おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

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第02章 旅立ちと出会い

02 長年追い求めてきたもの

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「ねぇ、なんか、怪しくない?」
「ああ、俺もそう思う」
「一体、何者なんだろう、あの子」

 そんな会話が俺の背後において小声で行われているが、今世の俺は五感が優れているらしく、よく聞こえている。
 まぁ、特に気にする内容でもないし、実際俺も彼らの立場だったら、ものすごく怪しむだろうしな。

「それで、坊主、どこまで行くんだ」

 ここで男が尋ねてきたが、ちょうどタイミングよくたどり着いた。

「もう、着いた」
「着いたって、何もないけど」

 少女があたりを見渡しながらそういった。

「今、解くから」

 そういって俺は結界を解いた。

「なっ!」
「えっ! もしかして、結界?」
「嘘だろ!」

 目の前に結界があったことに驚いたのか、目を見開いている2人。

「とりあえず、中に」

 2人に告げると俺はテントの中に入っていく。

「どうする?」
「い、いや、俺は無理だろ」

 テントの外でそんな相談が行われているのでもう一言。

「大丈夫、中は広い」
「広いって」
「いや、どう見ても無理だろ」

 少女も本当は無理だと思っているのだろうが、男に俺の言葉を反芻して伝えた。

「まぁ、冗談は抜きにしてあたしは入るね……えっ! ちょ、ちょ、ちょっと、どういうこと!」

 テントに顔を入れた少女が本当に中が広くなっていることに驚愕して、幾度も顔を入れたり出したりを繰り返している。

「どうした?」
「えっ、あっ、う、うん、ちょっと、中見てみてよ」
「あん、んなもん見たって……はっ!?」

 続いて男が中を覗いてくるが、目が点となっている。
 ていうか、そん顔だけ見せてくると、怖いんだが……。
 考えてみてほしい、この男の顔は怖い、強面の男が顔だけニュッっと現れたらかなりの恐怖だ。
 子供なら一発で泣くな。まぁ、俺は中身おっさんだし、テレビのおかげかいくら顔が怖いからって悪い奴って言うイメージが薄いんだよな。だからかそこまで恐怖は感じないけどな。

「どうなってるんだ?」
「も、もしかして、空間魔法?」

 少女が答えにたどり着いた。まぁ、さっき”収納”を使ってるからなお、たどり着けるんだろうけどな。

「正解、このテントは元は普通のテントだったけど、空間魔法で魔道具にしてあるんだ」
「魔道具って、いや、ちょっと待て、まさか、これ、坊主が作ったのか」

 ようやく、中に入り俺が用意していた椅子に座りながらそう聞いてきた。

「ああ、そうだよ」
「まじかよ」
「すごっ!」
「ほんと、お前、一体何もんなんだよ!」

 男がそう突っ込んできたがもっともだと思う、というわけで説明を始める。

「えっと、どこから説明するか……ああ、そうだ、まずは名前か、俺の名前はスニル」
「お、おう、俺はダンクスだ……おっ」

 ダンクスが名乗った瞬間、その体が光り輝いた。

「名付け?!」
「みたいだな。そうか、奴隷の首輪が付いていたからだな。これまでは名乗ることもできなかったしな」
「そうそう、あっ、じゃぁ、あたしも、あたしはシュンナよ。あっ、光った」

 シュンナの体も光った。

「どうやら、2人とも無事に真名が戻ったみたいだな」

 俺は2人を鑑定して、2人の名前がそれぞれ定着したことを確認した。

「おう、それで、スニルだったな。話を続けてくれ」
「ああ、わかった、えっと、なんていうか、そうだな、まずはこれを言っておくか……」

 ということで俺が話したのは前世の記憶があること、それも異世界であることを話した。

「……いきなり、ぶっ飛んだ話だな、おい」
「……う、うん、にわかには信じられないけど、でも、スニルの能力とか話かたとか考えると、ちょっと納得かな。でも、神様って本当にいるの?」

 異世界からというところで神様に招待されたことも話しているための質問だ。

「いるよ、一応ね。ただ、この世界の人たちは誰一人その存在を知らないから、そう思っても仕方ない」
「どういうことだ」
「この世界を作った神様って世界に干渉しないようにしているんだ。まぁ、俺を送り込むって干渉はしたけど、それ以外は全くしていない。だから、この世界で宗教とかあったとしても、実際の神様とは全くの無関係だと思った方がいいと思う」
「まじかよ」
「でも、まぁ、納得かな。あの人たちって結構好きかって言ってるし」
「まぁ、それはあるよな」

 どうやら、この世界の宗教もやりたい放題らしい。
 なるべくなら関わらないようにした方がよさそうだな。
 宗教とかかわるとろくなことがなさそうだからな。

「それで、さっきから使ってる魔法はそのメティスルだっけ、その力な訳」
「ああ、メティスルは賢者や大賢者の上位版だからね。あらゆる魔法が使える」
「はぁ、まじか、そいつはすげぇな」
「うん、普通なら信じられないけど、すでにあたしらあの魔法見てるしね。それにこのテントだって」
「まったくだな。でもよ、ちょっと気になったんだが」
「なに?」
「お前、さっき前世の記憶を12歳になった時に思い出したって、それも最近なんだろ」
「ああ、数日前ぐらいかな」
「ってことは、お前、今12歳ってことだよな」
「!?」

