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第03章 コルマベイント王国
05 王都に到着
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クラーブンにおいて出くわしたシュンナのかつての仲間たち、しかし翌日彼女たちは帰らぬ人となっていた。
しかも、それを看取ったのがリックたちであった。
そこで、話を聞くとどうやら、リックの仲間であるレントが絡んだことで、3人はブラッドベアの討伐依頼を受けてしまった。
しかし、シュンナのいない3人では当然ブラッドベアの討伐はかなわず重症、リックたちが偶然近くにいたために急いで街まで運んだがあえなく命を落とした。
その瞬間に俺たちは門へとたどり着いたというわけだ。
横目でシュンナを見ると固まったまま動けなくなってしまっていたために、ダンクスが代わりにリックたちに事情を聴いたうえで金貨3枚を渡して、彼女たちの供養を頼んだのだった。
そうして、街を出てしばらくしたところで、シュンナは言葉を紡ぎだした。
それは、恨みの言葉ではなく悲しみの言葉だった。
シュンナにとって、3人はかけがえのない仲間、確かに裏切られたがそれでも、それ以上に様々なことを教わったし、何より4人で過ごした日々が楽しかったという。
おそらくだが、彼女たちもシュンナとともに過ごした時間は楽しかったんだろう。
シュンナの話から俺はそう思った。
じゃぁ、なぜシュンナを裏切ったのか、それは今となっては分からないけどな。
その話をしてシュンナは泣き出した。
俺には何もできず、ダンクスもその分厚い胸板を差し出すしかできなかった。
でも、俺たちにはただ1つ言葉をかけることができた。
「俺たちは、死なねぇよ」
シュンナははやり病で家族や故郷を失い、今度は裏切ったとは言えかつての仲間たちだ。
だが、俺たちは強いそう簡単には死なない。
シュンナを残すことはありえない。
俺とダンクスはただこの一言にそれらの思いを乗せてシュンナに告げたのだった。
それを聞いたシュンナは再び泣き出した。しかし、それは悲しみからのものではない。
そんなことがあってからひと月余りが経った。
12月も後半に差し掛かり、最近では少し肌寒くなる今日この頃だ。
そのために、俺とシュンナは上着を着ることにした。
俺の上着はもちろんゾーリン村の女性陣が作ってくれたもので、シュンナのはこの間通った街で購入した。
ダンクスのも買ったんだが、ダンクスは特に寒くないようだ。
まぁ、分厚い筋肉に覆われているからな、発熱してあったかいんだろ。
だから、ダンクスは上着を着ていない。
とまぁ、そんなわけで装いも新たに旅をしているわけだが、ようやく次の街の防壁が見えてきた。
「あれが次の街か」
「だな、たしかフィルメだったか」
「うん、トリアレス侯爵の領都だよね」
「ああ」
次の街は王都の玄関口といわれている街で名前はフィルメで、侯爵の街となる。
名前の由来はというと、初代侯爵の妻の名前だそうだ。
「ていうか、これに並ぶのか」
「……そうみたいね」
「長いな」
街へ入るためには門を通り検問を受ける必要があるが、こうして大きな街となるとこのように長蛇の列ができる。
それでも、これまで通ってきた街に比べると長すぎる気がする。
まぁ、それを見越してるからだろうな。よく見ると屋台が出てた。
街の外で商売ってまさに商魂たくましいな。
まぁ、そんな屋台で食べ物を買ったり飲み物を買ったりしながら、適当に時間を潰し待つこと2時間ほど。
ようやく、俺たちの番がやってきた。
「次、んっ、お前たちはこの子供の親ではないだろう。悪いが、実子でなければ子供は入れないぞ」
案の定、いつものことで止められた。
蛇足になるが、この実子でなければ街に入れないということの実子の判断はどうやってしているのかというと、門番の裁量となる。つまり、門番がパッと見て親子に見えるかどうかで決まるわけだ。
それじゃ、似てない親子はどうなるんだとなるが、この場合は俺たちが鑑定水晶で見てもらうように頼むように、魔力判定をする魔道具が置いてありそれを使うらしい。
まぁ、そこまでいちいち調べるのは面倒なので、大体は通してしまうようだ。
