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〜兄弟の絆〜
悲しい現実
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マルクスの訪問から一週間後にメルーサは仕事に復帰した。グラナダの駐留地に戻ったメルーサは仲間の隊員から復帰の歓迎を受けた。もちろんそこには同じギルティークラウンのマルクスの姿もあった。マルクスは、隊員から祝福の花束を両手いっぱいに抱えながら嬉しそうに微笑んでいるメルーサに近づいた。
「メルーサ! 復帰おめでとう!」
「あ、ありがとう……」
なにか言おうとしたが、それ以上言葉が出てこない。マルクスに声をかけられて心臓が激しく鼓動しているのが自分でもわかった。
(ど、どうしたんだ? マ、マルクスの顔が恥ずかしくて見れない?)
メルーサは咄嗟にマルクスから目をそむけた。
「? どうしたメルーサ。まだ、どこか痛むのか?」
「ち、違う……、だ、大丈夫だ!」
「本当か? 顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないのか?」
マルクスはメルーサの額に手を置こうとしていたが、すぐにその手を振り払った。
「だ、大丈夫って言ってるだろ!!」
メルーサはそう言いながら背を向けた。
「そうか? あまり無理するなよ」
マルクスに言われてメルーサの顔はますます赤くなった。
(私はどうしたんだ? 何故かマルクスのことを意識してしまう??)
メルーサは初めての感情に戸惑った。その日からマルクスが視界の先に映ると、気づかないうちに目で追っている自分がいた。寝ても覚めてもマルクスのことを考えてしまう。
(この気持ちは何?)
ここ数日、心に霧がかかったようにモヤモヤしている自分に我慢できない。
(こんなのは私らしくない。どうしたんだ? それでもギルティークラウンか?)
数日間悩んだ挙げ句、メルーサはある決心をした。
(よし! 幼い頃にマルクスからウィロー飯をもらったことをあいつに告白しよう。その事をマルクスに伝えていない罪悪感から、こんな感情が生まれているんだろう)
メルーサは幼い頃にマルクスに救われた事を伝えようと思った。しかし、マルクス以外の隊員に聞かれてほしくはなかった為、数日間マルクスが一人になるタイミングを図った。しかし、ギルティークラウンのマルクスの側には常に隊員がいて、なかなか一人になる機会は訪れなかった。
ある日の夕方グラナダの駐留地の門の外で立っていると、目の前をマルクスが一人で通り過ぎて森の中に入っていくのが見えた。こんな夕方に何の用事があるのか不思議に思ったが、告白するには都合が良いと思ったので、メルーサはマルクスの後をついて行った。
マルクスは森の中をどんどん進んで行くと、今は使われていない古びた倉庫の中に入った。
(何だ? あの倉庫はもう何年もの間、使われていないはずだが? どうしてこんなところに?)
不思議に思い恐る恐る倉庫に近づくと中の様子を伺ったが、中に人の気配はなかった。ゆっくりと倉庫のドアを開けて中の様子を覗き込んだが、やはり倉庫の中には誰もいなかった。
(マルクスが入っていくのを見たのに? 変だな?)
倉庫の中を見渡すと部屋の隅に暖炉があった。恐る恐る暖炉に近づくと壁が崩れているのを見つけた。
(ん? 何だこれは?)
屈んで暖炉の中に入ると崩れた壁の奥の床に大きな穴が空いていた。
(マルクスはこの穴の中に入っていったのか? この穴の中どうなってるんだ?)
不思議に思ったが、マルクスを追いかけるために穴の中に入った。下まで降りると横にトンネルがあったので、そのままトンネルを進んだ。トンネルの終点まで行ったところで、上からかすかに日の光が差し込んでいたので、上に登ると、森の中に入っていくマルクスを確認した。マルクスの姿が見えなくなるのを待って恐る恐る隙間から出ると周りを見渡した。
(ここはどこだ? はじめて見る景色だな)
メルーサは横に流れるヒロタ川の流れを見て驚愕した。川の流れがグラナダとは反対の方向に流れていた。
(こ、ここは! ルーン大国じゃないか! このトンネルはギルディアとルーン大国をつないでいたのか!!)
