おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限

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第01章 最低な始まり

09 過去と違和感

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 俺がなぜあのクソ一家に引き取られたのか、そして、なぜ、俺の両親が死ななければならなかったのか、そのすべてを村長は話してくれた。
 といっても、まず村長が話を始めたのは、50年ぐらい前の話だった。
 長くなりそうだなぁ。俺はそう思いながらも耳穴をかっぽじって聞いた。

「私が、まだ10代だったころ、幼馴染で、兄のように慕っていたミックというものがいた。……」

 ミックは幼いころから、冒険者に憧れを持っており、14歳の成人とともに街へ出ていったそうだ。
 どのような活躍をしてきたのは、割愛されたが、それから15年ぐらいたったころ、突如村に帰ってきたという、それも飛び切りの美女と赤ん坊を連れてのものだった。
 美女の名はリリス、赤ん坊の名は、ミリアと言ったそうだ。

 リリスは先ほども言ったように飛び切りの美女、村の男たちは湧き、そして、そんな美女を嫁にして帰ってきたミックを英雄視したという、同時に嫉妬もしたと村長は話していた。

 そうして、時が経ち赤ん坊、ミリアもまた、母の血を受け継ぎ美少女へと成長したという。
 その姿に村の男たちは全員が恋をしたというほどであったという。
 また、女たちはそんなミリアの美貌に嫉妬し、村の男たちの視線を集めていることに腹を立てていたそうだ。

「あの頃は、私もミリアのことが大っ嫌いだったわ」

 そういうのは、苦笑いしているノニスだ。
 というのも、ノニスは昔から村長の息子デリクのことが好きだったのに、デリクはミリアのことが好きだったからだそうだ。

 まぁ、とにかく、そんなミリアだったが、ミリアもまた両親の話を聞き冒険者になることを決意し14歳で、カリブリンという街へ男たちの反対を押し切ってと出て行ってしまった。
 その時は村の男たちはまるで葬式のように絶望に打ちひしがれたという。
 一方で、女たちは喜んだという、これで、男たちの目が自分たちに向いてくれるとそう思ったからだ。
 実際その後、多くの男女が結婚したそうだ。

 それから8年、22歳となったミリアはまさに絶世の美女となって村に帰ってきた。
 これには男たちは大いに喜ぶと同時に絶望した。
 というのも、ミリアの隣にはヒュリックという若者がいたからだ。
 ヒュリックは元々ミリアとパーティーを組んでいた冒険者、そのためガタイもよくたくましい男だった。
 その時から、村の男たちはヒュリックを憎んだ。
 なにせ、村一番の美女であるミリアを自分たちからかっさらった男だ。
 力ではかなわない、というのも憎む理由となった。
 だからこそ、ヒュリックはなかなか村の男たちに認めれることはなく、かなり浮いた存在となってしまっていた。
 それでも、ヒュリックとミリアは頑張った。
 例えば、村を囲む壁、あれはミリアとヒュリックの2人が冒険者時代に稼いだ金の多くをつぎ込んで建築したそうだ。
 確かに、あの柵を鑑定した時、2人の名前があったよな。

 そうして、数か月の月日がながれ、ミリアは1人の男の子を生んだ。
 男の子名はスニル、そう、俺のことだ。
 それから、さらに1年が過ぎた。

「あの頃は、本当に大変だったけれど、本当に幸せだったわ」

 俺やポリーの面倒をお互いに協力して見ていたそうだ。

 そうして、大変な1年があっという間に過ぎたある日、俺の祖母で元冒険者だったリリスが亡くなった。
 これには、村の男たち、主に村長など年寄りたちが悲観に暮れた。
 ちなみに、祖父であるミックはそれより10年前に亡くなっていたそうだ。

 そして、さらに1年が過ぎたある日のことだった。

「村の者が、村からほど近くの場所でオークを見たと、報告をしてきた……」

 オーク、それは前世の日本でもファンタジーものと言えば、必ずと言っていいほど登場する豚の顔を持つ人型の、超、超有名な魔物だ。俺の”森羅万象”にも当然その情報がインプットされており、一度は見てみたいと思っていた。
 まぁ、その性質は前世でもよく描かれている通り、女性陣にとっては最悪な存在なんだがな。