んで、俺はなぜ毎回止められるのかというと、ぶっちゃけ門番たちの願望が原因だ。
俺たちは組み合わせ的には親子に見えなくはない。
でも、シュンナは絶世の美少女であり、ダンクスは凶悪な大男、その組み合わせが信じられないし信じたくないうえに、シュンナに俺のような赤子ではない大きな子供がいるという状況を信じたくないからである。
そう言った願望から毎回俺たちは門番に止められるというわけだ。
「ああ、確かに、こいつは俺たちの子じゃねぇけどよ」
「この子、これでも12なのよ。鑑定水晶で確認してみてもらえる。ほかの街でもそうしてもらったから」
シュンナとダンクスも慣れたもので、すぐにそう答えた。
それを聞いた門番は心底面倒くさそうに鑑定水晶を取りに行き確認した。
「ん、ああ、確かに12歳だな。仕方ない。それで身分証はあるか」
「いや、俺たちは旅人だからな。持ってない」
「通行料は払うわよ」
これまたいつものごとく身分証の提示を求められたが、俺たちはそんなものは持っていないのでいつものように通行料を払おうとした。
「ああ、悪いがこの街は侯爵閣下のご意向で、身分の不確かなものは入れないようになっているんだ」
「はっ」
「……」
まさかの拒否に俺たちは絶句した。
「そういうわけだから、ほらあっち行った。次」
そう言って門番は俺たちを追い払うようにしつつ、次を呼んだ。
「……まじかよ」
「……そういうことならもっと早く教えてほしかったよね」
「ていうか、どっか書いとけよ」
門のわきに追い出された俺たちは口々に文句を言う。
いや、別に街に入れないことに関しては仕方ないとして、だったらせめてどっかに書いていてほしいよな。身分証がない場合は街には入れないって。
2時間も無駄な時間を過ごしたじゃないか。
「仕方ねぇ。迂回するか」
「……そうね。なんだか、疲れたわ」
「だな」
俺たちは別にどうしてもこの街に入りたいわけではないので、街を迂回して王都へ向かうことにした。
「ふっざけんなっ!!」
と思って、重くなった足取りで街道を一旦戻ろうとしたところで、ふとそんな怒鳴り声が聞こえてきた。
なんだと思っていると、そこには俺たちの少し後ろに並んでいた馬車を引いた商人とその護衛の冒険者6人組がいた。
よく見ると、冒険者たちが憤慨しており、商人は少しほくそ笑んでいるように見える。
「どうしたんだ?」
「さぁ」
俺たちは、首をかしげていた。
「なんで、俺たちが街に入れねぇんだよ」
「そうよ。ギルドカードは見せたでしょ」
「説明しやがれ」
といった怒鳴り声も聞こえてきたことから、どうやらあの冒険者たちは俺たち同様街に入れてもらえなかったようだ。
「どういうことだ?」
「さぁな」
「んー、もしかすると……」
俺とダンクスが首をかしげているとシュンナが一人何かわかったようだ。
「わかるのか?」
聞いてみた。
「ええ、まぁね。多分」
そう言って、シュンナは説明してくれた。
「冒険者の依頼って、いくつかあるんだけど主に討伐・採取・護衛の3つなのよ。まぁ、ほかにもあるけど、ほとんどがこれね。んで、この護衛依頼を受ける際は気を付けるようにって言われてるのよ。あたしも実際先輩から言われたことがあるわ」
「何をだ?」
それからのシュンナの説明に俺とダンクスは呆れてしまった。
というのも、護衛依頼を出す商人の中には護衛させておいていざ街に入る際、護衛の冒険者が入れないように事前に細工などをしており依頼を失敗させるという。
それにより、冒険者は違約金を支払わなくてはいけなくなる。
つまり、ただ働きどころかむしろ金を払わなければならない事態となってしまうんだよな。
それで、その商人はというと、安全な旅ができる上に報酬を支払わず違約金として報酬の三分の一を受け取ることができるそうだ。
「……まじかよ」
「……最悪だな」
俺たちは口々にそうつぶやいた。
「いやぁ、これは残念ですね。依頼内容はわたしの店までとなっておりますから、皆さんが街に入れないとなるとこれは失敗ということになりますな。これは、ギルドへそのようにご報告させていただきますよ。では」
そう言って、商人は街に入っていってしまった。
残された冒険者は当然ふざけんなと文句を言いつつも、何もできずにいた。
「シュンナに言った通りっぽいな」
「そうみたいだな」
「うん、ほんとにいるとは思わなかったわ」