敵国に無断で入ってしまったことの重大さに頭がパニックになったが、ますますマルクスの行方が気になった。
(あいつはルーン大国で何をしている? まさか! ギルディアを裏切っているのか? ま、まさかマルクスに限ってそんなことは無いだろう)
メルーサは付いてきたことを少し後悔したが、マルクスのことが気になったので、そのまま気づかれないように慎重に後をつけた。
しばらく森の中を進んでいくと大きな木の下に女性が立っているのが見えた。するとマルクスはまるで待ち合わせでもしていたように、その女性に近寄っていった。メルーサは二人からかなり離れた遠くの藪の中に隠れて二人を観察した。女性は間違いなくルーン大国の人間だった。
メルーサは自分の耳に遠くでも声が聞こえる魔法をかけると二人の会話に集中した。
「ミラ、待ったかい?」
「マルクス……」
そう言うとミラは今にも泣きそうな顔でマルクスを見た。
「ど、どうしたんだ? 何かあったのか?」
「じ、実は……、今日、夜叉神将軍からロビナス村の住人に、村を引き払うようにとの命令が出されました」
「え!? どうして?」
「この前のモンスターの襲撃で多くの村人が犠牲になったのを聞いて、この村にこれ以上住むのは危険だと判断したみたいです」
「そ、そんな……、村を引き払うって? ど、どこに行くんだ?」
「ロビナスから歩いて3日はかかる、建楼院という町です」
「え? あ、歩いて3日……、そんなに……、ということは……」
「は……はい、もう今までのようには会えなくなります……」
そこまで話すとミラはマルクスにすがりついて泣き出した。マルクスは、ミラの頭をそっと撫でるとそのまま優しく抱きしめた。
「そ、そうなのか……、いつ出発するんだ?……」
「い、一週間後には……」
「そ、そんなに早く……」
マルクスはミラをギュッと抱きしめた。
「やはりルーン大国の人間と、ギルディアのエルフは結ばれない運命なのでしょうか?」
ミラはマルクスの腕に抱かれながら、ポツリと弱音を吐いた。マルクスはそんなミラの耳元で力強くそして優しく語りかけた。
「そんなことは無いよ。どれだけ運命が俺たちの仲を引き裂こうとしても、絶対に負けちゃ駄目だ。どれだけ高い障壁が俺たちを分断しようとしても、俺は必ず乗り越えて君の側にいるから諦めないで……」
マルクスもそれだけ言うのが、精一杯だった。再び二人の前に立ちはだかる運命に、心が折れそうになる自分を奮い立たせた。
(ミラと離れたくない。でも……、彼女をギルディアには連れてはいけない)
二人はしばらく黙ったまま、抱きしめた。マルクスは何かミラの心を元気づけたいと思った。この自分達の思いを形に残せるものは無いか考えた時、あることを思いついた。
「そうだ。弟のカイトに絵を描いてもらおう」
ミラは涙で真っ赤になった目でマルクスを見た。
「俺の弟は絵を描くのが上手なんだ。だから俺たち二人の絵を描いてもらって、それを飾っておこう」
「え? 絵を……」
「この戦争は俺が終わらせるから、それまでの間、悲しまないように俺の弟が描いた絵をミラにあげるよ」
「本当に? この戦争を終わらせてくれるの?」
「ああ。約束するよ、俺がこの戦争を終わらせる。それまで少し辛抱してくれ」
「本当に! 嬉しい……」
二人は再び抱き合うと、熱いキスをした。
◇
ルーン大国の森の中をメルーサは疾走した。
流れる汗が目に入り、風景がぼやけて見えた。これ以上あの二人を見ていられなかった。ズキズキと心が痛い。
メルーサは二人からかなり離れたのを確認すると走るのをやめて立ち止まった。すると急に体から力が抜けて膝から崩れ落ちた。目の前に緩やかに流れるヒロタ川があったので、ゆっくりと体を引きずりながら川の水面を見ると自分の泣き顔が写った。汗だと思っていたが、間違いなく自分の目から流れる涙を見た。メルーサの目から落ちた涙は川の水面に当たるとすぐに流されてその姿を消した。
自分の泣き顔を目の当たりにしてようやくこの感情の意味に気づいた。どうやら自分はマルクスのことを愛してしまったようだ。二人の熱い抱擁をみて居た堪れない気持ちになった自分を冷静に判断した。やっとこの抑えきれない気持ちの正体に気づいた。愛することがこんなにも残酷だということを初めて彼女は知った。
「メルーサ! 復帰おめでとう!」
「あ、ありがとう……」
なにか言おうとしたが、それ以上言葉が出てこない。マルクスに声をかけられて心臓が激しく鼓動しているのが自分でもわかった。
(ど、どうしたんだ? マ、マルクスの顔が恥ずかしくて見れない?)
