどういうことだ、なんで顔を出すと城に連れていかれんだ。

「いいかい……」

 それから、おばさんの説明によると、この国の現国王はまさしく賢王で多く親しまれているという。
 しかし、同時にとんでもない女好きでもあるそうだ。
 それを証明するようになんと妃の数が10人、妾が8人で女性の奴隷を6人と聞いていて絶句するほどの数だ。
 しかも、年々増えていっているらしい。
 とんでもないな。男としてはうらやむことな気がするが、ちょっとこの数は引く。
 ていうか、その王は女というものをなんだと思っているんだろうな。
 現代日本でそんなことやってるやつがいたら一気にたたかれるぞ。
 んで、問題はこれだけの数がいても、いい女がいればすぐにでも手に入れようとするということだろう。
 それが貴族の令嬢であれば妃として迎え、平民であれば妾としてというわけだ。
 それで、王都のオークションに必ず参加し気に入った奴隷はすぐに買うそうだ。
 そう考えると、もしかしてシュンナって危なかったんじゃないか。
 シュンナは借金奴隷として王都でオークションにかけられることになっていたはずだ。
 つまり、あのまま行けば、シュンナは今頃国王の奴隷コレクションに仲間入りしていたってことだな。
 シュンナもそれに気が付いたようで顔を青くしながら慌てて顔を隠した。

「……そういうわけだから、気を付けるんだよ」
「え、ええ、ありがと」

 シュンナはお礼を言ってからこっちに戻ってきた。

「……危なかったな」
「う、うん」
「まぁ、とりあえず今はそいつでかくしておけ」
「そうする、聞けば妾の子たちって街で見つけた子らしいから」

 シュンナが聞いた追加情報によると、国王に覚えめでたくなろうと街中にいる商人などが街を歩く女性たちをチェックしており、めぼしい娘を見つけるとすぐに王城へ知らせに行くらしい。
 あれっ、そうなると手遅れじゃないか、俺たち王都に入ってから通りをそれなりに歩いちまったぞ。
 でも、さすがにこの距離はないか、そんなことを考えつつ俺たちは歩き出した。

「それにしても、それ目立つよな」

 俺はシュンナを見ていった。
 というのも、シュンナは布を顔だけを隠している状態だからな。
 これじゃ、明らかに顔を隠しているのがバレバレだな。

「確かにな」
「そうはいっても、ほかに方法はないわよ」
「ああ、そうだな。ああ、そうだ、だったらまず服屋行こうぜ」

 俺はあることを思いつき服屋に行こうと誘った。

「服屋?」
「ああ、顔だけを隠すから目立つんだよ。だから全体を隠すようにすればいいんじゃないか」
「それはそうだけど、ああ、もしかしてフード付きマント」
「そういうこと」
「でも、あれって確かに隠れるけど顔は見えんだろ」
「そこはほれ、俺が魔道具にしてしまえばいいんだよ」

 俺が考えたのは、旅人の旅装としてもおかしくないフードが付いたマントだ。
 これに認識疎外の魔法式をつけることで、見えているのに見えていないということにしてしまうつもりだ。

 そんなわけで、近くにあった服屋に足を運び、適当なフード付きマントを3種類買った。
 そう、俺とダンクスの分も買ったわけだ。

「なんで2人も?」
「木を隠すなら森の中って言葉があってな、シュンナ1人がフード付きマントを身に着けてもこれは目立つ、だから俺たちも身につけることによって、目立たなくするためだよ」
「ああ、そういうことね」
「確かに街中でも木が一本だけあったら目立つが、森の中ならどれかわからねぇな」
「そういうこと、というわけで、さっそくこれをここに着けてっと、よし、これでおっけ」

 俺は手早く身に着けたフード付きマントの首元にあった留め具に、認識疎外の魔法式を刻んだ魔石をはめ込んだ。

「どうだ」
「すげぇ」
「スニルの顔が見えない、いえ、見えているはずなのにわからない」

 2人の反応からどうやらうまくいったようだ。
 というわけで、さっそく2人にも同じく留め具に魔石をはめ込んだ。

「あれスニル、シュンナの失敗してねぇか、ていうかお前も見えてるぞ」

 ダンクスがそんなことを言ってきた。

「えっ、あっ、ほんとだ。2人とも顔が分かるわよ」
「そりゃぁ、そうだよ。俺たちが認識できなかったらどうしようもないだろ、だからこれを身に着けた者同士なら認識できるようにしてあるんだよ」
「ああ、そういうことか」
「いわれてみればそうよね。あたしたちがお互いを認識できなきゃ意味ないものね」
「そういうこと」

 こうして俺たちはいつもの恰好からフード付きマントを身に着けた3人組となった。
 この格好は逆に目立つんじゃないかと思うかもしれないが、さすが異世界それなりにいるために特に目立つことはない。

「そういえば、さっき聞こえたけど今日って広場で公開処刑が行われてるらしいぞ」
「それはまた物騒だな」
「一体何をやらかしたの?」
「なんでも、国王を怒らせたらしい」
「それはまた、馬鹿なことをしたな」

 特に興味もなかったが、話の流れ的に少しだけ覗いてみるかということになった。


 そしてやってきた広場、確かに公開処刑が行われたらしいが俺たちは絶句した。
 それはそうだろう、この国の処刑方法は絞首刑でそこは勝手にやってくれって感じだが、問題はつるされている者たちだ。

