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〜兄弟の絆〜
恐ろしい罠
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少女は走った。小さな体を目一杯動かして、息を切らしながらも前へ前へ走った。少女はパニックになると、いつもの光景でさえ色あせて見えてしまうものだと感じた。
少女の住むこのロビナス村は大きな滝が有名な風光明媚な場所だったが、いつもの景色が灰色のフィルター越しのように映ってしまう。自慢の大滝の流れる音さえも、少女の不安を掻き立てた。それほどあの光景は恐ろしいものとして脳裏に焼き付いた。
小さい時から一緒に遊んでくれてた隣の家に住んでいるミラお姉ちゃんが、知らない男達に連れ去られたことは、幼い心でもただ事では無いことは理解できた。
(早くダンテお兄ちゃんに知らせないと! ダンテお兄ちゃんなら必ず助けてくれる!)
小さな片田舎で村民を守ってくれる人はいなかった。困ったことがあると遠くの町まで訴えに行って憲兵が来るのは数日後だった。トラブルがすべて終わったあとにやっと解決に来てくれる、そんな印象を持っていた。そのため今回のように急を要するトラブルは近くの友人や知人を頼るしかないが、幸いこの村には頼れる力強い味方が居た。
ダンテの剣の腕前は少女でも知っていることだった。しかもダンテは連れ去られたミラお姉ちゃんの弟なので、絶対に助けてくれると確信していた。ただ、せっかくダンテに伝えても男たちの居場所がわからなければどこに助けに行って良いのかわからないと思うのだが、少女は男たちの居場所をなんとなくわかっていた。おそらくリュウという人たちの仲間だろうと思った。2年ほど前からガラの悪い連中がその屋敷に出入りしているのは村中で噂になっていたから、男たちの居場所は誰もが知っていた。しかも少女は先程の男たちの中の何人かがリュウと一緒に歩いているのを目撃したことがあった。
(あの男の人は絶対にリュウさんの仲間だ!)
少女はそのことをダンテに伝えるために必死で走った。するとようやくダンテの家が見えてきた。
少女はダンテの家に飛び込むと大声で叫んだ。
「た、大変! 大変!」
少女の慌てた姿を見てダンテはすぐに飛び起きると走って来た。
「どうした? 何かあったのか?」
「ミラお姉ちゃんが男の人に連れて行かれた」
「なんだと!! 誰がそんなことを!」
「多分リュウさんの仲間の人だと思います」
「わかった、ありがとう」
「お兄ちゃん、気をつけてね」
「ああ、あとは俺に任せろ」
ダンテはそう言うと壁に掛けてあった剣を掴むと家を飛び出した。
(リュウ! 姉ちゃんに何かあったら絶対に許さねーーー!)
ダンテは急いでリュウたちの居る屋敷に向かった。
◇
ロビナス村にある大きな滝、通称グレートフォールと呼ばれる滝の近くにリュウの屋敷があった。その屋敷に連れてこられたミラは男たちの話し声で目が冷めた。
「本当にいい女だな、奴隷商に売り渡すには惜しいな」
「ダンテも馬鹿な奴だ。俺たちに逆らわなければ、姉ちゃんを危険に晒すこともなかったのに」
ミラはゆっくりと目を開けた。ボヤケた視界に男たちの姿が映る、段々と焦点が定まってきたところで、目の前の男を見て驚いた。数日前に家に来て弟のダンテを仲間に誘っていた、リュウという男の姿がそこにあった。
「あ……あなたは?」
「ん? 気がついたか」
ミラは立ち上がろうとしたが、縄で体を縛られて身動きが取れなかった。リュウは倒れているミラの顎を片手で持ち上げると顔を覗いてきた。ミラはリュウの顔を見るのが嫌で顔を動かそうとしたが、リュウは顎を持つ手に力を込めて無理やり顔を覗き込むと強引に視線を合わせてきた。
「私をどうするつもりですか?」
「フフフ……、 決まってるだろ、お前は奴隷商に売り渡してやる」
「な、なぜそんなことを、私があなた達に何をしたっていうの?」
「恨むんなら、弟を恨みな! あいつが俺たちの仲間になるのを断ったのが悪いんだ!」
「あなた達の仲間を断ったことの何が悪いんですか!」
「うるさい! 生意気な女だな!」
リュウはミラの顎を持つ手を離すと今度は髪の毛を掴んで強引に顔を上に引っ張り上げた。
「う! い、痛い!」
ミラは髪の毛を引っ張られてあまりに痛さに思わず声が漏れた。