メルーサは咄嗟にマルクスから目をそむけた。
「? どうしたメルーサ。まだ、どこか痛むのか?」
「ち、違う……、だ、大丈夫だ!」
「本当か? 顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないのか?」
マルクスはメルーサの額に手を置こうとしていたが、すぐにその手を振り払った。
「だ、大丈夫って言ってるだろ!!」
メルーサはそう言いながら背を向けた。
「そうか? あまり無理するなよ」
マルクスに言われてメルーサの顔はますます赤くなった。
(私はどうしたんだ? 何故かマルクスのことを意識してしまう??)
メルーサは初めての感情に戸惑った。その日からマルクスが視界の先に映ると、気づかないうちに目で追っている自分がいた。寝ても覚めてもマルクスのことを考えてしまう。
(この気持ちは何?)
ここ数日、心に霧がかかったようにモヤモヤしている自分に我慢できない。
(こんなのは私らしくない。どうしたんだ? それでもギルティークラウンか?)
数日間悩んだ挙げ句、メルーサはある決心をした。
(よし! 幼い頃にマルクスからウィロー飯をもらったことをあいつに告白しよう。その事をマルクスに伝えていない罪悪感から、こんな感情が生まれているんだろう)
メルーサは幼い頃にマルクスに救われた事を伝えようと思った。しかし、マルクス以外の隊員に聞かれてほしくはなかった為、数日間マルクスが一人になるタイミングを図った。しかし、ギルティークラウンのマルクスの側には常に隊員がいて、なかなか一人になる機会は訪れなかった。
ある日の夕方グラナダの駐留地の門の外で立っていると、目の前をマルクスが一人で通り過ぎて森の中に入っていくのが見えた。こんな夕方に何の用事があるのか不思議に思ったが、告白するには都合が良いと思ったので、メルーサはマルクスの後をついて行った。
マルクスは森の中をどんどん進んで行くと、今は使われていない古びた倉庫の中に入った。
(何だ? あの倉庫はもう何年もの間、使われていないはずだが? どうしてこんなところに?)
不思議に思い恐る恐る倉庫に近づくと中の様子を伺ったが、中に人の気配はなかった。ゆっくりと倉庫のドアを開けて中の様子を覗き込んだが、やはり倉庫の中には誰もいなかった。
(マルクスが入っていくのを見たのに? 変だな?)
倉庫の中を見渡すと部屋の隅に暖炉があった。恐る恐る暖炉に近づくと壁が崩れているのを見つけた。
(ん? 何だこれは?)
屈んで暖炉の中に入ると崩れた壁の奥の床に大きな穴が空いていた。
(マルクスはこの穴の中に入っていったのか? この穴の中どうなってるんだ?)
不思議に思ったが、マルクスを追いかけるために穴の中に入った。下まで降りると横にトンネルがあったので、そのままトンネルを進んだ。トンネルの終点まで行ったところで、上からかすかに日の光が差し込んでいたので、上に登ると、森の中に入っていくマルクスを確認した。マルクスの姿が見えなくなるのを待って恐る恐る隙間から出ると周りを見渡した。
(ここはどこだ? はじめて見る景色だな)
メルーサは横に流れるヒロタ川の流れを見て驚愕した。川の流れがグラナダとは反対の方向に流れていた。
(こ、ここは! ルーン大国じゃないか! このトンネルはギルディアとルーン大国をつないでいたのか!!)
