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第01章 最低な始まり

閑話 ある者たちのその後

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 第1章終了につき、今回は閑話として、スニルに関わった者たちのその後を追いたいと思います。

~~~スニルを売った少年ブレン~~~


 警備兵につかまったブレンは、その場にいた冒険者とスニルの予想通り、犯罪奴隷としての人生が始まっていた。

 まず、最初に売られた場所は、テッカラより北東に馬車で2週間の場所にあるブロッテオ鉄鉱山。
 そこで、ひたすらにつるはしをもって硬い石と格闘する。もちろん、魔法のある世界の為、ダイナマイト代わりに大地魔法などを使い採掘することもあるが、ブレンが連れてこられた場所ではほとんどがツルハシでの採掘だった。

「おらぁ、もっとしっかりと働けぇ、奴隷ども!」
「グハァッ」

 鞭ではないが、少し休憩した奴隷を殴り飛ばす監督官。
 この世界において奴隷は人ではなく物、どんだけ監督官が殴ろうが誰も何も言わない。
 尤も、あまりに殴り過ぎて使い物にならなくなると、上司から怒られるので適度にしているが、それでも殴られる方はたまらないだろう。

「くそっ、なんで、僕が、こんな目に、全部、あいつのせいだ」

 そんな中で、相も変わらずスニルのせいにしている片腕の少年がいた。

「うるせぇぞ、ちゃっちゃっと採掘しろ!」

 悪態をついているブレンを見とがめた監督官が怒鳴りつける。
 そんなブレンは、片腕とあってどうしても効率が悪くなる。
 本来は両手でもって振るつるはしも、片腕では力が入らないからである。
 しかし、監督官にはそんなことは関係なく、1人採掘量が少ないということは、サボっているという判断する。
 そうなると、怒鳴り声と時には拳が飛んでくるというわけだ。
 まさに、これらの行動は、スニルが幼いころからブレンたち一家から受けていた仕打ちと同じだった。
 尤も、スニルは幼いだけで、片腕ではなかったが……。
 そうして、怒鳴られ殴られること3年、ブレンは生き残った。
 まぁ、鉱山での死因は主に崩落に巻き込まれてとなるため、ブレンは幸いにもそれに巻き込まれなかっただけである。

「おい、そこ、片腕の000048795番、こっちにこい」

 000048795番というのは、ブレンのことで、ここでは奴隷は名前ではなく番号で呼ばれる。
 まぁ、奴隷なので、そもそも真名が剥奪されているが・・・・・。

 とにかく、呼ばれたブレンは言われるまま監督官のところにまで駆け足で向かった。

「お前は、戦場に行くことになった。ついてこい」
「……」

 奴隷として3年、言葉を発すれば殴られる日々だったこともあり、ブレンはついに言葉を発しなくなっていた。
 そうして、監督官について行き、3年ぶりに鉱山から出ることができた。
 一応、毎日鉱山から出て近くの小屋で寝泊まりはしているが、今回はそこよりもさらに鉱山の敷地外に出たということだ。

 それから、馬車に詰められたブレン、他にも数人の奴隷が乗っていたが、もはやブレンには周囲を気にすることはなくなっていた。

 3年も物扱いされたことで、人としてのふるまいすら忘れかけている。まさに、精神は死にかけていた。
 こうして、たどり着いたのは、現在交戦中の隣国との戦場の真っ只中、ブレンは一目で奴隷とわかるほどのボロボロの鎧と安物の片手剣を手に持たされて、先陣を切らされていた。

「かかれっー!!」

 そんな声とともにブレンは敵兵に突っ込んでいく。
 そして、スニルを虐待し、奴隷として売り払った元冒険者ゾーリン村のブレンは、最期肉の壁として戦場でその生涯を終えたのだった。享年20歳であった。







~~~スニルの両親を謀殺し、スニルを虐待していたギブリ一家~~~


 村を追放されたギブリ一家は、とぼとぼと街道を歩いていた。

「くそっ、これもみんなあいつのせいだ。あいつさえ来なければ」
「ほんとよ、なんで、私たちが村を追い出されなきゃいけないの、追い出すなら、あの女の子供の方でしょ」
「腕痛い、足も痛い」