 そんで、その報告を受けた村長は、すぐに村会議を開いた。
 こういった事態の場合はいつも会議を開いていたそうだ。といっても、この時もまだ村の一員と認められていない父さんヒュリックは呼ばれなかったそうだ。
 余談だが、この国というか、この世界の大半は男尊女卑で、こういった重要な場に女性が呼ばれることはないらしい。
 その結果として、俺の家族は村会議に誰一人呼ばれていなかったことになる。
 それで、その会議の議題は当然オークをどうするかとなったわけだが、問題は冒険者ギルドに依頼を出そうにもこの村にはそんな金はない。
 また、近くの街、つまりテッカラまで依頼を出すにしても、村からテッカラまで馬車で数時間、徒歩だとさらに時間がかかる。そうして、やっと依頼を出したとしてもすぐに冒険者がやってきてくれるわけでもない。
 そうなれば、間違いなく村は全滅してしまう。
 そこで、思いついたのが、これまでも村近くに出現した魔物を討伐してくれていた、元冒険者であるヒュリックだった。
 というわけで、誰かがヒュリックに話を持っていこうとなったわけだ。

「……キブリが知らせに走った」

 こうして、村の危機を知ったヒュリックは、『俺に任せておけ、さっさと討伐してくる』と、言って剣を手に向かったそうだ。

「私たちは、これでもう大丈夫だろうと安心したものだ。だが、それもつかの間、突如村中に怒鳴り声が響いた」

 その怒鳴り声をあげたのは、ミリアだった。
 そして、そのミリアも、まだ幼い俺を家に残し、剣を持ち出しオークがいるという現場に、止める間もなく飛び出して行ってしまった。

 そうして、それから、小一時間が過ぎヒュリックもミリアも帰らず、かといってオークも来ない。
 そこで、デリクが代表して、数名の男たちとともに様子を見に行った。

「そこで、見つけてしまったんだ。倒れたオークと、その傍らで寄り添うようにこと切れているミリアとヒュリックを……すまない、スニル」

 ……これが俺の父さんと母さんの最期だったようだ。
 デリクは謝ったが、今の俺としては、ちょっとそれどころではなかった。
 なにせ、今の話、かなりおかしな点があったからだ。

「……な。なぁ、村長、聞いていいか?」

 俺は何とかそんな言葉を絞り出した。

「う、うむ、もちろんだ」
「まず、確認するけど、その魔物、本当にオークだったのか?」

 これは重要な質問だ。

「それは、間違いない、私が2人を見つけたとき、近くには確かに豚の顔を持った人型の魔物、オークだった。それに、私たちはミリアたちとともに村に運んできている」
「ええ、わたしもみたけど、確かにあれはオークだったわ」

 俺の質問には実際に現場に行き見たデリクとそのデリク達が運んできたことで当時の村人たちもまた、確認しているそうだ。

「そうか、それと、父さんだけど、本当にそんな気軽げに1人で討伐に向かったのか?」

 これもかなり重要な質問だ。

「私は、直接聞いたわけではないが、ギブリからはそう聞いている」

 村長がそう答えた。
 なるほどなるほど、俺は少し熟考する。

「どうしたの、スニル?」

 突然考えこんだ俺を訝しむようにポリーが尋ねてきた。

「んっ、ああ、今の話に違和感を覚えてね」
「違和感?」
「ああ、明らかにおかしい点があるんだ」

 俺はメティスルのサポートのおかげか、すぐに推測を建てることができた。

「どういうことかね?」

 村長も俺が何がおかしいのかと尋ねてきた。
 どうやら、村長は気が付いていないようだ。
 まぁ、でも、それはしょうがない、それなりに年齢がいっていようと、村長は小さな農村の村長でしかないからだ。

「オークの強さってどのくらいか、わかるか?」
「オークの? えっと、ううん、よくはわからないかな」
「そうね。とても強いってことは聞いたわ」
「私たち農民にとっては、どのような魔物でも脅威であるのは確かだからな」

 案の定、村長一家は誰一人オークの強さを具体的にはわからなかった。
 だが、これについてはしょうがない、デリクの言うとおり、農民にとってははゴブリンだろうと、オークだろうと魔物って時点で脅威となる。