 ダンクスがその疑問にたどり着き、シュンナもハッとなっている。

「俺が小さすぎるって言いたいんだろ」
「あ、ああ、聞いてもいいか?」

 ダンクスも、もしかしたらと思い至ったのか顔をしかめ始める。

「いいよ。まぁ、あまり聞いてもいい物じゃなけど、簡単に言えば、俺は幼いころから虐待を受けていたんだ。っで、3年前、奴隷として売られたってわけだ」

 俺はかなり簡潔に俺の過去を話したわけだが、その瞬間2人の顔が真っ青になった。

「……そ、そんな」
「す、すまん」

 そして、ダンクスは謝ってきた。

「いや、気にしなくてもいいよ。やつらにはすでに復讐しているし」
「復讐?」

 ということで、俺は2人に記憶を取り戻してから、テッカラでのことや村でのことを話して聞かせた。
 もちろん、その中には両親のことも含まれていた。

「……まじかよ。ざけやがって!」
「許せない。なんなの、そいつら!」

 そして、怒りに殺気すらにじませる。
 って、あれっ、俺って殺気なんて感じる能力あったっけ。
 こういうのって、経験値が物を言うものでさすがのメティスルでも無理なはずなんだけどな。
 まぁ、それはともかく、2人は俺、いや、俺の過去のために怒ってくれているようだ。
 ありがたいな。

「まぁ、ふごっ!?」

 もう一度気にするなと言おうとしたところで突如目の前が真っ暗となり、顔が何やら柔らかいものに埋められた。

「ちょっ、シュ、シュンナ!?」

 幸い呼吸はできるので、実行犯であるシュンナに抗議の声をかける。
 そう、俺は今シュンナの豊満すぎる胸に埋められている。

「スニル、つらかったね。悔しかったよね」

 そういってシュンナは泣いていた。

「えっと、シュンナ?」

 あまりに突然で俺はフリーズしていたが、このままは落ち着かないのでなんとかやめてもらいたいんだけどな。

「ああ、そうだな。できることなら、俺が直接そいつらを斬り捨ててやりたいところだがな」

 そういって、今度はダンクスが俺の頭に手を置いてきた。
 なんだろうか、この2人にこうされると落ち着くな。


「ええっと、まぁ、なんだ。そうだ、なぁ、スニル1つ聞いていいか?」

 しばらくシュンナに抱きしめられた俺だったが、ようやく解放されて、なんか妙な空気になったところで、ダンクスがそれを払しょくするかのように質問してきた。

「お、おう、なんだ?」
「お前さ、なんで俺たちにここまで話してくれたんだ?」

 尤もな疑問だ。確かに、俺が前世で読んだ異世界転生物でも、主人公はほとんどそれを話すことはなく墓場まで持っていくケースが多い、まぁ、中には話す奴もいるが、かなり意を決してのものだった。
 だが俺は今、かなりあっさりとしゃべっている。
 村長一家ににもぽろっといってしまったが、あの時は本当にぽろっといってしまっただけだ。まぁ、後悔は全くないが、でも、今回は違い、最初から話そうと思って話した。
 なぜ俺がここまであっさりしているのか、その理由は単に俺にはどうでもいいことだからだ。
 おそらくだが、数多の主人公たちがためらったり、墓場まで持って行ったりしている理由は失うのが怖いからだろう、話すことで気持ち悪がられたり離れて行ってしまう可能性を考えて言えないでいる。
 がしかし、俺にはそんな感情は前世に置いてきている。というか、俺は前世で友人たちを失い続けたために俺にとってそういった存在が離れていくことは日常という感覚だ。そう、またか、と言った風にだ。
 だからこそ、俺は何も考えずともあっさりとしゃべれるわけだ。

「ああ、そのことか。まぁ、別に隠すことでもないからなぁ」

 それに、なんというかこの2人には話しても問題ない、そんな気がしたんだよな。だからこそ、最初から話そうと思ったわけだ。

「そうか、まぁ、俺は気にしないけどな」
「そうだね。あたしもかな、スニルに前世の記憶があろうと、そもそもあたしたちはその記憶が戻ってるスニルしか知らないしね」
「だな」