シュンナも話には聞いたことがあるが、本当にいるとは思わなかったらしい。
それというのも、これをやると当然商人にもデメリットがあるからだ。
それは、ギルドのブラックリストに載ってしまうというものだ。
そうするとどうなるかというと、単純に今後ギルドはその商人からの依頼は受けなくなるし、何より一切の取引をしなくなる。
冒険者ギルドは世界的な組織であり、ギルドと取引ができなくなるというだけで信用も失い商人としては大打撃となるわけだ。
一時の利益のためにそんなバカでかいデメリットを犯す商人はいない。
そんなわけで、冒険者たちの間では噂程度でしかなかった。
しかし、今目の前で実際に起きた事案、いったいあの商人は何を考えているんだろうか。
「あれをやるのはリスクがでかすぎないか?」
ダンクスも気が付いたようでシュンナに聞いた。
「そのはずなんだけどね。でも、例えばもうすぐにでも店を閉めようとしている商人とかはギルドのブラックリストに載ろうがどうでもいいんじゃない」
「ああ、確かにな」
「それは、そうだが……」
シュンナのいう通り後がすでになければ、最後に一つちょっとした稼ぎにはなるかもな。手段は最悪だが……。
「でもよ。あの商人そんな店じまいするような奴に見えなかったぞ」
ダンクスのいう通り、俺にもそう見えたなにせ結構いい服着てたし馬車もでかかったしな。
「そうなると、出資者かもしれない」
「出資者?」
「うん、ギルドって大きな組織だけどさすがに単独だけじゃやっていけないのよ。だから、貴族とか商人が出資してくれてるわけ」
地球でいう株式みたいなものだろうか、会社の経営なんかも株主となると口出しできるようになるって聞いたことがある気がするしな。
それと同じ、いや文明の発展が遅いためにそれ以上に出資者の力が強く、ギルドも出資者に対して文句の1つも言えないようだな。
だからこそ、ああいった暴挙と思えることもできるわけだ。
「出資者ってほんと威張ってるからね。中には女性冒険者を妾によこせっていう人もいるみたいよ」
「まじか、それは、シュンナも危なかったんじゃないか」
「あたしの場合は、まだ新人だったからね。そこまで知られてなかったのよ」
もしあのまま続けていればそういった声がかかっていただろうな。
そう考えると、こうなってよかったのかもしれない。
「しかし、あいつらも災難だな」
「だな。それで、シュンナあいつらはどうなるんだ」
「まぁ、かわいそうだけど依頼は失敗ってことで、報酬の三分の二を違約金として支払うことになるわね」
「何とかならねぇのか?」
善人であるダンクスは彼らに救いがないのかとシュンナに尋ねた。
「まぁ、仕方ないのよ。冒険者はしょせん自己責任、運が悪かったってあきらめるしかないわね」
シュンナは無情にもないという、確かに自分たちで掲示板から選び出し受けたわけだしな。
「それはそうだけどなぁ」
「まぁ、ここで俺たちが話していても仕方ねぇし、俺たちは王都に行こう」
ダンクスはまだ納得していない感じがするので、俺が無理矢理にでもダンクスの背中を押して歩き出そうとした。
「そうそう」
シュンナもそれに乗り、いくら俺が背中を押しても動かないダンクスの手を持ち引っ張る。
「たくっ、わかったよ」
ダンクスも納得はできていないが忘れることにしたのか、俺たちに負けて動き出した。
こうして、俺たちは運の悪かった冒険者をしり目に街道を歩きだし、北への分かれ道まで来ると、今度は王都へ向けて北上を始めたのだった。
「……やっぱり、納得いかねぇよなぁ」
「なに、まで言ってるの」
「ほんと、ダンクスは人がいいよなぁ。といっても、俺も気にはなるけどな」
「だろ、金でも渡すか?」
「それはやめておけって」
「そんな事したら、あの子たち怒るんじゃない」
「ていうか、普通に怖いだろ、見ず知らずの奴からいきなり金をもらうって」
「それもそうか」
ダンクスはその後数日悩んでいた。ほんとに善人だよな、顔は凶悪だってのにな。
ちなみに俺とシュンナも気にはなっていたが、仕方ないとあきらめていたのでダンクスほど悩んではいない。
すっきりはしないけどな。
そうこうしているうちに、俺たちの目の前にはこれまた巨大な防壁と、その上にちょこんと見える尖塔が数棟。
「あれが、王都か」