「ガハハハ! 安心しろお前が売られるよりも先に弟を殺してやるから心配するな」
「な、何をする気?」
「ふん、良いものを見せてやるよ」
リュウはそう言うと近くにあった白い布を掴むと引っ張った。布がめくれと大きな台座に巨大な弓矢が設置されていた。
「これは床弩というルーン大国が開発した兵器だ、これがこの屋敷の周りにいくつも設置してある、これでお前の大事なダンテを始末してやる」
リュウが自慢気に話す床弩という武器は巨大な弓矢を台座に取り付けた兵器だった。大人の男性が二人がかりでやっと弦を引くことができるほど強力な弓で、2メートルもの巨大な矢を400メートルも先に飛ばせる弓矢で、至近距離で打たれると交わすことは不可能に近い。
「や、やめて!! お願い!!」
ミラがリュウに懇願したが、聞く耳は持っていない。しばらくすると急に回りが騒がしくなった。
「おい! ダンテが来たぞ!」
外にいた男が急に扉から入ってくると叫んだ。
「何? どうしてここがわかった?」
リュウは少し慌てた様子を見せたが、すぐに周りの男たちに指示を出した。
「まあいい、殺すのが早くなっただけだ、おい! お前ら作戦どおりにやるぞ!」
ミラは泣きながら、どうすることもできない自分を呪った。
◇
マルクスとルディーは大きな大木の上に居た。女性を襲った男たちは大きな滝の近くの屋敷に入っていくのを見た。二人は屋敷に何人の敵が居るのか探るために、中が見渡せる場所を探すとちょうど近くに大木があったので、二人で登っていた。
屋敷の中は思ったよりも広く、小さな門をくぐると広い庭の中央に小道があり、飛び石が転々と玄関まで続いていた。その小道の両脇に木でできた柵があった。屋敷の中も外も男達の仲間が何十人もウロウロしていた。
「かなりの数がいるな」
「ああ、そうだな」
マルクスはルディーの言葉に耳を傾けながらじっと敵の状況を探っていた。マルクスは小道の両端に男たちが数人固まっているのに気がついた。その男たちは何か台座のようなものを取り囲んでいた。
「あれは? 何だ?」
「ん? あれは?、弓矢?」
マルクスたちは台車に巨大な弓矢の付いた物体を確認した。その物体は左右の柵の外に一台ずつ設置されていた。
「恐ろしくでかい弓矢だな」
「なぜあんなところに設置してるんだ?」
「まるで屋敷に入ってきた誰かを狙っているようだな」
「あの至近距離で、しかも柵で見えないところから打たれたら俺たちでも避けるのは不可能だな」
「彼奴等が狙っているのは、あの女性の関係者かもしれないな」
「助けに来たところを殺るつもりか、なんて卑怯な奴らなんだ」
マルクスとルディーが敵の監視をしばらく続けていると屋敷の外が騒がしくなった。マルクスとルディーは騒がしくなった方に目を向けると、剣を持った男が一人、走りながら女性を連れ去った男たちを次々と倒していた。
「おい。誰か来たぞ」
「あれは? ルーン大国の兵士みたいだな」
剣を持った男はルーン大国の戦闘服を着ていた。男はみるみるうちに屋敷の外で警備をしている男たちを倒していった。
「あいつ、かなり強いな。あの女性を助けに来たんだろうな」
「なんとなく敵の意図がわかったな」
「ああ、多分あいつを殺すために、あの大弓を設置してるんだろう」
「どうする? ルーン大国の奴らに手を貸してやる義理は無いぞ」
ルディーはマルクスに聞いた。マルクスとルディーのいるギルティアはルーン大国と戦争している。
「今はギルティアもルーンも関係ない。女性を助けることが最優先だ!」
「はぁ~ぁ~。あんたのことだから、そう言うと思ったよ。それで? どこから攻める?」
「まずは、あの大弓にいる男たちを倒そう。あれは驚異になる」
「ああ。わかった、それじゃ左右に別れてあの弓矢の化け物を無力化しよう」
二人は柵の外に設置されている床弩を無効化するために屋敷の裏手に向かった。
少女の住むこのロビナス村は大きな滝が有名な風光明媚な場所だったが、いつもの景色が灰色のフィルター越しのように映ってしまう。自慢の大滝の流れる音さえも、少女の不安を掻き立てた。それほどあの光景は恐ろしいものとして脳裏に焼き付いた。
小さい時から一緒に遊んでくれてた隣の家に住んでいるミラお姉ちゃんが、知らない男達に連れ去られたことは、幼い心でもただ事では無いことは理解できた。
(早くダンテお兄ちゃんに知らせないと! ダンテお兄ちゃんなら必ず助けてくれる!)
