上 下
14 / 163
第01章 最低な始まり

12 村裁判

しおりを挟む
 翌朝、夕べあんなことがあったのに俺はぐっすりと寝ていたようだ。

「ふわぁ、気が付いたら朝だったな。んっ? ああ、そういえば結界張ったままだったな。解除っと」

 ふと家の外から俺の名を呼ぶ声がした。

「スニルー、スニルー、キャッ……」

 声の主はポリーの用で、結界に阻まれて家に近づくことができない。だが、俺が不意に解除したために短い悲鳴とともに倒れる音が聞こえた。
 そして、その後すぐに家の扉が勢いよく開けられた。

「スニルー、大丈夫ー」
「ああ、俺は大丈夫だよ」
「そう、あぁ、よかった、朝起きたらスニルが襲撃されたって聞いて慌てて飛んできたんだよ」

 ポリーはそういって、ほっとしている。
 どうやら、心配かけたらしい。

「あははっ、まぁ、あれには俺もびっくりしたけどな」

 あれというのは、当然昨晩起きた襲撃だ。

「もうっ」

 俺が笑ってそう答えるとポリーは力が抜けたようにため息を吐いた。

「とにかく、朝食の準備も出来てるから、早く着替えてよね」
「お、おう、わかった、ちょっと待ってくれ」

 それから、普段着へと着替えポリーとともに家を出てから村長宅へと向かった。

「! スニル君、昨日は大丈夫だったの」

 村長宅に入るなりノニスに抱きしめられ体中まさぐられた。
 どうやら、けがの確認をしているらしい、くすぐったいんだが……

「ああ、えっと、俺は家の中にいたし、結界を張ったからまったく問題なかった」
「そうよ、私がスニルの家に入ろうとしたら、見えない壁に阻まれたんだよ」
「結界? スニル君、そんなこともできるの?」
「そ、それは、すごいな」

 ノニスたちは俺が結界魔法を使ったことに驚愕していた。
 それから朝食を食べたわけだが、その際村長から謝罪された。

「スニル、昨晩はすまなかった。私もまさか、あやつらがあのような愚行を行うとは夢にも思わなかった。このようなことなら、あの時村の者たちに話しておけば、しかし、そうなると……」

 村長は何かを悩んでいるようだ。

「……スニル、すまんがこれから、あやつらの裁判を行う、その際、あやつらがしでかしたこと村人たちに話すつつもりだ。だから、すまないが、スニル」
「わかった、俺もその場に参加すればいいんだな」
「そうだ。ほんとにすまない」

 村長は改めて俺に謝罪し、隣に座っていたノニスは俺の手を取った。
 

 村長宅前に広がる広場。
 そこには、村人たち全員がそろっていた。
 人数にして、だいたい100人ぐらいか、小さな農村としてはこのぐらいだろうか。

「これより、この者たちの裁判を行う、しかし、その前に皆に紹介したいものがおる。スニル、ここへ」

 村長はまず俺を紹介するために俺を呼んだ。
 といっても、俺はすでに村長の傍にいたために、一歩ぐらいしか歩いてないけどね。
 そして、背後にいたノニスも俺と一緒に動き後ろから俺の肩に手を置いた。

「この子の名はスニル、この名に覚えがある者もいるだろう、そして、何よりこの顔だ」

 村長がそういうと村人がざわついた。

「うそっ」
「まさか」

 村人たちがどよめく理由は、俺の名に覚えがある者もそうだが、実は大半は俺の顔についてだろう。
 というのも、どうやら俺の顔は母さんにそっくりらしい、ということは俺ってもしかして、イケメン何だろうか、母さんは村一番の美少女だったと聞いてるから、間違いないな。いやぁ、前世の俺は性格は根暗で顔は凡人だったから、まったくモテなかったからな。そう考えると今世の俺はモテるんだろうか。といっても、性格はそのままだからなぁ、結局は無理か。
 そんなことを考えている間、村長は俺の説明を続けていた。