 ダンクスとシュンナはそういったが確かにその通りではあるが、なんだかありがたい。

「そうか。えっと、それで、2人は?」

 俺はここで2人のことを尋ねた。

「ああ、そうだな。スニルが話したんだし、俺も話すべきだな」
「そうだね。あたしも話よ」

 ということでダンクスとシュンナもまた身の上話をしてくれた。
 まずはとダンクスからだった。

 ダンクスはリエリュークという街の孤児院で育った孤児だったらしい、幼いころから騎士に憧れを持っており、成人した折に騎士となった。
 そうして、配属されたのが故郷からほど近いトリセットという街だった。
 騎士というのは早朝に訓練、日中は任務、夕方はまた訓練ととにかく訓練の日々だそうだが、トリセットの騎士たちは不真面目で早朝の訓練は基本サボり、日中の任務もあまりまじめにやらない、まぁ、さすがに夕方の訓練は少しはやるらしい。
 それに対して、ダンクスはまじめに早朝も夕方もしっかりと訓練をしていた。
 もちろんダンクスも上司にまじめに訓練をするようにと上申していたという。
 そんなある日のことだった。
 その日も、ダンクスはいつものようにただ1人で早朝の訓練を行っていた。
 そんなとき、突然フル装備に身を包んだ上司や同僚たちがぞろぞろとやって来た。
 ダンクスはやっとやる気になってくれたのかと、内心喜んだという。
 しかし、現実は無情で、彼らはやってくるなりダンクスに向けて剣を抜き放ちこういった。
 『貴様を逮捕する』当然ダンクスには意味が分からない、なにせ身に覚えがないからだ。
 そして、羅列された罪もやはり身に覚えがない。というか、トリセットに配属されてから任務で街の外に出ることはあっても、他の街に行ったことがないダンクスに対して、遠くの街で起きた犯罪の罪を突き付けてきたそうだ。
 それって、明らかにあれだよな。誰かの罪が擦り付けれてるよな、間違いなく。
 まぁ、とにかくそんな意味の分からないまま、逮捕されそのまま犯罪奴隷として売られたらしい。
 ダンクスによれば、その罪の数々は普通なら処刑されてもおかしくないほどのモノだったらしい。
 じゃぁ、なぜ、処刑ではなく奴隷なのかというと、単純にダンクスが奴隷として売れば高値で売れるからだ。
 実際、ダンクスは王都で行われるオークションに出されるはずだったらしい。

 一方、シュンナは俺と同じように小さな村出身で、冒険者になろうと近場の街であるバリエソに向かったそうだ。
 そこで仲間(女ばかり3人)と出会い楽しく過ごしていたという。
 だが、そんなあるとき仲間の1人がミスを犯した、それが原因で依頼は失敗、違約金を支払うこととなった。
 シュンナによると、冒険者規定では違約金は報酬額の2/3で、その時の報酬はかなりの高額になる予定だったことから、違約金はとてもではないがすぐに支払えない額となり、借金となった。
 しかも、実はその依頼の直前シュンナ達は装備を一式交換したばかりだった。
 そもそも、その依頼も装備一式の購入により出来た借金を返すためだったらしい。
 んで、さらに最悪なことにその失敗した依頼により、せっかく新調した装備を仲間3人が失ってしまい、またもや買う羽目に、こうして、シュンナ達の借金は驚くほど増えてしまった。
 シュンナはみんなで頑張ればきっと返せると、そう思っていたために次の日改めて依頼を受けようと眠りについた。
 だが、翌日シュンナが目をさますと、いるはずの仲間たちが誰一人いなかった。
 どういうことかというと、シュンナの仲間だった者たちは実はシュンナより年上で、すでに3年以上その街で過ごしていた。つまり、彼女たちは別の街へ行くことができたのだ。
 つまりは、シュンナの仲間だったものたちは、シュンナにすべての借金を押し付けて別の街へ逃げてしまったのだった。
 おかげで、シュンナ1人にありえない借金がのしかかり、当然支払うことなんてできない、しかも、よく額を確認すると、明らかに額が増えていた。
 どうやら、仲間の誰かがすでに個人的な借金をしており、それをついでとばかりにシュンナに押し付けたということだろう。
 こうして、借金奴隷としてなり、ダンクスと同じように高額で売れることから王都のオークションに出される予定だったらしい。

「……最悪だな」
「……まったくだな」
「……あたしたち、似た者同士ってことかな」
「そうかもな」
「ああ、3人が3人ともひでぇ話だ」

 2人から話を聞いた時の俺たちの感想だ。ほんと最悪だよ。

「っと、まぁ、それはいいとして、これから2人ともどうするんだ」

 俺は気分一新ということで今後のことを聞いてみた。

「そうね。あたしはスニルと行こうかな。どうせ、あたしにはいくところもないし」

 そういうシュンナ、故郷はと思うが、シュンナによればすでに故郷ははやり病などにより村を出て行くものが多く、すでに村が消滅しているらしい。また、両親もすでにそのはやり病で亡くなっているため、帰るところすらないらしい。

「俺もそうすっかな、俺も戻ったところで、結局また犯罪者にされそうだしな」

 ダンクスもすでに故郷の街まで話が伝わっているはずだと、そうなると戻れないということだ。

「そうか、まぁ、俺としては、問題ないな。というか、2人がいたほうがありがたい気がするし、ほら、街に入るときとか」
「ああ、ありそうだな」
「間違いなくもめるよね」

 そんなわけで、俺1人の旅路に急遽2人が加わることとなった。
 この時俺は、まさかこの出会い、俺が前世においてずっと、長年にわたって、追い求めてきた物だったとは夢にも思わなかった。
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