敵国に無断で入ってしまったことの重大さに頭がパニックになったが、ますますマルクスの行方が気になった。
(あいつはルーン大国で何をしている? まさか! ギルディアを裏切っているのか? ま、まさかマルクスに限ってそんなことは無いだろう)
メルーサは付いてきたことを少し後悔したが、マルクスのことが気になったので、そのまま気づかれないように慎重に後をつけた。
しばらく森の中を進んでいくと大きな木の下に女性が立っているのが見えた。するとマルクスはまるで待ち合わせでもしていたように、その女性に近寄っていった。メルーサは二人からかなり離れた遠くの藪の中に隠れて二人を観察した。女性は間違いなくルーン大国の人間だった。
メルーサは自分の耳に遠くでも声が聞こえる魔法をかけると二人の会話に集中した。
「ミラ、待ったかい?」
「マルクス……」
そう言うとミラは今にも泣きそうな顔でマルクスを見た。
「ど、どうしたんだ? 何かあったのか?」
「じ、実は……、今日、夜叉神将軍からロビナス村の住人に、村を引き払うようにとの命令が出されました」
「え!? どうして?」
「この前のモンスターの襲撃で多くの村人が犠牲になったのを聞いて、この村にこれ以上住むのは危険だと判断したみたいです」
「そ、そんな……、村を引き払うって? ど、どこに行くんだ?」
「ロビナスから歩いて3日はかかる、建楼院という町です」
「え? あ、歩いて3日……、そんなに……、ということは……」
「は……はい、もう今までのようには会えなくなります……」
そこまで話すとミラはマルクスにすがりついて泣き出した。マルクスは、ミラの頭をそっと撫でるとそのまま優しく抱きしめた。
「そ、そうなのか……、いつ出発するんだ?……」
「い、一週間後には……」
「そ、そんなに早く……」
マルクスはミラをギュッと抱きしめた。
「やはりルーン大国の人間と、ギルディアのエルフは結ばれない運命なのでしょうか?」
ミラはマルクスの腕に抱かれながら、ポツリと弱音を吐いた。マルクスはそんなミラの耳元で力強くそして優しく語りかけた。
「そんなことは無いよ。どれだけ運命が俺たちの仲を引き裂こうとしても、絶対に負けちゃ駄目だ。どれだけ高い障壁が俺たちを分断しようとしても、俺は必ず乗り越えて君の側にいるから諦めないで……」
マルクスもそれだけ言うのが、精一杯だった。再び二人の前に立ちはだかる運命に、心が折れそうになる自分を奮い立たせた。
(ミラと離れたくない。でも……、彼女をギルディアには連れてはいけない)
二人はしばらく黙ったまま、抱きしめた。マルクスは何かミラの心を元気づけたいと思った。この自分達の思いを形に残せるものは無いか考えた時、あることを思いついた。
「そうだ。弟のカイトに絵を描いてもらおう」
ミラは涙で真っ赤になった目でマルクスを見た。
「俺の弟は絵を描くのが上手なんだ。だから俺たち二人の絵を描いてもらって、それを飾っておこう」
「え? 絵を……」
「この戦争は俺が終わらせるから、それまでの間、悲しまないように俺の弟が描いた絵をミラにあげるよ」
「本当に? この戦争を終わらせてくれるの?」
「ああ。約束するよ、俺がこの戦争を終わらせる。それまで少し辛抱してくれ」
「本当に! 嬉しい……」
二人は再び抱き合うと、熱いキスをした。
◇
ルーン大国の森の中をメルーサは疾走した。
流れる汗が目に入り、風景がぼやけて見えた。これ以上あの二人を見ていられなかった。ズキズキと心が痛い。
メルーサは二人からかなり離れたのを確認すると走るのをやめて立ち止まった。すると急に体から力が抜けて膝から崩れ落ちた。目の前に緩やかに流れるヒロタ川があったので、ゆっくりと体を引きずりながら川の水面を見ると自分の泣き顔が写った。汗だと思っていたが、間違いなく自分の目から流れる涙を見た。メルーサの目から落ちた涙は川の水面に当たるとすぐに流されてその姿を消した。
自分の泣き顔を目の当たりにしてようやくこの感情の意味に気づいた。どうやら自分はマルクスのことを愛してしまったようだ。二人の熱い抱擁をみて居た堪れない気持ちになった自分を冷静に判断した。やっとこの抑えきれない気持ちの正体に気づいた。愛することがこんなにも残酷だということを初めて彼女は知った。
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