「私も、この子は死んだと聞かされていたので、驚いているが、間違いなくこの子はミリアとヒュリックの子、スニルだ。それは嫁のノニスが証明してくれる。ノニス」
「ええ、この子がスニル君であることは間違いありません。私とミリアはこの子とポリーにおっぱいを与えていました。これは女性ならわかると思いますが、自分で抱いておっぱいをあげた子を見間違うなんてことはありません」

 ノニスは自信たっぷりにそういったが、ほんとにそうなんだろうか、男の俺にはわからん、でも女性陣は多くがうなずいているようだ。
 ちなみに、男たちは俺と同様全く分かっていないようで首をかしげている。

「このようにノニスが認めていること、また、実は昨日スニルが我が家にやってきて、私がスニルの名をつぶやいた時、スニルの体が光り輝いた」
「えっ、それって?」
「名付け、だよな」
「でも、なんでよ」

 村人たちはそういって口々に言い出したが、それは仕方ない、なにせ普通は生まれてすぐに親が名づけを行うことで起こる現象だからだ。

「それについては、これより、こやつ、ギブリ一家の所業を明かすことではっきりするだろう」
「ギブリが?」
「どういうことです。村長」

 それから、村長は俺がクソ一家から受けたことを話し始める。

「皆も覚えているだろう、あの日、一人残されたスニルをどうするか、その会議を開いた。そして、ギブリ、お主が引き取ると手をあげたな。本来ならノニスの言葉もあって私が引き取るつもりでいたんだが、私はギブリを信じ託した。だが、その一月も立たぬうちに、スニルは後を追うようにと、私はそう聞いている。皆もそうだろう」

 村長がそういうと、村人たちは思い出したようにうなずいた。

「だが、皆も思い出してほしい、あの時誰かスニル自身を見たものはおるか。少なくとも私は見ていない。ただ、ギブリからそう聞かされただけだった」

 村長がそういうと、村人たちも考えて思い立ったのか、うなずいた。

「あれは私の失態だった。ちゃんと確認するべきであった」

 村長はここで悲痛な面持ちとなり、背後にいたノニスは俺の頭を抱きしめ、隣にいたポリーは俺の手を強く握った。

「スニルは、死んでなどいなかった。死んだことにされ、ギブリ一家より虐待を受けていたんだ」
「!!」
「っ!!」

 村人たちは一斉に驚愕の表情になる。

「私は、村長失格だ。同じ村に住み、スニルが、日々ひどい目にあっていることに気が付かなかった。それどころか、のうのうと生きておった」

 村長は口から血でも出るんじゃないかというほど、食いしばっている。
 そして、ノニスも俺を抱きしめる力を強めた。

「待ってくれ、村長、そんなの……ありえない」

 村人はあまりの話に信じられないようだ。

「これは、被害者であるスニルからの証言だ。それに、スニルを見てみなさい、スニルは孫のポリーと同じ年、そして、ミリアは小柄だったが、ヒュリックは大柄だただろう。にもかかわらず、こんなにも小さく、やせ細っている。これこそ、スニルが虐待を受けていた証ではないか?」

 村長がそういったことで、村人たちの視線が俺に集まってきた。

「た、確かに、小さい、でも、それはその子がうそを言っている可能性もあるんじゃないか」

 こういったのは、村人の一人、しかし、それを聞いた村人、特に女性陣がにらみつけた。

「その通りだ、私も、最初はスニルであると信じなかったし、この村で虐待が起きていたなど、信じたくはなかった。しかし、なら、なぜ、今になってスニルが私たちの前にやって来たのだ」
「そ、それは、おい、ギブリ、なんか言えよ」
「し、知らない。そんな子供、知らない!」