「だろうな。あれは城か、でけぇな」
「ほんとよね。大きい」
俺たちはついに王都へと到着したのだった。
はてさて、どんなとこだろうな。
しかも、それを看取ったのがリックたちであった。
そこで、話を聞くとどうやら、リックの仲間であるレントが絡んだことで、3人はブラッドベアの討伐依頼を受けてしまった。
しかし、シュンナのいない3人では当然ブラッドベアの討伐はかなわず重症、リックたちが偶然近くにいたために急いで街まで運んだがあえなく命を落とした。
その瞬間に俺たちは門へとたどり着いたというわけだ。
横目でシュンナを見ると固まったまま動けなくなってしまっていたために、ダンクスが代わりにリックたちに事情を聴いたうえで金貨3枚を渡して、彼女たちの供養を頼んだのだった。
そうして、街を出てしばらくしたところで、シュンナは言葉を紡ぎだした。
それは、恨みの言葉ではなく悲しみの言葉だった。
シュンナにとって、3人はかけがえのない仲間、確かに裏切られたがそれでも、それ以上に様々なことを教わったし、何より4人で過ごした日々が楽しかったという。
おそらくだが、彼女たちもシュンナとともに過ごした時間は楽しかったんだろう。
シュンナの話から俺はそう思った。
じゃぁ、なぜシュンナを裏切ったのか、それは今となっては分からないけどな。
その話をしてシュンナは泣き出した。
俺には何もできず、ダンクスもその分厚い胸板を差し出すしかできなかった。
でも、俺たちにはただ1つ言葉をかけることができた。
「俺たちは、死なねぇよ」
シュンナははやり病で家族や故郷を失い、今度は裏切ったとは言えかつての仲間たちだ。
だが、俺たちは強いそう簡単には死なない。
シュンナを残すことはありえない。
俺とダンクスはただこの一言にそれらの思いを乗せてシュンナに告げたのだった。
それを聞いたシュンナは再び泣き出した。しかし、それは悲しみからのものではない。
そんなことがあってからひと月余りが経った。
12月も後半に差し掛かり、最近では少し肌寒くなる今日この頃だ。
そのために、俺とシュンナは上着を着ることにした。
俺の上着はもちろんゾーリン村の女性陣が作ってくれたもので、シュンナのはこの間通った街で購入した。
ダンクスのも買ったんだが、ダンクスは特に寒くないようだ。
まぁ、分厚い筋肉に覆われているからな、発熱してあったかいんだろ。
だから、ダンクスは上着を着ていない。
とまぁ、そんなわけで装いも新たに旅をしているわけだが、ようやく次の街の防壁が見えてきた。
「あれが次の街か」
「だな、たしかフィルメだったか」
「うん、トリアレス侯爵の領都だよね」
「ああ」
次の街は王都の玄関口といわれている街で名前はフィルメで、侯爵の街となる。
名前の由来はというと、初代侯爵の妻の名前だそうだ。
「ていうか、これに並ぶのか」
「……そうみたいね」
「長いな」
街へ入るためには門を通り検問を受ける必要があるが、こうして大きな街となるとこのように長蛇の列ができる。
それでも、これまで通ってきた街に比べると長すぎる気がする。
まぁ、それを見越してるからだろうな。よく見ると屋台が出てた。
街の外で商売ってまさに商魂たくましいな。
まぁ、そんな屋台で食べ物を買ったり飲み物を買ったりしながら、適当に時間を潰し待つこと2時間ほど。
ようやく、俺たちの番がやってきた。
「次、んっ、お前たちはこの子供の親ではないだろう。悪いが、実子でなければ子供は入れないぞ」
案の定、いつものことで止められた。
蛇足になるが、この実子でなければ街に入れないということの実子の判断はどうやってしているのかというと、門番の裁量となる。つまり、門番がパッと見て親子に見えるかどうかで決まるわけだ。
それじゃ、似てない親子はどうなるんだとなるが、この場合は俺たちが鑑定水晶で見てもらうように頼むように、魔力判定をする魔道具が置いてありそれを使うらしい。
まぁ、そこまでいちいち調べるのは面倒なので、大体は通してしまうようだ。
んで、俺はなぜ毎回止められるのかというと、ぶっちゃけ門番たちの願望が原因だ。
俺たちは組み合わせ的には親子に見えなくはない。
でも、シュンナは絶世の美少女であり、ダンクスは凶悪な大男、その組み合わせが信じられないし信じたくないうえに、シュンナに俺のような赤子ではない大きな子供がいるという状況を信じたくないからである。