小さな片田舎で村民を守ってくれる人はいなかった。困ったことがあると遠くの町まで訴えに行って憲兵が来るのは数日後だった。トラブルがすべて終わったあとにやっと解決に来てくれる、そんな印象を持っていた。そのため今回のように急を要するトラブルは近くの友人や知人を頼るしかないが、幸いこの村には頼れる力強い味方が居た。
ダンテの剣の腕前は少女でも知っていることだった。しかもダンテは連れ去られたミラお姉ちゃんの弟なので、絶対に助けてくれると確信していた。ただ、せっかくダンテに伝えても男たちの居場所がわからなければどこに助けに行って良いのかわからないと思うのだが、少女は男たちの居場所をなんとなくわかっていた。おそらくリュウという人たちの仲間だろうと思った。2年ほど前からガラの悪い連中がその屋敷に出入りしているのは村中で噂になっていたから、男たちの居場所は誰もが知っていた。しかも少女は先程の男たちの中の何人かがリュウと一緒に歩いているのを目撃したことがあった。
(あの男の人は絶対にリュウさんの仲間だ!)
少女はそのことをダンテに伝えるために必死で走った。するとようやくダンテの家が見えてきた。
少女はダンテの家に飛び込むと大声で叫んだ。
「た、大変! 大変!」
少女の慌てた姿を見てダンテはすぐに飛び起きると走って来た。
「どうした? 何かあったのか?」
「ミラお姉ちゃんが男の人に連れて行かれた」
「なんだと!! 誰がそんなことを!」
「多分リュウさんの仲間の人だと思います」
「わかった、ありがとう」
「お兄ちゃん、気をつけてね」
「ああ、あとは俺に任せろ」
ダンテはそう言うと壁に掛けてあった剣を掴むと家を飛び出した。
(リュウ! 姉ちゃんに何かあったら絶対に許さねーーー!)
ダンテは急いでリュウたちの居る屋敷に向かった。
◇
ロビナス村にある大きな滝、通称グレートフォールと呼ばれる滝の近くにリュウの屋敷があった。その屋敷に連れてこられたミラは男たちの話し声で目が冷めた。
「本当にいい女だな、奴隷商に売り渡すには惜しいな」
「ダンテも馬鹿な奴だ。俺たちに逆らわなければ、姉ちゃんを危険に晒すこともなかったのに」
ミラはゆっくりと目を開けた。ボヤケた視界に男たちの姿が映る、段々と焦点が定まってきたところで、目の前の男を見て驚いた。数日前に家に来て弟のダンテを仲間に誘っていた、リュウという男の姿がそこにあった。
「あ……あなたは?」
「ん? 気がついたか」
ミラは立ち上がろうとしたが、縄で体を縛られて身動きが取れなかった。リュウは倒れているミラの顎を片手で持ち上げると顔を覗いてきた。ミラはリュウの顔を見るのが嫌で顔を動かそうとしたが、リュウは顎を持つ手に力を込めて無理やり顔を覗き込むと強引に視線を合わせてきた。
「私をどうするつもりですか?」
「フフフ……、 決まってるだろ、お前は奴隷商に売り渡してやる」
「な、なぜそんなことを、私があなた達に何をしたっていうの?」
「恨むんなら、弟を恨みな! あいつが俺たちの仲間になるのを断ったのが悪いんだ!」
「あなた達の仲間を断ったことの何が悪いんですか!」
「うるさい! 生意気な女だな!」
リュウはミラの顎を持つ手を離すと今度は髪の毛を掴んで強引に顔を上に引っ張り上げた。
「う! い、痛い!」
ミラは髪の毛を引っ張られてあまりに痛さに思わず声が漏れた。
「ガハハハ! 安心しろお前が売られるよりも先に弟を殺してやるから心配するな」
「な、何をする気?」
「ふん、良いものを見せてやるよ」
リュウはそう言うと近くにあった白い布を掴むと引っ張った。布がめくれと大きな台座に巨大な弓矢が設置されていた。