 クソ野郎は俺を知らないと言い張っている。こういうところ、あいつと似てるよな。往生際が悪いって言うかな。

「ギブリ! お主は……なら、昨晩、お主はなぜ、スニルを襲った?」

 ここで、昨晩の話となる。

「……」

 都合が悪くなると黙るらしい。

「待ってくれ、俺たちは、知らなかったんだ。ギブリがそんなことをしていたなんて、それに、こいつはその子が悪魔だって。俺たちは関係ない」

 そういってあっさりとクソ野郎を裏切る。片腕の男、つまり、昨晩の襲撃者の1人だ。

「悪魔って」
「それは、あなたよ。ギブリっ!」

 片腕の男が言った悪魔という言葉、それを聞いたノニスが吠えた。
 まぁ、確かに幼児を虐待したなんて野郎は悪魔だよな。

「1ついいかしら?」

 その時突如、質問の声が上がった。

「なんだ? ジュリ」
「ええ、ノニスに質問なんだけど、その子は本当にミリアの子で間違いないのよね」

 ジュリって女性が言った通り、これは重要だろう、この世界には鑑定スキルはあるが、DNA鑑定はない、となると俺が俺だという証拠がない。現在それを証明しているのはノニスの勘だけだ。

「証拠はあります。スニル君ちょっといい」

 そういってノニスが俺を回し、村人たちに背を見せるように立たせた。

「ここを見てください、スニル君の首の根本、ここに左右等間隔にほくろが2つあるのが見えますか。私が見ていた赤ちゃんの頃のスニル君にも同じほくろがありました」

 なんと、俺にそんな秘密が、って、どうでもいいことだけど、でも、ずいぶん特徴的だな。

「ふむ、そういえば、スニル坊にはそのようなものがあったのぉ」

 ここで、そういった婆さんがいた。

「エリザおばさん、おばさんがそういうなら間違いないな」
「ああ、おばさんが言うならな」

 なんだかエラい信用されてるばあさんだな。

「あのね。エリザおばさんは、この村唯一の産婆さんで、ポリーもだけど、スニル君、あなたも彼女が取り上げたのよ」

 俺が首をかしげていると、ノニスがそう説明してくれた。
 なるほど、確かに、小さな村だと、産婆が一人、もしくはいない可能性があるからな。
 そうか、俺はあのばあさんに取り上げられたのか。

「まったく、ギブリ、カリッサ、おぬしら、さっきから聞いておれば、なんということをしでかしたんじゃ!」

 エリザ婆さんがクソ一家に対して怒鳴り散らした。

「ひっ」

 怒鳴られた2人は悲鳴を上げた。
 それから、婆さんにより説教が始まり、ついにクソ一家が俺を虐待していたこと、そして俺を奴隷とそして売り飛ばしたこと、すべてを認めた。

「……ギブリ、カリッサ、お前たちに判決を申し渡す。お前たち一家がしたことは許しがたい。その父ヒュリックのことを嫌っているものは多くいたことだし、このことは何も言うまい。しかし、スニルはどうだ。スニルはこの村で生まれ、この村で育つはずだった子だ。そのスニルを虐待し、あまつさえ、奴隷として売り払うなど、言語道断、よって、お前たち一家を追放処分とする。即刻村を出ていくがいい」

 村長により、そういう判決が下った。
 村追放、魔物が闊歩するこの世界において村を追放されたというのは、かなり重い罰だろうが、もはや俺の知ったことではない。
 村人たちも、クソ一家が認めたことでみんなが納得していた。

「また、昨晩、ギブリに協力した。バルク以下6名に関してだが、お前たちのしたことは決して許されることではない。だが、追放するべきことでもない。よって、向こう5年間、村への無償奉仕を申し渡す、よいな」

 こうして、村裁判は終わりを告げた。
 その後、クソ一家はというと、すぐに村人たちによって追い出されるように村を出ていった。
 尤も、さすがに着の身着のままではこちらの目覚めが悪い、ということで、一応セリウム銀貨5枚と数日分の食料が手渡されたそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...