 ギブリ一家はそれぞれが悪態をつきながらの動向だった。
 実は、この一家はギブリがヒュリックを恨んでいただけじゃなく、その妻カリッサもまたミリアを子供の頃から恨んでいた。
 そんな、2人の子供であるスニルを引き取った時、2人に復讐ができると喜び勇んで虐待をしていたのだった。
 もし、スニルが異世界からの転生者でなければ、もっと幼いころに虐待により命を落としていただろう、この2人もそれでもいいと思いながら虐待していた。そのため、引き取ってすぐに死んだことにしていたのだから、だが、スニルは神により強化されていたことで生き延びた。
 そこで、冒険者になると家を出た息子ブレンに奴隷として売るようにと手渡したのだ。
 まさか、そのスニルが戻ってくるとは夢にも思わなかった。
 そして、今こうして自分たちのことが露見し、村を追い出されたわけだが、それもこれもすべて、ヒュリック、ミリアのせいにしている。
 自分が悪いのだという考えは一切ない、こういったところはまさにブレンの親であった。

 そんな一家が向かうのはテッカラであった。
 テッカラに行けば息子がいる。それを頼ってのことだが、まさか、その息子がすでに犯罪奴隷として鉱山に送られていることなど露程にも思わずに……。

 そうして、道中運よく魔物に襲われることもなく、なんとかテッカラへとたどり着いた。

「ブレンがいるはずだ。どこにいるのかわからないが、とにかくギルドに行ってみよう」
「そうね。そうしましょう」
「にいちゃん、どこにいるんだ」

 まだ、何も知らない3人は意気揚々と冒険者ギルドに入っていった。

「いらっしゃいませ、どうされました?」

 明らかに冒険者ではないので、依頼人だろうとあたりを付けた受付嬢は、ちょっと異様な3人に尋ねた。
 それはそうだろう、なぜかうち2人が片腕がなくギブリに至っては、両腕と片足がないのだから。
 ちなみに、残っていた左腕は夜襲の時スニルの魔法によって失っている。

「ここに、ブレンっていう冒険者がいるだろう、どこにいるか教えてほしい」
「えっと、あなた方は?」

 この時、受付嬢はすでに目の前の3人の正体にあたりを付けていたが、あえて尋ねた。

「ブレンの父親だ。息子に会いに来たんだ」

 やっぱり、受付嬢は自分の予想が当たっていたと思った。
 というのも、受付嬢は当然数日前に起きた警備兵たちの逮捕劇、その背景などの情報もしっかりと把握していた。
 それは、ブレンという冒険者が、幼いころより小さな子供を虐待し、その上奴隷として売り払ったという事実。
 これらは、ブレンたちがギルド内で会話していたこともあり、この受付嬢も自身の耳で聞いていた。
 その中には、虐待していた子供の逆襲を受け、片腕を失ったことや故郷の村の名前を教えてしまっていることなどだった。そして、今目の前にブレンと同じように片腕などを失った親子が現れれば予想もつく、ブレンの身内だと。

「申し訳ありませんが、当ギルドにはブレンという冒険者はおりません」

 受付嬢はそういった。その理由は単純に、逮捕され犯罪奴隷となったブレンはその時点でギルドから除名されているからである。

(ブレンも片腕を失っていたけど、この人たちもその子供は村に行ったってことよね。確か、村の名前はゾーリン村、後で調査してみたほうがいいかもしれないわね)

 最悪村が滅ぼされている可能性があると受付嬢は思った。
 と同時に、目の前の人間たちへの同情心すらなくなっていった。
 余談だが、受付嬢は冒険者の名を呼ぶときは呼称としてさんをつける。しかし、ブレンは犯罪者として捕まった。しかも、児童虐待と人身売買という最低ともいえる罪によるもの、そのため、受付嬢もブレンの評価を最低レベルに落としたために、内心でも呼び捨てであった。

「そんなはずない、息子はここで冒険者になって、3年は経っているはずだ」
「そうよ、ちゃんと調べなさい」
「そういわれましても、実際にそのような名前の人物はおりません、どうぞ、お引き取りを」

 受付嬢はそういって、追い払うようにギブリたちを追い出した。

「どうなっているんだ。どうして、ブレンがいないなんて、うそを」
「おい、あんたら、ブレンの知り合いか?」

 ギブリたちがギルドを出たところで、突然そんな声がかかった。

「ブレンを知っているのか? どこだ、息子はどこにいるんだ?」

 息子を知っているものが現れて、ギブリは食って掛かった。

「あははははっ、まじで、ていうか、あいつと同じじゃねぇか」
「同じ?」
「ああ、ブレンのやつも、片腕になってたぜ。ああ、そうそう、あいつの居場所だったな。あいつなら今頃、鉱山に行ってるだろうぜ」
「鉱山? どうして、そんなところにいるの」
「あん、そりゃぁ、決まってるじゃねぇか、あいつは犯罪者だからな、犯罪奴隷になったからだ」