「これは床弩というルーン大国が開発した兵器だ、これがこの屋敷の周りにいくつも設置してある、これでお前の大事なダンテを始末してやる」
リュウが自慢気に話す床弩という武器は巨大な弓矢を台座に取り付けた兵器だった。大人の男性が二人がかりでやっと弦を引くことができるほど強力な弓で、2メートルもの巨大な矢を400メートルも先に飛ばせる弓矢で、至近距離で打たれると交わすことは不可能に近い。
「や、やめて!! お願い!!」
ミラがリュウに懇願したが、聞く耳は持っていない。しばらくすると急に回りが騒がしくなった。
「おい! ダンテが来たぞ!」
外にいた男が急に扉から入ってくると叫んだ。
「何? どうしてここがわかった?」
リュウは少し慌てた様子を見せたが、すぐに周りの男たちに指示を出した。
「まあいい、殺すのが早くなっただけだ、おい! お前ら作戦どおりにやるぞ!」
ミラは泣きながら、どうすることもできない自分を呪った。
◇
マルクスとルディーは大きな大木の上に居た。女性を襲った男たちは大きな滝の近くの屋敷に入っていくのを見た。二人は屋敷に何人の敵が居るのか探るために、中が見渡せる場所を探すとちょうど近くに大木があったので、二人で登っていた。
屋敷の中は思ったよりも広く、小さな門をくぐると広い庭の中央に小道があり、飛び石が転々と玄関まで続いていた。その小道の両脇に木でできた柵があった。屋敷の中も外も男達の仲間が何十人もウロウロしていた。
「かなりの数がいるな」
「ああ、そうだな」
マルクスはルディーの言葉に耳を傾けながらじっと敵の状況を探っていた。マルクスは小道の両端に男たちが数人固まっているのに気がついた。その男たちは何か台座のようなものを取り囲んでいた。
「あれは? 何だ?」
「ん? あれは?、弓矢?」
マルクスたちは台車に巨大な弓矢の付いた物体を確認した。その物体は左右の柵の外に一台ずつ設置されていた。
「恐ろしくでかい弓矢だな」
「なぜあんなところに設置してるんだ?」
「まるで屋敷に入ってきた誰かを狙っているようだな」
「あの至近距離で、しかも柵で見えないところから打たれたら俺たちでも避けるのは不可能だな」
「彼奴等が狙っているのは、あの女性の関係者かもしれないな」
「助けに来たところを殺るつもりか、なんて卑怯な奴らなんだ」
マルクスとルディーが敵の監視をしばらく続けていると屋敷の外が騒がしくなった。マルクスとルディーは騒がしくなった方に目を向けると、剣を持った男が一人、走りながら女性を連れ去った男たちを次々と倒していた。
「おい。誰か来たぞ」
「あれは? ルーン大国の兵士みたいだな」
剣を持った男はルーン大国の戦闘服を着ていた。男はみるみるうちに屋敷の外で警備をしている男たちを倒していった。
「あいつ、かなり強いな。あの女性を助けに来たんだろうな」
「なんとなく敵の意図がわかったな」
「ああ、多分あいつを殺すために、あの大弓を設置してるんだろう」
「どうする? ルーン大国の奴らに手を貸してやる義理は無いぞ」
ルディーはマルクスに聞いた。マルクスとルディーのいるギルティアはルーン大国と戦争している。
「今はギルティアもルーンも関係ない。女性を助けることが最優先だ!」
「はぁ~ぁ~。あんたのことだから、そう言うと思ったよ。それで? どこから攻める?」
「まずは、あの大弓にいる男たちを倒そう。あれは驚異になる」
「ああ。わかった、それじゃ左右に別れてあの弓矢の化け物を無力化しよう」
二人は柵の外に設置されている床弩を無効化するために屋敷の裏手に向かった。
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