そう言った願望から毎回俺たちは門番に止められるというわけだ。
「ああ、確かに、こいつは俺たちの子じゃねぇけどよ」
「この子、これでも12なのよ。鑑定水晶で確認してみてもらえる。ほかの街でもそうしてもらったから」
シュンナとダンクスも慣れたもので、すぐにそう答えた。
それを聞いた門番は心底面倒くさそうに鑑定水晶を取りに行き確認した。
「ん、ああ、確かに12歳だな。仕方ない。それで身分証はあるか」
「いや、俺たちは旅人だからな。持ってない」
「通行料は払うわよ」
これまたいつものごとく身分証の提示を求められたが、俺たちはそんなものは持っていないのでいつものように通行料を払おうとした。
「ああ、悪いがこの街は侯爵閣下のご意向で、身分の不確かなものは入れないようになっているんだ」
「はっ」
「……」
まさかの拒否に俺たちは絶句した。
「そういうわけだから、ほらあっち行った。次」
そう言って門番は俺たちを追い払うようにしつつ、次を呼んだ。
「……まじかよ」
「……そういうことならもっと早く教えてほしかったよね」
「ていうか、どっか書いとけよ」
門のわきに追い出された俺たちは口々に文句を言う。
いや、別に街に入れないことに関しては仕方ないとして、だったらせめてどっかに書いていてほしいよな。身分証がない場合は街には入れないって。
2時間も無駄な時間を過ごしたじゃないか。
「仕方ねぇ。迂回するか」
「……そうね。なんだか、疲れたわ」
「だな」
俺たちは別にどうしてもこの街に入りたいわけではないので、街を迂回して王都へ向かうことにした。
「ふっざけんなっ!!」
と思って、重くなった足取りで街道を一旦戻ろうとしたところで、ふとそんな怒鳴り声が聞こえてきた。
なんだと思っていると、そこには俺たちの少し後ろに並んでいた馬車を引いた商人とその護衛の冒険者6人組がいた。
よく見ると、冒険者たちが憤慨しており、商人は少しほくそ笑んでいるように見える。
「どうしたんだ?」
「さぁ」
俺たちは、首をかしげていた。
「なんで、俺たちが街に入れねぇんだよ」
「そうよ。ギルドカードは見せたでしょ」
「説明しやがれ」
といった怒鳴り声も聞こえてきたことから、どうやらあの冒険者たちは俺たち同様街に入れてもらえなかったようだ。
「どういうことだ?」
「さぁな」
「んー、もしかすると……」
俺とダンクスが首をかしげているとシュンナが一人何かわかったようだ。
「わかるのか?」
聞いてみた。
「ええ、まぁね。多分」
そう言って、シュンナは説明してくれた。
「冒険者の依頼って、いくつかあるんだけど主に討伐・採取・護衛の3つなのよ。まぁ、ほかにもあるけど、ほとんどがこれね。んで、この護衛依頼を受ける際は気を付けるようにって言われてるのよ。あたしも実際先輩から言われたことがあるわ」
「何をだ?」
それからのシュンナの説明に俺とダンクスは呆れてしまった。
というのも、護衛依頼を出す商人の中には護衛させておいていざ街に入る際、護衛の冒険者が入れないように事前に細工などをしており依頼を失敗させるという。
それにより、冒険者は違約金を支払わなくてはいけなくなる。
つまり、ただ働きどころかむしろ金を払わなければならない事態となってしまうんだよな。
それで、その商人はというと、安全な旅ができる上に報酬を支払わず違約金として報酬の三分の一を受け取ることができるそうだ。
「……まじかよ」
「……最悪だな」
俺たちは口々にそうつぶやいた。
「いやぁ、これは残念ですね。依頼内容はわたしの店までとなっておりますから、皆さんが街に入れないとなるとこれは失敗ということになりますな。これは、ギルドへそのようにご報告させていただきますよ。では」
そう言って、商人は街に入っていってしまった。
残された冒険者は当然ふざけんなと文句を言いつつも、何もできずにいた。
「シュンナに言った通りっぽいな」
「そうみたいだな」
「うん、ほんとにいるとは思わなかったわ」
シュンナも話には聞いたことがあるが、本当にいるとは思わなかったらしい。
それというのも、これをやると当然商人にもデメリットがあるからだ。
それは、ギルドのブラックリストに載ってしまうというものだ。
