上 下
88 / 117
〜兄弟の絆〜

デミタスの陰謀

しおりを挟む
「畜生!」

 デミタスはギルディアの首都ガルダニアにある中央司令部の自室で一人悪態あくたいを付いていた。

 メルーサを始末しようと、ローゼンブルグとグラナダを結ぶ街道で彼女を襲撃したまでは良かったが、あと一歩のところで彼女の部下達が駆けつけた為、彼女を殺害することができなかった。

 デミタスの幻影魔法げんえいまほうは精神魔法なので、同じ精神魔法を得意とする者が駆けつけた者の中に居た場合、魔法が解かれる危険があった。もし幻影魔法が解かれてメルーサを襲撃したのが自分だと露呈ろていすると、マルクスを殺害するのに支障が出ると思い、咄嗟とっさに逃げる判断をしてしまった。

 自室の椅子に座ってイライラしているとドアをノックする音が聞こえた。

「誰だ! 入れ!!」

 ぶっきらぼうに言うとドアを恐る恐る開けて秘書官のダリアが入ってきた。今のデミタスにとって最も会いたくないエルフの登場にデミタスは一層不機嫌になった。

「どうした? 何かあったのか?」

 不機嫌なデミタスがダリアに聞くと顔をこわばせながら話し出した。

「そ、その……、メルーサ隊長が何者かに襲われました」

「なんだと!! それは本当か?」

 襲ったのは自分なのに驚いた口調で答えた。

「はい。残念ながら本当です」

「それで? メルーサは無事なのか?」

「はい、かなり重症ですが命に別状はないです」

「そうか、それは良かった」

 デミタスは口ではそう言ったが、腹の中ではメルーサの無事に腹立たしかった。

(チッ! やっぱりあの女生きていたのか、あと少しのところで邪魔が入らなければ確実に息の根を止めていたのに……)

 目論見もくろみが失敗に終わったことがダリアの報告で確実となり、デミタスは一層苛立いっそうはらだった。その様子を見たダリアはまだ何か言いたいことがあるのかオドオドしながら立っていた。

「どうした? まだ何か報告することがあるのか?」

「は、はい。それが……」

 ダリアが中々話さないので、業を煮やしたデミタスは、早く話せ、と声をあらげた。

「はい! その、ボルダーにいる者の報告によりますと、マルクス隊長に恋人ができたとの情報があります」

「何? マルクスに恋人だと?」

「は、はい」

「別にマルクス隊長もいい歳だから恋人がいてもおかしくないだろう、そんなことを言いにわざわざ来たのか?」

「そ、それが……」

 なんとも歯切れが悪いダリアの態度でなんとなく察しがついた。

「ボルダーには女性の兵士はそれほど多くいないのに一体誰と付き合っているんだ?」

「そ、それが……、現地の女性ということのようです」

 デミタスの予想は当たった。これは使える情報かもしれないと内心喜んだが、不審ふしんがられてはいけないと思い、感情を表に出すとなく話を続けた。

「現地の女性だと? あそこはルーン大国の領地だぞ! ということは……、まさか、その女性というのは人間の女なのか?」

「は、はい。どうもその様です」

「なんだと! あいつは曲がりなりにもギルティークラウンだぞ! それが真実だったら厄介なことになるぞ!」

「は、はい」

「この情報を知っている者は他にいるのか?」

「いえ。まだ私とデミタス長官とボルダーにいる者だけです」

「そうか、それは良かった。あまりこと荒立あらだてたくないから、他の者には話さないでくれ」

「はい、わかりました」

「それと、この情報が真実かもう少し調査が必要だな。ダリア! 君が秘密裏ひみつりに調べてくれないか? 人員を割いてもいいからその人間の女の素性を詳しく調べてくれ」

「は、はい。わかりました」

 そう返事をするとダリアは部屋を出て行った。ダリアがドアを出ていったのを見届けるとデミタスは上機嫌で笑った。もしダリアの言ったことが真実ならばその女をさらってマルクスを誘き寄せることができる。デミタスはマルクス殺害という念願ねんがんが叶う情報をつかめたことに心が踊った。

 マルクスのことだからその女性を連れ出すことができれば誘い出すことは造作ぞおさもない。それにはまずマルクスと女を引き離す必要があると考えた。いくら大勢のモンスターで女の家を襲撃してもマルクスに邪魔されれば元も子もない。デミタスはしばらく考えた後に恐ろしい作戦を考えた。

 デミタスは思いついた作戦をすぐに実行に移した。すぐに司令部に掛け合って、あることを提案するとその日のうちに全ギルディーたちにボルダー撤退てったいの命令が下った。

 デミタスは指令書を眺めながらニヤニヤと笑った。

(よし! これでボルダーからギルディアの兵士が撤退すれば、否応いやおうなしにマルクスとその女を引き離すことができる。これで彼奴に邪魔されること無く、俺のモンスターを使って女を連れ去ることができる)

 デミタスは自室のイスに深く座り込むと、ダリアの報告を心躍こころおどらせながら待った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~

イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?) グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。 「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」 そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。 (これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!) と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。 続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。 さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!? 「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」 ※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`) ※小説家になろう、ノベルバにも掲載

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...