「なぁ、俺には普通の家族に見えるんだが……」
「あたしにもよ。かわいそうに」
「……」

 2人がこんな会話する理由は、罪人がどこにでもいそうな12・3歳ぐらいの少女とその親と思われる男女だからだ。
 そして、その足元を見ると絶望に打ちひしがれた青年がいた。

「おい聞いたか……」

 俺が絶句していると、ふいに周囲の奴らの会話が聞こえてきた。
 それによると、罪人はあの絶望した青年でつるされているのはその親と妹だそうだ。
 なぜ、家族がと思ったらこれは相当な怒りを買ったかららしい。
 あの青年は王城の庭師で、その職場においてある女性と恋に落ちたという。
 その女性が青年と同じく王城内で働く人物であれば全く問題はなかったんだが、あろうことか国王の妾だった。
 その妾、年のころならまだ十代の少女だそうだがほぼ無理矢理妾にされていたという、そんな少女が庭で癒されているときに出会ったのがあの青年だった。
 そして、逢瀬を重ねていたという。
 これが、ばれなければよかったんだがついに先日ばれてしまった。
 これを知った国王は、まさに我を忘れるほどの怒りによって命じた。
 青年とその家族をすべて処刑せよと……。
 青年に対しての怒りは分かる。仮にも国王の女に手を出したんだからな、処刑されても文句ひとつ言えねぇよ。
 それがたとえ無理矢理妾にされた少女だったとしてもだ。
 もちろん少女には同情を禁じ得ないが、こればかりは仕方ないそういうのが許される権力を持ち、許される国なんだからな。運がなかったと思うしかないだろう。
 でも、だからといってその家族は両親ならともかく幼い妹まではないだろ。
 どう考えてもやりすぎだ。たとえ相当な怒りを覚えたからといって一国の主がすることじゃないよな。
 でもま、これは口が裂けても言えないのがこの世界この時代の現状だな。
 現代日本とは違うということをまざまざと見せつけられた事件だな。

「……それは、また、やっちまったな。でもよ、いくら何でも……」

 やりすぎだといいたいのだろうが、それはさすがに言えないようだ。

「俺もそう思う。でもよ。なんでも時期が悪かったって王城に努めてる弟が言ってたぜ」
「時期? どういうことだ」

 事情に詳しい奴がいるなと思ったら、身内が王城に努めているらしい。
 んで、そいつのさらなる説明によると、なんでも今から2・3か月前ぐらいに、王国の南部において掘り出し物が見つかり、そのオークションが王都で行われるのを国王は楽しみにしていたそうだ。

「掘り出し物? 一体何だったんだ」
「さぁ、さすがにそこまでは分からないらしい、けどよ。なんでもそれが何らかのトラブルで王都に入ってこなかったみたいだぜ」
「へぇ、ああ、それで機嫌が悪かったってことか」
「みたいだな」
「そ、それは時期が悪かったな」
「全くだ」

 という会話が聞こえてきたわけだが、同時に俺たちの背中には冷や汗が流れた。

「……な、なぁ、今の話……」
「なんか、嫌な予感がするぜ」
「あ、あたしも」

 今から2・3か月前、王国南部、女好きの国王が楽しみにしていたもの。
 それらの情報から考えるに、それってシュンナのことじゃないかと思うんだよな。
 シュンナは王国南部出身であり、その地で4か月ほど前に借金奴隷となりここ王都でオークションにかけられる予定となっていた。
 そして、奴隷というものは法律でものとして扱われるから、掘り出し物と表現していても全く問題ない。
 時期などが一致するし多分間違いないだろう。

「……あまり長居しないほうがよさそうな気がするのは俺だけか?」

 俺は思わずそうつぶやいた。

「同感だ」
「う、うん」

 俺のつぶやきにシュンナとダンクスが同意した。
 このまま王都にいたら下手したらシュンナが見つかり、面倒なことになることは必至だからだ。
 なにぜ、シュンナは絶世の美少女でありスタイルも抜群ときてるからな。
 まさに触らぬ神にたたりなしだな。
 とはいえ今現在はすでに夕方、今から王都を出るにしても遅いし、何よりまだ王都をほとんど見ていない。

「今日はこのまま見て回るとして、明日王都を出るか」
「それがいいだろうな」
「そ、そうね」

 そんなわけで、俺たちは明日王都を早々に出発することにした。


 その後俺たちは一旦気を取り直して、王都を見て回ることにした。
 そうしてから広場から少し離れた場所にある宿をとり、その日は眠りについたのだった。

 ちなみに、これは人づてに聞いたことだが、あの青年はあの後すぐにつるされたようだ。
 知らないやつだし、馬鹿なことをして家族を巻き込んだ野郎だが来世で幸あることを祈ろう。……合掌。
 それと、妾の少女についてだがこれは誰も知らないらしい、噂では国王自ら斬ったという話があるらしい。
 となると、その妾もまた来世で幸あり、または望むのなら青年とともにいられる人生となれることを祈っておこう、もしかしたら望めばこの世界の神様ならその通りにしてくれるかもしれないしな。
 神様とあったのはほんの数分程度だと思うけど、それでもそんな気がするんだよな。

 改めて、青年と巻き込まれたその家族、そして妾にされた少女の来世に幸あれ!
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