 そういって、男は去っていった。

「あ、あなた、ど、どういうこと」
「わ、わからない、一体、何だって言うんだ」
「にいちゃん、どこ?」

 それから、ギブリたちは街中を歩き回って、ブレンの情報を探った。
 すると、誰に聞いても、ブレンは犯罪奴隷として鉱山に行っていると答えが返ってきた。
 もしくは、石などが飛んできたのは言うまでもないだろう。
 そして、最終的には警備兵が呼ばれ、3人は捕まってしまったのだった。
 そうして、知ったのだ真実を、ブレンは本当に犯罪奴隷となっていること、その原因が人身売買、つまりスニルを売り払ったことだった。
 それが犯罪だと、ギブリたちは知らなかった。軽い気持ちだった。まさか、それが息子を犯罪奴隷にすることになるとは、ギブリたちも思わなかったのだ。

 そして、テッカラ中で噂となったことから、ギブリ一家は逃げるようにテッカラを出ていくこととなった。

 その後、行く当てもなくさ迷ううちに魔物と遭遇、3人は命を落としたのであった。


 
 余談だが、ギブリたちの様子を見た受付嬢が、ゾーリン村を心配し上司に相談したところ、調査を行うこととなった。
 そして、その結果は、片腕を失っている男が数にいるものの村は平和そのもので、何やら村人たちが広場で楽し気に料理を大量に作っていたという。
 これにはギルドも驚いたが、とりあえず今は平和そのもだということで、それでよしとすることにした。







~~~ドリット、リーナ、エリサ~~~

 ブレンとともに、警備兵の詰所に連行された3人だったが、当然人身売買には関与していないために事情を聞かれた後、すぐに釈放された。

「……」
「……」
「……」

 定宿に戻った3人であったが、誰一人言葉を発することもなく抜け殻のように、それぞれの部屋へと戻っていった。

 それから数日が経ったが、3人は誰一人仕事に行こうとはせず、部屋に引きこもるか街をさまようように過ごしていた。

そんな時、ある噂を聞いた。

「……ブレンの、家族?」
「ええ、来てるらしいわ。それも、なんでか、片腕がないとか」
「それって、ブレンと同じ?」
「うん、たぶん、あの子ね」
「そうでしょうね」
「くそがっ!」

 3人は集まってブレンの家族が来ていると話をしていた。
 ドリットは、そんなこのタイミングで現れたブレンの家族にいらだちを隠せないでいた。
 というのも、数日が経ったことでようやく心も落ち着きそろそろ仕事に復帰しようと考えていたところだったのだ。
 そんなところに突然ブレンの家族がやってきて、ブレンを探しているというこのままでは元メンバーである自分たちに接触してくる可能性が高い。

「ここは、おとなしくしてましょう。せっかく、ブレンのことを忘れかけていたのに……」
「……そうね。それがいいかも」
「だな」

 というわけで、3人は再び定宿に引きこもることにした。

 そうして、数日が過ぎ、ギブリたちが街を出ていったことを知った3人はようやくギルドに顔を出したのだった。

「あっ、ドリットさん、リーナさん、エリサさんも、お久しぶりです」
「ええ、久しぶり、今日はこれを受けたいんだけど、いいかな」
「はい、えっと、サレックス草の採取ですね。受け賜りました。お気をつけて」

 こうして、3人は久しぶりに依頼を受けた。
 しかし、受けたはいいがどうもしっくりこない。
 それはそうだろう、これまではブレンも入れての4人で受けていた。
 だが、1人かけた。
 しっくりこないのは当然だろう。

 その後、3人は話し合いを設け、2日間じっくりと話し合った結果3人はパーティーを解散することに決めた。
 幸いにもというべきか、3人は冒険者登録をしてからちょうど3年が迫っていた。
 そこで、3人はそれぞれ別の街へ行き冒険者を続けていくととした。
 こうして、別れた3人は今後二度と会うことはなく、それぞれがそれなりに地位になっていくが、それはまた別の話となる。
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