「やっぱりな、そうだろうと思った」
「?」

 村長一家の4人は俺の言葉に首を傾げたので、俺は説明することにした。
 まず、最初に説明したのは、ゴブリンの強さ、ゴブリンというのは最弱の魔物と森羅万象にも記されているが、そこら辺の戦闘訓練をしたこともない人間では簡単に殺されてしまう、一方で、ある程度戦闘訓練をしていれば脅威でもなんでもない。例えば、冒険者になって1年以内であっても、相手が3匹程度であればあっさりと討伐できるんじゃないかな。
 それに対して、オークという魔物は、はっきり言って強い。

「オークを討伐するなら、まぁ、俺はテッカラの冒険者しか知らないから、テッカラが基準となるけれど、平均的な強さの冒険者が、そうだなぁ、大体4~5人いれば何とかなると思う」

 俺がそういうと村長一家はえっ、と驚いていた。
 余談だが、なぜ俺がテッカラの冒険者たちの強さが分かるかというと、簡単に言えばメティスルの力だ。
 あのクソ野郎を待つために俺は冒険者ギルドに陣取っていた。その時暇つぶしに冒険者たちを観察し、その強さを頭の中で図っていた。
 おかげで、一般的な力というものを理解できた。

「そこから考えると、元冒険者の父さんがどれほど強かったのかはわからないけど、オークと聞いて気軽に1人で討伐してくる。なんてことは言わないはずだし、母さんだって、そんな父さんを送り出すなんてありえないんだ」
「なっ、それは本当かね。スニル」
「間違いないよ。といっても俺も実際にオークを見たことがあるわけじゃないし、俺が知っているのはオークの基本情報だけだけど……」

 森羅万象に書かれている強さの情報は種族のものであり、個体差は当然あるだろう。
 それでも、大きな違いはないはずだ。

「ちょっとまって、そうなると、あの時のミリアの怒鳴り声って」
「多分、父さんを送り出した後、オークだって知ったんだろうね」
「まさか、そんな、バカな」
「じゃぁ、ヒュリックは何を討伐しに行ったんだ」

 ここで、デリクが恐る恐るそうつぶやいた。

「それこそ、ゴブリンじゃないか、ただの村人じゃ、有名どころのゴブリンぐらいしか思いつかないだろうし、父さんが気軽に行ってくるって言ったぐらいだし」

 おそらくそれが真実だろう。

「う、うむ、そうかもしれん、ぐっ、となると、ギブリか」

 それは間違いないだろう。
 つまり、そいつがどういうわけか知らないが、父さんを殺そうとオークをゴブリンと嘘を告げて、討伐に行かせた。
 そう考えた瞬間俺のはらわたが煮えくりかえりそうになった。

「待ってくれ、これは私の想像なんだが、ギブリは何もヒュリックを殺そうとしたわけではないのではないか」

 ここで、デリクがそういいだした。どういうことだ。

「さっきの話にも有ったように私たちでは、ゴブリンもオークもどの程度強いのかなんてことはわからない。せいぜいが、オークの方が強いとわかる程度だ」

 それがどうした。俺のこの時の気持ちはまさにこれだった。

「もちろん、ギブリのしたことは許されない。確かに、私も当初はヒュリックを認めたくはなかった。しかし、ヒュリックは村を囲む柵をはじめ、多くこの村に貢献してくれた。だから私も父も、そろそろヒュリックを認め会議にも参加させるべきだと考えていたんだ。今となっては言い訳に過ぎないが」
「そうだな、確かに、今更だ。しかし、本当のことなんだ。スニル」
「……」

 怒りに支配されている俺は、いつも以上に言葉を話せなくなっていた。
 だから、心の中で答えるが、それについては特にどうでもいい、事実として父さんは最期まで認められていなかった。

「それにだ。ギブリを許せないのは、なにより、スニルのことだ。あやつはスニルを引き取るときこれまでの償いとして、任せてほしいと私たちにそう言ってきたんだ」

 そう、何より俺も許せないのは、俺を引き取り虐待をしてきたやつこそが、父さんを罠にはめた野郎だったことだ。
 ほんと、そう思うと、ほんとに許せねぇ。
 そう考えた瞬間、俺は立ち上がり、村長たちが止める声を聴くこともなく、村長宅を飛び出していた。
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