そうするとどうなるかというと、単純に今後ギルドはその商人からの依頼は受けなくなるし、何より一切の取引をしなくなる。
冒険者ギルドは世界的な組織であり、ギルドと取引ができなくなるというだけで信用も失い商人としては大打撃となるわけだ。
一時の利益のためにそんなバカでかいデメリットを犯す商人はいない。
そんなわけで、冒険者たちの間では噂程度でしかなかった。
しかし、今目の前で実際に起きた事案、いったいあの商人は何を考えているんだろうか。
「あれをやるのはリスクがでかすぎないか?」
ダンクスも気が付いたようでシュンナに聞いた。
「そのはずなんだけどね。でも、例えばもうすぐにでも店を閉めようとしている商人とかはギルドのブラックリストに載ろうがどうでもいいんじゃない」
「ああ、確かにな」
「それは、そうだが……」
シュンナのいう通り後がすでになければ、最後に一つちょっとした稼ぎにはなるかもな。手段は最悪だが……。
「でもよ。あの商人そんな店じまいするような奴に見えなかったぞ」
ダンクスのいう通り、俺にもそう見えたなにせ結構いい服着てたし馬車もでかかったしな。
「そうなると、出資者かもしれない」
「出資者?」
「うん、ギルドって大きな組織だけどさすがに単独だけじゃやっていけないのよ。だから、貴族とか商人が出資してくれてるわけ」
地球でいう株式みたいなものだろうか、会社の経営なんかも株主となると口出しできるようになるって聞いたことがある気がするしな。
それと同じ、いや文明の発展が遅いためにそれ以上に出資者の力が強く、ギルドも出資者に対して文句の1つも言えないようだな。
だからこそ、ああいった暴挙と思えることもできるわけだ。
「出資者ってほんと威張ってるからね。中には女性冒険者を妾によこせっていう人もいるみたいよ」
「まじか、それは、シュンナも危なかったんじゃないか」
「あたしの場合は、まだ新人だったからね。そこまで知られてなかったのよ」
もしあのまま続けていればそういった声がかかっていただろうな。
そう考えると、こうなってよかったのかもしれない。
「しかし、あいつらも災難だな」
「だな。それで、シュンナあいつらはどうなるんだ」
「まぁ、かわいそうだけど依頼は失敗ってことで、報酬の三分の二を違約金として支払うことになるわね」
「何とかならねぇのか?」
善人であるダンクスは彼らに救いがないのかとシュンナに尋ねた。
「まぁ、仕方ないのよ。冒険者はしょせん自己責任、運が悪かったってあきらめるしかないわね」
シュンナは無情にもないという、確かに自分たちで掲示板から選び出し受けたわけだしな。
「それはそうだけどなぁ」
「まぁ、ここで俺たちが話していても仕方ねぇし、俺たちは王都に行こう」
ダンクスはまだ納得していない感じがするので、俺が無理矢理にでもダンクスの背中を押して歩き出そうとした。
「そうそう」
シュンナもそれに乗り、いくら俺が背中を押しても動かないダンクスの手を持ち引っ張る。
「たくっ、わかったよ」
ダンクスも納得はできていないが忘れることにしたのか、俺たちに負けて動き出した。
こうして、俺たちは運の悪かった冒険者をしり目に街道を歩きだし、北への分かれ道まで来ると、今度は王都へ向けて北上を始めたのだった。
「……やっぱり、納得いかねぇよなぁ」
「なに、まで言ってるの」
「ほんと、ダンクスは人がいいよなぁ。といっても、俺も気にはなるけどな」
「だろ、金でも渡すか?」
「それはやめておけって」
「そんな事したら、あの子たち怒るんじゃない」
「ていうか、普通に怖いだろ、見ず知らずの奴からいきなり金をもらうって」
「それもそうか」
ダンクスはその後数日悩んでいた。ほんとに善人だよな、顔は凶悪だってのにな。
ちなみに俺とシュンナも気にはなっていたが、仕方ないとあきらめていたのでダンクスほど悩んではいない。
すっきりはしないけどな。
そうこうしているうちに、俺たちの目の前にはこれまた巨大な防壁と、その上にちょこんと見える尖塔が数棟。
「あれが、王都か」
「だろうな。あれは城か、でけぇな」
「ほんとよね。大きい」
俺たちはついに王都へと到着したのだった。
はてさて、どんなとこだろうな。
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